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94. 一に度胸、二に度胸。三、四が技術で、五に愛嬌
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いよいよ作戦決行当日。
用意はしたものの、いざ登場するとなると緊張で胸が高鳴る。
久々のロザリアスタイルだから余計だろう。
今さら化け物! と恐れられた所で怖くもなんともないが、彼女は同じ転生者なのだ。
警戒されるスタイルで準備していながら、同じ転生者として恥ずかしいなんて呆れられたら数ヶ月はへこみそうだ。
女は一に度胸、二に度胸。三、四が技術で、五に愛嬌。
いや、運も重要だ。
どこに組み込むべきかと頭をぐるぐると回していると、温室ではお馴染みとなったグルメマスターの歌唱会が開催される。
「おべんっと~へい! おべんっと~へい! 美味しい美味しいお弁当~あらよっと」
どうやら今回はお弁当の歌らしい。
前世では聞き覚えがないので、作詞作曲グルメマスターの有り難い曲なのだろう。
お弁当屋さんを開く際には間違いなくテーマソングに採用される、大ヒット間違いなしの歌。
私には変な曲にしか聞こえないけれど、でも勇気は出た。
すうっと息を吸って、スティックで自作ドラムをかき鳴らす。
同じ日本から転生してきた人ならば、いや、同じ時系列同じ世界に住んでいた人ならば一度は耳にしたことがある音楽だ。
カッ、カッ、カッ、カッ、カカカ――
カッ、カッ、カッ、カッ、カーン――
カッ、カッ、カッ、カッ、カカカ――
カッ、カッ、カッ、カッ、カーン――
カッ、カッ、カッ、カッ、カカカ――
カッ、カッ、カッ、カッ、カーン――
ジェシー式ブートキャンプの準備運動のリズム。
世界的大ブレイクしたこの音に、音楽好きの彼女なら食いつくハズだと踏んでの選曲だ。
何か気づいてくれればいいと思ってのことだったが、グルメマスターは私の想像の上をいった。
「へい、ボブ! 調子はどう?」
「う~ん、そこそこかな」
「何よ、中途半端ね。しゃんとしなさい!」
「そうはいっても身体が重いんだ……」
「ポテチとコーラ抱えて遅くまで映画見てるからよ」
「だって鉄板じゃないか!」
「まぁそうだけど……。よし、今日は運動不足を解消しましょう!」
「出来るのかい?」
「出来るわ。そう、ジェシー式ブートキャンプならね! ボブ、あなた綿飴食べたくなったんじゃない?」
「いきなりなんだい?」
「いいから!」
「まぁ好きだけど……」
「そんなあなたにぴったりなのは巻き取り運動!」
ジェシーとボブのコント調のやりとりを一人でこなしつつ、キレッキレなダンスを踊り始めたのだ。
正直、あの巨体でここまで軽やかに動けるとは思ってもいなかったので別の意味でも驚いてしまう。
けれど手は止めない。
「今日のおやつはスコーンだああああ」
身体の前や頭の上でひたすら両手をぐるぐる回し、ラストは両手でVサインを作りながら好きなお菓子やご飯を叫ぶ所まで完璧。スコーンは彼女の好物なのだろうか?
「よし、決まり!」
音がどこから奏でられたかはさほど気にしていないらしく、グルメマスターはお弁当を片付けて立ち上がる。
このままでは帰ってしまう!
私は心を決めて、彼女の前に大きく踏み出した。
「やっぱりあなた、転生者ね」
「あなたは――ヒロイン」
『ヒロイン』が何を指しているのかは定かではないが、やはり私を、『ロザリア』を知っているそぶりだ。
それにしても私の今の格好は首から紐でくくりつけた空き缶を提げ、手にはスティック代わりの棒を握っている怪しさMAXな格好だが、全く驚いていない。彼女の知っているロザリアが変人にしても、眉一つ動かさないとはよほど肝が据わっている。さすがはグルメマスター。教祖と崇め奉られるだけはあるようだ。
想像以上に厄介な人を相手にしているのかもしれない。
じいっと見つめ合い、そして私はもう一つの曲を奏でることにした。
「かいそ~うおおんど~」
「まさかあなた……」
「はい。実は私も転生者なんです。踊り子のあなたが転生者かどうかを試すべくジェシー式ブートキャンプを、そしてこちらも転生者であることを認めてもらうために海藻音頭を奏でさせてもらいました」
「なるほど」
海藻音頭は一部の方々の間で大流行したアニメの挿入歌だ。
この曲を選んだのは、海藻音頭自体を知らずとも日本人なら盆踊りの音楽を知っているはずだと踏んだから。だがどうやら彼女は海藻音頭自体も知っていたようだ。怪しい恰好で踏み込んだ甲斐があったというものだ。
それにしても彼女は私が転生者だと明かした所であまり驚くことはなかったが、変わりに違う場所に食いついた。
「……って何、踊り子って」
「あなたの副ジョブですよ?」
「副ジョブって何? っていうか、そもそも踊り子なんてそんなものになった覚えはないんだけど……」
「そうですか? でもあなたの称号欄にもしっかり『ダンスマスター 初級』が追加されてますよ?」
「称号って何!?」
え、そこから!? と突っ込みそうになる気持ちをグッとこらえる。
「もしかしてステータス欄見えてません?」
「ステータスってファンタジーゲームにあるやつ?」
「そうですそうです。あなたは『鑑定』持ちではないみたいですが、自分の分なら『ステータスオープン』って念じれば見れますよ?」
「え、本当に?」
「はい。試してみては?」
まさかステータスの存在すら知らなかったとは……。
演技かと疑ったが、ふおおおおと声を上げてキラキラと目を輝かせる姿が演技には見えなかった。
用意はしたものの、いざ登場するとなると緊張で胸が高鳴る。
久々のロザリアスタイルだから余計だろう。
今さら化け物! と恐れられた所で怖くもなんともないが、彼女は同じ転生者なのだ。
警戒されるスタイルで準備していながら、同じ転生者として恥ずかしいなんて呆れられたら数ヶ月はへこみそうだ。
女は一に度胸、二に度胸。三、四が技術で、五に愛嬌。
いや、運も重要だ。
どこに組み込むべきかと頭をぐるぐると回していると、温室ではお馴染みとなったグルメマスターの歌唱会が開催される。
「おべんっと~へい! おべんっと~へい! 美味しい美味しいお弁当~あらよっと」
どうやら今回はお弁当の歌らしい。
前世では聞き覚えがないので、作詞作曲グルメマスターの有り難い曲なのだろう。
お弁当屋さんを開く際には間違いなくテーマソングに採用される、大ヒット間違いなしの歌。
私には変な曲にしか聞こえないけれど、でも勇気は出た。
すうっと息を吸って、スティックで自作ドラムをかき鳴らす。
同じ日本から転生してきた人ならば、いや、同じ時系列同じ世界に住んでいた人ならば一度は耳にしたことがある音楽だ。
カッ、カッ、カッ、カッ、カカカ――
カッ、カッ、カッ、カッ、カーン――
カッ、カッ、カッ、カッ、カカカ――
カッ、カッ、カッ、カッ、カーン――
カッ、カッ、カッ、カッ、カカカ――
カッ、カッ、カッ、カッ、カーン――
ジェシー式ブートキャンプの準備運動のリズム。
世界的大ブレイクしたこの音に、音楽好きの彼女なら食いつくハズだと踏んでの選曲だ。
何か気づいてくれればいいと思ってのことだったが、グルメマスターは私の想像の上をいった。
「へい、ボブ! 調子はどう?」
「う~ん、そこそこかな」
「何よ、中途半端ね。しゃんとしなさい!」
「そうはいっても身体が重いんだ……」
「ポテチとコーラ抱えて遅くまで映画見てるからよ」
「だって鉄板じゃないか!」
「まぁそうだけど……。よし、今日は運動不足を解消しましょう!」
「出来るのかい?」
「出来るわ。そう、ジェシー式ブートキャンプならね! ボブ、あなた綿飴食べたくなったんじゃない?」
「いきなりなんだい?」
「いいから!」
「まぁ好きだけど……」
「そんなあなたにぴったりなのは巻き取り運動!」
ジェシーとボブのコント調のやりとりを一人でこなしつつ、キレッキレなダンスを踊り始めたのだ。
正直、あの巨体でここまで軽やかに動けるとは思ってもいなかったので別の意味でも驚いてしまう。
けれど手は止めない。
「今日のおやつはスコーンだああああ」
身体の前や頭の上でひたすら両手をぐるぐる回し、ラストは両手でVサインを作りながら好きなお菓子やご飯を叫ぶ所まで完璧。スコーンは彼女の好物なのだろうか?
「よし、決まり!」
音がどこから奏でられたかはさほど気にしていないらしく、グルメマスターはお弁当を片付けて立ち上がる。
このままでは帰ってしまう!
私は心を決めて、彼女の前に大きく踏み出した。
「やっぱりあなた、転生者ね」
「あなたは――ヒロイン」
『ヒロイン』が何を指しているのかは定かではないが、やはり私を、『ロザリア』を知っているそぶりだ。
それにしても私の今の格好は首から紐でくくりつけた空き缶を提げ、手にはスティック代わりの棒を握っている怪しさMAXな格好だが、全く驚いていない。彼女の知っているロザリアが変人にしても、眉一つ動かさないとはよほど肝が据わっている。さすがはグルメマスター。教祖と崇め奉られるだけはあるようだ。
想像以上に厄介な人を相手にしているのかもしれない。
じいっと見つめ合い、そして私はもう一つの曲を奏でることにした。
「かいそ~うおおんど~」
「まさかあなた……」
「はい。実は私も転生者なんです。踊り子のあなたが転生者かどうかを試すべくジェシー式ブートキャンプを、そしてこちらも転生者であることを認めてもらうために海藻音頭を奏でさせてもらいました」
「なるほど」
海藻音頭は一部の方々の間で大流行したアニメの挿入歌だ。
この曲を選んだのは、海藻音頭自体を知らずとも日本人なら盆踊りの音楽を知っているはずだと踏んだから。だがどうやら彼女は海藻音頭自体も知っていたようだ。怪しい恰好で踏み込んだ甲斐があったというものだ。
それにしても彼女は私が転生者だと明かした所であまり驚くことはなかったが、変わりに違う場所に食いついた。
「……って何、踊り子って」
「あなたの副ジョブですよ?」
「副ジョブって何? っていうか、そもそも踊り子なんてそんなものになった覚えはないんだけど……」
「そうですか? でもあなたの称号欄にもしっかり『ダンスマスター 初級』が追加されてますよ?」
「称号って何!?」
え、そこから!? と突っ込みそうになる気持ちをグッとこらえる。
「もしかしてステータス欄見えてません?」
「ステータスってファンタジーゲームにあるやつ?」
「そうですそうです。あなたは『鑑定』持ちではないみたいですが、自分の分なら『ステータスオープン』って念じれば見れますよ?」
「え、本当に?」
「はい。試してみては?」
まさかステータスの存在すら知らなかったとは……。
演技かと疑ったが、ふおおおおと声を上げてキラキラと目を輝かせる姿が演技には見えなかった。
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