【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす

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第5章 廻る世界

18.世界樹と異変の始まり

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 とにかく、聖地のこの状況はいつ始まったのか。少し落ち着いたところで私が尋ねると、闇の精霊王は私達を世界樹の前に連れてきた。闇の精霊王がリーダー的な存在なのだろうか。
「これが…」
 思わず声が出た。世界樹と呼ばれている木は確かに大きかった。
 しかし、樹皮は所々剥がれ落ち、枝は干からび、葉は申し訳程度についているだけだ。
(どう見ても枯れかけている…いや、もう枯れてると言っても過言では…?)
 文字通り大樹だ。こんな木は見たことがない。だからこそ今のその姿が悲しくなった。
「人間の時間で言えば、500年か1000年ほどだろうか。それくらいから様子がおかしくなり、最近急にこのようになった」
(闇の精霊王にとって、『最近』を示す時間の長さはどのくらいなんだろうか…)
 500年も1000年も同じように語る闇の精霊王の時間の感覚は、想像することすらできなかった。いや、歴史の教科書を見る感覚になれば良いのだろうか。
「闇の…それだと人間にとっては途方も無い時間の誤差ですよ?」
 おずおずと声をかけたのは、全体的に色素の薄い私と同じくらいの背格好の精霊王…申し訳ないが消去法で行けば、光の精霊王だ。
「100年あれば、人間は3代入れ替わりますから…ね?」
 同意を求められ、目があった。その途端に私の心臓が跳ねた。
(多分、セカイさんにすごく似てる…!)
「あ、はい…そうですね」
 とりあえず同意を示しながら、記憶の中のセカイさんの姿を思い出す。精霊王達は実は本当に少しずつだがセカイさんに似ている気がする。そのなかでも、光の精霊王の顔立ちは一番セカイさんに近かった。
(私が会った時のセカイさんが何かの姿を模しているのか…精霊王達が、何かの理由でセカイさんの姿に似ているのか…)
 セカイさんに確かめる事はできないけれど…と勝手に思考を巡らしつつ、私は重ねて勝手に彼等に親近感を覚えていた。そして、その感覚は、少なくとも聖地のおどろおどろしい光景にショックを受けていたらしい私の心を落ち着かせる効果があったようだ。
(さて…まずは、こうなった理由は、精霊王たちもはっきりとは分かっていないみたいね)
 光の精霊王に指摘されて、闇の精霊王は細かい時系列を思い出しているようだ。他の精霊王も思い出しながら時系列を口にしている。だいたい800年くらい前から、今のような兆候がほんの時々現れたようだ。
「魔の森が元気がなくなった時期も、その頃だ」
 ぼそり、とそれだけ言ったのは土の精霊王だった。
「魔神と人間が争い始めた頃ですわね」
 水の精霊王の言葉に、ダークチョコレートのような肌色をした大柄な男性の姿をした土の精霊王は、厳つい顎をもそりと縦に動かすと、サンストーンのように光る色の瞳で、私を見た。
「リッカよ、お前はどうして魔族の術を使えるのだ?その術は、もう魔族のなかでも使えるものはいなかったと思うが」
「魔族の術?」
 私がそのまま言葉を返すと、土の精霊王は片手をあげて、すまないと口を開いた。
「いや、今はそれはどうでも良いことだな。すまなかった。これについては後で話をさせてくれると嬉しい」
「わかりました」
 美しくきらめく虹彩を見返しながら返事をすると、土の精霊王は薄く笑った。
「わ、土のが笑った!珍しいね」
 青い瞳を輝かせて、風の精霊王が土の精霊王の顔を覗き込んだ。土の精霊王は軽く首を傾げて、風の精霊王の肩を軽く叩く。
「土のもリッカが好きになった?とっても気持ちいい魔力だもんね!」
 風の精霊王はするりと私に抱きつき、頬に口付けた。
(……早業…)
「僕もリッカの眷属になりたいな」
 耳元で囁くように言われた言葉に、思わず顔を向けると、満面の笑顔がすぐそこにあった。額と額が触れて、悪戯っ子のような笑顔が文字通り目と鼻の先にある。
「こうしてるだけですごく気持ちいいんだよね」
(ああ、このタイプ…構ってほしいのかな?)
 次の瞬間、ベリッと音がしそうな勢いで風の精霊王が引き剥がされた。剥がしたのは水の精霊王。おそらく、こういうやりとりも含めて、風の精霊王は楽しんでいるのかもしれない。甘えん坊の大型犬のようだと思った。
「隠者リッカ、だいたいの時間が分かったようだぞ」
 土の精霊王が私を呼んだ。その傍らにはカルラが居て、メモをとっているようだった。
「主様!大丈夫でしたか?」
「え?ああ、風の精霊王ね…それよりも、カルラはお話をまとめてくれていたの?」
「はい!おそらく、世界樹と聖地の異変が多くなり始めたのは、800年前からというのは間違いない様子です」
 カルラは私にメモを見せてくれた。とても小さな字だが、丁寧に書いてくれている。彼女のペンは、私がアイテムボックスから出したボールペンの中身で、紙はあちらで言うところの付箋だ。ピンク色のものがお気に入りらしい。
「それから、風の精霊王が幻映を作り始めたのは、10年くらい前からだそうですよ」
「私はそれくらいから、変換魔法を使い続けたまま、多分先程のように活動をほぼ停止していたようだ。光の、水の、炎の、土の、私、最後が風だったようだな」
「うん、多分だけど、僕が魔力枯渇を起こして動けなくなったのが、半年くらいだと思うよ」
 風の精霊王のハグを半歩下がって避けつつ、彼らの話を聞きながら状況を頭の中で整理しつつ、私はカルラに断って付箋を私のノートに貼り付ける。貼り付けられた付箋を嬉しそうに撫でているカルラの頭を、私も撫でる。聖地に来てから、初めてカルラの自然な笑顔を見ることが出来た気がした。
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