【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす

文字の大きさ
7 / 115
第1章 諸事情により冒険者になりました

4.隠者的な市場とギルドの歩き方

しおりを挟む
 市場は、まあまあの人だかり…とは言っても、これは比較対象が日本なので、この辺りとしてはかなりの人手になるだろう。生鮮食料品、日用品、大きな家具や武具の類、服やアクセサリー、もっと大きくなると馬や牛などの家畜まで…おそらく、大抵のものは揃うだろう。
 
 ゆっくりと人の流れに乗って歩きながら、店を順番に見て歩く。目深にフードを被り、ローブに背負い籠姿の者はそこかしこにいるのでおそらく気配隠避の術を使わなくても目立たない気もするが…もう使うのに慣れてしまっているのでそのまま進む。気配を消し過ぎると人にぶつかられるので、そこら辺は調整に調整を重ね、結界と組み合わせた結果、理想的な距離感を自然に取れるようになった。ちなみに普段の引きこもり生活が祟って実地調整に長引き、ここまで来るのに、1年以上かかっている。
(あはは…暇人のやることだよね)
 良いのだ、だって隠者だもの、と思わず苦笑する。

 市場を回って、光虫が反応したいくつかの果実や、シンプルなナイフホルダー付きのベルトなどを購入する。
(これでアーバンさんに「お前さん、短剣くらい買えよ?」とか言われないで済むかな)
 木陰のベンチに荷物を置き、ベルトを身につけて、アイテムボックスに入れてある、普段使いのナイフを下げてみた。果物は背負い籠に入れるフリをしてアイテムボックスへ入れて…ゆるゆると人の流れに沿って市場から
ギルドへ向かうことにした。

◇◇◇

 ギルドは基本的に常に開いている。冒険者の食堂兼酒場が奥のフロアにある関係か、常に誰かが居る状態だ。
「おはようございます。納品をお願いします」
 この時間ならまだ夜勤の職員と朝出の職員の申し送りの最中で、おしゃべりな受付嬢はあまりいないはず…と思ってやってきたのだが、私の声に反応したのは1番近くにいたアーバンさんではなく、少し奥にいた小柄な受付嬢だった。
「おはようございます!冒険者証を見せてくださいね!」
 彼女はハキハキとした勢いのある挨拶をしたのち、こちらをまっすぐ見てニコリと微笑んだ。
「お願いします」
 フードをおろし、鎖を頭から引き抜いて冒険者証ごとトレイに置く。
「お預かりしますね」
 名札にはスージーと書いてある。多分、半年くらい前から働き始めた人のはずだ。スージー嬢はトレイを持って、奥の読み取り用の機械の板の上に置く。まずは一旦、登録の確認などをする為だ。

 ピクリ。

 私に背中を向けていたスージー嬢の肩が跳ねた。はわわ、と小さな声が聞こえる。
 少し嫌な予感がした…その時、不意にアーバンさんが受付の前に入ってきた。
「おはよう、リッカさん。品物預かっていいか? スージー、サブマスが倉庫で呼んでたぞ。あとは引き受けるぜ」
 アーバンさんの背中でスージー嬢の姿が隠れる。スージーさんはトレイをそそくさと私の前に戻すと、はわわ、と小走りで奥に行ってしまった。
「ああ、アーバンさん。おはようございます。お願いします」
 にこり。セカイさんの笑顔を思い浮かべる。それを崩さないようにして背負い籠からいつもの荷物を出しては、中身をアーバンさんの差し出すカゴに移し替える。
「今日はこれも」
 ギンダケを出した途端、今度はアーバンさんの片方の眉が跳ねた。
「おう。いつもあんがとな」
 受け取るフリをしつつ、私に顔を近づけて、アーバンさんは早口で囁いた。
「やばいぜ。ホントに悪いが、ちょっともう黙ってられなくなるかもしれない」
「……」
「サブマスはオレの同期でさ。今までリッカさんの希少職業レアジョブに関しちゃ黙認スルーしてもらってたんだよな」
「………」
「とりあえず、今回はギンダケはしまっとってくれや。話がもっとでかくなるぜ」
「…はい」
 するり、とギンダケの籠を足元の背負いカゴに落とす。そのままアイテムボックスに入れた。
「悪いようにはしねぇ。今回だけはちょっと時間くれ。頼むよ」
「…どうすれば?」
 奥の方からカツカツ靴音が近づいてきた。
「私がご案内しますよ」
 アーバンさんの後ろからやってきたのは、眼鏡をかけ、髪を後ろに撫で付けた男性だった。
「あ、コイツはうちのサブマスだよ。リッカさんに指名依頼があるってよ」
 明らかにわざと大きな声でアーバンさんが言う。
「はじめまして。当ギルドサブマスターのルドヴィック・アスターと申します」
「…リッカです」
「実はある商会から、是非あなたにお願いしたい依頼がありましてね。お話だけでも聞いていただきたいのですよ。お時間をいただけませんか?」
 サブマスターということは、このおそらくは貴族の男性が、アーバンさんの同期の方ということになる。ちらりとアーバンさんをみると「OKしてくれ」と目で訴えられた。
「…わかりました」

◇◇◇

 ギルドの2階は床に絨毯が引かれた、思っていたより重厚な作りだった。サブマスターは私に恭しく手を差し出し、エスコートをしてくれる。転生してこの容姿になってから、女性扱いをされるのは久しぶりだったのでそれだけはびっくりしていたが、思っていたよりも動揺はなかった。
 おそらく、隠者という職業だと、もしかしたら何かあるかもと気にかけてはいたことと、そして、多分いざとなったら転移で逃げれられるように常に準備が出来ているからだ。
 私は、自分に認識阻害と隠秘を緩くかけなおして、探索魔法ソナーで、自分に影響のある魔法や仕掛けなどの存在を探す。サブマスが魔法が使える可能性を考え、彼の魔力の流れを視覚化しておく。今のところなにもかけられていない気がするけれど…
「もしかして、リッカさんは、エルフの血を引いておられるのですか?」
「……え?」
「いえね、以前パーティーを組んでいた弓使いの仲間が、エルフの血を引いていたのですよ。その人と静謐な雰囲気が似ている気がしましてね。独特の品の良さといい…いや、初対面の淑女レディーに聞くことではなかったですね。失礼しました。忘れてください」
「…いえ、お気になさらずに」
 いや、これは貴族にありがちな『とりあえず女性なら初対面は何がなんでも遠回しでも誉めておけ』ということなのだろう。ローブに背負い籠なんて持ってる女、しかも印象を薄くする魔法を重ねがけしている状態で、褒めるのは大変そうだ。

 ギルド内は思っていたより広いのか、要人を守るためだろうか。2分ほどゆっくりエスコートされて歩いて、やっと立派なドアの前に来た。サブマスがトントンとノックした。
(わざと遠回りさせられた気もするけど)
「ギルマス、ルドヴィックです。入りますよ」

「入ってくれ」
 低い壮年の男性の声が聞こえた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

処理中です...