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91.力仕事なら任せて!
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これ以上話をすることも出来ず、私達は岐路に立つ。
けれど私もガイナスさんも、納得などいっていないのだ。
「ロザリアという名前自体は珍しいものではないが、ラングとの婚姻が上がる年の近い令嬢にはいない。ましてや桃色の髪を持つロザリアはどの年頃にも存在しない」
「つまりリーリアさんが嘘を付いているということ?」
「リーリアはそんなことをする人間ではない。だからこそ一体誰のことを指しているのか見当が付かないんだ。それに平民ならまだしも、貴族と限定されたら知らないはずがないのだが……」
うーんと唸るガイナスさん。
私もやはりその『ロザリア』の存在が気になって仕方がない。
もしもガイナスさんが知らないだけで、例えばつい最近社交界に桃色の髪の『ロザリア』が参加するようになったとして、その娘は一体どこの娘なのか。
リリエンタール家との関わりはあるのだろうか?
代わりを用意した後で、本物が見つかり次第すげ替えようとしているのではないか?
名前と髪の色。
たった二つの共通点だが、私に最悪の想像を加速させるには十分だった。
帰ってからエドルドさんに相談するとして、その『ロザリア』がラングさんと関わりを持っているのかだけでも知っておきたい。
リーリアさんに話は聞けなくとも、せめてラングさんだけでも。
だがネガティブ落ちを決め込んでいる彼に話しなんて……眉間に皺を寄せて考え込む私に、同じく悩みを抱えたガイナスさんがとある質問を投げかけた。
「師匠。もう少しだけ時間をもらってもいいか?」
「いいけど、まだ何かするつもり?」
「あの二人を結婚させようと思う」
「は?」
「婚約状態だから二人揃って悩むんだ。ならいっそ結婚させてしまえばいい」
いやいやいや、いくらなんでも強引すぎるでしょ!
最近は脳筋じゃないかも? なんて思い始めていたが、まさか脳みそまで筋肉に浸食されているとは……。
女心が分からないとか言う次元じゃない。
情緒も何もあったものじゃない。
それに二人共、口でこそ『婚約破棄をされること』を恐れているが、実際気にしているのは『相手には他に思い人がいるのではないか?』ということだ。ラングさんは呆れられるなんて言っているが、呆れ果てた婚約者が次の相手を見つけずに婚約を破棄するとも思っていないだろう。
私は貴族社会に詳しくはないが、妙齢の女性が特別理由もなく婚約破棄なんてリスクの高いことをする可能性は低いはずだ。
「さすがにそれは極論すぎない?」
どう伝えるべきか悩んだが、とりあえずはオブラートに包んだ『落ち着いて考え直せ』を投げつける。
けれどガイナスさんはふるふると首を振った。
「元々、リーリアはラングではなく俺の婚約者になる予定だったんだ」
「え?」
「ちょうど釣り合いも取れていたしな。だがそれは今も変わらない。もしも二人が婚約破棄をしたとして、リーリアに思い人がいなければほぼ確実に話は俺の元に回ってくることだろう。俺には婚約者もいないし、幼なじみだから互いのことはある程度分かっているつもりだ。今も昔も、リーリアのことは妹のように思っている。そこら辺の男よりもずっと大事に出来る自信はある。それに、俺はこの先、誰かに恋愛感情を向けることはないだろう。この年になってもまだその感覚がよく分からないからな。そもそも俺は跡取りでもなく、子どもを残す必要がない。リーリアも兄がいるから、婿を取る必要もない。だから焦る必要はないのだが、婚約を破棄した年頃の令嬢が一人きりとなれば、勘ぐられるかもしれない。そうなるくらいだったら、自分が婚約者に名乗り出るだろう」
「リーリアさんを興味本位の悪意から守るために。でもそんなことしたらラングさんとの関係がこじれるんじゃ……」
「双方思い合っていて、障害もない。むしろ誰もが祝福するはずの関係なのに二人揃っていないはずの相手に取られることに怯えている。ならば結婚してしまえばいいんだ。元々卒業してすぐに結婚する予定で、少しくらい早くなった所で文句を言う相手などいないだろう」
「だから結婚しろ、ねぇ」
「強引すぎるのは十分承知している。リーリアの悩みの根本的解決にならないことも。だがそこをどうにかするのは俺じゃない。ラングだ」
真っ直ぐとした視線のガイナスさんはすでにこれからの行動を決めているようだった。
強引だけど、二人を思っての行動に違いはない。
ならば完全部外者の私が口を挟むことでもないだろうーーと離脱したい所だが、ガイナスさんは私に何か役目を与えるつもりらしい。馬車の中で話を切り出すなんて、全く逃げ場がないじゃないか。
「それで私に何をしろと?」
「ラングが逃亡しないように窓側を固めて欲しい」
「了解」
力仕事なら任せろ、と親指を立てれば、ガイナスさんは馬車の外へと旅だった。
すでにアッカド屋敷前で停車している。
ここで私が断るとは思っていなかったのだろう。
信頼されているのか、そこまで考えていなかったのか。
良くも悪くも猪突猛進型。
私やレオンさんとよく似ているのだ。
しばらく車内で待機していれば、暴れるラングさんを肩に担いだガイナスさんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま。出してくれ!」
「どこへ連れて行くつもりだ!!」
「お前も知っている場所だ」
指示通り、ガイナスさんと共にラングさんの左右を固める。
男二人と女一人が二席分に収まっているのでかなり狭いのだが、しわ寄せは全て真ん中の席のラングさんへと行く。状況説明をしろ、と騒いでいるが、ジェラールさんの襲撃に慣れている私達にとっては鳥のさえずりと同じだ。ガタゴトと揺れる車内でだんまりを決め込んでいれば、すぐに先ほど後にしたばかりのリーリアさんのお屋敷へと到着した。
けれど私もガイナスさんも、納得などいっていないのだ。
「ロザリアという名前自体は珍しいものではないが、ラングとの婚姻が上がる年の近い令嬢にはいない。ましてや桃色の髪を持つロザリアはどの年頃にも存在しない」
「つまりリーリアさんが嘘を付いているということ?」
「リーリアはそんなことをする人間ではない。だからこそ一体誰のことを指しているのか見当が付かないんだ。それに平民ならまだしも、貴族と限定されたら知らないはずがないのだが……」
うーんと唸るガイナスさん。
私もやはりその『ロザリア』の存在が気になって仕方がない。
もしもガイナスさんが知らないだけで、例えばつい最近社交界に桃色の髪の『ロザリア』が参加するようになったとして、その娘は一体どこの娘なのか。
リリエンタール家との関わりはあるのだろうか?
代わりを用意した後で、本物が見つかり次第すげ替えようとしているのではないか?
名前と髪の色。
たった二つの共通点だが、私に最悪の想像を加速させるには十分だった。
帰ってからエドルドさんに相談するとして、その『ロザリア』がラングさんと関わりを持っているのかだけでも知っておきたい。
リーリアさんに話は聞けなくとも、せめてラングさんだけでも。
だがネガティブ落ちを決め込んでいる彼に話しなんて……眉間に皺を寄せて考え込む私に、同じく悩みを抱えたガイナスさんがとある質問を投げかけた。
「師匠。もう少しだけ時間をもらってもいいか?」
「いいけど、まだ何かするつもり?」
「あの二人を結婚させようと思う」
「は?」
「婚約状態だから二人揃って悩むんだ。ならいっそ結婚させてしまえばいい」
いやいやいや、いくらなんでも強引すぎるでしょ!
最近は脳筋じゃないかも? なんて思い始めていたが、まさか脳みそまで筋肉に浸食されているとは……。
女心が分からないとか言う次元じゃない。
情緒も何もあったものじゃない。
それに二人共、口でこそ『婚約破棄をされること』を恐れているが、実際気にしているのは『相手には他に思い人がいるのではないか?』ということだ。ラングさんは呆れられるなんて言っているが、呆れ果てた婚約者が次の相手を見つけずに婚約を破棄するとも思っていないだろう。
私は貴族社会に詳しくはないが、妙齢の女性が特別理由もなく婚約破棄なんてリスクの高いことをする可能性は低いはずだ。
「さすがにそれは極論すぎない?」
どう伝えるべきか悩んだが、とりあえずはオブラートに包んだ『落ち着いて考え直せ』を投げつける。
けれどガイナスさんはふるふると首を振った。
「元々、リーリアはラングではなく俺の婚約者になる予定だったんだ」
「え?」
「ちょうど釣り合いも取れていたしな。だがそれは今も変わらない。もしも二人が婚約破棄をしたとして、リーリアに思い人がいなければほぼ確実に話は俺の元に回ってくることだろう。俺には婚約者もいないし、幼なじみだから互いのことはある程度分かっているつもりだ。今も昔も、リーリアのことは妹のように思っている。そこら辺の男よりもずっと大事に出来る自信はある。それに、俺はこの先、誰かに恋愛感情を向けることはないだろう。この年になってもまだその感覚がよく分からないからな。そもそも俺は跡取りでもなく、子どもを残す必要がない。リーリアも兄がいるから、婿を取る必要もない。だから焦る必要はないのだが、婚約を破棄した年頃の令嬢が一人きりとなれば、勘ぐられるかもしれない。そうなるくらいだったら、自分が婚約者に名乗り出るだろう」
「リーリアさんを興味本位の悪意から守るために。でもそんなことしたらラングさんとの関係がこじれるんじゃ……」
「双方思い合っていて、障害もない。むしろ誰もが祝福するはずの関係なのに二人揃っていないはずの相手に取られることに怯えている。ならば結婚してしまえばいいんだ。元々卒業してすぐに結婚する予定で、少しくらい早くなった所で文句を言う相手などいないだろう」
「だから結婚しろ、ねぇ」
「強引すぎるのは十分承知している。リーリアの悩みの根本的解決にならないことも。だがそこをどうにかするのは俺じゃない。ラングだ」
真っ直ぐとした視線のガイナスさんはすでにこれからの行動を決めているようだった。
強引だけど、二人を思っての行動に違いはない。
ならば完全部外者の私が口を挟むことでもないだろうーーと離脱したい所だが、ガイナスさんは私に何か役目を与えるつもりらしい。馬車の中で話を切り出すなんて、全く逃げ場がないじゃないか。
「それで私に何をしろと?」
「ラングが逃亡しないように窓側を固めて欲しい」
「了解」
力仕事なら任せろ、と親指を立てれば、ガイナスさんは馬車の外へと旅だった。
すでにアッカド屋敷前で停車している。
ここで私が断るとは思っていなかったのだろう。
信頼されているのか、そこまで考えていなかったのか。
良くも悪くも猪突猛進型。
私やレオンさんとよく似ているのだ。
しばらく車内で待機していれば、暴れるラングさんを肩に担いだガイナスさんが帰ってきた。
「おかえりなさい」
「ただいま。出してくれ!」
「どこへ連れて行くつもりだ!!」
「お前も知っている場所だ」
指示通り、ガイナスさんと共にラングさんの左右を固める。
男二人と女一人が二席分に収まっているのでかなり狭いのだが、しわ寄せは全て真ん中の席のラングさんへと行く。状況説明をしろ、と騒いでいるが、ジェラールさんの襲撃に慣れている私達にとっては鳥のさえずりと同じだ。ガタゴトと揺れる車内でだんまりを決め込んでいれば、すぐに先ほど後にしたばかりのリーリアさんのお屋敷へと到着した。
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