悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

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84.屋敷で待ち構えていたのは

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「いらっしゃい、メリンダさん。早速打ち合いをしましょう!」
「えっと……」

ガイナスさんの幼なじみに会いに来たのに、私を迎えたのはランスを抱えたパトリシアさんの姿だった。以前は細身の剣だったはずだが、新しい武器を手に入れたのだろうか。鈍器としても使えそうな大物を抱えて爛々と目を輝かせている。今日は公爵も、双子のお兄さん達も不在だそうで、絶好の機会だと思ったのだろう。けれど今回の訪問目的は打ち合いではないのだ。

パトリシアさんには話していないのだろうか?
ガイナスさんの方に視線を投げれば、彼が一歩前へと出た。

「母上。昨日話した通り、師匠は今日、ラングに会いに来たんだ」
「でもそのラングはまだ来ていないわよ?」

可愛らしくこてんと首を傾けるが、相変わらず手の中には物騒なものがある。

「え? 先に行っているって言ってたのにな……」
「ということで来るまで打ち合いをしましょう!」

そして行き着く先はやはり打ち合い。

「そういうことなら俺も! 三人でやろう!」
「ええ~、お母様もメリンダさんと二人で打ち合いしたいわ。ガイナス、あなたはいつも打ち合いしてるじゃない。今日くらい譲ってくれてもいいじゃないの!」

むうっと頬を膨らますパトリシアさんはまるで少女のようだ。
会話の内容がもっと可愛らしいものだったら胸をときめかせる男性は多いのだろう。
けれど私は女で、戦闘に興味満々な冒険者である。そして同席するガイナスさんも脳筋なのだ。

「だが母上を交えた三人の打ち合いはしたことがない」

あくまで打ち合いをすることを譲るつもりはないらしく、混ぜてくれ! と主張を繰り返す。
両者一方に引く様子はなく、けれども時間だけは進んでいく。

「じゃあパトリシアさんと二人で打ち合いをした後、休憩を挟んで三人でしますか?」
「賛成!」
「それならいいわ」

いつその幼なじみさんが来るのかは分からない。
案外パトリシアさんとの打ち合い途中に来てしまうかもしれない。
だからグルッドベルグ家の使用人さんから武器を借りて、すぐに鍛錬場へと向かう。


「いつでもいいわよ」
「それでは行きますよ!」

初日ぶりに刃を交えるが、ずっと公爵達との打ち合いを見ていたのか、剣筋が以前よりもしっかりしている。弾いて防ぐだけではなく、果敢に責めては型を変えてを繰り返す。やはりただ者ではないようだ。ガイナスさんは場外で待機しながらもせわしなくペンを動かす。

この様子だと三人での打ち合いはちょっと変わった型を繰り出す必要がありそうだ。
ボディに打ち込まれないように避けつつ、地面を蹴って空を舞う。
今回は目くらまし目的ではない。すぐにランス上に着地し、思い切り下に蹴った。先端が細いランスは慣れていなければ重心管理が難しいのだ。バランスを崩したパトリシアさんはそのまま前のめりになり、曲がった背中に剣の柄の部分を打ち付ける。
その衝撃で完全に体勢を崩し、膝をつく。

「やっぱり強いわね~」
額にびっしょりと汗を浮かべ、足を土で汚したパトリシアさんは満足気に笑った。

「今回は私も危なかったですよ。公爵達とは全然戦い方が違うんですもん」
「旦那様達は騎士ですから。そういう意味ではこの家で一番伸びしろが把握出来ないのがガイナスだわ」
「そうか?」

首を捻るガイナスさんだが、脳筋両親に育てられ、騎士学校で基礎を極める予定の時に学園へと転入。そこから私の独学の型との戦闘方法を研究しているのだ。騎士と冒険者のハイブリッドのような型になっているはずだ。

普通の騎士の戦い方とはまるで異なるものになるだろう。
とはいえ、公爵や双子のお兄さん達もすでに本来の型をだいぶアレンジして取り込んでいっているので、変化しているのはガイナスさんだけではないと言える。

休憩を挟んでいると、屋敷の方からトトトと使用人さんが駆け寄ってくる。

「ラング様がいらっしゃいました」
「今行く!」

ガイナスさんはパタンとノートを閉じ、私の手を引く。
武器を手にしたまま客間へと案内され、対面した幼なじみさんは私の苦手な見た目をしていた。
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