悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

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78.新たな贈り物

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「お貴族様は外出したら女性に何か贈り物をしなければいけないってルールあるんですか?」
「そんなものありませんよ」
「ですよね~。なのにエドルドさんはなぜまた私に何か買い与えようとしているんですか?」

いつものように放課後、迎えの馬車に乗り込んだ私はなぜか文房具屋さんにいる。
珍しく帰りの馬車にエドルドさんがいた時点で異変に気づくべきだったのだろう。けれど夕飯に思いをはせていた私は店の前で馬車を止められ、降りるまでてっきりお屋敷に向かっているものだと思い込んでいたのだ。そのまま抵抗も虚しく、店に連れ込まれ今に至るーーと。

「手紙を頻繁に書くなら万年筆の一本や二本持っていた方がいいでしょう」
「レオンさんは別に筆記用具を何使おうと気にしないと思うんですけど……」

相手がレオンさんだからゆるゆるの内容で、手紙としてのマナーが成立していなくても許されているのだろうことは理解している。けれど何年経った所でレオンさんが手紙のマナーについて何か言い出すことはないと思う。何日に一通は出さなければならないという謎マナーは作り出しそうな気がするが、筆記用具に何を使おうが、読みにくくなければ良いだろう。
値札のついていない文具を眺めながら、暗に不要であると訴える。
けれどエドルドさんは一向に引くことはなく、様々な万年筆を眺めて私に握らせようとする。

「今後、レオン以外にも手紙を書くことが出てくるかもしれないでしょう。今のうちに慣れておいた方がいいんです」
「手紙書く相手候補って今のところ3人しかいないんですけど」
「三人? 一体誰です?」

ゆっくりと振り返るが、その顔はいつも通りの無表情。本当に関心があるのかすら怪しいものがある。一応聞いてみているという所だろう。だから私は指を折りながら、彼も知っている名前を三人分あげる。

「レオンさんに、ガイナスさん。後はグルッドベルグ公爵からも手紙を受け取ったことがあるので、今後書くことがあるかもしれませんね」
「ああ、その三人ですか」
「残念ながらお友達がほとんどいないもので。でも初めの二人はともかく、公爵に書くことがあればちゃんとしたお手紙書けるようになっておいた方がいいですよね……」
「だから万年筆くらい必要でしょう」
「そうですね。今度自分で用意しておきます」
「……私は万年筆の一本も贈れない甲斐性なしの男だ、と。あなたはそう思っているのですね」
「この前シーリングワックス買って貰ったばかりですし、その前だっていろいろと用意して貰ってます。これ以上貰う義理がありません」

甲斐性って。
そこまで何か買い与えたいかと思わず呆れてしまう。
前世ではごくごく普通の大学生で、筆記用具に並々ならぬ関心があった訳でもない私にとって万年筆は高級品、もしくは記念品なのだ。普段使いをする代物ではない。
ワンコインで手に入るものやカラーのカードリッジが挿入されているものなど、普通の学生でも手を出しやすいものも売っていたらしいが私には縁がなかった。唯一持っていた万年筆といえば、高校卒業時に記念品としてもらった、持ち手に卒業校の名前が印字してあるもの。分かる人には分かる、ちょっとお高めの品だったらしい。だが高校名が書いてある万年筆を外で使う気にはなれず、かといって家で使う用事もない。初心者にはちょっと使いづらい上に、管理も大変だと耳にしているから余計に手が遠のいていく。使わない万年筆よりも銀行印として使える印鑑の方が良かったと引き出しに眠らせていた。そんな私は人から贈られた所でちゃんと使いこなせる自信はない。むしろ眠らせた場合、使えなくなった場合の罪悪感が募るばかりだ。

だったら初めから錬金術を使って作る。
スタンプを作ったことで私の彫刻技術も少しは上がったから、柄の部分に好きなデザインを掘ることも可能だ。ドラゴンとか……と考えてさすがに立ち止まった。そんなものを作ってしまったら最後、筆記用具全てをドラゴンで揃える自信がある。女の子がドラゴンものを使っているなんて……と眉をしかめるような男女固定概念は持ち合わせていないが、この世界ではドラゴンは空想上の生き物ではないのだ。
実際に存在するモンスター。
私の脳内で『ドラゴン=格好いい』という方程式が完成するのは前世の記憶があるから。
またいくら人の敵とはいえ、私にとって脅威にはなりえないというのも大きいだろう。ドラゴンは魔物だが、素材をドロップする対象物であることに変わりはない。火を吹くのも大きな爪を振り下ろすのも、倒してしまえば関係ない。

けれどこの世界の住人にとってのドラゴンは忌むべきものなのだ。
強さこそ全く違うがゴブリンと同じ、人の敵だ。

そんなものを持ち歩いていれば、いくらグルメマスターの統治下にある学園でもハブられるのは確実だ。

花やツタを掘っておけば無難だろう。
私が脳内で万年筆デザインを考えていると、エドルドさんは店主と共に奥へと行ってしまう。どうやら諦めてくれたらしいとホッと胸をなで下ろす。けれどすぐに頭をかかえることになった。

「何本か見繕っておいたので使いやすいものを使ってください」

諦めたのは私と相談して決めることだったようだ。
店主がいる手前、いらないと突っぱねることも出来ず受け取るしか選択肢は残されていなかった。
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