悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

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99.グルメマスターフィットネス

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翌日。
起床後すぐに朝食を取り、馬車に乗り込む。
国を越えるためのやりとりはいろいろあるらしく、国境にある門で一度馬車から降ろされて身辺調査をされた。エドルドさんは何か紙のようなものを取り出し、私はメリンダの冒険証の提示をさせられる。
そこで授業の出席確認リーダーのような物に通されてようやく解放される。

後から聞くと、あれが出国&入国手続きだったらしい。
メリンダの冒険証って偽造パスポートみたいな物だったのに、簡単に通しちゃって良かったのかな?

作成者がギルドマスターのエドルドさんのため、バレようがないのだろうが悪事に手を染めてしまった罪悪感がひっそりと宿る。だがここで正直に『ロザリア=リリエンタール』なんて記した冒険証を出す訳には行かないので、こうするしかないのだ。そう自分に言い聞かせ、ガタゴトと揺られること数刻ーーやっと目的の場所へと辿り着いた。

「学校、ですか?」
機密文書のようなので、留学中の学生とはいえ来賓扱いされているのだとばかり思っていた。
だからほぼ毎日通う学び舎と同じような建物を前に、少しだけ拍子抜けしてしまう。

「はい。受け渡し自体はすぐ終わりますのであなたはここで待っていてくれますか?」
「了解です」

けれど依頼内容を明かされなければ追求しないのが冒険者というもの。
深入りはせずにエドルドさんを見送って、馬車内で待機をした。



すぐ終わるという話は嘘だったのか、エドルドさんの帰りが遅い。
相手と話込んでいるのだろう。
もう半刻以上は帰ってきていない。

アイテム倉庫から本でも取り出して読んでようかな? なんて考えていると、聞き慣れた音が鳴った。チャットの通知音だ。ステータス欄からチャットを開けば、ユリアスさんからいくつか連続してチャットが送られてきている。

『ねぇねぇロザリアさん。今、学園で『グルメマスターフィットネス』って名前のダンスが流行ってるんだけどさ』

それもとても興味のそそる内容だ。
しばらく帰ってこないだろうと踏んで、すぐに返信を打ち込んだ。

『まさか私がいない間にそんな楽しそうな流行が始まっているとは……。後数日は登校出来ないのが残念です。その『グルメマスターフィットネス』って一体どんなダンスなんですか?』
『それが名前はともかく、動きが完全にジェシー式ブートキャンプなんだよね』
『その言い方だとユリアスさんが誰かに教えた、って感じじゃないですね』
『さすがにこのノリを異世界の人に求めるのはちょっと……。でも『グルメマスター』って名前で広がっているってことはおそらく温室のを見られてたんだと思う』
『え?』

嘘でしょ?
あの学園に私達以外にもまだ温室にたどり着ける人間がいたというのか。

『私もすっかり忘れてたけど、こんなんでも一応公爵令嬢で王子の婚約者だから目立つんだ。巻き込んじゃってごめんね、ロザリアさん』
『それはいいんですけど、いつ見られたんでしょう? 認識阻害と探知魔法かけておいたのに……』

あの温室にいる間は管理者と突然顔を合わせるのを防ぐために認識阻害魔法を、そして相手を割り出すために温室自体に探知魔法をかけている。

そのどちらにも引っかからないなんて、一体何者だろう。

『え、そんなのかけてたの?』
『一応、ですけど。それにしてもまさかこの学園に私の認識阻害を越え、探知魔法に引っかからない相手がいたなんて……悔しいです。参考までに聞いておきたいんですけど、声まで再現されてます?』
『そっちは大丈夫だと思う。ジェシーとボブの掛け合い部分は全部『手回し』とか『スクワット』とか運動名になってたから』

音声までは把握していないということは、温室の外から見られた可能性が高い。
鍵を所有しておらず、かつ魔法認証をクリアすることが出来なかったのだろう。

では一体どうやって温室まで辿り着いたのか。
その答えはおそらく信仰の力ーーグルメマスターへの執着がそれを可能にさせたのだ。
突飛な考えを思いついてしまうほど私の頭はグルメマスターと信者の耐性がガッツリと染みこんでしまっている。

悪意は感じないが、このまま放置する訳にもいかない。
かといってそんな相手を排斥することは出来ない。かなりレベルの高い信者を敵に回すなど怖くて出来やしない。ならば残る方法はただ一つーー仲間に取り入れてしまえばいい。

『これは盗賊か斥候のジョブ持ちの仲間を手に入れるチャンス!? 情報感謝します! 久々の解除スキル連発の予感! 今度必ずお礼いたしますので!!』
『あ、うん。いってらっしゃ~い』

話し合いが全てだが、言い方次第では無理な話でもないだろう。

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