悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

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20.竜装備親子

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 約束だったドラゴンのドロップ品集めを終え、無事竜装備フルコンプを果たしたレオンさんはご満悦だった。

「ロザリア見ろよ、この手甲! 手甲だけじゃない。装備が全て俺の瞳と同じ色だ!」
「そりゃあ赤いものがドロップするまでひたすら粘りましたからね!?」

 この世界、魔物を倒せばアイテムがドロップするところは非常にゲーム的である。
 そしてドロップ品がランダム排出であるところもゲームと一緒なのだ。

 例えば今回のターゲット、レッドドラゴンを討伐すれば必ず赤いうろこが手に入るかと言えばそんなことはない。ドラゴンは他の魔物よりもドロップ品の種類が多く、牙が10回連続でドロップすることなんてザラだ。

 ただでさえ単身生息をするタイプで、かつ赤いうろこを持つドラゴンを探すとなるとなかなかの労力がかかる。

 倒すのは簡単でも、移動と捜索は自らの足と寄せられる情報を頼るしかない。

 そんな生活を3ヶ月も送っていればさすがの私も疲れた。

「竜装備作ることを夢見て冒険者になったけど、ランクを上げるごとにその難しさが身にしみてわかるようになって、正直無理だろうなって諦めてたんだよな~」
「それって自分の力で集めないと意味なくないですか?」
「俺も関わったから問題ない! 冒険者を引退する前に家に飾るようの場所作らないとな~」

 装備にスリスリと頬を擦りつける姿はさすがにちょっとひいてしまうが、日頃良くしてくれるレオンさんへの恩返しと考えれば悪い気はしない。

「じゃあレオンさんが引退する時に記念で私からマネキン贈りますよ」
「本当か!?」
「まぁいつになったら引退させてもらえるのかなんて分かりませんけどね。急ぎの依頼以外はエドルドさんが止めてくれてますけど、多分相当な数溜まってますよ?」
「そういうこと言うなよ……」
「目を逸らしたいのは私も一緒です! レオンさんが余計なこと言わなければ私はまだA級冒険者だったのに……」


 ドラゴンのドロップ品集めを始める際、上機嫌のレオンさんはエドルドさんに『竜装備』を作るんだ! と話してしまったのだが重要なのはそこではない。

 レオンさんはドラゴン狩りをする私達を心配したエドルドさんに、私の能力の高さもぽろっと話してしまったのだ。

 レオンさんが「ロザリアがいるから問題ない!」なんて真っ直ぐな瞳で告げたせいで、エドルドさんはついにレオンさんの頭がやられてしまったと勘違いした。そして無謀な行いを止めるためにステータスを測定する機械を用意し、私のステータスを測定した。

 まさかそんなことされると思いもしない私は随分前に偽装したっきりのステータスを見られた。

 ――が、そこまではもういい。
 百歩どころか1万歩ほど妥協して、まぁエドルドさん相手だし? レオンさんに知られたところで今更だし? と流すことが出来た。

 問題はその後だ。
 私の能力を間近で見たことがないエドルドさんは『上方修正されている』と勘違いをし、さらに高機能な魔法道具、偽装不可能の測定器具を持ってきた。そして私のステータスを見た。
 救いだったのは転生者だのなんだのと書かれた一部称号が閲覧されなかったことだろう。

 だがそれ以外は全て見られた。
 判定不能のステータスも、大量に取得していたスキルも。

 正直、ああ終わったな……とこの場所からの逃亡を考えた。

 けれど私のステータスに目を見開いたエドルドさんが取った行動といえば、大急ぎでデスクから誓約書とペン、インク板を持ってくることで。

 一番上にはでかでかと『Sランク昇級同意書』と書かれていた。

「このステータスなら今すぐにでもSランク昇格出来ますよ! ロザリアさん、この書類読んで納得したらサインと拇印をお願いしますね! 推薦者は私とレオンの名前を書いておきますのでご安心ください」
「はぁ……」

 職員モードで早口の説明を終えたエドルドさんは、勢いに押されている私から視線をズラすとレオンさんを責め立てる。

「それとレオン、なぜもっと早くこのことを私に報告しなかったんですか! 高ランク冒険者、特にSランクともなれば万年人材不足なのはあなたも知っているでしょう!?」
「言ったところで信じなかっただろう。それに俺もまさかこんなにステータスが高いなんて知らなかったんだ。第一、ロザリアに強い護衛がついていると言ったのはエドルドじゃないか」
「そりゃあ少女がソロで一夜にして複数依頼をこなしたら普通そう思うでしょう……」
「ロザリアは普通じゃないんだ」
「普通ではないのは胃袋だけだと思ってましたよ……」

 どうやらエドルドさんもレオンさんと同じく、私の能力を恐れないタイプの人物のようだ。
 それどころか「何はともあれ、これでまた一人、Sランク冒険者が増えましたね」と頬を緩めて喜んでいた。


「この強さなら問題ありませんね! 昇級祝いとして、しばらくあなたたち二人の特殊クエスト受注は止めておきますので、怪我には気をつけていってらっしゃい」


 そして満面の笑みで見送ってくれたエドルドさんの元を旅立ったーーと。


 つまりなにが言いたいかと言えば、レオンさんだけでなく、私の分のクエストもしっかりと3カ月分溜まってしまっている。

「一緒に片付けようぜ! ほら、ロザリアの分のブーツもあるぞ? レッドドラゴンのブーツなんて履いてるオシャレさんは大陸中を探してもきっとロザリアだけだろうな~」
「その手には乗りませんからね!?」
「いいじゃないかおそろいを自慢しようぜ!」
「また親子って勘違いされるやつじゃないですか……」
「いまさらだろ?」
「そうだけど!」

 あの村に残してきた母や姉よりも、レオンさんとの関係の方が濃いのは明白。
 王都の冒険者さん達どころか国王様にまで親子と勘違いされても嫌な気はしないし、実際もう家族みたいなものだろうと思っている。

 けれどこれは私なりの反抗なのだ。
 年齢的にもちょうど反抗期だし。

 甘えすぎないためのブレーキとも言えるのだが、それがまた親子っぽく見えるのは気づかないふりをすることにしよう。

「ロザリア、オッシャレ~」
 私を最大限持ち上げるレオンさんに文句を吐き付けながら、二人揃ってギルドへと向かう。

 久々のエドルドさんに「相変わらず仲良いですね」と呆れられたのは言うまでもないだろう。


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