悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

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85.新しい知り合いはキザ男?

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茶髪の髪を弄り、優雅にお茶をすする姿は典型的なキザ男のそれだ。
ゆっくりと視線をこちらへと向け、にこりと人好きな笑みを向けられる。私の腕にはびっしりと鳥肌が立った。魂に刻まれた苦手なタイプだ。

「師匠。こいつはラング。俺の幼なじみだ」
「はじめまして。メリンダ=ブラッカーです」
「はじめまして、お嬢さん。ラング=アッカドです。よろしく」

首でも痛いのか左手で押さえながら、空いた右手を差し出される。
ガイナスさんの幼なじみである以上、無碍にすることも出来ずに握手を交わす。
出来れば早く退室したい所だが「座ってくれ」と席を勧められ、お茶とお菓子まで用意されてしまう。
元々幼なじみを紹介してくれるという用件での訪問なので、何も間違ってはいないのだが、思わずガイナスさんを睨んでしまう。けれど彼が私の気持ちに気づくことはなく、幼なじみと会わせられたことが嬉しいのかニコニコと笑みを浮かべている。

「そちらがガイナスの師匠か」
「ああ! 父上とアスカルド叔父様の友人でもあるんだ! 師匠の剣筋はそれはそれは凄くてな、よければ今からでも打ち合いを見せよう!」
「いやいい。それよりも、お嬢さんには聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」

キザ男が平々凡々な女に聞きたいこと? と思わず身構えてしまう。
けれど今度は何かを察してくれたらしいガイナスさんは、私へと視線を向け、ラングさんの追加紹介してくれた。

「師匠。こいつはそれはもう女好きで女性を取っ替え引っ返しているように見えるけど、婚約者一筋だ」
「その情報今居るか!?」
「いるだろう。ちなみに片思い歴が今年で10年を突破した」
「初恋もまだなガイナスに馬鹿にされたくないんだが!?」
「馬鹿にはしていない。ただ必要な情報だから追加しただけで」
「どこが必要なんだ!!」

恥ずかしさで顔を赤くするラングさん。
必要かどうかはさておき、一気に身構えていた心持ちが楽になったのは確かだ。

さすがは自称弟子のガイナスさん。
脳筋と思いきや、私のことをよく分かっているが故の気遣いだ。
ありがとうと小さく頭を下げれば、小さく笑った。

私のこともそうだが、幼なじみのことを思っての発言でもあったのだろう。
私が身構えていては会話にならない内容でも切り出されるのだろうか。
けれど紹介者であるガイナスさんが同席している時点で、平民のくせに云々などと変な話にはなることはないだろう。
小さく息を吸い込んで、落ち着いた心持ちでラングさんと対面する。

「それで聞きたいこととは?」
「君にドラゴン殺しのレオンについての話を、彼の武勇伝を聞かせて欲しいんだ」
「え? レオンさんの? なぜ?」
「それは……」

想像の斜め上を来た。
まさかレオンさんの活躍を聞かせてくれとは……。

レオンさんファンなのだろうか?
だがファンにしては少し様子がおかしい。
恥ずかしそうに視線を逸らし、顔を赤く染めている。

「もう片思い歴までバレているんだから、悩むことないだろ」
「それは! ……そうだな。お願いする側なのだから素直に話そう。婚約者との会話を弾ませたいのだが、基本的にグルメマスターとレオンの話しかしないせいで最近話のネタが尽きてきて……。先日は折角屋敷に招待したというのに、私の話がつまらないばかりに半刻とせずに帰ってしまったんだ。このままでは呆れられてしまう。だからどうか私に話のネタを提供してくれ!」
「それは……他の話をすればいいのでは?」」

恥ずかしい胸のうちを晒してくれたのに申し訳ないのだが、なぜグルメマスターとレオンさん縛りなんてしているのだろうか。10年も二つに絞っていればそりゃあ話題もなくなるだろう。長く一緒に居るんだから他の話題を探して繋げれば済む話だろう。

まさかコミュニケーション強者に見えるが、話題の引き出しがとても少ないのだろうか。
だがそれも片思い相手を振り向かせるために話題収集すればいいだけの話だ。
頭を抱えている場合ではないのでは? と首を傾げれば、ラングさんは髪と同じ色の瞳を潤ませる。

「その二つの食いつきがいいんだ! 彼女は昔からずっとレオンに憧れていて、私も冒険者になれたら良かったのだが、うちはグルッドベルグ家のような剣を重んじる家庭ではなく……」
「アッカド家は昔から文官や宰相を排出している家だから、許してくれる訳ないよな」
「困り果てている時にエドルドがレオンの娘と仲良くしていると聞いて、会わせてくれと頼み込んだ次第だ。どうか、どうか彼の活躍を聞かせてはくれないだろうか」

泣き言を漏らすラングさんの瞳からはぽろぽろと涙がこぼれる。

脳筋の次はキザ男、かと思ったら片思いを拗らせた泣き虫さんだった。
なぜ個性的な面々の知り合いばかりが次々に増えていくのだろうか。

疑問を抱くが、レオンさんファンのためには一肌でも二肌でも脱いでやろうではないか。
機嫌が最高潮に上がった私は初対面のラングさん相手に、空が暗くなるまでレオンさんの活躍を語るのだった。
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