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六話
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駅に到着すると、笑顔の青年が待っていた。
「お待たせ!」
結愛は息を弾ませ駆け寄った。
「俺も今来たとこだよ。今日の結愛のスカート可愛いじゃん」
「嬉しい! ありがとう」
結愛は照れ笑いを見せた。
「どこ行きたい?」と聞かれた結愛は、「太一君はどこ行きたい?」と聞き返した。
「今日は一ヶ月記念日だから、特別なとこに行こうか」
太一が意味ありげに答えた。
太一とは、三ヶ月前の同窓会での再会をきっかけに、ちょうど一ヶ月前から交際を始めた。
交際を申し込まれた時、太一からは「ゆっくりでいいから好きになってくれたら嬉しい」と言われた。その気遣いのある言葉に誠実さが窺え、この人なら大丈夫だろう、と思えた結愛は太一との交際に踏み切ったのだった。
もうあの頃の太一とは違っていた。あれから十年以上も経ったのだから。
しかし交際が三ヶ月を過ぎた頃、太一が本性を現し、デートの帰り道に口喧嘩になった。
「待ってよ!」
結愛が太一を追いかけ腕を掴むと、太一はそれを勢いよく振り払った。
「面倒くせーな!」
「浮気なんて酷いよ! 太一君がそんな人だとは思わなかったよ!」
溢れた涙が頬を伝う。
「待ってられなかったんだよ! お前がいつまでたっても拒むから!」
「ゆっくりでいいって言ってくれたじゃない。あれは嘘だったの?」
「うるせーな!」
言うと同時に、太一は結愛の頬めがけて右手を振り払った。
「いつまでもガキみたいなこと言ってんじゃねーよ!」
その時、突然パッシングされクラクションが鳴った。
車はクラクションを鳴らし続けたまま、スピードを落とさず結愛と太一に接近し、すれすれのところで急ブレーキをかけて停車した。
結愛は後ずさりして勢いよく尻餅をついた。
車から降りてきた男は、太一に近付いたかと思うと、いきなり太一の胸ぐらを掴み、殴りかかった。
「いってぇなぁ! 何すんだよ!」
太一が睨み付けた。
「今のは俺からだ」
男はそう言うと、さらにもう一発殴った。
「――それは、結愛の親父さんからだ!」
結愛はその横顔を見て息を呑んだ。
「――こ、康ちゃん!?」
声を上げると、太一がこちらに視線を向けた。
「え? 康ちゃんって――お前もしかして、このおっさんのことがずっと好きだったわけ?」
「そうだよ! この気持ちは太一君には一生わからないよ!!」
結愛は泣き叫んだ。
「結愛には二度と近付くな」
康史は太一の胸ぐらをもう一度掴むと自分の方へ引き寄せ、威嚇するような低い声で言った後、勢いよく突き放した。
太一は振り返りもせず、切れた口元を押さえながら黙って去った。
康史は素早く助手席のドアを開け、「乗って」と促した。康史も乗り込み車を道路脇に停車させると、不安げに顔を覗き込んだ。
「痛かっただろ。可哀想に……」
そう言って、結愛の左頬に優しく触れた。
「お待たせ!」
結愛は息を弾ませ駆け寄った。
「俺も今来たとこだよ。今日の結愛のスカート可愛いじゃん」
「嬉しい! ありがとう」
結愛は照れ笑いを見せた。
「どこ行きたい?」と聞かれた結愛は、「太一君はどこ行きたい?」と聞き返した。
「今日は一ヶ月記念日だから、特別なとこに行こうか」
太一が意味ありげに答えた。
太一とは、三ヶ月前の同窓会での再会をきっかけに、ちょうど一ヶ月前から交際を始めた。
交際を申し込まれた時、太一からは「ゆっくりでいいから好きになってくれたら嬉しい」と言われた。その気遣いのある言葉に誠実さが窺え、この人なら大丈夫だろう、と思えた結愛は太一との交際に踏み切ったのだった。
もうあの頃の太一とは違っていた。あれから十年以上も経ったのだから。
しかし交際が三ヶ月を過ぎた頃、太一が本性を現し、デートの帰り道に口喧嘩になった。
「待ってよ!」
結愛が太一を追いかけ腕を掴むと、太一はそれを勢いよく振り払った。
「面倒くせーな!」
「浮気なんて酷いよ! 太一君がそんな人だとは思わなかったよ!」
溢れた涙が頬を伝う。
「待ってられなかったんだよ! お前がいつまでたっても拒むから!」
「ゆっくりでいいって言ってくれたじゃない。あれは嘘だったの?」
「うるせーな!」
言うと同時に、太一は結愛の頬めがけて右手を振り払った。
「いつまでもガキみたいなこと言ってんじゃねーよ!」
その時、突然パッシングされクラクションが鳴った。
車はクラクションを鳴らし続けたまま、スピードを落とさず結愛と太一に接近し、すれすれのところで急ブレーキをかけて停車した。
結愛は後ずさりして勢いよく尻餅をついた。
車から降りてきた男は、太一に近付いたかと思うと、いきなり太一の胸ぐらを掴み、殴りかかった。
「いってぇなぁ! 何すんだよ!」
太一が睨み付けた。
「今のは俺からだ」
男はそう言うと、さらにもう一発殴った。
「――それは、結愛の親父さんからだ!」
結愛はその横顔を見て息を呑んだ。
「――こ、康ちゃん!?」
声を上げると、太一がこちらに視線を向けた。
「え? 康ちゃんって――お前もしかして、このおっさんのことがずっと好きだったわけ?」
「そうだよ! この気持ちは太一君には一生わからないよ!!」
結愛は泣き叫んだ。
「結愛には二度と近付くな」
康史は太一の胸ぐらをもう一度掴むと自分の方へ引き寄せ、威嚇するような低い声で言った後、勢いよく突き放した。
太一は振り返りもせず、切れた口元を押さえながら黙って去った。
康史は素早く助手席のドアを開け、「乗って」と促した。康史も乗り込み車を道路脇に停車させると、不安げに顔を覗き込んだ。
「痛かっただろ。可哀想に……」
そう言って、結愛の左頬に優しく触れた。
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