悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

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37.入学式はバッチリ決めて

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 いつもよりも少し早めの朝食を済ませ、制服に初めて腕を通す。
 これから三年間、この服が私の正装になるのだと思うと感慨深い。
 勉強する時はもちろん、クエスト中もこの服を着用する機会が多そうだ。


 オシャレにあまり興味のない私にとって、普段着を考える回数が減るというのは正直有り難い。ただでさえメイクと頻繁な髪染めの負担が増えたのだ。負担は出来る限り少ない方がいい。

 髪色が浮いていないかと、顔面に違和感がないかを鏡で慎重にチェックする。

 よし、問題ない。
 ロザリアはバッチリ隠せている。
 中身はほとんど入っていないバッグを手にして準備は万端。
 ドアを開けばタイミング良くエドルドさんの迎えがやってきた。
「支度はすみましたか?」
「はい」

 今日のエドルドさんは黒いスーツに緑のネクタイと正装スタイルだ。
 普段もきっちりとした格好の多いエドルドさんだが、今日は髪も後ろになでつけている。


 その姿に気合い入っているな~と思ってしまうのは私だけだろうか。
 前世でお父さんが重要な行事がある度にオールバックに決めていた影響かな?
 もちろん還暦近いお父さんとは違い、エドルドさんにはイケメン補正がかかっている。比較するのもおこがましいレベルだ。


 整髪剤も柑橘系のものを使用しているのか、近くに立つだけで良い香りが鼻をくすぐる。
 少しだけ胸がときめいてしまったが、今はお父さんが愛用していたポマードの独特な香りが懐かしい。

 ポイント交換にポマードってあったっけ?
 見つかったら今度レオンさんの頭にポマードを塗ろうと脳内メモに記しておく。

 イケメンを前にすぐに思考を父親にチェンジしてしまうあたり、私はすっかり枯れてしまっているらしい。
 転生したことで極度のファザコンになった可能性も否めない。
 エドルドさんの義弟さんをブラコンなんて言ってられないな。

 じいっとガン見する私にエドルドさんは訝しげに首を傾げる。

「どうしました?」
「いえ、なんでも」
「そうですか? では行きましょう」

 エドルドさんと共に馬車に乗り込み、これからお世話になる学園を目指す。

 入学式は沢山の馬車が停まっていることを除けば、前世とよく似ていた。
 校門に看板は立っているし、入学生は全員講堂に集められて、その後ろには保護者席が用意されている。

 それにしても保護者の人数が多い。
 9割が貴族ということもあって、入学生の人数は100に満たないほど。それに対して保護者席はその数倍用意されている。
 今はまだ式開始の半刻以上は前だというのにその席のほとんどがすでに埋まってしまっている。
 ぐるっと講堂を見回せば、どうやら両親どころか祖父母、弟妹まで参加しているようだ。


 私の想像以上に入学式は一大イベントらしい。
 なるほど。これはエドルドさんが当然のように有給を取る訳だ。早すぎるくらいの時間に屋敷を出たのは正解だったようだ。
 保護者席の一つを確保したエドルドさんと別れ、私は受付で告げられた番号を元に自分の名札が置かれた席を探す。



 メリンダ=ブラッカー、メリンダ=ブラッカー、っとここか。



 何を元に番号が振られているかは不明だが、62番の私の席は左から2番目にあった。
 通路側に近く、隣の席の学生はまだ到着していないかたことに胸をなで下ろす。

 前世でも映画館などの一列に並んだ席では必ず通路側を選んでいた。
 すみませんと頭を下げて人の前を通り抜けるのが苦手だったのだ。大学でもなるべく端の席を陣取っていた。必修授業の席を名前順で教授に決められた時の絶望感は言い表せないものがあった。
 初回授業でこの科目は出席日数ギリギリでどうにか出来ないかと脳裏に過ったくらいだ。実際は隣の席3人が早々に離脱してくれたおかげで真面目に通うこととなったのだが。
 とにかく私は至近距離で人に見られながら前を通り抜けるのが苦手なのだ。精神的負担が大きすぎる。


 その手の授業は今世も積極的に避けていこうと心に誓い、受付で受け取った入学式の流れが書かれた台紙に目を通す。


 学園の理念と校歌が書かれているのも前世同様だ。
『国を担う者としての自覚を育てる』とはなんともお貴族様ばかりが通う学園らしい。
 そんな自覚を育てるつもりは毛頭ない私が入学したことが間違いだったのだろう。

 はぁ……と小さく息を吐けば、背後からちょんちょんと背中を突かれる。
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