悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

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81.田舎から出てきたばかりなもので

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課題も突破したし、さっさと帰ろう。
一体どんな理由があって無理難題をふっかけたのかは不明だが、いちゃもんを付けてきたら学園側に文句を言えばいいだろう。いや、そもそも何もしなくても単位がもらえるのだから授業に出なければ良い。レオンさんだって無理難題をふっかけられたと話せば納得してくれるだろう。

ちゃっちゃっと片付けを終え、教室を後にしようとドアに手をかける。

「待て!」
「なんです?」
「君はこの薬品の生成方法をエドルド=シャトレッドから聞いたのか?」
「はぁ!? なんでエドルドさんが出てくるんですか」

もしかして嫌われていたのって私個人じゃなくてエドルドさん関連?
でなければいきなり名前が出てくるはずもない。とばっちりなんて勘弁して欲しいものだと盛大に顔を歪めてみせる。それはもう女学生あるまじき般若の形相だ。
強く出た私に先生は身体を縮こませて、先ほどの威厳を完全に失った小さな声で答える。

「君はエドルド=シャトレッドの婚約者なのだろう。それも休日はデートをするほど仲が良いと聞く。それほど気に入っているのなら、特別に教えられていても不思議ではない」
「どうせ聞くなら分からない応用問題の方教えてもらいますよ」
「それは私への当てつけじゃ……」
「なんでそんなことをする必要があるんですか」
「私が万年二位だったから」
「万年二位? 何のことですか」
「万年二位のくせに婚約者に勉強を教えているのが気に入らないエドルド=シャトレッドからの嫌がらせだろう!」
「嫌がらせするどころか、さっきあなたから受けましたけど!?」

いきなり声を荒げたかと思えば、嫌がらせってなぜ私がそんなことをしなければならないのだ!
そもそもなぜ分からない問題を質問することが嫌がらせに繋がるのか、どんな思考回路で導き出されたのか頭をぱっかりと開いて確認したいくらい。そんなことのために私は、と苛立ちがさらに湧き上がる。噴火寸前の所をなんとか押さえて、相手はこれでも先生だ、と頭を冷やす。

「それはすまないと思っている」
「そもそも私、今初めて先生とエドルドさんが知り合いだったことを知りました」
「彼は私のことに何も触れなかったのか……」
「私が誰に教わっていようともあまり興味がないんだと思います」
「わざわざ受講手続きをしにくる奴が興味がないはずがないだろう」
「たまたま時間があったんでしょう」
「そんな訳が!!」
「私もエドルドさんについて詳しくは知りませんのでなんとも言えませんけど、彼は私に嫌がらせをしろとの指示は出しませんし、万が一出された所で従いませんよ。面倒くさい。何かしたいなら自分で動けばいいんです」

嫌がらせを肯定するつもりはないが、やるなら自分でやればいい。
それに指示してきたのがレオンさんだとしても、自分の鬱憤を晴らすために動けなんて言われたら「ふざけるな!」とフライパンで思い切り頭を叩いてやるつもりだ。もちろんレオンさん相手だからフライパンで済むのであって、他の相手ならそのための武器を作成するのもやぶさかではない。


「君はエドルド=シャトレッドを崇拝していないのか?」
「崇拝? もしかしてこの国の信仰対象はグルメマスターだけじゃないんですか?」
「グルメマスターは神だ。国の盾の上を、そして王族の上を行く上位存在」

当然とばかりに『神』という言葉を口にする。
エドルドさんを崇拝どうのこうの言いつつ、彼もまたグルメマスター信者のようだ。

「エドルドさんの立ち位置は?」
「もちろん国の盾だがーーそれすらも知らないのか?」
「最近田舎から出てきたばかりなもので」

もしやこれも一般常識なのだろうか。
前回パトリシアさんで盾がどうのこうのと触れられた時にもっと突っ込んで聞くべきだったかもしれないと後悔した所でもう遅い。

「ミリオン=グルッドベルグ、パトリシア=アスカルド、レオン=ブラッカー、そしてエドルド=シャトレッド。四人で国を守る盾『守護盾(ガーディアン)』と呼ばれていることくらい田舎者だろうと知っているだろう!」
「はぁ……」

パトリシアさんだけでなく、レオンさんとエドルドさんまで入っているとは……。
ミリオン=グルッドベルグはグルッドベルグ公爵のことだろうか。だとするとガーディアンは4人揃って知り合いということになる。知った所で今さら態度を変えるつもりはないが、私の周りには有名人が揃っていたらしい。
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