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第6章 転生隠者の望む暮らし
閑話 辺境都市バルガ 〜冒険者ギルドバルガ支部ギルマスの部屋にて〜
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色々ありまして、更新が遅くなりました。申し訳ありません。
※※※
隠者リッカから論文が提出された。前回の話し合いからキッカリ1ヶ月後の、17日。誤字脱字がないか再確認してほしいと言われた論文は、特に問題もなく提出され、今は木製の文箱に入れられてジェイガンの目の前にある。
「明日の朝イチで閣下に届ける。ルドも一緒に行こう」
「分かりました」
ルドヴィックは忙しなく動かしていたペンを置き、そう答えた。手元の紙は先程リッカに細かく尋ねていたことの内容だろう。
「なぁ、2人とも」
アーバンはふいに口を開く。彼は先程からぼんやりとなにかを考えているようだった。
「リッカさん、これを精霊王にも読んでもらった、って言ったよなぁ」
「……言いましたね」
「ああ」
2人から返答が返って来ると、再びアーバンはうーんと唸ってからまた口を開いた。
「精霊王って、いるんだな」
「……精霊がいるわけですから、精霊王が居てもおかしくないですよ」
ルドヴィックは娘と妖精ルールーのことを思い浮かべながら答えた。
「精霊王とのやりとりとか、あれって友達かなんかみたいだったよなぁ……」
「その辺は隠者だから仕方無ぇってことにしようぜ」
「ジェイ、なんでもその言葉で片付けようとしていませんか?」
眼鏡越しの呆れた眼差しをふんと鼻息でやり過ごして、ジェイガンはアーバンを見た。
「あれだろ、アーバン。リッカがお前よりも精霊王に懐いたから寂しいんだろ」
「そんなんじゃねえよ。ただ……」
うまく言葉にならないのか、もそもそとお菓子の残りを食べていたアーバンは、ふと呟いた。
「なんか、ちょっと遠い存在になっちまったのかなぁって気がしただけだ」
「もとより、普通の冒険者ではありませんでしたからね」
「まあ、雰囲気がな。人間じゃない、純血種のエルフか魔族ですって言われた方がしっくりくるわな」
「本当は精霊ですよ、とか俺も思ったけどさ」
アーバンはぼそりと言った。
「ミリィが言うにはさ、たぶん人間で間違いないってさ」
「たぶんってなんだよ」
「服のサイズを見るとか言って、身体に触ったらしいんだよな。あいつ、魔力の質とかも属性の種類とかも直に触れば解る事が多いらしいからさ。フロニアの時とは魔力の質が明らかに違って、やっぱり人間のものだって言うんだよな」
エルフの血を濃く引いていた、3人のかつての仲間のフロニアとは、ミリィも顔見知りだった。
「フロニアには手紙でリッカさんのような容姿のエルフの行方不明者が居ないかどうか聞いてみましたが、フロニアの周りでは特にそういう人は居ないようです」
「うーん…なかなか上手くいかねぇなあ……」
とくに自分の出自を探ろうともしないリッカのために、余計なお節介だと分かっていながら、冒険者ギルドに記録してある行方不明者のリストや、他の国などに伝手を使って調べ始めたのは、ちょうど一年ほど前…リッカとこのギルマス室で顔を合わせてからのことだ。
「なんか、ちょっと心配なんだよなぁ…あの、なんとも言えないフワフワした感じが。強いんだけどよ、なんかちょっとこう…生きる感じが弱いんだよな」
「……ジェイ、貴方の知り合いの神官の言葉を、覚えていますか?」
「ギアのことだろ……多分、物凄く苦労して来ただろう、って言ってたやつか」
以前、ベラを診察させる為に、リッカに神官の格好をさせるなどの手配をしてくれた神官は、ジェイガンとは若い頃一緒にパーティーとを組んで仕事をしていた事もある仲間だった男だ。
「リッカさんの波動を診て、魂のレベルで物凄く疲弊しているのではないか、と言っていたのですよね」
「おう。あいつはあいつで苦労して来たからな。そういうのにはとくに敏感なんだが……それってどうすりゃいいんだよ。他人がズカズカ入って良いのかどうかも分からねぇことだろうしな」
「そもそも、名前以外は昔の事は分からないんだろう?」
ジェイガンもアーバンも、身近な愛する者を闘病の末に亡くした過去がある。あの時の辛さや痛みを忘れることこそないだろうが、こうしてそれなりに別れの時から幾年も時を経て、辛い時は伴侶や仲間の力も借りながら、ここに生きている。
しかし、リッカの言葉を信じるのなら、自分の過去に関する生活史を、何1つ覚えていないのだという。
だからこその不安から来る徒労感のようなものかと思えば、神官ギアはそうではないと思う、とハッキリ言った。
「手っ取り早いのはリッカにいい奴ができて、めちゃくちゃ甘やかしてやる、っていうのかもしれねえけど……」
「ジェイ、手っ取り早くというのは問題ですよ」
3人寄れば文殊の知恵とは言われているが、どうしても良い考えは浮かばなかった。
結局、この翌月、ジェイガン自らこの懸念という名の心配の気持ちを告げられた隠者リッカから、他の世界で生きて死んだ記憶があると打ち明けられ、3人と偶然聞いてしまった受付長メリルは、余計に悩みが深くなってしまい、慌てたリッカに「今が1番心穏やかに生きている」と告げられることになるのだが、それはそれで…と考えを巡らせることも、そんな中でジェイガンとメリルの仲が深まっていくことになるのも、また別の話である。
色々ありまして、更新が遅くなりました。申し訳ありません。
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隠者リッカから論文が提出された。前回の話し合いからキッカリ1ヶ月後の、17日。誤字脱字がないか再確認してほしいと言われた論文は、特に問題もなく提出され、今は木製の文箱に入れられてジェイガンの目の前にある。
「明日の朝イチで閣下に届ける。ルドも一緒に行こう」
「分かりました」
ルドヴィックは忙しなく動かしていたペンを置き、そう答えた。手元の紙は先程リッカに細かく尋ねていたことの内容だろう。
「なぁ、2人とも」
アーバンはふいに口を開く。彼は先程からぼんやりとなにかを考えているようだった。
「リッカさん、これを精霊王にも読んでもらった、って言ったよなぁ」
「……言いましたね」
「ああ」
2人から返答が返って来ると、再びアーバンはうーんと唸ってからまた口を開いた。
「精霊王って、いるんだな」
「……精霊がいるわけですから、精霊王が居てもおかしくないですよ」
ルドヴィックは娘と妖精ルールーのことを思い浮かべながら答えた。
「精霊王とのやりとりとか、あれって友達かなんかみたいだったよなぁ……」
「その辺は隠者だから仕方無ぇってことにしようぜ」
「ジェイ、なんでもその言葉で片付けようとしていませんか?」
眼鏡越しの呆れた眼差しをふんと鼻息でやり過ごして、ジェイガンはアーバンを見た。
「あれだろ、アーバン。リッカがお前よりも精霊王に懐いたから寂しいんだろ」
「そんなんじゃねえよ。ただ……」
うまく言葉にならないのか、もそもそとお菓子の残りを食べていたアーバンは、ふと呟いた。
「なんか、ちょっと遠い存在になっちまったのかなぁって気がしただけだ」
「もとより、普通の冒険者ではありませんでしたからね」
「まあ、雰囲気がな。人間じゃない、純血種のエルフか魔族ですって言われた方がしっくりくるわな」
「本当は精霊ですよ、とか俺も思ったけどさ」
アーバンはぼそりと言った。
「ミリィが言うにはさ、たぶん人間で間違いないってさ」
「たぶんってなんだよ」
「服のサイズを見るとか言って、身体に触ったらしいんだよな。あいつ、魔力の質とかも属性の種類とかも直に触れば解る事が多いらしいからさ。フロニアの時とは魔力の質が明らかに違って、やっぱり人間のものだって言うんだよな」
エルフの血を濃く引いていた、3人のかつての仲間のフロニアとは、ミリィも顔見知りだった。
「フロニアには手紙でリッカさんのような容姿のエルフの行方不明者が居ないかどうか聞いてみましたが、フロニアの周りでは特にそういう人は居ないようです」
「うーん…なかなか上手くいかねぇなあ……」
とくに自分の出自を探ろうともしないリッカのために、余計なお節介だと分かっていながら、冒険者ギルドに記録してある行方不明者のリストや、他の国などに伝手を使って調べ始めたのは、ちょうど一年ほど前…リッカとこのギルマス室で顔を合わせてからのことだ。
「なんか、ちょっと心配なんだよなぁ…あの、なんとも言えないフワフワした感じが。強いんだけどよ、なんかちょっとこう…生きる感じが弱いんだよな」
「……ジェイ、貴方の知り合いの神官の言葉を、覚えていますか?」
「ギアのことだろ……多分、物凄く苦労して来ただろう、って言ってたやつか」
以前、ベラを診察させる為に、リッカに神官の格好をさせるなどの手配をしてくれた神官は、ジェイガンとは若い頃一緒にパーティーとを組んで仕事をしていた事もある仲間だった男だ。
「リッカさんの波動を診て、魂のレベルで物凄く疲弊しているのではないか、と言っていたのですよね」
「おう。あいつはあいつで苦労して来たからな。そういうのにはとくに敏感なんだが……それってどうすりゃいいんだよ。他人がズカズカ入って良いのかどうかも分からねぇことだろうしな」
「そもそも、名前以外は昔の事は分からないんだろう?」
ジェイガンもアーバンも、身近な愛する者を闘病の末に亡くした過去がある。あの時の辛さや痛みを忘れることこそないだろうが、こうしてそれなりに別れの時から幾年も時を経て、辛い時は伴侶や仲間の力も借りながら、ここに生きている。
しかし、リッカの言葉を信じるのなら、自分の過去に関する生活史を、何1つ覚えていないのだという。
だからこその不安から来る徒労感のようなものかと思えば、神官ギアはそうではないと思う、とハッキリ言った。
「手っ取り早いのはリッカにいい奴ができて、めちゃくちゃ甘やかしてやる、っていうのかもしれねえけど……」
「ジェイ、手っ取り早くというのは問題ですよ」
3人寄れば文殊の知恵とは言われているが、どうしても良い考えは浮かばなかった。
結局、この翌月、ジェイガン自らこの懸念という名の心配の気持ちを告げられた隠者リッカから、他の世界で生きて死んだ記憶があると打ち明けられ、3人と偶然聞いてしまった受付長メリルは、余計に悩みが深くなってしまい、慌てたリッカに「今が1番心穏やかに生きている」と告げられることになるのだが、それはそれで…と考えを巡らせることも、そんな中でジェイガンとメリルの仲が深まっていくことになるのも、また別の話である。
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