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24.ポジションは時間とともに変化する
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メニューを制覇しつつある頃、ようやくレオンさんは用事を済ませたようだった。
ギルドの職員さんに聞いたのか、こちらへと真っ直ぐ走ってきて、私達の座る席へと腰を下ろした。カップルや家族連れ達が会話を弾ませる中、私達は無言で食べ続けている。
そこに参入したレオンさんももちろん無言。だが視線は非常にうるさい。
いいな~俺も食べたいな~と言う声がどこからともなく聞こえてきてしまうほどに。
それに耐えかねたらしいエドルドさんはナプキンで口をぬぐってから切り出した。
「どうですか?」
「ものすごく美味しいです」
「それは良かったです。ところでロザリアさん」
「なんでしょう?」
「先ほどからレオンがあなたのクレープ狙ってますけど」
「ディフェンスは完璧です! 問題ありません」
気づいていないはずがないことくらい、エドルドさんも承知だろう。
だがそれでも切り出したのはおそらく周りからの視線が痛かったから。
これくらい私は慣れっこなのだが、私の同席者は十分と経たずに音をあげてしまった。
すると話出してもいいと勘違いしたレオンさんは私の前で身体を揺らしながらくれくれアピールを開始する。
「なぁ同じの明日買ってやるからさ~俺にも一つくれよ~」
「今からでも並んでくればいいじゃないですか」
「ラストオーダー終了って看板にかかれてた」
この位置からはその看板は見えない。
まだまだお客さんは並んでいるが、レオンさんがわざわざ嘘を吐く理由などない。こちらに真っ直ぐ向かっているように見えて、看板を見ていたのだろう。
「それはご愁傷様です」
「一つくらい分けてくれよ~」
「これ全部私のなんで」
「うう~エドルド……」
「これは私の分です」
「デートの邪魔したのは悪かったけどさ、二人揃って冷たくないか?」
「平常通りですけど?」
エドルドさんは冷たく吐き付ける。
『デート』のところを否定しなかったのは、わざわざする必要もないと思っての事だろう。
だって私とエドルドさんなんて……あれ、どんな関係だろう?
少なくともデートをするような関係ではないが、レオンさんとパーティーを組んでからめっきりとお茶をする機会は減ってしまった。
だからといってギルド職員と冒険者と割り切るにはいささか距離が近すぎる。もしエドルドさん以外の職員さんに正規以外の追加報酬を提示されていたら、そんな義理はないと断っていただろう。
今、私がこの場所で大量のクレープを食しているのは、あくまでエドルドさんの追加報酬だったから。だがお茶のみ仲間時代の私なら、確実にエドルドさんと2人で店に行くことを拒んでいただろう。あの頃の私はエドルドさんにある程度心を許していたが、『ギルドの1番カウンター』だけの関係で完結していた。
少しだけエドルドさんの立ち位置が変わってきているような?
プチお茶会はなくなったけれど、その間に培った仲が消えた訳ではない。レオンさんが仲間に加わったことで、若干打ち解けたエドルドさんを目にする機会が増えた。けれどそれだけではない。一番大きいな変化はきっと、彼は私を怖がらないと分かっているから、か……。
私の能力を知っても受け入れてくれることの嬉しさを自覚はしていたものの、自分が思っていたよりも重要視していたようだ。
受け入れてくれると分かっただけで、心にあった城壁のような分厚い壁は一気に取り払われている。
冷静になって、私の中のエドルドさんの立ち位置を考えてみると、彼は『知り合いのお兄さんポジション』から昇格して『親戚のお兄さんポジション』の一歩手前になりつつある。レオンさんと親子だと思われることが多すぎて、私も信頼できるエドルドさんを脳内で勝手に親戚認定していたらしい。
私もあんまり人のこと言えないな……。
私の中で親戚ポジションに任命されていることなど知らぬエドルドさんは、新たなクレープへと手を伸ばす。好きなものは最後まで取っておくタイプなのか、口をつける直前、エドルドさんの口元が少しだけ緩む。
これは譲れという方が酷だろう。
案外報酬だなんだと言いつつも、単純にエドルドさんがクレープが食べたかったのかもしれない。前世でも男性の一人客をあまり見る機会はなかったが、この店でもその姿を目にしていない。
私はカモフラージュ要員だったって訳だ。
エドルドさんもエドルドさんで、私をそこそこの間柄に任命してくれているのかもしれない。ただオヤツで釣ればついてくると思われているだけかもしれないが。
それにしても高いコストかけたな~。
普通に誘ってくれれば自費で来たのに。
奢ってくれるというのだから時が戻ったところで出すつもりはないが。
私も新たなクレープに手を伸ばしつつ、いつもよりも子どもっぽいレオンさんを一瞥する。
「明日になるのを待てばいいでしょう」
「明日も招集なんだって」
明日も!?
今までは数日間に渡る招集は事前に通達されていた。
なのにいきなり延びるなんて……。ということは明日も私一人で仕事しなきゃいけないのか……。
収入が減る訳でもないけれど、後出しをされると気持ちにもやがかかってしまう。
「……というか明日も招集ならなんでさっき明日買ってやるとか言ったんですか?」
「お金渡そうと……」
「並ぶコストを考えてから出直してください」
「それは上乗せはしようと! ってああ……最後の一個が!」
最後の一個に手を伸ばすと、レオンさんの目にはうっすらと涙が溜まっていく。
これはよほど堪えているようだ。
招集内容は分からないが、明日の招集も乗り気ではないようだ。
それにこの様子だと明日もラストオーダーの時間までにここに辿り着く自信がないのだろう。
はぁ……っとわざとらしくため息を吐き、レオンさんの手元に残り一つのクレープを置く。
「可哀想なので一個あげますよ」
「いいのか!?」
「ラス1ですし、私が周回用に選んだメニューなんで高くつきますけどね」
「ロザリア!」
目を輝かせてクレープを頬張るレオンさんは「うまっ」と声を上げてから、無言でバクバクと食べ進めていった。
「また、来よう」
「その時はレオンさんの奢りで、ですね」
「いいですね」
「ロザリアはともかく、エドルドもか?」
「なに勝手に一人だけ除外しようとしているんですか?」
「……俺の財布が痛まない程度に抑えてくれよ?」
「その財布が空になったら良い仕事回すので安心してください」
「全く安心できないんだが!?」
クレープを食したことで、レオンさんの気分も少し上がったらしい。
さすがはデザートである。
今度来る時はエドルドさんと二人でレオンさんを困らせることにしよう。
その時のレオンさんはきっといつも通り、困った顔をしつつも笑みを浮かべていることだろう。
だから私は脳内で周回予定メニューに赤丸を付けていくのだった。
ギルドの職員さんに聞いたのか、こちらへと真っ直ぐ走ってきて、私達の座る席へと腰を下ろした。カップルや家族連れ達が会話を弾ませる中、私達は無言で食べ続けている。
そこに参入したレオンさんももちろん無言。だが視線は非常にうるさい。
いいな~俺も食べたいな~と言う声がどこからともなく聞こえてきてしまうほどに。
それに耐えかねたらしいエドルドさんはナプキンで口をぬぐってから切り出した。
「どうですか?」
「ものすごく美味しいです」
「それは良かったです。ところでロザリアさん」
「なんでしょう?」
「先ほどからレオンがあなたのクレープ狙ってますけど」
「ディフェンスは完璧です! 問題ありません」
気づいていないはずがないことくらい、エドルドさんも承知だろう。
だがそれでも切り出したのはおそらく周りからの視線が痛かったから。
これくらい私は慣れっこなのだが、私の同席者は十分と経たずに音をあげてしまった。
すると話出してもいいと勘違いしたレオンさんは私の前で身体を揺らしながらくれくれアピールを開始する。
「なぁ同じの明日買ってやるからさ~俺にも一つくれよ~」
「今からでも並んでくればいいじゃないですか」
「ラストオーダー終了って看板にかかれてた」
この位置からはその看板は見えない。
まだまだお客さんは並んでいるが、レオンさんがわざわざ嘘を吐く理由などない。こちらに真っ直ぐ向かっているように見えて、看板を見ていたのだろう。
「それはご愁傷様です」
「一つくらい分けてくれよ~」
「これ全部私のなんで」
「うう~エドルド……」
「これは私の分です」
「デートの邪魔したのは悪かったけどさ、二人揃って冷たくないか?」
「平常通りですけど?」
エドルドさんは冷たく吐き付ける。
『デート』のところを否定しなかったのは、わざわざする必要もないと思っての事だろう。
だって私とエドルドさんなんて……あれ、どんな関係だろう?
少なくともデートをするような関係ではないが、レオンさんとパーティーを組んでからめっきりとお茶をする機会は減ってしまった。
だからといってギルド職員と冒険者と割り切るにはいささか距離が近すぎる。もしエドルドさん以外の職員さんに正規以外の追加報酬を提示されていたら、そんな義理はないと断っていただろう。
今、私がこの場所で大量のクレープを食しているのは、あくまでエドルドさんの追加報酬だったから。だがお茶のみ仲間時代の私なら、確実にエドルドさんと2人で店に行くことを拒んでいただろう。あの頃の私はエドルドさんにある程度心を許していたが、『ギルドの1番カウンター』だけの関係で完結していた。
少しだけエドルドさんの立ち位置が変わってきているような?
プチお茶会はなくなったけれど、その間に培った仲が消えた訳ではない。レオンさんが仲間に加わったことで、若干打ち解けたエドルドさんを目にする機会が増えた。けれどそれだけではない。一番大きいな変化はきっと、彼は私を怖がらないと分かっているから、か……。
私の能力を知っても受け入れてくれることの嬉しさを自覚はしていたものの、自分が思っていたよりも重要視していたようだ。
受け入れてくれると分かっただけで、心にあった城壁のような分厚い壁は一気に取り払われている。
冷静になって、私の中のエドルドさんの立ち位置を考えてみると、彼は『知り合いのお兄さんポジション』から昇格して『親戚のお兄さんポジション』の一歩手前になりつつある。レオンさんと親子だと思われることが多すぎて、私も信頼できるエドルドさんを脳内で勝手に親戚認定していたらしい。
私もあんまり人のこと言えないな……。
私の中で親戚ポジションに任命されていることなど知らぬエドルドさんは、新たなクレープへと手を伸ばす。好きなものは最後まで取っておくタイプなのか、口をつける直前、エドルドさんの口元が少しだけ緩む。
これは譲れという方が酷だろう。
案外報酬だなんだと言いつつも、単純にエドルドさんがクレープが食べたかったのかもしれない。前世でも男性の一人客をあまり見る機会はなかったが、この店でもその姿を目にしていない。
私はカモフラージュ要員だったって訳だ。
エドルドさんもエドルドさんで、私をそこそこの間柄に任命してくれているのかもしれない。ただオヤツで釣ればついてくると思われているだけかもしれないが。
それにしても高いコストかけたな~。
普通に誘ってくれれば自費で来たのに。
奢ってくれるというのだから時が戻ったところで出すつもりはないが。
私も新たなクレープに手を伸ばしつつ、いつもよりも子どもっぽいレオンさんを一瞥する。
「明日になるのを待てばいいでしょう」
「明日も招集なんだって」
明日も!?
今までは数日間に渡る招集は事前に通達されていた。
なのにいきなり延びるなんて……。ということは明日も私一人で仕事しなきゃいけないのか……。
収入が減る訳でもないけれど、後出しをされると気持ちにもやがかかってしまう。
「……というか明日も招集ならなんでさっき明日買ってやるとか言ったんですか?」
「お金渡そうと……」
「並ぶコストを考えてから出直してください」
「それは上乗せはしようと! ってああ……最後の一個が!」
最後の一個に手を伸ばすと、レオンさんの目にはうっすらと涙が溜まっていく。
これはよほど堪えているようだ。
招集内容は分からないが、明日の招集も乗り気ではないようだ。
それにこの様子だと明日もラストオーダーの時間までにここに辿り着く自信がないのだろう。
はぁ……っとわざとらしくため息を吐き、レオンさんの手元に残り一つのクレープを置く。
「可哀想なので一個あげますよ」
「いいのか!?」
「ラス1ですし、私が周回用に選んだメニューなんで高くつきますけどね」
「ロザリア!」
目を輝かせてクレープを頬張るレオンさんは「うまっ」と声を上げてから、無言でバクバクと食べ進めていった。
「また、来よう」
「その時はレオンさんの奢りで、ですね」
「いいですね」
「ロザリアはともかく、エドルドもか?」
「なに勝手に一人だけ除外しようとしているんですか?」
「……俺の財布が痛まない程度に抑えてくれよ?」
「その財布が空になったら良い仕事回すので安心してください」
「全く安心できないんだが!?」
クレープを食したことで、レオンさんの気分も少し上がったらしい。
さすがはデザートである。
今度来る時はエドルドさんと二人でレオンさんを困らせることにしよう。
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だから私は脳内で周回予定メニューに赤丸を付けていくのだった。
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