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104.近況報告にたこ焼きは欠かせない
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「最近どうなんだ?」
「特に変わったこともないですね。相変わらずグルッドベルグ家の方達とは仲良くやってますし、学業面も冒険者業も問題ないです」
今日はレオンさんの元でたこ焼きを焼いている。
具材はたこの他に、ソーセージ・うずらのたまご、もちを用意した。途中で材料がなくならないようにとかなり多めに。それでも足りなければ後で他のものを出せば良いだろう。くるくるとピックで回転させながら近況報告をする。
「例の兄妹は?」
「たまに話しかけられるくらいですかね。彼らも忙しいようですし。互いにあまり深くは踏み込まずって感じです」
「一番仲が良いのはやはりガイナスか」
「あー、それなんですけど」
基本的にレオンさんに隠し事をしてこなかった私だが、大きな問題を隠している。実は今日、それを打ち明ける覚悟でこの場所に立っている。新しいお友達がただの貴族ならすんなり話すところだが、相手はユリアスさん。なかなか打ち明けられずに、ずるずると日ばかりが経過して後数日で二年生になってしまう。
どう説明したものか、と悩む私にレオンさんはブルブルと身体を揺らした。
「もしかして、ガイナスのやつ! 俺の了承もなしに彼氏に!? ロザリアとのことは一度断っているのに、二度目が来た時点で何かおかしいと思っていたんだ。実はメリンダが狙いだったとはな……」
バンっと大きな音と共に立ち上がるレオンさん。
怒り爆発といった感じだが、清々しいほどにかすってすらいない。
「違います。ガイナスさんはお友達です」
「ロザリアにその気がないだけで、ガイナスの方は少なからずロザリアに思いを寄せているかもしれないぞ?」
「ないですね」
記憶を探った所でそんな雰囲気は皆無だ。というかガイナスさんにそんな気持ちがかけらでも存在するのであれば、私はグルッドベルグ家にお泊まりになど行かない。あくまで友人兼師弟関係である。
「だがこの前は装飾品を貰ったと……」
「戦闘中にリボンが切れたからじゃないですか? ガイナスさんだけじゃなく、グルッドベルグ家の皆さんからももらいましたよ。今日のはグルッドベルグ公爵からもらったものですし」
ほらとリボンを見せれば「うううむ」とうなり声をあげる。
「もちろん他に彼氏とかもいませんし、今日話したいのはそのことじゃないので安心してください。ほら、とりあえず麦茶でも飲んで落ち着いて」
コップになみなみと麦茶を注いで差し出せば、レオンさんはそれをグイッと煽った。追加で3杯分注げば、やっと落ち着いたらしい。
「それで、話したいことってなんなんだ?」
レオンさんの様子に、私もようやく腹を据える。
「実は私、グルメマスターとお友達になりまして」
「は?」
「詳しくはちょっと話せないんですけど。でも私、ガイナスさん以外にも学園にお友達がいるので安心して欲しいというか……」
改めて報告すると物凄く恥ずかしい。
でもガイナスさんは私よりも一年早く卒業してしまうのだ。ずっとレオンさんもそのことを心配しており、信者兄妹と知り合ってからも普通の友人関係とは異なるものであることを心配していた。ユリアスさんと知り合ったのは私が転生者で、同じ知識を持っていたから。正常なルートではないし、相手がレオンさんとはいえ詳しくは説明出来そうもない。だから本当は報告するつもりはなかった。でも心配はかけたくなかったのだ。打ち明けた所で秘匿事項は多いし、心配を拭えるかどうかは分からないけれど。
「そうか」
レオンさんはぽつりと呟いただけ。
それが余計に恥ずかしくて顔はますます赤くなっていく。でも気にしたら負けだ。余計な穴を掘らないように口を噤み、焼き上がったたこやきをお皿にのせていく。山を築き、上からソースとマヨネーズをかける。頂上からかつおぶしと青のりを振りかけて完成だ。
それをズイッと押し出せば、レオンさんは無言でそれらを口の中に放り込んでいった。
私もレオンさんと同じように焼き上がったたこ焼きを口に放り込んでいく。
「あぐっ」
「ほらお茶飲め」
「あいがほおごあいあう」
レオンさんから差し出されたコップの中身を空にすれば、新たにお茶がなみなみと注がれる。
「相手がグルメマスターなのは驚いたが、まぁ仲良くやっているならいいと思う」
「……いい人なんですよ。私の力を知っても怯えないし」
「見せたのか?」
「はい」
「そうか……」
私の行動に、レオンさんは目を見開いた。けれど深く突っ込むことはなかった。代わりにソースで汚れたお皿を掲げ、お決まりの言葉を吐く。
「おかわりくれ」
「もう食べたんですか!?」
「俺の腹のキャパシティーを舐めるな! 足りん!」
早くない? 半分の量しかない私だってまだ食べ終わってないのに……。
生地を流し込み、私の残りの分はレオンさんのお皿の上に乗せる。
「焼くのにそこそこ時間かかるんですよ……。たこ焼き器もう少し大きいの用意すれば良かった」
「俺も手伝おう」
「ぼろぼろになりそうなので遠慮します」
文句を言いつつも、レオンさんの手伝いを断る。
だってせっかく南方に来る度にたこ焼きを作るって役目が出来たのに、レオンさんも作れるようになったら私の役目がなくなっちゃうじゃない。
たこ焼き器置いて行ってくれ~なんて言われたら、レオンさんが好きな時に作れるようになっちゃうし。二人だけの水入らずの時間が短くなってしまう。食事をして、なんてことのない話をするだけだけど、私にとっては貴重な時間なのだ。
「ところでレオンさんの方はどうなんですか?」
「変わりはないな~。相変わらずその服どうしたんだって聞かれるくらいで」
服を摘まみながら答えるレオンさんが着ているのは黄色のアロハだ。
私が来る度に着ていると思っていたが、普段から愛用しているらしい。
この世界の人達は本当にアロハ好きのようだ。
この国で目にすることはないのが不思議なくらい。
「レオンさんもエドルドさんも本当にアロハシャツ好きですよね……」
呆れた声で呟けば「ロザリアからのプレゼントはどれも大事にしているぞ?」なんて、たこ焼きで満たされた口をもごもごと動かしながら当たり前のように答えてくれた。
レオンさんって本当に親馬鹿だなぁ。
でも嬉しくなってしまう私も相当なファザコンなのだ。
「特に変わったこともないですね。相変わらずグルッドベルグ家の方達とは仲良くやってますし、学業面も冒険者業も問題ないです」
今日はレオンさんの元でたこ焼きを焼いている。
具材はたこの他に、ソーセージ・うずらのたまご、もちを用意した。途中で材料がなくならないようにとかなり多めに。それでも足りなければ後で他のものを出せば良いだろう。くるくるとピックで回転させながら近況報告をする。
「例の兄妹は?」
「たまに話しかけられるくらいですかね。彼らも忙しいようですし。互いにあまり深くは踏み込まずって感じです」
「一番仲が良いのはやはりガイナスか」
「あー、それなんですけど」
基本的にレオンさんに隠し事をしてこなかった私だが、大きな問題を隠している。実は今日、それを打ち明ける覚悟でこの場所に立っている。新しいお友達がただの貴族ならすんなり話すところだが、相手はユリアスさん。なかなか打ち明けられずに、ずるずると日ばかりが経過して後数日で二年生になってしまう。
どう説明したものか、と悩む私にレオンさんはブルブルと身体を揺らした。
「もしかして、ガイナスのやつ! 俺の了承もなしに彼氏に!? ロザリアとのことは一度断っているのに、二度目が来た時点で何かおかしいと思っていたんだ。実はメリンダが狙いだったとはな……」
バンっと大きな音と共に立ち上がるレオンさん。
怒り爆発といった感じだが、清々しいほどにかすってすらいない。
「違います。ガイナスさんはお友達です」
「ロザリアにその気がないだけで、ガイナスの方は少なからずロザリアに思いを寄せているかもしれないぞ?」
「ないですね」
記憶を探った所でそんな雰囲気は皆無だ。というかガイナスさんにそんな気持ちがかけらでも存在するのであれば、私はグルッドベルグ家にお泊まりになど行かない。あくまで友人兼師弟関係である。
「だがこの前は装飾品を貰ったと……」
「戦闘中にリボンが切れたからじゃないですか? ガイナスさんだけじゃなく、グルッドベルグ家の皆さんからももらいましたよ。今日のはグルッドベルグ公爵からもらったものですし」
ほらとリボンを見せれば「うううむ」とうなり声をあげる。
「もちろん他に彼氏とかもいませんし、今日話したいのはそのことじゃないので安心してください。ほら、とりあえず麦茶でも飲んで落ち着いて」
コップになみなみと麦茶を注いで差し出せば、レオンさんはそれをグイッと煽った。追加で3杯分注げば、やっと落ち着いたらしい。
「それで、話したいことってなんなんだ?」
レオンさんの様子に、私もようやく腹を据える。
「実は私、グルメマスターとお友達になりまして」
「は?」
「詳しくはちょっと話せないんですけど。でも私、ガイナスさん以外にも学園にお友達がいるので安心して欲しいというか……」
改めて報告すると物凄く恥ずかしい。
でもガイナスさんは私よりも一年早く卒業してしまうのだ。ずっとレオンさんもそのことを心配しており、信者兄妹と知り合ってからも普通の友人関係とは異なるものであることを心配していた。ユリアスさんと知り合ったのは私が転生者で、同じ知識を持っていたから。正常なルートではないし、相手がレオンさんとはいえ詳しくは説明出来そうもない。だから本当は報告するつもりはなかった。でも心配はかけたくなかったのだ。打ち明けた所で秘匿事項は多いし、心配を拭えるかどうかは分からないけれど。
「そうか」
レオンさんはぽつりと呟いただけ。
それが余計に恥ずかしくて顔はますます赤くなっていく。でも気にしたら負けだ。余計な穴を掘らないように口を噤み、焼き上がったたこやきをお皿にのせていく。山を築き、上からソースとマヨネーズをかける。頂上からかつおぶしと青のりを振りかけて完成だ。
それをズイッと押し出せば、レオンさんは無言でそれらを口の中に放り込んでいった。
私もレオンさんと同じように焼き上がったたこ焼きを口に放り込んでいく。
「あぐっ」
「ほらお茶飲め」
「あいがほおごあいあう」
レオンさんから差し出されたコップの中身を空にすれば、新たにお茶がなみなみと注がれる。
「相手がグルメマスターなのは驚いたが、まぁ仲良くやっているならいいと思う」
「……いい人なんですよ。私の力を知っても怯えないし」
「見せたのか?」
「はい」
「そうか……」
私の行動に、レオンさんは目を見開いた。けれど深く突っ込むことはなかった。代わりにソースで汚れたお皿を掲げ、お決まりの言葉を吐く。
「おかわりくれ」
「もう食べたんですか!?」
「俺の腹のキャパシティーを舐めるな! 足りん!」
早くない? 半分の量しかない私だってまだ食べ終わってないのに……。
生地を流し込み、私の残りの分はレオンさんのお皿の上に乗せる。
「焼くのにそこそこ時間かかるんですよ……。たこ焼き器もう少し大きいの用意すれば良かった」
「俺も手伝おう」
「ぼろぼろになりそうなので遠慮します」
文句を言いつつも、レオンさんの手伝いを断る。
だってせっかく南方に来る度にたこ焼きを作るって役目が出来たのに、レオンさんも作れるようになったら私の役目がなくなっちゃうじゃない。
たこ焼き器置いて行ってくれ~なんて言われたら、レオンさんが好きな時に作れるようになっちゃうし。二人だけの水入らずの時間が短くなってしまう。食事をして、なんてことのない話をするだけだけど、私にとっては貴重な時間なのだ。
「ところでレオンさんの方はどうなんですか?」
「変わりはないな~。相変わらずその服どうしたんだって聞かれるくらいで」
服を摘まみながら答えるレオンさんが着ているのは黄色のアロハだ。
私が来る度に着ていると思っていたが、普段から愛用しているらしい。
この世界の人達は本当にアロハ好きのようだ。
この国で目にすることはないのが不思議なくらい。
「レオンさんもエドルドさんも本当にアロハシャツ好きですよね……」
呆れた声で呟けば「ロザリアからのプレゼントはどれも大事にしているぞ?」なんて、たこ焼きで満たされた口をもごもごと動かしながら当たり前のように答えてくれた。
レオンさんって本当に親馬鹿だなぁ。
でも嬉しくなってしまう私も相当なファザコンなのだ。
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