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19.おふくろの味代表
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「今日は完全フリーですしいくらでもどうぞ!」
「いいのか!」
許可を出せば少年のようにキラキラと目を輝かせる。
どれ飲もうかな~とアルコール欄をじっくりと眺める彼を見つめながら、チクリと針を刺すことも忘れない。
「念のため言っておきますけど、悪酔いだけはしないでくださいね。力的に持ち上げることは可能ですが、結構体格差があるので引きずらないといけませんから」
実際は身体が限界を感じる前に止めてくれ、と忠告したいのだが、それよりもこちらの方が効果があるのは分かりきっている。
右手をぶらぶら揺らしながら、引きずるポーズを取ってみせるとレオンさんは渋い顔をする。
「お前に引きずられた姿を目撃されたら、俺はしばらく外を出歩くことが出来なくなる」
「ちなみに仰向けとうつ伏せ、顔の位置は選ばせてあげます」
「適量で止めとく」
「それがいいですよ。体面的にも身体的にも」
「精神的にも、な。すみません、アイスティーと赤ワインボトルで」
「かしこまりました」
適量と言いつつ、レオンさんは初っぱなからボトルを投入する。
「魚料理が来たらどうするんです?」
「問題ない。俺は肉も魚も赤派だ」
「なるほど」
運ばれてきたワインをグラスの8割まで注ぎ、香りを楽しむことなく飲み干していく。
「美味い」
「それは良かったですね」
「もう一本頼もうかな~」
「ご飯食べに来たんですし、料理が来てからにしたらどうです?」
「そうだな」
いくら普段我慢しているとはいえ、飛ばしすぎだ。
周りのお客さん、服装からして貴族か大商会の幹部以上と思わしき方々が若干ひいているではないか。
レオンさんは名前と顔が広く知れているからか、悪く言う言葉は聞こえてこない。
そもそも服装からして気合いの入ったおしゃれ着で決めている彼らと、普段通りの私達では違いすぎている。
ドレスコードはないのだろうが、もう少しオシャレをしてくるべきだったのだろう。
レオンさんは私の頭髪の色で頭がいっぱいで、私は食事で頭がいっぱいだったのでそんな余裕はなかった訳だが。
だがそこはベテラン冒険者と子どものペアということで大目に見て欲しいところだ。
「もちろん途中でお腹がいっぱいになった際には私が引き取りますのでそちらはご安心ください」
「その心配はしなくても大丈夫だ」
「ええ~」
「俺だって今日の料理を楽しみにしてきたんだ。それに次はいつ食えるか分からないんだ。しっかり楽しんで帰るさ」
「それもそうですね~」
一部例外をのぞき、人目よりも食い気が優先される私達はいつもの通りの会話を繰り広げる。
しばらくすれば周りのお客さんは興味を失ったようだった。
それもそうだろう。
この店へ来た目的の料理が運び込まれ始めたのだから。
私達もおしゃべりは止めて、食事へと意識を移す。
さて、社交界を騒がせる食事とは一体どれほどかお手並み拝見といこうじゃないか。
背筋を正して運ばれる料理を待つ。
運ばれてきた料理は普通のサラダだった。確かに美味しいが、騒ぐほどでもないだろう。この料理に執着する理由があるかと思わず首を傾げてしまう。
周りの人達も静か~に厳か~に食している。
期待しすぎたのかな?
これならいつものホテルのご飯の方がずっと良いわと視線を落とせば、次の料理が運ばれてくる。
「肉じゃがの白滝抜き ~シュタイナー家の味~でございます」
実に前世ぶりの肉じゃがである。
まさか西洋風の外観の店で肉じゃがに出会うことになるとは。
しかも白米付きだ。
白滝を抜いているところが惜しいが、これはまさしくお袋の味セットである。
だがその前に提供されたものも和食に合わせれば良かったのでは? とコース設定に疑問を覚えてしまう。
もしやこの店は枠に捕らわれずに食事を提供するというコンセプトのお店なのだろうか。
貴族様なのに型を破ってくるなんて、よほどのチャレンジャーかつ自分の料理に自信があるのだろう。
それは楽しみだ。
大きめにカットしてある味の染みこんだじゃがいもを小さく解し、ご飯の上にのせて一緒に頬張る。
「これがシュタイナー家のお袋の味なんですね~。美味しいです! でも白滝がないのが残念ですね」
「何を言っているんだ?」
「肉じゃがといったら各家庭の味が出ますよね、って話ですけど?」
「肉じゃがはシュタイナー家のご令嬢が考案したレシピだと聞いたが、ロザリアは以前にも同じようなものを口にしたことがあるのか?」
シュタイナー家の令嬢が考案した?
何を言っているんだろうか?
これはどこからどう見ても日本で有名な『お袋の味』代表『肉じゃが』だ。日本人なら知っていて当然……って待てよ?
日本なら有名だけど、この世界ではどうだろう?
少なくとも私はこの世界に来てから一度たりとも肉じゃがを口にしてはいない。そして冷静になって考えれば、白滝どころかこんにゃくすらもお目にかかってはいない。
「……もしかしてレオンさん、白滝って何か知らなかったりします? あ、糸こんにゃくでもいいんですけど」
「どちらも初耳だ。『白滝抜き』とわざわざ表記をするということは、この食品にはかかせないが気軽に提供出来ない高級品か何かなのだろう」
「そう、ですか……」
この世界にたまたま前世と同じような料理が出来ただけだろうか?
元々肉じゃがなんて名前は材料のお肉とじゃがいもの名前を取って合わせただけの名前だ。特殊なネーミングでも何でも無い。
だが白滝はどうだろうか?
レオンさんが知らない高級品で、シュタイナー家の食卓に並ぶ際には入っているのだろうか?
「どうかしたのか?」
考え込んでいるとレオンさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。だが彼はそれだけでは終わらなかった。
「気に入らないなら俺が食べてやるが?」
「それはないです!」
大きな手をこちらに伸ばして、自分の皿と取り替えようと画策している。
全く油断も隙もあったものではない!
ご飯茶碗を手元に確保しつつ、スプーンで汁と具を移動させる。
うん、やっぱり美味しい。
今日のところは深く考えず、偶然この世界でも和食が食べられたーーそれでいいか。
続くスープもどことなく見覚えのあるものだった。
だが今日の肉じゃがから白滝が抜かれていたのと同じように突っ込みは抜きにして、レオンさんに奪われないよう警戒しながら平らげるのだった。
「いいのか!」
許可を出せば少年のようにキラキラと目を輝かせる。
どれ飲もうかな~とアルコール欄をじっくりと眺める彼を見つめながら、チクリと針を刺すことも忘れない。
「念のため言っておきますけど、悪酔いだけはしないでくださいね。力的に持ち上げることは可能ですが、結構体格差があるので引きずらないといけませんから」
実際は身体が限界を感じる前に止めてくれ、と忠告したいのだが、それよりもこちらの方が効果があるのは分かりきっている。
右手をぶらぶら揺らしながら、引きずるポーズを取ってみせるとレオンさんは渋い顔をする。
「お前に引きずられた姿を目撃されたら、俺はしばらく外を出歩くことが出来なくなる」
「ちなみに仰向けとうつ伏せ、顔の位置は選ばせてあげます」
「適量で止めとく」
「それがいいですよ。体面的にも身体的にも」
「精神的にも、な。すみません、アイスティーと赤ワインボトルで」
「かしこまりました」
適量と言いつつ、レオンさんは初っぱなからボトルを投入する。
「魚料理が来たらどうするんです?」
「問題ない。俺は肉も魚も赤派だ」
「なるほど」
運ばれてきたワインをグラスの8割まで注ぎ、香りを楽しむことなく飲み干していく。
「美味い」
「それは良かったですね」
「もう一本頼もうかな~」
「ご飯食べに来たんですし、料理が来てからにしたらどうです?」
「そうだな」
いくら普段我慢しているとはいえ、飛ばしすぎだ。
周りのお客さん、服装からして貴族か大商会の幹部以上と思わしき方々が若干ひいているではないか。
レオンさんは名前と顔が広く知れているからか、悪く言う言葉は聞こえてこない。
そもそも服装からして気合いの入ったおしゃれ着で決めている彼らと、普段通りの私達では違いすぎている。
ドレスコードはないのだろうが、もう少しオシャレをしてくるべきだったのだろう。
レオンさんは私の頭髪の色で頭がいっぱいで、私は食事で頭がいっぱいだったのでそんな余裕はなかった訳だが。
だがそこはベテラン冒険者と子どものペアということで大目に見て欲しいところだ。
「もちろん途中でお腹がいっぱいになった際には私が引き取りますのでそちらはご安心ください」
「その心配はしなくても大丈夫だ」
「ええ~」
「俺だって今日の料理を楽しみにしてきたんだ。それに次はいつ食えるか分からないんだ。しっかり楽しんで帰るさ」
「それもそうですね~」
一部例外をのぞき、人目よりも食い気が優先される私達はいつもの通りの会話を繰り広げる。
しばらくすれば周りのお客さんは興味を失ったようだった。
それもそうだろう。
この店へ来た目的の料理が運び込まれ始めたのだから。
私達もおしゃべりは止めて、食事へと意識を移す。
さて、社交界を騒がせる食事とは一体どれほどかお手並み拝見といこうじゃないか。
背筋を正して運ばれる料理を待つ。
運ばれてきた料理は普通のサラダだった。確かに美味しいが、騒ぐほどでもないだろう。この料理に執着する理由があるかと思わず首を傾げてしまう。
周りの人達も静か~に厳か~に食している。
期待しすぎたのかな?
これならいつものホテルのご飯の方がずっと良いわと視線を落とせば、次の料理が運ばれてくる。
「肉じゃがの白滝抜き ~シュタイナー家の味~でございます」
実に前世ぶりの肉じゃがである。
まさか西洋風の外観の店で肉じゃがに出会うことになるとは。
しかも白米付きだ。
白滝を抜いているところが惜しいが、これはまさしくお袋の味セットである。
だがその前に提供されたものも和食に合わせれば良かったのでは? とコース設定に疑問を覚えてしまう。
もしやこの店は枠に捕らわれずに食事を提供するというコンセプトのお店なのだろうか。
貴族様なのに型を破ってくるなんて、よほどのチャレンジャーかつ自分の料理に自信があるのだろう。
それは楽しみだ。
大きめにカットしてある味の染みこんだじゃがいもを小さく解し、ご飯の上にのせて一緒に頬張る。
「これがシュタイナー家のお袋の味なんですね~。美味しいです! でも白滝がないのが残念ですね」
「何を言っているんだ?」
「肉じゃがといったら各家庭の味が出ますよね、って話ですけど?」
「肉じゃがはシュタイナー家のご令嬢が考案したレシピだと聞いたが、ロザリアは以前にも同じようなものを口にしたことがあるのか?」
シュタイナー家の令嬢が考案した?
何を言っているんだろうか?
これはどこからどう見ても日本で有名な『お袋の味』代表『肉じゃが』だ。日本人なら知っていて当然……って待てよ?
日本なら有名だけど、この世界ではどうだろう?
少なくとも私はこの世界に来てから一度たりとも肉じゃがを口にしてはいない。そして冷静になって考えれば、白滝どころかこんにゃくすらもお目にかかってはいない。
「……もしかしてレオンさん、白滝って何か知らなかったりします? あ、糸こんにゃくでもいいんですけど」
「どちらも初耳だ。『白滝抜き』とわざわざ表記をするということは、この食品にはかかせないが気軽に提供出来ない高級品か何かなのだろう」
「そう、ですか……」
この世界にたまたま前世と同じような料理が出来ただけだろうか?
元々肉じゃがなんて名前は材料のお肉とじゃがいもの名前を取って合わせただけの名前だ。特殊なネーミングでも何でも無い。
だが白滝はどうだろうか?
レオンさんが知らない高級品で、シュタイナー家の食卓に並ぶ際には入っているのだろうか?
「どうかしたのか?」
考え込んでいるとレオンさんが心配そうに顔を覗き込んでくる。だが彼はそれだけでは終わらなかった。
「気に入らないなら俺が食べてやるが?」
「それはないです!」
大きな手をこちらに伸ばして、自分の皿と取り替えようと画策している。
全く油断も隙もあったものではない!
ご飯茶碗を手元に確保しつつ、スプーンで汁と具を移動させる。
うん、やっぱり美味しい。
今日のところは深く考えず、偶然この世界でも和食が食べられたーーそれでいいか。
続くスープもどことなく見覚えのあるものだった。
だが今日の肉じゃがから白滝が抜かれていたのと同じように突っ込みは抜きにして、レオンさんに奪われないよう警戒しながら平らげるのだった。
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