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第6章 転生隠者の望む暮らし
2.隠者は治癒師に化ける
しおりを挟む今書いているのは、分かりやすく言うのなら『魔の森の過剰な開発の弊害について』だ。精霊王達から、今回のことを全て他人に話しても構わない、という許可は得ていたので、聖地から帰宅後にギルドに行った際、一応報告はしておこうと今回私が関わったことを話す事になったのが……話すだけでは終わらなかった。
(最初はギルマスとサブマスは出かけていて、アーバンさんだけだったのに……)
キノコと薬草を納品し、未だ常時依頼の討伐依頼をチェックして、ギルドの裏口あたりで作業をしていたアーバンさんと軽く話して帰ろうとしたのだが……アーバンさんに『いやもうマジであいつらすぐ帰ってくるから待っててくれ』と引き止められ、その勢いが正直怖かったのでいえいえまた後日と帰ろうとしたのだが、そうこうしているうちに赤ちゃん連れのミリィさんが差し入れにやって来て、リッカくんを抱っこしながら世間話になってしまい、結果的に引き止められてしまった。
(最終的にギルマス、サブマス、アーバンさんとお昼を食べて、質問が多くて話が終わらなくて、お茶してるうちに何故かお忍びで辺境伯閣下が来られて、事の次第を3周くらい説明した気がする……)
話が終わった後、ミリィさんから預けられていたらしいお手製のお菓子と、受付長のメリルさんからは喉に良いと言うお茶の葉を渡されて、何故かメリルさんに『大変でしたねぇ』と頭を撫でられた。
そして、その後に何故か辺境伯閣下からギルドへの依頼という形を取って請け負ってしまったのが、今回の事態から聖地と精霊王の事を上手く抜いて、魔の森の伐採と魔木の資源利用が及ぼす影響の推測を、なんとか文章にまとめて欲しい、というものだった。期間は、出来れば半年から1年以内。情報はギルドからも出す、協力は惜しまないとのこと。
その情報とサンプルの入手を兼ねたものの一つが、魔道国家からバルガにやってきた冒険者の1人の事例だった。空間収納の持ち主なのだが、魔の森で体調を崩してから、神殿で治療を受けないとアイテムの出し入れをする際に痛みを生じると言うので会ってやって欲しい、気付いたことが有れば教えて欲しいし、もちろん今回の仕事の材料になるのなら使って欲しいということだった。
あれよあれよという間にスケジュールが組まれ、その冒険者さんを治療もとい鑑定することになったのだが…今回はひとつだけ、いつもと違う条件があった。
(神官の格好をして、治癒師に化けて治療するとか……)
神殿の中に作ってもらった控室。私はその中で男性神官の服を借りて着替えた。今回の患者さんはもともと魔導国で活動していた冒険者で、拠点もまだ魔導国家にあるようだ。そのために万が一を考えて、本人には事情を伝えずに治癒師として治療して欲しいのだそうだ。
「主様、本気出したらだめだよ~?」
「え?」
「そうですよ。いつもみたいに祈ったら駄目ですからね」
「うん…?まあ、今日は治療と言うか、鑑定だから大丈夫だよ」
ギルマスと旧知の仲だという神官さんが迎えにきてくれたので、部屋を出る。
「よろしくお願いします」
治療室に居たのは、二十代半ほどの女性だった。どことなく疲弊しているのが解る。
「あら?今回は違う方なのね」
「ええ。今回は凄腕の治癒師さんがこちらに来られたので……安心してお任せくださいね」
「よろしくお願いします」
治癒師は大判のスカーフのような布をマスクのように使って鼻から下を覆うので、自分の声も少し雰囲気が違うだろう。
「こちらこそ、お願いします」
女性は痣のような物が点々と出来た腕を差し出してきた。痛みが出る部位なのだろう。
「触診させていただきます」
診察するふりをして、鑑定用の紋様を出した。魔術師である彼女に見えないように隠蔽術を重ねがけしたものだ。
—————————
名前 ベラ(ベラ・ラ・トレモイア)
職業 貴族(魔道国家ヤウェハ トレモイア男爵家庶子)、冒険者、魔術師。
技能 空間収納 生活魔法 火魔法3 風魔法7
状態 魔力梗塞(重度) 魔力減少 魔力回復障害
—————————
思っていたよりも悪い状態に驚いたが、顔には出さなかった。アザのようなものは、腫れなどは無く、触れても痛みはないようだ。
(肉体的なものでは無い…おそらくは魔力班で間違いない。問題は……)
「空間収納に出し入れするときに痛むのですね?」
「そうなの。痣が出るとかなり痛くて……治癒してもらうと消えるんだけど、1週間もするとまた出てきてしまうのよ。そうすると痛くて」
魔力班のでている辺りを鑑定すると、極端に魔力の流れが悪くなっているのが分かる。魔力の通りが悪いところに無理に魔力を通して魔法を使ったことにより、炎症が起こったものらしい。今の魔法を使うには、魔力の通り道はある程度太いと言うか、一度に多く流したり放出したりする必要がある。そこを無理をしたために痛みが生じたのかもしれない。
まずは指先で魔力の詰まっている部分に触れながら、継続治癒術で炎症を治して行く。炎症を治しつつ魔力の詰まりを解消しているうちに、あることに気づいた。
(……詰まっている所の魔力がおかしい…変質している…?)
「最初に痛みが出る前、一定以上の魔法が使いづらくなったと感じたことはありませんか?」
「え……ええ、そうね。中級魔法が発動しないことが続いたわ」
話しながら、少しだけ詰まりの部分の魔力を抜き出させてもらった。同時に私の魔力を同量流し込む。詰まった部分の紋様もコピーさせてもらった。なんだか悪いことをしているような気分になったが、その分きちんと治療させてもらう。
(魔力梗塞と一緒に、魔力の回復障害が消えた…)
鑑定し直して、正常な状態になっているのを確認してから声をかけた。
「今回の治療はこれで終わりです。今日は水分を多めにとって、出来れば温かいお風呂に入って休んでください。申し訳ないのですが、何も無くてもまた1週間以内に来ていただくのは可能ですか?」
「え?……それは、大丈夫よ。この時間でいいかしら?」
「そうしていただけると助かります」
次の週、やってきたベラさんの様子は、明らかに良くなっていた。顔色も良い。魔法も問題なく使えるようになったらしい。鑑定でも悪い所見は見られなかった。
「すごい治癒師さんね! 痛くないって幸せだわ。本当にありがとう!」
手を握られてぶんぶんと上下に振られながら、後ろの付き添いの男性に何故か睨まれたが、ベラさんが治って私も嬉しかった。
これが、先月の話だ。
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