85 / 114
84.屋敷で待ち構えていたのは
しおりを挟む
「いらっしゃい、メリンダさん。早速打ち合いをしましょう!」
「えっと……」
ガイナスさんの幼なじみに会いに来たのに、私を迎えたのはランスを抱えたパトリシアさんの姿だった。以前は細身の剣だったはずだが、新しい武器を手に入れたのだろうか。鈍器としても使えそうな大物を抱えて爛々と目を輝かせている。今日は公爵も、双子のお兄さん達も不在だそうで、絶好の機会だと思ったのだろう。けれど今回の訪問目的は打ち合いではないのだ。
パトリシアさんには話していないのだろうか?
ガイナスさんの方に視線を投げれば、彼が一歩前へと出た。
「母上。昨日話した通り、師匠は今日、ラングに会いに来たんだ」
「でもそのラングはまだ来ていないわよ?」
可愛らしくこてんと首を傾けるが、相変わらず手の中には物騒なものがある。
「え? 先に行っているって言ってたのにな……」
「ということで来るまで打ち合いをしましょう!」
そして行き着く先はやはり打ち合い。
「そういうことなら俺も! 三人でやろう!」
「ええ~、お母様もメリンダさんと二人で打ち合いしたいわ。ガイナス、あなたはいつも打ち合いしてるじゃない。今日くらい譲ってくれてもいいじゃないの!」
むうっと頬を膨らますパトリシアさんはまるで少女のようだ。
会話の内容がもっと可愛らしいものだったら胸をときめかせる男性は多いのだろう。
けれど私は女で、戦闘に興味満々な冒険者である。そして同席するガイナスさんも脳筋なのだ。
「だが母上を交えた三人の打ち合いはしたことがない」
あくまで打ち合いをすることを譲るつもりはないらしく、混ぜてくれ! と主張を繰り返す。
両者一方に引く様子はなく、けれども時間だけは進んでいく。
「じゃあパトリシアさんと二人で打ち合いをした後、休憩を挟んで三人でしますか?」
「賛成!」
「それならいいわ」
いつその幼なじみさんが来るのかは分からない。
案外パトリシアさんとの打ち合い途中に来てしまうかもしれない。
だからグルッドベルグ家の使用人さんから武器を借りて、すぐに鍛錬場へと向かう。
「いつでもいいわよ」
「それでは行きますよ!」
初日ぶりに刃を交えるが、ずっと公爵達との打ち合いを見ていたのか、剣筋が以前よりもしっかりしている。弾いて防ぐだけではなく、果敢に責めては型を変えてを繰り返す。やはりただ者ではないようだ。ガイナスさんは場外で待機しながらもせわしなくペンを動かす。
この様子だと三人での打ち合いはちょっと変わった型を繰り出す必要がありそうだ。
ボディに打ち込まれないように避けつつ、地面を蹴って空を舞う。
今回は目くらまし目的ではない。すぐにランス上に着地し、思い切り下に蹴った。先端が細いランスは慣れていなければ重心管理が難しいのだ。バランスを崩したパトリシアさんはそのまま前のめりになり、曲がった背中に剣の柄の部分を打ち付ける。
その衝撃で完全に体勢を崩し、膝をつく。
「やっぱり強いわね~」
額にびっしょりと汗を浮かべ、足を土で汚したパトリシアさんは満足気に笑った。
「今回は私も危なかったですよ。公爵達とは全然戦い方が違うんですもん」
「旦那様達は騎士ですから。そういう意味ではこの家で一番伸びしろが把握出来ないのがガイナスだわ」
「そうか?」
首を捻るガイナスさんだが、脳筋両親に育てられ、騎士学校で基礎を極める予定の時に学園へと転入。そこから私の独学の型との戦闘方法を研究しているのだ。騎士と冒険者のハイブリッドのような型になっているはずだ。
普通の騎士の戦い方とはまるで異なるものになるだろう。
とはいえ、公爵や双子のお兄さん達もすでに本来の型をだいぶアレンジして取り込んでいっているので、変化しているのはガイナスさんだけではないと言える。
休憩を挟んでいると、屋敷の方からトトトと使用人さんが駆け寄ってくる。
「ラング様がいらっしゃいました」
「今行く!」
ガイナスさんはパタンとノートを閉じ、私の手を引く。
武器を手にしたまま客間へと案内され、対面した幼なじみさんは私の苦手な見た目をしていた。
「えっと……」
ガイナスさんの幼なじみに会いに来たのに、私を迎えたのはランスを抱えたパトリシアさんの姿だった。以前は細身の剣だったはずだが、新しい武器を手に入れたのだろうか。鈍器としても使えそうな大物を抱えて爛々と目を輝かせている。今日は公爵も、双子のお兄さん達も不在だそうで、絶好の機会だと思ったのだろう。けれど今回の訪問目的は打ち合いではないのだ。
パトリシアさんには話していないのだろうか?
ガイナスさんの方に視線を投げれば、彼が一歩前へと出た。
「母上。昨日話した通り、師匠は今日、ラングに会いに来たんだ」
「でもそのラングはまだ来ていないわよ?」
可愛らしくこてんと首を傾けるが、相変わらず手の中には物騒なものがある。
「え? 先に行っているって言ってたのにな……」
「ということで来るまで打ち合いをしましょう!」
そして行き着く先はやはり打ち合い。
「そういうことなら俺も! 三人でやろう!」
「ええ~、お母様もメリンダさんと二人で打ち合いしたいわ。ガイナス、あなたはいつも打ち合いしてるじゃない。今日くらい譲ってくれてもいいじゃないの!」
むうっと頬を膨らますパトリシアさんはまるで少女のようだ。
会話の内容がもっと可愛らしいものだったら胸をときめかせる男性は多いのだろう。
けれど私は女で、戦闘に興味満々な冒険者である。そして同席するガイナスさんも脳筋なのだ。
「だが母上を交えた三人の打ち合いはしたことがない」
あくまで打ち合いをすることを譲るつもりはないらしく、混ぜてくれ! と主張を繰り返す。
両者一方に引く様子はなく、けれども時間だけは進んでいく。
「じゃあパトリシアさんと二人で打ち合いをした後、休憩を挟んで三人でしますか?」
「賛成!」
「それならいいわ」
いつその幼なじみさんが来るのかは分からない。
案外パトリシアさんとの打ち合い途中に来てしまうかもしれない。
だからグルッドベルグ家の使用人さんから武器を借りて、すぐに鍛錬場へと向かう。
「いつでもいいわよ」
「それでは行きますよ!」
初日ぶりに刃を交えるが、ずっと公爵達との打ち合いを見ていたのか、剣筋が以前よりもしっかりしている。弾いて防ぐだけではなく、果敢に責めては型を変えてを繰り返す。やはりただ者ではないようだ。ガイナスさんは場外で待機しながらもせわしなくペンを動かす。
この様子だと三人での打ち合いはちょっと変わった型を繰り出す必要がありそうだ。
ボディに打ち込まれないように避けつつ、地面を蹴って空を舞う。
今回は目くらまし目的ではない。すぐにランス上に着地し、思い切り下に蹴った。先端が細いランスは慣れていなければ重心管理が難しいのだ。バランスを崩したパトリシアさんはそのまま前のめりになり、曲がった背中に剣の柄の部分を打ち付ける。
その衝撃で完全に体勢を崩し、膝をつく。
「やっぱり強いわね~」
額にびっしょりと汗を浮かべ、足を土で汚したパトリシアさんは満足気に笑った。
「今回は私も危なかったですよ。公爵達とは全然戦い方が違うんですもん」
「旦那様達は騎士ですから。そういう意味ではこの家で一番伸びしろが把握出来ないのがガイナスだわ」
「そうか?」
首を捻るガイナスさんだが、脳筋両親に育てられ、騎士学校で基礎を極める予定の時に学園へと転入。そこから私の独学の型との戦闘方法を研究しているのだ。騎士と冒険者のハイブリッドのような型になっているはずだ。
普通の騎士の戦い方とはまるで異なるものになるだろう。
とはいえ、公爵や双子のお兄さん達もすでに本来の型をだいぶアレンジして取り込んでいっているので、変化しているのはガイナスさんだけではないと言える。
休憩を挟んでいると、屋敷の方からトトトと使用人さんが駆け寄ってくる。
「ラング様がいらっしゃいました」
「今行く!」
ガイナスさんはパタンとノートを閉じ、私の手を引く。
武器を手にしたまま客間へと案内され、対面した幼なじみさんは私の苦手な見た目をしていた。
16
あなたにおすすめの小説
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる