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26.花も恥じらう乙女ですので
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レオンさんに気づかれないように小さく息を吐けば、彼もそれにかぶせるような大きなため息を吐く。
「それでメリンダと俺は王都近郊で二人暮らしするつもりだったんだが……」
「レオニダさんが寝込んだ、と」
「ああ」
「それで私が一人暮らしすることとエドルドさんのパーティー参加に何の関係が?」
「ああ、そうそう。ロザリアには来月からレオンの養子、メリンダとしてエドルドの家に下宿してもらうことになった」
「は? どういうことですか!? 説明してください!」
なにそれ!?
そこが一番重要じゃない!?
正直、エドルドさんがパーティーに加入する云々より先に伝えるべきでしょう!
椅子の上に乗って、レオンさんの襟首に手を伸ばしてから前後に大きく振る。
「こちとら花も恥じらう15歳の乙女なんですけど!? 知った相手とはいえ、同じ屋根の下に住まわせることを勝手に許可するとか一体どういう神経しているんですか!」
「はっはなっして……首、首が絞まる……」
私の小さな手を包みながら必死で訴えるレオンさんの襟首から一度手を引く。
けれど椅子の上から降りることはない。視線をレオンさんと同じよりも低めに保ったまま、ちゃんと説明しなさいと気持ち上から圧をかける。
もちろん手をポキポキと鳴らして威嚇することも忘れない。
返答によっては前後に振るだけで済ませるつもりはないとの意思表示だ。私の怒りが伝わったのか、レオンさんはヒッと声を漏らしてビクビクと震える。
けれどそれで許すつもりはない。
「だ、だって一人暮らしじゃ何かあった時に対処出来ないし、それにSランク冒険者ロザリアとしての仕事はどうしたって避けられないじゃないか」
「何が言いたいんですか?」
「拠点ギルドを他に移さない限り、ロザリアの特殊クエストの処理はこの王都で行われる。だが拠点を移せば現在地がバレる。それに居場所の特定されにくさで言えば、広範囲のクエストを受け入れている王都が一番だ。だからといって定期的にロザリアが王都に帰ってくると知られれば、ギルド自体を張られてしまう。ギルド職員だっていつ貴族側に買収されるか分からないし、そもそもロザリアの情報だってどこから流れたか分からない。だから信用出来る相手で周りを固める必要がある。ここまではいいか?」
「そこで出てくる信頼出来る相手というのがエドルドさんですか」
「ああ。あいつなら信用していいし、俺もロザリアを預けられる」
預けられるって……。
本当にレオンさんの中での私は実の娘と同じ扱いなのだろう。
だからここまで心配してくれている、と。
これは乙女を若い男の家に住まわせるな! と文句言っている場合ではなかったのかもしれない。
少し冷静になって、椅子から降りて靴を履けばレオンさんはほっと胸をなで下ろした。
「仕事はエドルドを経由して持ってきてもらうことにする。元々ロザリアのSランククエストを処理していたのはエドルドだし、今まで通りとまではいかずとも、比較的制限が少ない状態で仕事を受けることが出来るだろう。もちろん俺が旅立つまでの間、新人冒険者メリンダのランク上げをするし、定期的にメリンダとして仕事を受けてもらうことにもなるが……」
「それ、めっちゃ忙しいやつじゃないですか……」
「どうせロザリアなら時間もかからないだろう?」
「そうですけど……」
Sランククエストの方も大抵がワンパンで済むし、新人冒険者としての仕事に限って言えば他のクエストの途中にいくつかこなしていけばいいだけのこと。
学生ならばそんなに飛ばして仕事を受けることもないだろうし、少しずつのんびりとこなしていけばいいだろう。
収入は少し減りそうだけど、貯金ならたくさんある。
それこそ豪遊なんてせず、普通に生活する分にはこれから仕事を受けずとも一生暮らせる程度には貯まっている。
なんなら今から王都近郊の一軒家を購入することも可能だ。
もちろんそんなことをすればレオンさんが騒ぎ出すのは確実なのでしないが。
「ああ、それと」
「まだ何かあるんですか?」
「ロザリアって短時間でもいいから増殖出来たりするか?」
「人をなんだと思ってるんですか!!」
「何でも出来る自慢の娘」
「……もう突っ込みませんからね」
この人、私のことをスライムか何かだと勘違いしているのだろうか。
ドラゴン討伐辺りからいろいろと能力を見せたせいもあるのだろう。
だが今のところ、ポイント交換可能スキル・魔法には『増殖』なるものはない。
似たようなものとして『影分身』や『身代わり』が思い浮かぶが、どちらも未発見である。今後追加される可能性を否定することは出来ないが、少なくとも今の私が増殖することは出来ない。
だが他のスキルを合わせて似たような現象を起こすことなら出来る。
「増殖は無理でも、実物と似せた人形を操ることは可能です。簡単な動きや会話くらいなら対応出来ますが、一体何をするつもりですか?」
「『メリンダ』になる際にはイメージを変えてもらうことにはなるが、それでも同一人物であることには変わりない。そこで『ロザリアとメリンダが別人である』と証言出来る人間を俺とエドルド以外にも用意しておこうと思って」
「なるほど。戦闘まではさすがに無理ですが、クエストの受注や達成報告の際に同行させることくらいは可能です」
「十分だ」
「それで『メリンダ』のお披露目会はいつにします?」
「入学まで時間もないし、早いほうがいいな」
「なら今から錬金術でちゃちゃっと人形作っちゃいますね」
使うのはレオンさんも馴染みが深い、大変便利な生産魔法『錬金術』と、最近取得したばかりの『人形術』だ。
『人形術』はポイントも結構余っているし、この機会に新たなスキルや魔法を開拓しようと取得したものの一つである。直近での使用は見当たらなかったが、説明によればレベルが上がるごとに大きなものを操れるようになるのだとか。
これから大きな個体を移動させる際に活躍の場が来ればいいか、くらいに考えていた。
いざと言う時に使えないと困るからと、いつも通りにレベルを最大値まで引き上げた後に適当に作った人形を操っていた。
音声をいくつか入力しておけば簡単な会話なら成立させることも可能だ。その時に発声されるのは入力者の声、つまり私のものなのだが、人形の声帯部分を調整させることで少しなら音を変えることが可能だ。
夜は暇だから~と結構凝って作っていたのだが、まさかこんなに早く活躍の場があるとは思わなかった。
「それでメリンダと俺は王都近郊で二人暮らしするつもりだったんだが……」
「レオニダさんが寝込んだ、と」
「ああ」
「それで私が一人暮らしすることとエドルドさんのパーティー参加に何の関係が?」
「ああ、そうそう。ロザリアには来月からレオンの養子、メリンダとしてエドルドの家に下宿してもらうことになった」
「は? どういうことですか!? 説明してください!」
なにそれ!?
そこが一番重要じゃない!?
正直、エドルドさんがパーティーに加入する云々より先に伝えるべきでしょう!
椅子の上に乗って、レオンさんの襟首に手を伸ばしてから前後に大きく振る。
「こちとら花も恥じらう15歳の乙女なんですけど!? 知った相手とはいえ、同じ屋根の下に住まわせることを勝手に許可するとか一体どういう神経しているんですか!」
「はっはなっして……首、首が絞まる……」
私の小さな手を包みながら必死で訴えるレオンさんの襟首から一度手を引く。
けれど椅子の上から降りることはない。視線をレオンさんと同じよりも低めに保ったまま、ちゃんと説明しなさいと気持ち上から圧をかける。
もちろん手をポキポキと鳴らして威嚇することも忘れない。
返答によっては前後に振るだけで済ませるつもりはないとの意思表示だ。私の怒りが伝わったのか、レオンさんはヒッと声を漏らしてビクビクと震える。
けれどそれで許すつもりはない。
「だ、だって一人暮らしじゃ何かあった時に対処出来ないし、それにSランク冒険者ロザリアとしての仕事はどうしたって避けられないじゃないか」
「何が言いたいんですか?」
「拠点ギルドを他に移さない限り、ロザリアの特殊クエストの処理はこの王都で行われる。だが拠点を移せば現在地がバレる。それに居場所の特定されにくさで言えば、広範囲のクエストを受け入れている王都が一番だ。だからといって定期的にロザリアが王都に帰ってくると知られれば、ギルド自体を張られてしまう。ギルド職員だっていつ貴族側に買収されるか分からないし、そもそもロザリアの情報だってどこから流れたか分からない。だから信用出来る相手で周りを固める必要がある。ここまではいいか?」
「そこで出てくる信頼出来る相手というのがエドルドさんですか」
「ああ。あいつなら信用していいし、俺もロザリアを預けられる」
預けられるって……。
本当にレオンさんの中での私は実の娘と同じ扱いなのだろう。
だからここまで心配してくれている、と。
これは乙女を若い男の家に住まわせるな! と文句言っている場合ではなかったのかもしれない。
少し冷静になって、椅子から降りて靴を履けばレオンさんはほっと胸をなで下ろした。
「仕事はエドルドを経由して持ってきてもらうことにする。元々ロザリアのSランククエストを処理していたのはエドルドだし、今まで通りとまではいかずとも、比較的制限が少ない状態で仕事を受けることが出来るだろう。もちろん俺が旅立つまでの間、新人冒険者メリンダのランク上げをするし、定期的にメリンダとして仕事を受けてもらうことにもなるが……」
「それ、めっちゃ忙しいやつじゃないですか……」
「どうせロザリアなら時間もかからないだろう?」
「そうですけど……」
Sランククエストの方も大抵がワンパンで済むし、新人冒険者としての仕事に限って言えば他のクエストの途中にいくつかこなしていけばいいだけのこと。
学生ならばそんなに飛ばして仕事を受けることもないだろうし、少しずつのんびりとこなしていけばいいだろう。
収入は少し減りそうだけど、貯金ならたくさんある。
それこそ豪遊なんてせず、普通に生活する分にはこれから仕事を受けずとも一生暮らせる程度には貯まっている。
なんなら今から王都近郊の一軒家を購入することも可能だ。
もちろんそんなことをすればレオンさんが騒ぎ出すのは確実なのでしないが。
「ああ、それと」
「まだ何かあるんですか?」
「ロザリアって短時間でもいいから増殖出来たりするか?」
「人をなんだと思ってるんですか!!」
「何でも出来る自慢の娘」
「……もう突っ込みませんからね」
この人、私のことをスライムか何かだと勘違いしているのだろうか。
ドラゴン討伐辺りからいろいろと能力を見せたせいもあるのだろう。
だが今のところ、ポイント交換可能スキル・魔法には『増殖』なるものはない。
似たようなものとして『影分身』や『身代わり』が思い浮かぶが、どちらも未発見である。今後追加される可能性を否定することは出来ないが、少なくとも今の私が増殖することは出来ない。
だが他のスキルを合わせて似たような現象を起こすことなら出来る。
「増殖は無理でも、実物と似せた人形を操ることは可能です。簡単な動きや会話くらいなら対応出来ますが、一体何をするつもりですか?」
「『メリンダ』になる際にはイメージを変えてもらうことにはなるが、それでも同一人物であることには変わりない。そこで『ロザリアとメリンダが別人である』と証言出来る人間を俺とエドルド以外にも用意しておこうと思って」
「なるほど。戦闘まではさすがに無理ですが、クエストの受注や達成報告の際に同行させることくらいは可能です」
「十分だ」
「それで『メリンダ』のお披露目会はいつにします?」
「入学まで時間もないし、早いほうがいいな」
「なら今から錬金術でちゃちゃっと人形作っちゃいますね」
使うのはレオンさんも馴染みが深い、大変便利な生産魔法『錬金術』と、最近取得したばかりの『人形術』だ。
『人形術』はポイントも結構余っているし、この機会に新たなスキルや魔法を開拓しようと取得したものの一つである。直近での使用は見当たらなかったが、説明によればレベルが上がるごとに大きなものを操れるようになるのだとか。
これから大きな個体を移動させる際に活躍の場が来ればいいか、くらいに考えていた。
いざと言う時に使えないと困るからと、いつも通りにレベルを最大値まで引き上げた後に適当に作った人形を操っていた。
音声をいくつか入力しておけば簡単な会話なら成立させることも可能だ。その時に発声されるのは入力者の声、つまり私のものなのだが、人形の声帯部分を調整させることで少しなら音を変えることが可能だ。
夜は暇だから~と結構凝って作っていたのだが、まさかこんなに早く活躍の場があるとは思わなかった。
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