【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす

文字の大きさ
12 / 115
第1章 諸事情により冒険者になりました

閑話 冒険者ギルド辺境都市バルガ支部にて 副ギルマスの場合

しおりを挟む
 アスター子爵は、ガルダ近辺を治める辺境伯の親戚筋にあたる家だ。
 ルドヴィック・ルロイ・アスターは、アスター子爵の弟にあたる。本来は長兄のアスター子爵と自分の間にもう1人次兄がいたそうだが、2歳の時に流行病で亡くなっている。その後に生まれたのがルドヴィックで、長兄とは12歳年齢が離れていたのもあり、伸び伸びと育てられた。
 勉強も人よりも頭ひとつ抜きん出て出来たこと、何より魔法の才があった事もあって、18歳で王都の高等学舎を次席で卒業…華やかな将来が約束されているかに思えたが、彼の爵位が低かった事と、属する派閥の力が弱体化していた時期だったことが重なって、王宮で働くのは早々に辞退していた。顔や成績だけで近寄ってくる誰それや、自分を家に取り込もうとして差し向けられる何処ぞの娘にウンザリしていたのだ。当時存命だった父も、貴族同士のゴタゴタに巻き込まれて家ごと潰されるくらいなら、と数年は修行に行ってこいと背中を押してくれた。
 そんな彼が行き着いた場所が、冒険者ギルドだった。そこで、王都で剣術を教える道場で働きつつ冒険者をやっていたアーバンと出会い、意気投合してパーティを組んだのだった。その後、別の護衛任務で出会ったハーフエルフのフロニア、ジェイガンも加わり、パーティとしてはほぼ最高峰のランク1、個人としてもランク2まで上り詰めた。
 何もかも順調だったわけでは無い。それでも、当時は苦労を乗り越える事も、金欠でヒーヒー言っていたことさえ、懐かしく感じる。
 10年前のアーバンの怪我とそれに伴う冒険者引退を機に、ジェイガンはギルドの仕事に着く事を決め、ルドヴィックも一度は家に帰ってこいと兄に泣きつかれて冒険者を廃業して結婚し、今の仕事…ギルドのサブマスターをしつつ、アスター子爵の領地経営を手伝う毎日だ。兄夫婦には子供がいないため、兄は自分の死後はルドヴィックかその長男に継がせると王家に届けも出している。
 書類仕事ばかりの毎日は正直退屈だが、そこは少しばかりの楽しみを見出しつつ、子供達の成長を見守りつつ、なんとか退屈をやり過ごしていた。いや、そのつもりだった。

 しかし、アーバンからもたらされた希少職業レアジョブの報告から、何かが変わった。
 忙しくなった。書類仕事だけではなく、アーバンの報告から、しばらくは隠者…リッカと穏便に接触するまで、なんとか時間を稼ぐ事を提案したのはルドヴィックだ。受付の女性達の中でも、口が固いものに契約魔法まで使って秘密を遵守させた。
 この国は、今は小康状態を保っているが、数年前から若年層の優駿な人材の流出が止まらない。もしも、この若い隠者の扱える魔法に、この国の益になるものがあれば…と考えてもいた。
 それ以上に…隠者が確実にいくつか使えると言われている失伝魔法ロストマジックに、興味が掻き立てられるのをとめられなかった。だからこそ、忙しさなんてどうでも良くなった。職員の7割が隠者の存在に気づき始め、アーバンが隠者とそこそこ仲良くなって来たようだ、とギルド内で言われ始めたとき、ルドヴィックはジェイガンとアーバンにこう提案した。
「今月採用した新人が、隠者に気づいたタイミングで声をかけましょう」…と。

◇◇◇

「おかえりなさいませ、あなた」
辺境伯のところから戻ると、深夜にもかかわらず、11歳年下の妻エリーナが出迎えてくれた。
「待っていてくれたんだね。ありがとう」
「急な事でしたでしょ?心配で眠れなくて」
 上着を受け取る妻は、心配だと言いつつも内心楽しんでいるのがよくわかる。
「話が聞きたいかい?」
「もちろんですわ!」
 エリーナは、辺境伯の姪にあたる。もちろん政略結婚ではあったが、剣や乗馬も嗜む、溌剌とした素直な気質を好ましく思い、結婚してそれは愛へと変わった。
 子供も3人生まれ、自分はますます仕事が忙しく、苦労をかけてしまっているとも思うが、時折可愛い文句だけで頑張ってくれている妻には、本当に感謝しているのだ。

 湯浴みを早々に済ませ、寝室に行くと、妻はテーブルにお茶やらワインやらを用意していた。
「何かお飲みになります?」
「うん。お茶を」
 ルドヴィックは火魔法で湯を温め、一度緩くなったであろう湯に空気を少しだけ入れる。その方がお茶が美味しくなる、と結婚してすぐエリーナが言ったので、そうすることにしている。いそいそとお茶を入れる妻を眺めながら、ルドヴィックは、さてどこから話そうかと悩んでいた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?

よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ! こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ! これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・ どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。 周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ? 俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ? それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ! よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・ え?俺様チート持ちだって?チートって何だ? @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

処理中です...