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60.エドルドさんのお友達
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レオンさんとのやりとりですっかり冷静さ? を取り戻し、メリンダメイクを施した私は出会い頭に「ごめんなさい」と謝ることを決意した。
馬車に乗り、王都で食事を取って準備万端。
すっかり空には闇が広がっていたが、それでも「早いほうがいいだろ」とのレオンさんの言葉に従うことにした。数時間前、次々にバケットを要求していた面影などない。すっかり保護者モードに突入したレオンさんはほら、行くぞと手を伸ばす。
「ソースついてますよ」
ここでピザソースが口元についていなければ完璧だったのだが、やはりこういう所は抜けているらしい。
掬い取った指の腹を確認して、取れたか? と首を傾げる。大丈夫です、と返してティッシュを差し出せばサンキューと受け取った。
「よし、行くぞ!」
今度こそ大きく一歩踏み出す。
山道では気づかなかったが、歩幅を私に合わせてくれるところは変わっていない。
数ヶ月のブランクがあるのに、細かな気遣いを当たり前にしてくれる。だから私は安心して隣を歩けるのだ。
「メリンダが帰ったぞ!」
人の屋敷だというのに、レオンさんはお構いなく勢いよくドアを開く。あまりの騒々しさに玄関に立っていた人物は一斉にこちらへと視線を向けた。
マリアさんにヤコブさん、ユーガストさんに、ガットさん、それにエドルドさんと全員集合しているらしい。エドルドさんの隣に立つ二人の男性には見覚えがない。
けれどレオンさんにとっては知り合いらしく、よおっと親しげに手を上げて挨拶をする。
するとその男性は横に立っていたエドルドさんを前へと軽く突き飛ばす。前のめりながらも前へと二歩踏み出したエドルドさんはこちらへと視線を向ける。けれどすぐに困ったように視線を彷徨わせる。
本当は帰ってきて欲しくなかった、という風ではない。
何と謝ろうか迷っている子どものようだ。
エドルドさんの気持ちが分かってしまうのは、私も同じように視線を動かしているから。レオンさんは一歩後ろにいた私を前へと突き出して、背後はしっかりと支えてくれる。
「ほら、エドルド。ちゃんとメリンダを迎えに行ってきたぞ。言うことがあるんじゃないか」
「うっ」
保護者モードはエドルドさんにも適応されるようで、彼も痛いところを突かれたように顔を俯ける。
「お前が何も言わないんだったら、メリンダはこのまま南方に連れて帰る。それでもいいのか?」
「それはっ」
焦ったように顔を上げるエドルドさんなんて初めて見た。
私はまだ婚約者なんて役が務めるほど、エドルドさんのことを知っていた訳ではないのだ。
せめてもうワンステップ踏むべきだった。
その足場を作るために私は一歩踏み出した。
私を支えるレオンさんの手は簡単に離れたが、私は真っ直ぐに前を向いた。
「エドルドさん」
「……なんですか?」
「いきなり逃げ出して、姿を消してごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて「ごめんなさい」とストレートな謝罪を口に出す。私が謝ったことで先を越されたエドルドさんはバツ悪そうに目を逸らす。けれどすぐに「謝らないでください」と言葉を紡いだ。
「あなたが嫌がっているのに気づかなかった私に落ち度があります。無理を強いてしまい、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるエドルドさん。
これは仲直りが成立したということでいいのだろうか。
お互いの謝罪を済ませただけ。
前世だったらこの後一緒に遊んだり、喫茶店に行ったりしたものだ。だけどこの世界での仲直りの方法というものを私は知らない。
困ったようにレオンさんへと視線を投げれば、彼は大きく頷いて助け船を出してくれる。
「そうそう、父親に了承も取らずに婚約を結んだお前が悪い」
「え、何? エドルド、勝手に婚約結んだの? それはアウトだろ……」
「しかも嫌々とか……。お前すました顔していろいろやらかしすぎだろ」
むっつりだな~と顔を合わせる二人の頭に、エドルドさんの鋭いチョップが振り下ろされる。
痛え! と騒ぐ彼らを見下ろす視線は冷たく、けれど親しみが込められていた。
エドルドさんのお友達だろうか?
頭を押さえている彼らには悪いが、二人のおかげですっかりと空気は軽くなった。
「メリンダさん」
「は、はいっ」
「夕食、出来てますよ」
「久々のヤコブさんの料理ですね! 楽しみです」
「まだ食うのか? まぁ俺も食うが」
「美味しいご飯は別腹なので!」
「そうだな」
「あ、俺も食う」
「俺も! ずっとエドルドに付き合ってたからめっちゃ腹減ったわ……」
レオンさんと、初めましての二人を加えた5人でリビングルームへと向かう。食事中、彼らがグルッドベルグの長男・次男であり、先日私が出会った男子生徒 ガイナスの兄に当たると紹介された。
けれど話を聞かない彼とは打って変わって、コミュニケーションが高そうだ。
「詳しい事情はよくわかんねえけどさ、とりあえず落ち着いたらうち来てくれよ! ガイナスがへこんでんだ」
「あいつにはロザリアちゃんだっけ? メリンダちゃんのお姉ちゃんと武者修行に出たって伝えてあるから手合わせしてくれ~って言い出すかもだけど」
「あ、大丈夫だったら俺ともよろしくな」
「俺も俺も! あ、うちの両親も会いたいって言ってたから紹介するわ!」
貴族とは思えないほどの軽さである。
どんな経緯でエドルドさんと仲良くなったのかも不明。けれど悪い人ではないのは確かだ。
「てか安心したら身体鈍ってるの気になってきたわ」
「俺も! エドルド、剣貸して」
「外で振ってくださいね」
「りょうか~い」
ーー脳筋臭がプンプンとするが。
馬車に乗り、王都で食事を取って準備万端。
すっかり空には闇が広がっていたが、それでも「早いほうがいいだろ」とのレオンさんの言葉に従うことにした。数時間前、次々にバケットを要求していた面影などない。すっかり保護者モードに突入したレオンさんはほら、行くぞと手を伸ばす。
「ソースついてますよ」
ここでピザソースが口元についていなければ完璧だったのだが、やはりこういう所は抜けているらしい。
掬い取った指の腹を確認して、取れたか? と首を傾げる。大丈夫です、と返してティッシュを差し出せばサンキューと受け取った。
「よし、行くぞ!」
今度こそ大きく一歩踏み出す。
山道では気づかなかったが、歩幅を私に合わせてくれるところは変わっていない。
数ヶ月のブランクがあるのに、細かな気遣いを当たり前にしてくれる。だから私は安心して隣を歩けるのだ。
「メリンダが帰ったぞ!」
人の屋敷だというのに、レオンさんはお構いなく勢いよくドアを開く。あまりの騒々しさに玄関に立っていた人物は一斉にこちらへと視線を向けた。
マリアさんにヤコブさん、ユーガストさんに、ガットさん、それにエドルドさんと全員集合しているらしい。エドルドさんの隣に立つ二人の男性には見覚えがない。
けれどレオンさんにとっては知り合いらしく、よおっと親しげに手を上げて挨拶をする。
するとその男性は横に立っていたエドルドさんを前へと軽く突き飛ばす。前のめりながらも前へと二歩踏み出したエドルドさんはこちらへと視線を向ける。けれどすぐに困ったように視線を彷徨わせる。
本当は帰ってきて欲しくなかった、という風ではない。
何と謝ろうか迷っている子どものようだ。
エドルドさんの気持ちが分かってしまうのは、私も同じように視線を動かしているから。レオンさんは一歩後ろにいた私を前へと突き出して、背後はしっかりと支えてくれる。
「ほら、エドルド。ちゃんとメリンダを迎えに行ってきたぞ。言うことがあるんじゃないか」
「うっ」
保護者モードはエドルドさんにも適応されるようで、彼も痛いところを突かれたように顔を俯ける。
「お前が何も言わないんだったら、メリンダはこのまま南方に連れて帰る。それでもいいのか?」
「それはっ」
焦ったように顔を上げるエドルドさんなんて初めて見た。
私はまだ婚約者なんて役が務めるほど、エドルドさんのことを知っていた訳ではないのだ。
せめてもうワンステップ踏むべきだった。
その足場を作るために私は一歩踏み出した。
私を支えるレオンさんの手は簡単に離れたが、私は真っ直ぐに前を向いた。
「エドルドさん」
「……なんですか?」
「いきなり逃げ出して、姿を消してごめんなさい」
ぺこりと頭を下げて「ごめんなさい」とストレートな謝罪を口に出す。私が謝ったことで先を越されたエドルドさんはバツ悪そうに目を逸らす。けれどすぐに「謝らないでください」と言葉を紡いだ。
「あなたが嫌がっているのに気づかなかった私に落ち度があります。無理を強いてしまい、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるエドルドさん。
これは仲直りが成立したということでいいのだろうか。
お互いの謝罪を済ませただけ。
前世だったらこの後一緒に遊んだり、喫茶店に行ったりしたものだ。だけどこの世界での仲直りの方法というものを私は知らない。
困ったようにレオンさんへと視線を投げれば、彼は大きく頷いて助け船を出してくれる。
「そうそう、父親に了承も取らずに婚約を結んだお前が悪い」
「え、何? エドルド、勝手に婚約結んだの? それはアウトだろ……」
「しかも嫌々とか……。お前すました顔していろいろやらかしすぎだろ」
むっつりだな~と顔を合わせる二人の頭に、エドルドさんの鋭いチョップが振り下ろされる。
痛え! と騒ぐ彼らを見下ろす視線は冷たく、けれど親しみが込められていた。
エドルドさんのお友達だろうか?
頭を押さえている彼らには悪いが、二人のおかげですっかりと空気は軽くなった。
「メリンダさん」
「は、はいっ」
「夕食、出来てますよ」
「久々のヤコブさんの料理ですね! 楽しみです」
「まだ食うのか? まぁ俺も食うが」
「美味しいご飯は別腹なので!」
「そうだな」
「あ、俺も食う」
「俺も! ずっとエドルドに付き合ってたからめっちゃ腹減ったわ……」
レオンさんと、初めましての二人を加えた5人でリビングルームへと向かう。食事中、彼らがグルッドベルグの長男・次男であり、先日私が出会った男子生徒 ガイナスの兄に当たると紹介された。
けれど話を聞かない彼とは打って変わって、コミュニケーションが高そうだ。
「詳しい事情はよくわかんねえけどさ、とりあえず落ち着いたらうち来てくれよ! ガイナスがへこんでんだ」
「あいつにはロザリアちゃんだっけ? メリンダちゃんのお姉ちゃんと武者修行に出たって伝えてあるから手合わせしてくれ~って言い出すかもだけど」
「あ、大丈夫だったら俺ともよろしくな」
「俺も俺も! あ、うちの両親も会いたいって言ってたから紹介するわ!」
貴族とは思えないほどの軽さである。
どんな経緯でエドルドさんと仲良くなったのかも不明。けれど悪い人ではないのは確かだ。
「てか安心したら身体鈍ってるの気になってきたわ」
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「りょうか~い」
ーー脳筋臭がプンプンとするが。
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