97 / 114
96.消えた本
しおりを挟む
それからユリアスさんとは転生仲間として、休日や放課後はチャットを楽しむ仲になった。
だが彼女にも私が『メリンダ』として学園に通っていることは内緒だ。
彼女には悪いが、私が冒険者であり、その関係でほとんど学校には来ていないのだと嘘をつかせてもらった。
また少し家の事情が複雑なので……と遠回しにあまり家のことは触れないでくれと頼んでおいた。冒険者業をしている時点で何か訳ありなのは察してくれていたらしく「分かった!!」と即返信が返ってきた。
いい人なのだろう。
授業と単位の問題になった時も、彼女は特例措置のこともあまり気にした様子はなかった。
「それって後で辛くならない?」
「課外活動で単位もらえたりするので大丈夫ですよ」
「課外活動?」
「一応Sランク冒険者なんで、特殊クエストとかこなすといろいろと考慮してくれるんですよ~」
「それ、私に言ってもいいやつ?」
「……ユリアスさん、私が正規の方法以外で単位もらってるって言いふらしませんよね?」
「言わないわよ」
「なら大丈夫です! 私、明日から来週いっぱい隣国で狩ってきますので連絡遅くなるかもです」
「桶です! 怪我しないように気をつけてね」
「桶頂きました! お土産になりそうなものあったらお渡ししますので~」
狩りに行くのは国外ではなく、国内で。
リリエンタール家の動きが緩和したことから制限が少しは軽くなったとはいえ、週に1・2回の仕事しか受けていない。嘘をつくのは心苦しいが、ユリアスさんの話を聞いてからは、顔も知らないリリエンタール公爵からはなんとしても逃げきって見せるという気持ちが大きくなっている。
また不思議な話だが、ユリアスさんとロザリアとして接触をした日から例の学園本がアイテム倉庫から忽然と消えた。おそらくあの本は『乙女ゲーム攻略本』だったのだろう。ふんわりとではあるがネタバレをふんだんに含む物語を聞かされたことで役目を終えた、と。案外あの本の役割は私を乙女ゲームに参加させようと、どこかの神様が用意したものなのかもしれない。けれど私に乙女ゲームの知識はほぼなく、そもそも学園入学前に大幅にシナリオが変更されていたため、気づかれることはなかった。
そう考えるとなんだか申し訳ない気分になってくるが、思うように進んでくれないのが人生というものだ。
どうにかしてシナリオを元通りになんてもくろまずにグルメマスターの考案したご飯でも突きながら、大人しく空から見守っていて欲しい。
えのきダンスを踊りながら、謎の少女『ロザリア』のことを考える。
それとなくユリアスさんにヒロインが複数人存在するのかと尋ねた所、彼女に心当たりはないようだった。
エドルドさんの調査にも依然として引っかからないまま時間ばかりが過ぎていく。
変わったことといえば、ユリアスさんの体型くらいだろう。
初めて会った時に比べて随分とスマートになっている。
王子に痩せろ、痩せろと小言を言われると愚痴を零していたので、彼女には内緒で身体強化をかけさせてもらった。若干激しく動いた所で身体の負担が軽減される。もちろん完全に切れる前に回復魔法をかけることも忘れない。それを短期間で繰り返すことで彼女の身体の中で脂肪燃焼が活発化している、と思う。確実に筋力は増えている。だがこの短期間での激やせに一番関わっているのはおそらく成長チート。全体的にステータスはメキメキと上昇し、その度に消費カロリーが上昇している。
また王子との関係だが、彼の溺愛は相変わらず。
メリンダとして二人の様子を目撃する度、私の中でますます『悪役令嬢』というものが分からなくなっていく。シナリオとやらがどうあれ、私が2人の間柄を邪魔するつもりはない。卒業式で行われる断罪エンドから斬首刑に移行するのだと、笑いながら語ってくれたユリアスさんだが、二人の仲を邪魔すれば首を切られるのは私だ。王子に、というよりもグルメマスター信者たちから。グルメマスターの幸せを邪魔するなら多分王族にでも刃を向けるのが彼らだ。実際、つい最近グルメマスターのことを馬鹿にしたご令嬢が一人、社交界から姿を消したらしい。ユリアスさんに気づかれる前に迅速と。
私もガイナスさんから聞いて初めて知ったのだが、信者界隈では有名な話だ。
姿も名前も知らないが、グルメマスターを馬鹿にするとはどこの田舎者だろうか。
それによほど空気が読めないのだろう。
常識知らずな私でも、グルメマスター文化に触れた時点で何かを察したというのに!
それにしても同じ転生者でありながら、ユリアスさんはよくこんな短期間で教祖になりあがったものだ。
カリスマチートというやつなんだろうか。
もしかして私が知らなかっただけで、『悪役令嬢転生』とはこういうものなのかもしれない。
私tueeeなぶっ壊れステータスチートなんてはしゃいでいた私が妙にしょぼく感じてしまう。彼女の前では化け物と呼ばれようが、ただの赤子に等しいのだ。多分、信者たちも彼女のためなら化け物討伐も喜んでするだろうし……。あり得ないと思えないのがグルメマスターなのだ。
だが彼女にも私が『メリンダ』として学園に通っていることは内緒だ。
彼女には悪いが、私が冒険者であり、その関係でほとんど学校には来ていないのだと嘘をつかせてもらった。
また少し家の事情が複雑なので……と遠回しにあまり家のことは触れないでくれと頼んでおいた。冒険者業をしている時点で何か訳ありなのは察してくれていたらしく「分かった!!」と即返信が返ってきた。
いい人なのだろう。
授業と単位の問題になった時も、彼女は特例措置のこともあまり気にした様子はなかった。
「それって後で辛くならない?」
「課外活動で単位もらえたりするので大丈夫ですよ」
「課外活動?」
「一応Sランク冒険者なんで、特殊クエストとかこなすといろいろと考慮してくれるんですよ~」
「それ、私に言ってもいいやつ?」
「……ユリアスさん、私が正規の方法以外で単位もらってるって言いふらしませんよね?」
「言わないわよ」
「なら大丈夫です! 私、明日から来週いっぱい隣国で狩ってきますので連絡遅くなるかもです」
「桶です! 怪我しないように気をつけてね」
「桶頂きました! お土産になりそうなものあったらお渡ししますので~」
狩りに行くのは国外ではなく、国内で。
リリエンタール家の動きが緩和したことから制限が少しは軽くなったとはいえ、週に1・2回の仕事しか受けていない。嘘をつくのは心苦しいが、ユリアスさんの話を聞いてからは、顔も知らないリリエンタール公爵からはなんとしても逃げきって見せるという気持ちが大きくなっている。
また不思議な話だが、ユリアスさんとロザリアとして接触をした日から例の学園本がアイテム倉庫から忽然と消えた。おそらくあの本は『乙女ゲーム攻略本』だったのだろう。ふんわりとではあるがネタバレをふんだんに含む物語を聞かされたことで役目を終えた、と。案外あの本の役割は私を乙女ゲームに参加させようと、どこかの神様が用意したものなのかもしれない。けれど私に乙女ゲームの知識はほぼなく、そもそも学園入学前に大幅にシナリオが変更されていたため、気づかれることはなかった。
そう考えるとなんだか申し訳ない気分になってくるが、思うように進んでくれないのが人生というものだ。
どうにかしてシナリオを元通りになんてもくろまずにグルメマスターの考案したご飯でも突きながら、大人しく空から見守っていて欲しい。
えのきダンスを踊りながら、謎の少女『ロザリア』のことを考える。
それとなくユリアスさんにヒロインが複数人存在するのかと尋ねた所、彼女に心当たりはないようだった。
エドルドさんの調査にも依然として引っかからないまま時間ばかりが過ぎていく。
変わったことといえば、ユリアスさんの体型くらいだろう。
初めて会った時に比べて随分とスマートになっている。
王子に痩せろ、痩せろと小言を言われると愚痴を零していたので、彼女には内緒で身体強化をかけさせてもらった。若干激しく動いた所で身体の負担が軽減される。もちろん完全に切れる前に回復魔法をかけることも忘れない。それを短期間で繰り返すことで彼女の身体の中で脂肪燃焼が活発化している、と思う。確実に筋力は増えている。だがこの短期間での激やせに一番関わっているのはおそらく成長チート。全体的にステータスはメキメキと上昇し、その度に消費カロリーが上昇している。
また王子との関係だが、彼の溺愛は相変わらず。
メリンダとして二人の様子を目撃する度、私の中でますます『悪役令嬢』というものが分からなくなっていく。シナリオとやらがどうあれ、私が2人の間柄を邪魔するつもりはない。卒業式で行われる断罪エンドから斬首刑に移行するのだと、笑いながら語ってくれたユリアスさんだが、二人の仲を邪魔すれば首を切られるのは私だ。王子に、というよりもグルメマスター信者たちから。グルメマスターの幸せを邪魔するなら多分王族にでも刃を向けるのが彼らだ。実際、つい最近グルメマスターのことを馬鹿にしたご令嬢が一人、社交界から姿を消したらしい。ユリアスさんに気づかれる前に迅速と。
私もガイナスさんから聞いて初めて知ったのだが、信者界隈では有名な話だ。
姿も名前も知らないが、グルメマスターを馬鹿にするとはどこの田舎者だろうか。
それによほど空気が読めないのだろう。
常識知らずな私でも、グルメマスター文化に触れた時点で何かを察したというのに!
それにしても同じ転生者でありながら、ユリアスさんはよくこんな短期間で教祖になりあがったものだ。
カリスマチートというやつなんだろうか。
もしかして私が知らなかっただけで、『悪役令嬢転生』とはこういうものなのかもしれない。
私tueeeなぶっ壊れステータスチートなんてはしゃいでいた私が妙にしょぼく感じてしまう。彼女の前では化け物と呼ばれようが、ただの赤子に等しいのだ。多分、信者たちも彼女のためなら化け物討伐も喜んでするだろうし……。あり得ないと思えないのがグルメマスターなのだ。
17
あなたにおすすめの小説
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
[完結]前世引きこもりの私が異世界転生して異世界で新しく人生やり直します
mikadozero
ファンタジー
私は、鈴木凛21歳。自分で言うのはなんだが可愛い名前をしている。だがこんなに可愛い名前をしていても現実は甘くなかった。
中高と私はクラスの隅で一人ぼっちで生きてきた。だから、コミュニケーション家族以外とは話せない。
私は社会では生きていけないほどダメ人間になっていた。
そんな私はもう人生が嫌だと思い…私は命を絶った。
自分はこんな世界で良かったのだろうかと少し後悔したが遅かった。次に目が覚めた時は暗闇の世界だった。私は死後の世界かと思ったが違かった。
目の前に女神が現れて言う。
「あなたは命を絶ってしまった。まだ若いもう一度チャンスを与えましょう」
そう言われて私は首を傾げる。
「神様…私もう一回人生やり直してもまた同じですよ?」
そう言うが神は聞く耳を持たない。私は神に対して呆れた。
神は書類を提示させてきて言う。
「これに書いてくれ」と言われて私は書く。
「鈴木凛」と署名する。そして、神は書いた紙を見て言う。
「鈴木凛…次の名前はソフィとかどう?」
私は頷くと神は笑顔で言う。
「次の人生頑張ってください」とそう言われて私の視界は白い世界に包まれた。
ーーーーーーーーー
毎話1500文字程度目安に書きます。
たまに2000文字が出るかもです。
墓守の荷物持ち 遺体を回収したら世界が変わりました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアレア・バリスタ
ポーターとしてパーティーメンバーと一緒にダンジョンに潜っていた
いつも通りの階層まで潜るといつもとは違う魔物とあってしまう
その魔物は僕らでは勝てない魔物、逃げるために必死に走った
だけど仲間に裏切られてしまった
生き残るのに必死なのはわかるけど、僕をおとりにするなんてひどい
そんな僕は何とか生き残ってあることに気づくこととなりました
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
幼女と執事が異世界で
天界
ファンタジー
宝くじを握り締めオレは死んだ。
当選金額は約3億。だがオレが死んだのは神の過失だった!
謝罪と称して3億分の贈り物を貰って転生したら異世界!?
おまけで貰った執事と共に異世界を満喫することを決めるオレ。
オレの人生はまだ始まったばかりだ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる