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32.チートって意外と万能じゃないのかも
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「分からないことがあったら何でも聞いてください。とはいえ冒険者業の方はレオンから説明は受けているのでしょう。なので私は一般生活と学生生活の方をサポートしましょう。もちろん冒険者業で分からないことがあれば遠慮なく聞いて頂いて構いません」
「ありがとうございます」
「ではこちらの馬車に乗ってください」
「え? 馬車、ですか?」
つい十分ほど前に降りたばかりだというのに、また馬車に乗ることになるとは……。
「はい。私の屋敷までは少し距離がありますので」
ギルドの裏手に出ればそこには馬車が用意されていた。
しかもお貴族様が乗るようなボックス式の馬車だ。装飾は華美ではないが、貸し馬車よりもしっかりとしているように見える。シンプルだけど高そうな馬車って感じだ。
ギルド職員さんって意外とお給料が高いのかもしれない。
将来冒険者が出来なくなった時に雇ってくれないかな~なんて考えながら腰を降ろせば、ソファも柔らかい。これなら長時間座っていてもお尻が痛くはならないだろう。
そんなことを考えているとゆっくりと馬車が走り出す。
「ところでエドルドさんってお屋敷に住んでいるんですか? 家ではなく?」
馬車に気を取られて後回しになっていたが、先ほどの言葉について尋ねてみる。
「住居という意味では家も屋敷もさほど変わらないでしょう」
「大きさがまるで違いますけど!? 元々散財しそうなイメージはありませんでしたけど、一体どれだけ冒険者時代にため込んでいたんですか……」
「ああ、あなたには言っていませんでしたね」
「なんです?」
「私、貴族なんですよ」
「は?」
ちょっと待って。
ここしばらくで新情報をぶっ込みすぎじゃない!?
事実でもいいから、そういうのはもっと小出しにして!
……もしかして新たな魔法を見る度にレオンさんも今の私と同じ気持ちになっていたのかもしれない。
レオンさんのことだから小さな嫌がらせって訳じゃなさそうだけど、私の脳内処理能力では一気に処理出来そうにない。
「一応公爵家の長男なのでそこそこ良い家に住んでいます」
しかも長男って……。
続けられた衝撃的事実に思わず頭を抱えてしまう。
確かにこんな重要事項を打ち明けるような仲ではなかったが、ならその秘密をこれからも隠しておいて欲しかった。
「なんでお貴族様がギルドの職員しているんですか……。次男とか三男ならともかく、長男なら家を継ぐのが普通でしょう?」
「その権利を放棄しているので。家は腹違いの弟が継ぐので何の問題もありません」
「弟さんが……」
「義弟も今年学園入学なので顔を合わせるかもしれませんね。私は父親似で、義弟は母親似なのでまるで似ていませんが」
しかも腹違い。
情報過多すぎて、そろそろ本当に処理落ちしそうなんだけど……。
「ならご挨拶しないと」
「いえ、逃げてください」
「え?」
「おそらく入学後、しばらくしてから弟がメリンダさんを探し回ると思いますので。面倒事に巻き込まれたくなかったら逃げるのが一番です」
「面倒事、ですか? それってエドルドさんからどうにかしてもらうことって……」
「私が介入すると余計厄介なことになりますよ」
「一体何が……」
「時が来れば嫌でも分かります」
「分かりたくないんですが……」
面倒事に関わりたくなくて、ロザリアからメリンダになったというのに、ここで新たな厄介事に関わる可能性が出てくるとは。
レオンさんと暮らすのは無理でも、あの家で一人暮らししていた方が安心なんじゃ……って気がしてきた。
現実から目を背けられない代わりに窓へと視線を向ける。けれどしっかりとカーテンが取り付けられた馬車では気軽に外を眺めることも叶わない。逃げるなとの暗示だろうか。
これから先、不安しかないんだけど!
チート能力を手にしたのに、チートでどうにか出来ないことが多すぎるのはなぜなのだろう。
『チート=万能』の方程式を脳内辞書から削除した方がいいのかもしれない。
私の頭じゃこの式の証明も出来ないし。一行目の『○○を△△と置く』の部分から分からない。多分、証明文の解答を見ても分からないと思う。回答欄に答えをそのまま赤ペンで書き写して終わりなパターン。
うん、やっぱり削除しておこう。
脳内辞書から根拠のない式を消しつつ、同時に近い未来に訪れるだろう面倒事がチートでどうにかなりますようにと願う。
私が手を組んで祈りを捧げているのを横目で見ながら、はぁっとため息を吐くエドルドさん。呆れていらっしゃるところ申し訳ないが、この行動の半分はエドルドさんが関わっている。
「あの、その目止めてもらえますか?」
「いつも通りですよ。ああ、そろそろ着きますよ」
いくら他の人の視線がないとはいえ、扱いが雑すぎる……。
メリンダの時はもう少しマシだった気がするんだけど、エドルドさんの中の『ロザリア』って一体どうなっているんだろうか。
「ありがとうございます」
「ではこちらの馬車に乗ってください」
「え? 馬車、ですか?」
つい十分ほど前に降りたばかりだというのに、また馬車に乗ることになるとは……。
「はい。私の屋敷までは少し距離がありますので」
ギルドの裏手に出ればそこには馬車が用意されていた。
しかもお貴族様が乗るようなボックス式の馬車だ。装飾は華美ではないが、貸し馬車よりもしっかりとしているように見える。シンプルだけど高そうな馬車って感じだ。
ギルド職員さんって意外とお給料が高いのかもしれない。
将来冒険者が出来なくなった時に雇ってくれないかな~なんて考えながら腰を降ろせば、ソファも柔らかい。これなら長時間座っていてもお尻が痛くはならないだろう。
そんなことを考えているとゆっくりと馬車が走り出す。
「ところでエドルドさんってお屋敷に住んでいるんですか? 家ではなく?」
馬車に気を取られて後回しになっていたが、先ほどの言葉について尋ねてみる。
「住居という意味では家も屋敷もさほど変わらないでしょう」
「大きさがまるで違いますけど!? 元々散財しそうなイメージはありませんでしたけど、一体どれだけ冒険者時代にため込んでいたんですか……」
「ああ、あなたには言っていませんでしたね」
「なんです?」
「私、貴族なんですよ」
「は?」
ちょっと待って。
ここしばらくで新情報をぶっ込みすぎじゃない!?
事実でもいいから、そういうのはもっと小出しにして!
……もしかして新たな魔法を見る度にレオンさんも今の私と同じ気持ちになっていたのかもしれない。
レオンさんのことだから小さな嫌がらせって訳じゃなさそうだけど、私の脳内処理能力では一気に処理出来そうにない。
「一応公爵家の長男なのでそこそこ良い家に住んでいます」
しかも長男って……。
続けられた衝撃的事実に思わず頭を抱えてしまう。
確かにこんな重要事項を打ち明けるような仲ではなかったが、ならその秘密をこれからも隠しておいて欲しかった。
「なんでお貴族様がギルドの職員しているんですか……。次男とか三男ならともかく、長男なら家を継ぐのが普通でしょう?」
「その権利を放棄しているので。家は腹違いの弟が継ぐので何の問題もありません」
「弟さんが……」
「義弟も今年学園入学なので顔を合わせるかもしれませんね。私は父親似で、義弟は母親似なのでまるで似ていませんが」
しかも腹違い。
情報過多すぎて、そろそろ本当に処理落ちしそうなんだけど……。
「ならご挨拶しないと」
「いえ、逃げてください」
「え?」
「おそらく入学後、しばらくしてから弟がメリンダさんを探し回ると思いますので。面倒事に巻き込まれたくなかったら逃げるのが一番です」
「面倒事、ですか? それってエドルドさんからどうにかしてもらうことって……」
「私が介入すると余計厄介なことになりますよ」
「一体何が……」
「時が来れば嫌でも分かります」
「分かりたくないんですが……」
面倒事に関わりたくなくて、ロザリアからメリンダになったというのに、ここで新たな厄介事に関わる可能性が出てくるとは。
レオンさんと暮らすのは無理でも、あの家で一人暮らししていた方が安心なんじゃ……って気がしてきた。
現実から目を背けられない代わりに窓へと視線を向ける。けれどしっかりとカーテンが取り付けられた馬車では気軽に外を眺めることも叶わない。逃げるなとの暗示だろうか。
これから先、不安しかないんだけど!
チート能力を手にしたのに、チートでどうにか出来ないことが多すぎるのはなぜなのだろう。
『チート=万能』の方程式を脳内辞書から削除した方がいいのかもしれない。
私の頭じゃこの式の証明も出来ないし。一行目の『○○を△△と置く』の部分から分からない。多分、証明文の解答を見ても分からないと思う。回答欄に答えをそのまま赤ペンで書き写して終わりなパターン。
うん、やっぱり削除しておこう。
脳内辞書から根拠のない式を消しつつ、同時に近い未来に訪れるだろう面倒事がチートでどうにかなりますようにと願う。
私が手を組んで祈りを捧げているのを横目で見ながら、はぁっとため息を吐くエドルドさん。呆れていらっしゃるところ申し訳ないが、この行動の半分はエドルドさんが関わっている。
「あの、その目止めてもらえますか?」
「いつも通りですよ。ああ、そろそろ着きますよ」
いくら他の人の視線がないとはいえ、扱いが雑すぎる……。
メリンダの時はもう少しマシだった気がするんだけど、エドルドさんの中の『ロザリア』って一体どうなっているんだろうか。
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