悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

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58.掃除と安眠

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「これは……」
「うわぁヤバい」
声を失うレオンさんと一緒に私も目の前に広がる光景に唖然とする。
気にしていなかったとはいえ、これは酷い。
レオンさんとの再会を果たしたことで冷静になった私が見たのは木片の山で。洞窟内でありながらハリケーンが何度か通過したのではないかと思うほどの惨状が広がっていた。かつて模様替えを楽しんでいたはずの家具など見る影もない。唯一、今朝までフル稼働していたベッドですらよくこんな場所で寝ていたな……と呆れてしまうほど。
いや、こんなものはベッドとは言わない。廃墟のベッドの方がまだベッドらしい。
毛布と思わしき端切れは散乱しており、シーツどころかマットレスまで破れて、骨組みが見えている所もちらほらと。今朝方頭を置いていたと思わしきその場所にはゴミの塊が出来ていた。おそらく枕だったものと、毛布だったもの、シーツだったものをかき集めて出来たものだろう。
山中での勢いはどこへやら。口を開いて固まるレオンさんの加勢はさっさと諦めて、大量の家具だったはずの木片と、満身創痍ながらも活躍してくれていたベッドをリサイクルに入れていく。少しは無事のものもあったが、断捨離断捨離と脳内で魔法の言葉を繰り返し、掃除の修羅へと自分を追い込んでいく。

そこから箒とちりとりを使って、細かいゴミも集める。
初めの数日で石や岩をいくつも取り除いているので完全復帰とはいかないが、ある程度綺麗に片付いたのではないだろうか。
首にかけたタオルで額を拭いつつ、ふうっと一息吐く。

「暗くなってきたな……」
途中で復活を遂げ、ちりとり役に徹してくれたレオンさんはトントンと腰を叩く。ぐいっと上体を逸らしながら「夕飯と宿どうする?」と尋ねてくる。
そんな時間か、と洞窟の外を眺めればすっかり日は暮れていた。レオンさんと出会った時点で日は暮れ始めていたのだ。そこから洞窟へ移動して、掃除をして、となればこんな時間になってもおかしくはないかもしれない。

「ここでよければ食事とベッド出しますけど」
村との距離がそこまで離れていないとはいえ、今から行ったところで宿が取れるかは定かではない。
だからといってこのまま夜中馬車に乗って移動するのも考えものだ。
私はいいが、レオンさんは一日中私を探し回った上で掃除まで手伝わされているのだ。身体は限界に近いだろう。
そう思って申し出たというのに、レオンさんはすうっと一歩退いて、小さく左右に首を振る。

「野営に慣れているが、いつ壊れるかも分からない木とぼろ切れで寝るのは……」
「ちゃんとしたベッド出しますって!」
「そうか?」

疑わしげな視線を向けるレオンさんに「ほらっ!」とポイント交換をした新しいベッドを出す。すると現金なもので、爛々と目を輝かせる。
身体が沈む~と頬を緩ませるレオンさんは、これが先ほど片付けたベッドと同じものであることに気づくことはない。

あれから原型を想像しろという方が無理な話か。
ついでだから毛布も出してあげれば「これいいな!」と騒ぎ出す。


「このセット、俺の家にも欲しい!」
「今度持って行ってあげますよ」
「約束だからな!」
「はいはい」

初めて家族旅行する子どもか。
先ほどの父親然はどこへやら。ベッドの端から端まで転がって、毛布を身体に巻き付ける。

「ご飯何食べたいですか?」
「ロザリアが作るのか?」
「いえ、出来たものを出すだけですよ。明日はレオンさんに奢って貰う予定ですので、遠慮なくどうぞ」
「あとが怖い……」
「言質は取ってありますので、ここで好きなもの食べないと損ですよ?」
「じゃあ美味い肉とスープ。後パンとデザート」
「無難に来ましたね」
「まぁいきなり好きなものって言われてもなぁ。ロザリアはどうするんだ?」
「私も同じのにします」
テーブルと椅子を交換し、その上にポンポンと二人分の食事を出す。

「食事まで出せるとか、どんな仕組みだよ……」
「さぁ? 私もよく分かりませんけど食べれますよ?」
「気にしたら負けか」
そう呟いて、心を決めたようにぱくりと一口運んだレオンさんは三回もおかわりをした。
きっちりデザートも三回。
けれど「お酒も出せますよ? 飲みます?」と言えば、首を振る。代わりに食後のお茶を飲み干して、ベッドへとダイブした。

「洞窟生活、案外いいな」
惚けた表情でそう呟いてすぐに眠りの世界へと旅だった。

「こんな生活がいいと思えるのは数日だけですよ」
体験者である私の返答も聞いてくれないなんて、なんとも勝手な人だ。

新たな結界を張り、私もベッドへと身を沈める。

今日はよく眠れそうだ。
毛布を頭から被り、私もレオンさんに続くようにまぶたを閉じるのだった。
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