悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

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87.深い意味はない、ただの生活必需品

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「メリンダさんのパジャマはこれね!」
ご丁寧にもパジャマという名の特殊戦闘服まで用意されており、部屋への襲撃を取り入れてからは兵士の鍛錬用というよりも暗殺対策になりつつあるのでは? と首を傾げたのは3度目のお泊まり会でのこと。
月に一度という制約は当たり前のように守られておらず、エドルドさんの仕事が忙しい日を狙って招待されている。

沢山打ち合って己を高めたい、という気持ちが一番なのだろう。
だが適当な言い訳と思われた兵士達の鍛錬に組み込むという宣言は早くも実現されつつある。
部屋での襲撃訓練を組み込むのはさすがに数ヶ月ほどかかるとのことだったが、夜間打ち合いでの視界制限はガイナスさんのノートが活躍した。グルッドベルグ一家を基準にすると何かと問題がありそうなので下方修正するとのことだ。
私は夜目が効くため、昼間同様にガンガン責めていったが、夜間の対人戦に慣れていない彼らは身動きが取りにくくなっていた。視界が制限された場所で味方が複数人存在するのは枷になる。特に長い獲物を得意とする彼らは昼間の何倍も制限された状況下での戦闘であったといえるだろう。

これを機に小回りが効くものを練習するらしい。
投げ道具と、そうでないものの2種類以上を取り入れるなんて簡単にいってくれる。
だが実際、次に合う時には物にしているのだろう。化け物と言われた私だが、規格外なんて現地人にもわんさかいるようだ。


「今日もですか……」
「はい。しばらく国を留守にするそうで、その前に打ち合いをしておきたいとのことで」

グルッドベルグ家は明後日から親戚の結婚式に出席するため、数日ほど国を留守にするそうだ。
私はこの国から出たことがなく学もないので国名を言われても分からないのだが、お土産を買ってきてくれるらしい。名産は装飾品だそうだ。アクセサリーにすると受け取り拒否をされそうだから普段使い出来そうなものを見繕ってくると言われてしまったのだが、さすがに私もお土産を拒否するほどろくでなしではないつもりだ。

彼らの中で私は一体どういう人間なのだろうか?
恨めしい目でガイナスさんを見れば「きっと気に入るものを持ってくる!」と良い笑顔と共にグッドサインを返されてしまった。数ヶ月の付き合いなのに、ガイナスさんは私の扱いが非常に上手い。策士のような男だったら気に入らないのだが、彼の場合、素なのだ。

弟子の部分と脳筋部分と、面倒見の良さがちょうどよく混ざり合った結果ーーレオンさんと似たような居心地の良さを醸し出している。
自称弟子のガイナスさんと、自称父親だったレオンさん。
違うように見えて、実は重なる所も多い。
言葉に言い表せるような具体的な共通点というよりも、雰囲気的なものではあるが。

だからこそ、お泊まりのお誘いは毎回あまり考えもせずに了解してしまう。
歓迎されていることが分かっているというのも理由の一つではあるが。

「どれだけ打ち合いするのかと文句の一つでも言いたい所ですが、実際、この短期間で兵士の質が格段に上がっているんですよね……」
「そうなんですか?」
「グルメマスターが王家に入る日も迫ってますし、元々向上心の高い者ばかりなので成長が早いんですよ」
「なるほど」

王子とシュタイナー家のご令嬢との婚姻ではなく、グルメマスターの王家入り。
言い方が異なるだけで同じことを指しているのだが、これだけで城の人達が王家とグルメマスターのどちらに重点を置いているのかが分かってしまう。けれどさほど異常性を感じないのは、私自身もすでにグルメマスターがいるこの国に染まってしまっているからだろう。普通だったら王家の地位が揺らぐとか危機感を感じたり、排斥に移る貴族が~ってなるのがラノベなどのお決まりではあるのだが、実際出現すると案外人はその手の行動を起こさないらしい。事実は小説より奇なりということわざもあるし、何より平和が一番だ。グルメマスターの存在が様々な意識改革に繋がっているのならばそれでいいのだろう。

「ところでロザリアさん」
「なんでしょう」
「次のお泊まり会にはこれを持って行ってください」

ズイっと差し出されたのは、プレゼント包装された何か。
グルッドベルグ家に何度もお泊まりしているから贈り物でも持って行けということだろうか。
一応毎回手土産を持たされているのだが、頻度が多いからだろう。

「どなたに渡せばいいですか?」
「渡すのではなく、あなたが着るんです」
「着る?」
「サイズは合っていると思いますが、確認して見てください」

着るにサイズとなれば、服か?
以前外出の際にいらないと強めに断ったはずだが、なぜ今になってわざわざ……。
リボンを緩め、中身を取り出せば入っていたのはーー。

「パジャマ?」
「グルッドベルグ家お泊まり用パジャマ part.1です」
「part.1ってなんで続くこと前提なんですか?」
「パジャマのまま戦うと聞きましたので。どうせこれからも頻繁に泊まりに行くことになるでしょうから、いくつか用意することになるでしょう」
「パジャマなら武器同様、グルッドベルグ家の方が用意してくれてますよ?」
「あちらに悪いですから、持って行きなさい」
「でも……」
「持って行きなさい」

お母さんか。
ここで断っても、ガットさんかマリアさんに頼んでお泊まりセットに詰め込まれそうな勢いだ。
なのでここは抵抗せずにありがたく頂戴することにする。

「ありがたく使わせて頂きます」


後日、パトリシアさんが口元を押さえながら少女のようにキャーキャー騒いでいた。
男性が女性に服を贈ることの意味は~という思考回路を経由した結果、乙女思考が爆発しているのだろう。

「しかも、パジャマ! 寝具!」
大喜びしている彼女に、贈り物の形で渡されたとはいえ、エドルドさんにとってパジャマは生活必需品扱いなのだと突っ込む勇気のない私は遠くを見つめるのだった。

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