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第6章 転生隠者の望む暮らし
閑話 冒険者ギルドバルガ支部にて〜魔導国家出身冒険者からの依頼
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夏の日差しが柔らかくなり、そろそろ肌寒くなった日の、夜更けのことだった。
フードを目深に被った男が、冒険者ギルドの裏口からこっそりと中に招き入れられた。男は、受付長のメリルに案内されるがまま、ギルドマスターの部屋まで歩みを進めた。
コンコン。
メリルはあくまで淡々と扉を叩き「お約束の方がいらっしゃいました」と声をかけてドアを開けた。男は、ゴクリと唾を飲み込んで、中に足を踏み入れる———。
◇◇◇
ジェイガンは、ふーんと大きく息を吐いた。
「魔導国家も帝国も、この国も、何考えてるかますます分からなくなってきたぜ」
「でもまあ、予想通りですけどね」
ルドウィッグはメモを見ながら事も無げに答えた。
「えー…マジかよ」
衝立の陰になっている扉から、飲み物と軽食を運んできたのはアーバンだ。
「ほらよ。下から適当にもらってきたぞ。で、何が予想通りなんだ?」
「例えば……」
ルドウィッグは盆の上にある料理をテキパキと卓上に並べて行く。
「先々週でしたか、リッカさんの論文にも『精霊や妖精が減っているはずだ』と言う内容がありましたよね。ちょっと学園時代のツテを頼って調べようとしたら、留学して研究していた友人が完全に帰国していたんですよ。『あの国にいても無駄だ』とかいう理由で。詳しくは書けないと書いてありましたが、彼が無駄だと言い切るのなら、おそらく魔導国家では精霊魔法の行使が出来なくなったのでは無いかと思うのです。彼は妖精伝承の研究の名目で来月から我が家に逗留するらしいので、話を聞けるかと思います」
つまりは、魔導国家で何かがあるのだ。それを理解してジェイガンとアーバンは口をへの字に曲げた。彼らとてランク1と2まで上がったことのある冒険者であり、貴族とやり取りしたこともそれなりにある。基本的にこういう言い方をされる時は良いことが無いのは、経験上知っている。
「それ、誰だ?って聞いて良いか?」
「さる貴族の方とそのご子息です」
「……伯爵以上ってことだよな」
ルドウィッグは無言でワインを口に運ぶ。
「先ほどの冒険者の依頼はどうしますか?」
「依頼っていうか、あれはもう亡命申請じゃねえか……」
男は、魔導国家の拠点を持つ冒険者だった。ランクは4だが、ジェイガンから見て、それは敢えてそこで止めたままでいる印象を受けた。気になったジェイガンは密かに調べさせたのだったが、まさかこんなに早くその男の方から訪ねてくるとは思わなかった。
「妖精目だったとはな」
「弱いとは言っていましたが……光っている玉に見える、くらいの」
「で、仲間の治療についてきて、リッカさんの精霊たちを見た、と」
「治療も特別なことをしたのが分かったとは言ってましたね」
「妖精眼じゃなくて、魔力眼なんじゃねえか?」
魔力眼とは、魔力の流れを常に視覚化出来る目のことを言う。妖精眼と比べて3魔術師の中には30人に1人程度の割合で見られる。さほど珍しいものでは無いが、最近あまり見かけなくなっていたのも確かだ。
「可能性はありますね。妖精は魔力…リッカさん曰く、9割マナで構成されているそうですから」
「キリス。本名はキリス・トルトメア。帝国の男爵の庶子か。男爵ではあるが、有名な商会の主だし、手広く商売してて資産はかなりあるだろうな。で、魔導国家の支店に勤めてた女に生ませた子供ってことだったかな」
「で、なんでその男爵がわざわざ子供に手を出すんだよ?本人は『今すぐ魔導国家に戻れ、戻って所定の機関に出頭しろっていわれた。自分は何も悪いことはしていないから助けてほしい』ってことだったよな?その『所定の機関』ってのも聞いたこと無いぜ」
「裏で何かある、とはあまり考えたくはありませんが…可能性としてはいくつかありますね。…本命は男爵家の亡命かもしれませんよ」
「はあ?……妾の子にその手引きをさせようってか」
「あくまで可能性の1つです。今回は違う気がしますけど」
「ギルドとしては、規定を満たせば保護してやれるけどな……」
「ギルド証の上では、犯罪歴は認められませんでした。まずは保護申請の方向で動きながら、背後関係を調べましょう。『所定の機関』が何か分からないことには何も進みませんし」
3人は、それぞれ自分の仕事を確認して解散した。
その後、キリトとベラを含んだ冒険者パーティの4人は、結果的にサントリアナ王国で名前を変え、国を股にかけて活躍するパーティーとなるのだが、それはまた別の話である。
フードを目深に被った男が、冒険者ギルドの裏口からこっそりと中に招き入れられた。男は、受付長のメリルに案内されるがまま、ギルドマスターの部屋まで歩みを進めた。
コンコン。
メリルはあくまで淡々と扉を叩き「お約束の方がいらっしゃいました」と声をかけてドアを開けた。男は、ゴクリと唾を飲み込んで、中に足を踏み入れる———。
◇◇◇
ジェイガンは、ふーんと大きく息を吐いた。
「魔導国家も帝国も、この国も、何考えてるかますます分からなくなってきたぜ」
「でもまあ、予想通りですけどね」
ルドウィッグはメモを見ながら事も無げに答えた。
「えー…マジかよ」
衝立の陰になっている扉から、飲み物と軽食を運んできたのはアーバンだ。
「ほらよ。下から適当にもらってきたぞ。で、何が予想通りなんだ?」
「例えば……」
ルドウィッグは盆の上にある料理をテキパキと卓上に並べて行く。
「先々週でしたか、リッカさんの論文にも『精霊や妖精が減っているはずだ』と言う内容がありましたよね。ちょっと学園時代のツテを頼って調べようとしたら、留学して研究していた友人が完全に帰国していたんですよ。『あの国にいても無駄だ』とかいう理由で。詳しくは書けないと書いてありましたが、彼が無駄だと言い切るのなら、おそらく魔導国家では精霊魔法の行使が出来なくなったのでは無いかと思うのです。彼は妖精伝承の研究の名目で来月から我が家に逗留するらしいので、話を聞けるかと思います」
つまりは、魔導国家で何かがあるのだ。それを理解してジェイガンとアーバンは口をへの字に曲げた。彼らとてランク1と2まで上がったことのある冒険者であり、貴族とやり取りしたこともそれなりにある。基本的にこういう言い方をされる時は良いことが無いのは、経験上知っている。
「それ、誰だ?って聞いて良いか?」
「さる貴族の方とそのご子息です」
「……伯爵以上ってことだよな」
ルドウィッグは無言でワインを口に運ぶ。
「先ほどの冒険者の依頼はどうしますか?」
「依頼っていうか、あれはもう亡命申請じゃねえか……」
男は、魔導国家の拠点を持つ冒険者だった。ランクは4だが、ジェイガンから見て、それは敢えてそこで止めたままでいる印象を受けた。気になったジェイガンは密かに調べさせたのだったが、まさかこんなに早くその男の方から訪ねてくるとは思わなかった。
「妖精目だったとはな」
「弱いとは言っていましたが……光っている玉に見える、くらいの」
「で、仲間の治療についてきて、リッカさんの精霊たちを見た、と」
「治療も特別なことをしたのが分かったとは言ってましたね」
「妖精眼じゃなくて、魔力眼なんじゃねえか?」
魔力眼とは、魔力の流れを常に視覚化出来る目のことを言う。妖精眼と比べて3魔術師の中には30人に1人程度の割合で見られる。さほど珍しいものでは無いが、最近あまり見かけなくなっていたのも確かだ。
「可能性はありますね。妖精は魔力…リッカさん曰く、9割マナで構成されているそうですから」
「キリス。本名はキリス・トルトメア。帝国の男爵の庶子か。男爵ではあるが、有名な商会の主だし、手広く商売してて資産はかなりあるだろうな。で、魔導国家の支店に勤めてた女に生ませた子供ってことだったかな」
「で、なんでその男爵がわざわざ子供に手を出すんだよ?本人は『今すぐ魔導国家に戻れ、戻って所定の機関に出頭しろっていわれた。自分は何も悪いことはしていないから助けてほしい』ってことだったよな?その『所定の機関』ってのも聞いたこと無いぜ」
「裏で何かある、とはあまり考えたくはありませんが…可能性としてはいくつかありますね。…本命は男爵家の亡命かもしれませんよ」
「はあ?……妾の子にその手引きをさせようってか」
「あくまで可能性の1つです。今回は違う気がしますけど」
「ギルドとしては、規定を満たせば保護してやれるけどな……」
「ギルド証の上では、犯罪歴は認められませんでした。まずは保護申請の方向で動きながら、背後関係を調べましょう。『所定の機関』が何か分からないことには何も進みませんし」
3人は、それぞれ自分の仕事を確認して解散した。
その後、キリトとベラを含んだ冒険者パーティの4人は、結果的にサントリアナ王国で名前を変え、国を股にかけて活躍するパーティーとなるのだが、それはまた別の話である。
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