悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

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 我ながら名案を思いついたものだと胸を張る。するとエドルドさんは少しずつ目を見開いていった。

「転移? あなた転移石を所有しているんですか!?」
「転移石?」
「まさか失われた遺物まで手に入れているとは……」
「いや、そんなもの持ってませんけど」

 転移石なんてものがあるのか。
 この世界にはまだまだ私の知らないものが沢山あるらしい。
 それに『失われた遺物』ってどこのRPGゲームだろうか。
 知らない情報を耳にしては、ガイドブックの範囲網の狭さよ……と嘆かざるを得ない。

 いや、序盤は結構助けて貰ったんだけどね。
 ポイントを追加するとアップデートしてくれるシステムとかないのかな?
 続編とかボリュームアップバージョンでもいいから出して欲しい。

 チートなしの人達はそもそもガイドブックすら持っていないのだから我慢しろという話ではあるが、ガイドブックを手に入れているにも関わらず私はこの世界のことを知らなさすぎるのだ。
 出身村はドがつくほどの田舎で、さらに5年も軟禁されていたのだから仕方がない。何かを教えてくれるような大人など、王都に来るまで一人もいなかったのだ。

 ああ、だからレオンさんは学園に通えというのか。

 一般教養系の授業を積極的に受けていった方がいいかもしれないな~なんて脳内にメモを残していく。

 思考を授業選択に移してしまった私とは正反対に、エドルドさんは転移スキルにこだわっているようだ。
 転移石を所有していないのになぜ……なんてウンウンと唸っている。
「差し支えなければ、どのような方法で転移するのかお聞きしても?」
「スキルですよ」
「スキル?」
「スキル。ファイアーボールと同じようなものですね」
「そんなスキル、ギルドにも報告がありませんよ。いや、スキルを新たに取得しても隠していることはままありますが……」

 エドルドさんは顎に手を当て、ブツブツと呟きながらシンキングタイムに突入してしまった。

 これは保護者役からギルド長に切り替わっているに違いない。
 余計なことを言ってしまったのかもしれない。だが私に時を戻す術はない。
 それにエドルドさんは私のことを考えてくれているらしく、どうすればいいのかを一人で考えてくれている。

 ここで私が隠した所でエドルドさんの考え事が増えてしまうだけだ。

「最近取得しまして、行ったことのある場所ならひとっ飛びです」
 親指をグッと立てて、出来るだけ軽い調子で告げる。
 大まかな説明としては良い感じにまとめられたのではなかろうか。
 詳しい説明を求められたら上手く説明出来る自信はないが、今回は馬車送迎を止めて貰えばいいだけだ。

 爽やか系俳優さんのように、白い歯を見せつけるようににっこりと笑う。けれどエドルドさんは呆れ顔だ。

「あなた簡単に言いますけど、それは大発見で……いや、公表しない方がいいですね。私の他には誰がそのスキルの存在を知っているんですか?」
「いえ、初めて話したのでレオンさんも知りません」
「ならレオンにも黙っていてください。彼なら言いふらすようなことはしませんが、ここぞとばかりに利用はします」
「利用って。レオンさんに限ってそんなこと……」
 するわけがない、と言うよりも早くエドルドさんはハッと嘲笑の声を漏らした。
「何も分かってませんね。そんなものがあると分かれば、朝晩の食事を共にしたいと言い出すに決まっているでしょう」
「あ~言いそう」


 あかべこのように首をカクカクと動かす私の頭ではすでにレオンさんが『朝飯何にする?』と騒ぎ始めている。
 食事くらいならまだいい。
 仕事も~と言い出して、果てには南方に家を買って、そこから学園に通えばいいとか言い出す可能性もある。
 油断は出来ない。
 なにせレオンさんには私に黙って、二人で住む予定の家を買った前科まであるのだから。

「普通に使うならまだしも、そんなことをしていたらいずれ人にバレます」
「ポロっと零さないように気をつけます」
「そうしてください。後、普段の通学にも使わないでください」
「え、なんでですか」
「適度になら構いませんが、毎日使っていたらバレるリスクが高すぎます」
「それは……」
 確かに学園となれば人から隠れられる場所も限られる。
 普段使っていない物置を転移場所に登録した所で、たまたま居合わせた学生や職員さんに見つかる可能性もない訳ではない。
 森や山と違って、密集した場所に人目が多すぎるのだ。

「登下校は馬車を使ってください。いいですね?」
「……はい」
「魔道具は到着次第お渡しいたしますので」

 転移スキルは他言無用。
 使用する際には事前にエドルドさんに相談することに決まった。
 こうして私とエドルドさんの攻防戦は、たった数分にして私が丸め込まれるという結果で幕を閉じたのだった。
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