悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

文字の大きさ
46 / 114

45.謎の書物の中身はやはり謎が多い

しおりを挟む
『運命の相手を探せ!』と書かれた書物はガイドブックと同じ大きさだった。指示書にしては大きく、かといって攻略本というには表紙がシンプルすぎる。
今時、真っ白の背景に黒字、それもゴシック文字で書いただけの書物など買う人はなかなかいないだろう。
中身が分かっていればまだしも、これがシュリンクかけて本屋さんに陳列されていたら私は買わない。
タイトル以外にも何か提示すべき情報があるだろう、と呆れてしまいそうだ。だが私が購入前に知らされていた情報はタイトルと交換に必要なポイント数のみ。
返金ならぬ返ポイントは出来ず、リサイクルに突っ込めば一部しか還元されないというなかなかリスクのある購入方法で、前世の私だったらまず試さないだろう。
だが表紙だけで判断してはならない。
錬金術シリーズで身にしみて理解している私は暇つぶしにはなることを祈ってページをめくった。

すると1ページ目見開きにタイトルがあり、その後ろにはなんと目次がついているではないか。

なんとも親切な設計だ。
これが一体どのような書物なのかを知るため、目次に目を通していったのだがーー。

「意味わかんないんだけど……」
並んでいるのは『構内図』や『隠しアイテム一覧』、『授業一覧』の文字ばかり。
それも後半には人名の書かれた章が存在する。
その中にはつい数刻前に見たグルメマスターことユリアス=シュタイナーの婚約者、マルコス王子の名前が記されている。はっきりと覚えていなかったので、該当ページまで飛んで確認してしまった。少し細身に補正がかけられた全身イラストの横にはしっかりと『バールグベルグ王国第一王子』と記されていたので間違いはないだろう。
自分の住んでいる国の王子の名前くらい覚えておけという話だが、グルメマスターを前にすれば王子の名前なんて些細なことなのだ。どうせ顔を合わせる機会もないだろうし、今覚えたからよしということにしよう。
名前やイラストの他にもいろいろと情報が書かれていたが、とりあえず目次へと戻る。
そして目次の文字を指でなぞっていけば、もう一つ、見覚えるある名前に辿り着く。
『ロザリア=リリエンタール』ーーそう、私の名前だ。
なぜたまたま入手した書物に私の名前が刻まれているのだろうか。
ここで手に入る書物を普通のそれと比べるのは間違いなのかもしれない。ガイドブックだってこの世界の住人が手に入れることは困難だろう。今回の書物も転生者特典の一つだと考えた方が良さそうだ。
とにかく私は『ロザリア=リリエンタール』のページを開いた。
王子のイラストと同様に、少し補正がかかったイラストがあった。けれど確かにそれは『ロザリア』のイラストで、すっかりご無沙汰になったパッションピンクの髪と見慣れた顔は確かに私の素顔そのものだった。

お貴族様に探されなければ、私もこの姿で入学していたことだろう。

いや、そもそもお貴族様に探されていなければレオンさんとパーティーを組むこともなかったので、前提がズレるのか?
再捜索がかからずとも、髪は赤茶に染めたまま入学する予定だったし、地毛のまま入学する未来は数年前に途絶えていると言えるだろう。
それに細身と言えば聞こえはいいが、筋肉がほとんどついていない身体は今の私には少し頼りなく見えてしまう。こんなんじゃろくに山を越えることも出来ないだろうと思ってしまう辺り、私もすっかり冒険者職に慣れてしまっているのかもしれない。
女性らしさを加えてくれたのかもしれないが、残念ながら私はそんなものは求めていないのだ。
小屋から飛び出した時点で、私は守りたいと思ってもらえるゆるふわ系女子になんてなれっこないのだ。
今からでもなれるとしたらそれは『ゆるふわっとドラゴン倒しちゃう系女子』である。
マストアイテムは竜装備。
全身コーデもいいけれど、ワンポイント飾るだけでも十分流行に乗ることが出来るお手軽ジャンルである。
それなら私もオシャレ出来るかも~なんて、そもそも流行るかどうか以前に竜装備を手に入れるにはドラゴンのドロップ品を集められる力を持っているか、購入出来るだけの財力を持ち合わせていないと無理なのだが。

そんなの100年経っても流行る訳がない! と自分で突っ込みを入れて、ゆるふわ系女子(笑)なロザリア=リリエンタールさんの説明に目を通していく。

「本作のヒロイン? リリエンタール家の養女? 何それ? 意味分かんないんだけど……」
途中にあった『癒やしの聖女』だけは称号にあったはずだ。確か初期からあったような?
特に使う用事がなかったため、うるおぼえではあったが、ステータス欄を確認すればそれは確かに称号欄に記されていた。
相変わらず何の役に立つのかは分からないけれど、それでも『本作のヒロイン』だの『リリエンタール家の養女』よりはずっとマシだ。
何、ヒロインって。
いつからこの世界作品になったのだろう?
もしや私、本当にゲーム世界に転生してしまったのだろうか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します

mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。 中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。 私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。 そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。 自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。 目の前に女神が現れて言う。 「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」 そう言われて私は首を傾げる。 「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」 そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。 神は書類を提示させてきて言う。 「これに書いてくれ」と言われて私は書く。 「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。 「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」 私は頷くと神は笑顔で言う。 「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。 ーーーーーーーーー 毎話1500文字程度目安に書きます。 たまに2000文字が出るかもです。

墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った だけど仲間に裏切られてしまった 生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

幼女と執事が異世界で

天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。 当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった! 謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!? おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。 オレの人生はまだ始まったばかりだ!

処理中です...