悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中

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101.目撃者の正体

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隣国から帰ってからすぐ目撃者捜しを開始することにした。
鑑定魔法を使ったとしても、学生数は多い。さらに数週間と学園に足を運ばない生徒もいる。特定には時間がかかるだろうと思っていた。だが私の予想はあっさりと裏切られることとなる。

「メリンダ=ブラッカーさんですね?」
4限目の授業。
ガイナスさんと分かれてすぐに二人は現れた。その顔には見覚えがある。ユリアスさんもといグルメマスターの取り巻きの二人だ。
「あなた方は?」
「俺はルシエル=パッカー。そしてこちらが妹のミハエル」
「私に何の用で?」
尋ねておきながら、大体の予想はついていた。
グルメマスターフィットネスの目撃者は彼らなのだろう。鑑定をすればステータス欄にめぼしいスキルがいくつか並んでいた。
「温室の妖精についてお話が」
「妖精?」
妖精って何? この世界って妖精までいるの? 何でもありなのね……。
「ロザリアさん、と言った方がいいでしょうか。あなたのお姉さんについて聞きたいことがあります」
妖精とロザリアーー一体何の関係があるのか。
音まで再現していなかったと聞いたから、てっきり中には入っていないのだと思っていたんだけど。名前を聞かれていたのだろうか。例の貴族がまだ私にたどり着けていなかったから安心しつつあった。だが敵は想像以上に厄介だったという訳か。
「彼女が何か?」
眉間に皺を寄せれば、二人は表情を一つ変えずに言葉を続けた。
「簡単な質問です。あなたのお姉さんはグルメマスターを尊敬していますか?」
「は?」
「グルメマスターを尊敬しておりますか?」
グルメマスターってユリアスさんのことよね?
もしも偽物が存在したとしても、優秀な信者達によって今頃捕らえられているはず。
東西南北ごとに守っているグルメジャンルが違うとか、魔王ポジションの前に四天王が存在するみたいな話も聞いたことがない。
「まぁ人並みには?」
私は一般的な信者ではない。けれど尊敬をしているのは事実だ。
ユリアスさんから聞かされた彼女の辿る道は悲劇でしかなかった。けれど彼女はなんてことないように笑い、あまつさえ敵であるはずの私の手を取るような人なのだ。その上、周囲のほとんどが彼女を神のように崇め奉った状況で平然としている。特に威張ることもなければ、逆に萎縮することもない。ユリアスさんのメンタルは尋常ではないのだ。
もちろん食事に向ける情熱も尊敬対象の一つだ。

だがその質問の重要性が分からない。
グルメマスター信者の中では彼女への尊敬の有無を尋ねるのが挨拶なのだろうか?
一種の文化を築きつつある『グルメマスター』については謎なことばかりなのだ。独特の挨拶が根付いていても不思議ではない。

ここは私も尋ね返すべきなのだろうかと悩んでいるうちに、もう一人の生徒が質問を投げかける。
「では次に。あなたのお姉さんはいつからレオン=ブラッカーの養子に? 私達が調べた彼女の名前はロザリア=リリエンタールでしたが」
「……何が言いたいのです?」
そこまで調べているのか。
舌打ちをしたい気持ちを必死で抑えつけ、代わりに睨みを効かせる。
けれど二人は涼しい顔で、私の問いに答えた。
「我々はただ、あなたのお姉さんはグルメマスターに仇なさないか確認がしたいのです」
「そのために姉のことを調べた、と?」
「いえ。ロザリア=リリエンタールについて初めて調べたのは少し前です」
「どういうこと?」
例の貴族と繋がっているということ? だとすればなぜもっと早くコンタクトを取ってこなかったのか。
いざという時の切り札として取って置いただけ?
どちらにせよ私の平穏な日常に害をなすというのであれば、場所が学園であろうとも容赦はしない。
気を失わせ、記憶の改ざんを行うシミュレーションを行いつつ、対峙すれば彼らは初めて端正な顔を歪めた。
「あなたも、グルメマスターを侮辱するふととき者が現れたのをご存じですよね」
「そういえば?」
少し前にガイナスさんが話していた気がする。
どこかの令嬢がグルメマスターを盛大に侮辱した、と。
どこの世間知らずだと思ったものだが、それと今回のことの繋がりが見えない。
「でもそれとどんな関係が?」
「その女の名前がロザリアだったんですよ。リリエンタール公爵が連れてきた娘で、近々養子として迎えるという話でしたがあの一件で流れたようです」
「っ」
「その女の素性を調べている最中に、あなたのお姉さんに行き着きました」
私が見つからないから他の娘を連れてきたのだろう。
そこから冒険者 ロザリア=リリエンタールに行き着くとは……。私のことはレオンさんとエドルドさんが隠しているはず。恐ろしい調査能力に背筋がゾッとする。
ユリアスさんと知り合う前、グルメマスターは敵に回さない方がいいという私の考えは正しかったということだ。
「まさか妖精の人型に選ばれているとは思いませんでしたが」
「妖精の人型?」
何それ? と首を傾げれば、彼らは丁寧に説明してくれた。
「妖精は人間との接触を計る際、この世界に存在する人間の形を取って姿を見せることがあるのです。その形として、見目麗しいあなたのお姉さんが選ばれたのでしょう」
「なるほど。つまりあなたたちはその姿を利用して、ロザリアがグルメマスターを傷つけないかが心配である、と」
「その通りです」
なんともグルメマスター信者らしい心理である。
ロザリア単体に興味がある訳ではないこと。また彼らがリリエンタール公爵の味方ではなさそうなことに胸をなで下ろす。
「なら安心してちょうだい。姉はあの方がレオンさんに害をなさなければグルメマスターの敵になることはありません。もちろん私も」
信者相手に、条件付き宣言はないだろうとは思う。
機嫌を損ねてしまうかもしれない。
だがこの順位だけは簡単には揺らがない。
ユリアスさんは私の友人だけど、さすがにレオンさんより優先するつもりはない。
けれど彼らは私の返答に表情を緩ませた。
「その言葉を聞いて安心しました」
「いいの?」
「ええ」
「私はレオンさんの敵ならば打つと言っているのよ?」
「ですがそれはあなたの嘘偽りのない答えでしょう?」
「そうだけど……」
「なら構いません。敵になった時に全力で叩けば良いだけですから」
目を細め「裏切らないことを願っています」と告げる彼らはおそらく、メリンダやロザリア、そしてレオンさんとの実力差を理解していることだろう。知っていても敵になることを恐れていない。彼らにとって、グルメマスターは、ユリアスさんは命を賭けてもおしくないと思わせる存在なのだろう。彼らは、食堂を占める多くの信者達とは一線を画しているような気がする。信仰と呼ぶに相応しい何かを胸に秘めている。


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