悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

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22.親離れとかとっくの昔に済ませてる

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「ロザリアさん、暇なら仕事受けてください。この辺りの依頼とかコスパが悪いって言ってなかなか受けてくれないので、そろそろ特殊依頼に昇格させようか悩んでいるので」
「なら昇格してから仕事持ってきてください」
「だってどうせ暇でしょう?」
「暇じゃないです~。それに今日はレオンさんいませんし、お仕事するなら明日以降にレオンさんと相談してからになります」

 今日も今日とてエドルドさんの受付は開店休業中。他の職員さんは忙しそうに依頼の受注・達成処理に追われる中、エドルドさんだけ暇、ということではない。人が来ないだけで彼は彼の仕事ーー今日は既存依頼の整理ーーを行っている。

 未達成依頼をギルド内に集められた情報と照合しながらランクを上げたり、仕事を分割したりと采配を行うのも立派なギルド職員の仕事だ。エドルドさんが管理している姿しか見たことがないので、彼担当の職務なのかもしれないが。

 朝から真面目に働いているエドルドさんのカウンターの前に陣取って、私が何をしているかと言えば暇つぶし。全くもってエドルドさんの言う通りなのだ。

 けれど今日の私は機嫌が悪い。
 それはもう関係のないエドルドさんに八つ当たりをするためにわざわざホテルから出てきて、仕事を受ける気もないのにカウンターで居座り続ける程度には。

「はぁ……置いて行かれたからってへそ曲げないでください。それにレオンが招集されるのなんて今に始まったことではないでしょう」

 本来なら今日もレオンさんと仕事に出かける予定だったのだ。
 それを昨日の夜遅くにドアを叩かれて起こされたと思えば、急に招集かかったから明日は休みにしてくれ! だなんて。私の形の良いおへそがぐにゃりと曲がってしまっても仕方のないことなのだ。


「今は私もSランク冒険者で、一緒に仕事こなしているのになんでレオンさんだけ呼ばれるんですか!」
「キャリアがまるで違うでしょう。それに彼の場合は事情がありますからね」
「事情って何ですか? 私、何も聞いていないんですけど!?」
「後少しで学園入学する年なんですから、いい加減親離れしたらどうです?」
「レオンさんと私は親子じゃないですし! エドルドさん、知っているでしょう?」

 親離れなんてとっくに済ませている。
 前世なら強制的にトラックで住む世界ごと離れさせられ、今世では逃げ出した。私自身、今世の母には何の愛着もない。つまり私は正真正銘、独り立ちを果たした立派なレディーなのだ。


 それを学園入学前だからって子ども扱いされてもらっては困る。
 今回だって同じパーティーなのに、大事なことを話してくれないことに怒っているのであって、レオンさんの全ての行動を把握していたいなんて思っている訳ではない。

 私はそこら辺の子どもとは違うのだ。
 いつまでも子ども扱いしないで! と頬を膨らませば、エドルドさんは呆れたように深い息を吐き出した。

「別に血の繋がった相手だけが親とは限らないでしょう。実際、あなた達を親子だと呼ぶ方のほとんどがはなから血の繋がりがあるなんて思ってませんよ」
「え……そうだったんですか!?」

 初めて髪を染めた日から、私の髪は定期的に染め直されている。
 ピンクの髪よりもこっちでいる方が何かと便利だろう? とのレオンさんからの提案だった。その言葉に異論はなく、素直に染めてもらっているのだが、髪色を変えてから「親子」と呼ばれることが増えた。少し前までギルドで声をかけられる時は「レオンの旦那と嬢ちゃん」だったのに今では「ブラッカー親子」になってしまっている。

 顔は似ても似つかないというのに、髪を染めただけでこんなに簡単にだまされるなんてちょろすぎないか? なんて思っていたのだが、そうでもなかったらしい。


「レオンを知っている者ならなおさら隠し子なんている訳ないって分かりますからね」
「レオンさんって案外真面目ですよね」
 子どもみたいな面も多いですけど、と付け加えればエドルドさんはそこも彼の魅力ですよと笑った。

「そうでなければ、あなたをパーティーにと言い出した時にこちらで断っていますよ」
「……エドルドさんもレオンさんと同じくらい真面目ですよね」

 話をろくに聞かない冒険者なんて放っておけば良いだけだ。わざわざ面倒を見てやる義理もないだろう。

 それに今だって仕事の邪魔ならさっさと追い返せばいいのに、なんだかんだで半刻近くも私の居座りを許してくれる辺り、かなりのお人好しでもある。

「自分のせいで新人冒険者が食い物にされたら後味悪いでしょう。まぁそれも今となっては余計な心配だった訳ですが……。ということで、一日で複数依頼を片付けられるロザリアさん、これらの依頼お願いします」
「さらっと押しつけられた!」

 ぐぇっと声を上げて顔をしかめればエドルドさんはふっと鼻で笑う。
 元々八つ当たりしたお詫びとしていくつか受けるつもりだったから、これはあくまでオーバーなリアクションでしかない。それを決して短い付き合いではないエドルドさんは見破ったのだろう。

 受け取った依頼に目を通せば、パッと見簡単そうな依頼ばかり。
 ご親切にも周辺の地図や出現する魔物、相手が使う武器などが明記されているが、ここまでしても仕事が達成されなかったということはやはり少し面倒な依頼なのだろう。

 エドルドさんなりの『ロザリアの暇つぶしセット』といったところか。
 移動距離が短く、移動に馬を必要しないものを避けてくれているのは彼なりの優しさだ。
 どうせ暇だし、一稼ぎしますかね……と腰を上げれば、背中にエドルドさんの声がかかる。

「今回は昇格可能性ありということで、特別に私個人から報酬を上乗せしましょう」
「上乗せ、ですか?」

 なんだろう?
 お金ってことはないだろう。
 それなら昇格させてしまってから渡せばいいだけだ。面倒な処理を挟む必要がなくなるとはいえ、エドルドさんならさほど時間はかからないだろう。
 それに私だってエドルドさんのポケットマネーとかいらない。お金が欲しければ仕事で働けばいいだけで、わざわざ彼からもらう理由がない。

 だがお金以外のものをくれるというのなら断る理由もない。
 何をくれるんですか? と目を輝かせながら振り向けば、エドルドさんはフッと笑っておもむろに机の下からあるものを取り出した。


「こ、これは……」
「あなたも知っての通りシュタイナー家が新たに開いたクレープ店です」
「ア、アイスクレープまであるなんてさすがはシュタイナー家、やることがビックすぎる……。……ちなみに注文上限は?」
「どうせ全種類食べるのでしょう? 一つずつなら出しますが、周回するようでしたら自分で払ってください」
「エドルドさん、太っ腹!」
「褒めてもこれ以上出しませんよ。閉店時間はチラシに記載の通り、19時となっております。帰ってくる時間だけ気をつけてください」
「この距離なら余裕ですね! じゃあ早速行ってきます」

 ギルドを飛び出し、馬車へ乗り込んだ私はチラシを見ながら何から食べようかとよだれを垂らすのだった。

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