悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

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98.護衛依頼

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「メリンダに護衛依頼、ですか?」
「はい。隣国に留学中のとあるご令息に届け物があるのですが、何分運ぶ物が物だけに護衛を必要としていまして……。学生の身のあなたに学校を休めと言うのは大変心苦しいのですが、受けていただけると助かります」
「そんなに長いんですか?」
「10日程度です」
「意外と長い……」

出発する曜日にもよるが、大体2週分の授業には出席出来ないということになる。
とはいえ、2週間分くらいなら顔を見せない生徒も多い。
貴族というのは案外忙しいものらしく、ガイナスさんは長期間空けることはないがその分細々とした用事がちょくちょく入る。日が終わるごとにホームに帰りたいと思ってしまう私とは感覚が違うのだろう。

「10日かぁ」と呟いてウンウン唸る私に、エドルドさんは答えを急がせる。

「持ち帰り分もあるので。それで、受けていただけますか?」

出発日が早いのかもしれない。
だが10日となると護衛対象が気になる。
ここでグルメマスターの護衛です! と言われたら、メリンダスタイルなのを良いことに王子の援護をガンガン飛ばす所だが、知らない人と一緒に過ごすのは得意ではない。それに今まで護衛依頼なんて来ることはなかったのに、なぜ今さら……。

何か意図があるのだろうか?
顔を上げ、エドルドさんの瞳をじいっと見つめる。

「ちなみに護衛対象は?」
「私です」
「は?」
「婚約者と隣国に泊まりがけで何か用事があるのだと思われるだけで済みますし、あなたなら物品が奪われる心配もなく、セキュリティ面も問題なし。良いことづくめです」
「それはなんとも……」

初めから断らせる気なかった奴じゃないですか。
呆れながら遠くを見つめれば、エドルドさんの背後には大きなボストンバックをいくつも抱えたマリーさんとユーガストさんの姿があった。

「ところで出発日って」
「今日です」

帰宅した学生に言う台詞じゃなくない!? せめて行きの馬車で言って!? と突っ込みたい所だが、セキュリティの問題もあるのだろう。


「……せめてガイナスさんに出かけるって話くらいさせて欲しかったです」
「手紙を届けさせます」
「部屋にバック置いて、書いてくるので少し待っててください」


当日に婚約者との旅行を決めるなんて普段のエドルドさんから全く想像もつかないから、そこから何か探られそうな気がしなくもない。

帰国後ならまだしも、今の状態でガイナスさんにそのまま伝える訳にもいかないし、なんて話そう……。
彼は私が冒険者であることを知ってはいるが、だからといって「急に仕事が入った」と書いた所で、ではなぜエドルドさんも一緒なのか? と当然の疑問に行き着くことだろう。
けれどガイナスさんだって、私とエドルドさんがいちゃいちゃカップルな仲でないことくらい察しているだろうし……。

「はあああああ」
大きなため息を吐いて、ようやく万年筆を手に取る。
内容はエドルドさんが急遽隣国に行きたいと言い出した、と書いておいた。
不思議に思うかもしれないが、細かいことは後回し。2週間後の自分に託す。
そして封をしてからレオンさん当ての手紙を書いた。
こちらは仕事でエドルドさんと隣国へ行くこと、その間手紙を出せそうもないことを素直に書いた。お土産話を書いた手紙は今度送りますと締めくくり、こちらは例のスタンプを押して封をする。

2通の手紙を手に、玄関へと降りる。
準備万端のエドルドさんの隣に立つユーガストさんに手紙を渡し、頭を下げた。

「この二通をレオンさんとガイナスさんにそれぞれ届けてください」
「承知いたしました」


それから馬車に揺られ、国境へ。
時間の経過と共に風景を変え、空は色を変えていく。
大量の荷物さえなければ、いつもの帰宅と何も変わらない。
けれど私は今日、初めて国を越えるのだ。
前世でも国外旅行どころかパスポートすら所持していなかった。完全に初の国外旅行なのだ。正確に言えば仕事なのだが、それでも自然と心は高鳴っていく。
同乗者がレオンさんだったら「凄い凄い」と子どものようにはしゃいで見せるのだが、相手はエドルドさん。

「仕事ですよ……」と呆れた目で諭されるのが関の山だ。
だから必死で自分の心を押さえる。我慢我慢……と太ももの上の手を堅く握りしめれば車内に「ぎゅごごごごご」と凄まじい地響きのような音が響き渡る。

「夕食まだでしたね。車内でも食べられるものを用意してもらいましたので、食べなさい」
「え、でも仕事中……」
「急に話を持ってきたのは私の方です。それにあなたなら食事中でも急な襲撃に対応出来るでしょう?」
「もちろん食事を邪魔するふととき者は即刻排除します!」
「本当に心強い婚約者ですね」

なぜこんな誰もいない所で婚約者なんてワードを強調するのだろうか?

まさか敵が近くに!?
今さらながら索敵魔法を展開させるも、半径30km以内に敵意を向ける相手はいない。
警戒しているだけなのかな?
首を捻りながら、私はありがたくエドルドさんからお弁当を受け取った。


そこから国境付近で宿を取り、休憩。
当たり前のように部屋は同室だったが、一番高くて広い部屋を取ってくれたため、ベッドどころか部屋も別。
部屋の入り口と、エドルドさんの部屋の二カ所に簡易結界を設置した所、一体何をしているのか? と首を傾げられたが、これも私の安眠のため。

「魔法道具ですよ」と簡単な説明だけして、私は別室で深い眠りについた。

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