悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

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41.反抗期?

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「元気出してください、ロザリアさん。今日はケーキも用意していますから」
「ケーキ?」
 すっかり肩を落とす私の元に登場した、コック帽をかぶったヤコブさんはカラカラとカートを押してきた。上には二種類のケーキと紅茶が鎮座している。

「季節のフルーツたっぷりタルトとチョコレートケーキを用意しました」

 どちらも私の好物だ。
 しかもフルーツタルトはイチゴが多めに乗っている。一ヶ月にも満たない時間ですっかり私の好みは把握されてしまったらしい。
 両手をがっしりと組んで「ヤコブさん最高!」と声を上げれば彼は頬を緩めた。

「ありがとうございます。でもその言葉は坊ちゃんにかけてあげてください。俺に作るよう頼んだのは坊ちゃんですから」
「エドルドさん……」
「私、ケーキ好きなんですよね」
 うん、知ってた。
 私のために……なんて感動した私が馬鹿だった。

「でもあなたも好きでしょう?」
「好きですけど!」

『私のために用意されたもの』と『あなたも食べて良いですよと分けられたもの』では意味が全く違う。けれど美味しそうなケーキを前にすれば、味は同じなんだからシェアしてもらうのでも構わないかな……なんて思考が過る。

 だってケーキ好きだもの。
 それも美味しいケーキならなおのこと。

 ヤコブさんが切り分けてくれたケーキとカップを受け取って、まずはチョコレートケーキを一口。

「美味しい~」
 左手で蕩けそうなほっぺを押さえ込む。
 味はもちろん。チョコレートホイップの中に混ぜ込まれたナッツと、ふわふわなスポンジとの食感の対比がたまらない。


「誰が好きだって?」
 ワンテンポどころかツーテンポ以上遅れた質問に首を傾げながらも、ケーキを掬って「私がですよ」と答える。言ってから、この声って誰のものだ? と正体を探るために振り向いてしまった。

 私の背後に立っていた声の主はエドルドさんの義弟さんだ。
 そう、あのブラコンの義弟さん。
 まさか短期間でもう一度嵐が襲来してくると思わらなかった。

「げっ」
 両手を組んで仁王立ちを決め込む彼に、思わず乙女にあるまじき声が漏れてしまう。

「やはりそういう関係か!」
「やはり、って想像していたんですか?」
 怒っているから嫌な気しかしなかったが、私達がケーキ好き仲間だということを義弟さんも想像していたのか。
 じゃあなんで仁王立ちをするのかと突っ込みたいところだが、この人はこれが通常待機ポーズなのだろう。

 ますますゲームっぽい。
 怒りっぽく見えるのも、キャラ付けの一環なのかも知れない。
 気にするだけ無駄なのかな? と思い直して、チョコレートケーキを頬張る。

 ああ、やっぱり美味しい。

 考え事の際に何やらブツブツと呟くのは兄弟揃っての癖らしい。
 渾身のスルースキルを発揮してパクパクとフォークを進める。
 お茶まで堪能したところで、なんか風向きがおかしいぞと気づき始める。

「いくらレオンさんの養子とはいえ、女嫌いの兄貴が下宿させるどころか入学式にまで足を運ぶなんておかしいと思ってきてみれば……」

 私はエドルドさんと同様にケーキが好きだと発言しただけ。

 なのになぜ彼はそんなに声を震わせているのだろう?

 もしかして彼の来訪を前に先にケーキの話に花を咲かせてしまったことに腹を立てているのだろうか。
 だとしたらここで呑気にケーキを頬張っている姿すらも怒りのボルテージを上げる要因の一つになっているのかもしれない。
 けれどケーキを食べ進めているのは何も私だけではない。エドルドさんも同じだ。無視を決め込むどころか、おかわりまで要求している時点で彼の方が罪深いかもしれない。

 仕方ない。
 ここは私が一つ、大人になろうではないか。
 争いの発端であるケーキを取り分けてもらい、義弟さんに皿を差し出す。

「よければ義弟さんもどうぞ」
「ケーキなんかいらん! それに弟さんって呼ぶな!」
 義弟さんは差し出したケーキからプイッと顔を背けてしまった。

 えぇ、反抗期すぎるでしょ……。
 子どものような態度を取る義弟さんの前からケーキを退かし、ご機嫌を取る作戦パート2に移る。

「すみません。でもヤコブさんの料理、美味しいですよ?」
「そんなこと知っている! お前よりも俺の方がずっとヤコブや兄貴との付き合いは長いんだ! 知ったような口を聞くな」
 速攻で跳ね返され、それどころか機嫌を悪くさせてしまったらしい。

 知ったような口を聞くなと言われましても、私にどうしろというのだ。

 助けを求めて、エドルドさんに視線を向ければ彼は顎を撫で、何やら考えに耽っていた。
 ちなみにお皿はチョコレートで汚れることなく、綺麗なものだ。
 ちゃっかり完食しているエドルドさんのその行動が現実逃避でなければいいと思って視線を戻す。すると彼はスッと立ち上がり、私の肩に手を置いた。
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