初恋の人

凛子

文字の大きさ
6 / 8

六話

しおりを挟む
 駅に到着すると、笑顔の青年が待っていた。

「お待たせ!」
 
 結愛は息を弾ませ駆け寄った。

「俺も今来たとこだよ。今日の結愛のスカート可愛いじゃん」

「嬉しい! ありがとう」

 結愛は照れ笑いを見せた。

「どこ行きたい?」と聞かれた結愛は、「太一君はどこ行きたい?」と聞き返した。

「今日は一ヶ月記念日だから、特別なとこに行こうか」

 太一が意味ありげに答えた。
 太一とは、三ヶ月前の同窓会での再会をきっかけに、ちょうど一ヶ月前から交際を始めた。
 交際を申し込まれた時、太一からは「ゆっくりでいいから好きになってくれたら嬉しい」と言われた。その気遣いのある言葉に誠実さが窺え、この人なら大丈夫だろう、と思えた結愛は太一との交際に踏み切ったのだった。
 もうあの頃の太一とは違っていた。あれから十年以上も経ったのだから。

 しかし交際が三ヶ月を過ぎた頃、太一が本性を現し、デートの帰り道に口喧嘩になった。

「待ってよ!」

 結愛が太一を追いかけ腕を掴むと、太一はそれを勢いよく振り払った。

「面倒くせーな!」

「浮気なんて酷いよ! 太一君がそんな人だとは思わなかったよ!」

 溢れた涙が頬を伝う。

「待ってられなかったんだよ! お前がいつまでたっても拒むから!」

「ゆっくりでいいって言ってくれたじゃない。あれは嘘だったの?」

「うるせーな!」

 言うと同時に、太一は結愛の頬めがけて右手を振り払った。

「いつまでもガキみたいなこと言ってんじゃねーよ!」

 その時、突然パッシングされクラクションが鳴った。
 車はクラクションを鳴らし続けたまま、スピードを落とさず結愛と太一に接近し、すれすれのところで急ブレーキをかけて停車した。
 結愛は後ずさりして勢いよく尻餅をついた。
 車から降りてきた男は、太一に近付いたかと思うと、いきなり太一の胸ぐらを掴み、殴りかかった。

「いってぇなぁ! 何すんだよ!」

 太一が睨み付けた。

「今のは俺からだ」

 男はそう言うと、さらにもう一発殴った。

「――それは、結愛の親父さんからだ!」

 結愛はその横顔を見て息を呑んだ。

「――こ、康ちゃん!?」

 声を上げると、太一がこちらに視線を向けた。

「え? 康ちゃんって――お前もしかして、このおっさんのことがずっと好きだったわけ?」

「そうだよ! この気持ちは太一君には一生わからないよ!!」

 結愛は泣き叫んだ。

「結愛には二度と近付くな」

 康史は太一の胸ぐらをもう一度掴むと自分の方へ引き寄せ、威嚇するような低い声で言った後、勢いよく突き放した。
 太一は振り返りもせず、切れた口元を押さえながら黙って去った。
 康史は素早く助手席のドアを開け、「乗って」と促した。康史も乗り込み車を道路脇に停車させると、不安げに顔を覗き込んだ。

「痛かっただろ。可哀想に……」

 そう言って、結愛の左頬に優しく触れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋愛の醍醐味

凛子
恋愛
最近の恋人の言動に嫌気がさしていた萌々香は、誕生日を忘れられたことで、ついに別れを決断。 あることがきっかけで、完璧な理想の恋人に出会うことが出来た萌々香は、幸せな日々が永遠に続くと思っていたのだが……

Love Story

凛子
恋愛
読者の恋心と作品に込められた思い ※ページごとに視点が入れかわります。

その林檎を齧ったら

チャイムン
恋愛
それはあなたとわたくしの秘密の約束。 いつかあなたが捧げるその林檎を齧ったら、わたくしはあなただけのもの。 侯爵家の長女グリセルダは十三歳の年、第一王子の婚約者に内定した。 しかしグリセルダには、幼い頃から思いを寄せる人がいた。 そして第一王子セルシアは幼い頃にグリセルダの妹のアデライードと言い交わした仲だった。 それが叶った時、グリセルダは自分の願いを王家が聞き届けてくれる約束をとりつけた。 妹にかけられた邪悪な呪いを解き、王子とアデライードを結ばせるためのグリセルダの奮闘。

君の名を

凛子
恋愛
隙間風は嵐となる予感がした――

ポインセチア

凛子
恋愛
クリスマスフラワーに込めた想い

私は秘書?

陽紫葵
恋愛
社内で、好きになってはいけない人を好きになって・・・。 1度は諦めたが、再会して・・・。 ※仕事内容、詳しくはご想像にお任せします。

見ているだけで満足な姫と死んでも触りませんと誓った剣士の両片思いの恋物語

まつめ
恋愛
18歳の近衛兵士アツリュウは、恋する王女の兄の命を救ったことで、兄王子の護衛官になる。王女を遠くから見られるだけで幸せだと思っていた。けれど王女は幼い頃から館に閉じ込められ、精神を病んだ祖父の世話を押し付けられて自由に外に出れない身だと知る。彼女の優しさを知るごとに想いは募る。そんなアツリュウの王女への想いを利用して、兄王子はアツリュウに命がけの戦をさせる。勝ったら王女の婚約者にしてやろうと約束するも、兄王子はアツリュウの秘密を知っていた。彼は王女に触れることができないことを。婚約者になっても王女を自分では幸せにできない秘密を抱え、遠くから見るだけでいいと諦めるアツリュウ。自信がなく、自分には価値がないと思い込んでいる王女は、アツリュウの命を守りたい、その思いだけを胸に1人で離宮を抜け出して、アツリュウに会いに行く。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

処理中です...