4 / 48
第4話:かつての友人達との再会です
しおりを挟む
あと少しで入学式が始まる時間が迫っているのだ。ただ、私はもう走る事は出来ない。このままでは、ブラック様まで入学式に遅刻してしまう。
「ブラック様、私はその…病気で走る事が出来ません。どうかお先にホールに行ってください」
入学式に遅刻するだなんて、さすがにまずいだろう。そう思って伝えたのだが…
「俺は病気の令嬢を置いて自分だけさっさとホールに行くほど、薄情な人間ではない」
そう言うと、急に私を抱きかかえたのだ。
「わ…私の事はどうか気にしないで下さい。運んでいただくだなんて、申し訳ないですわ」
さすがに公爵令息のブラック様に抱きかかえられるだなんて、申し訳なさすぎる。
「そんな事を言っている場合ではないだろう。それにしても君、随分と軽いんだな…」
両親が亡くなってから、ろくなものを食べていないうえ、既に余命わずかな私は、確かに骨と皮しかない。それにしても、ブラック様の腕の中はとても温かいのね…
両親が亡くなってから、こんな風に誰かの温もりに触れる事なんてなかったのだ。なんだか人の温もりが心地よくて、涙が込みあげてきた。ダメよ、泣いたら。
必死に涙を堪え、笑顔を作る。
「さあ、ホールに着いたよ。それじゃあ俺は、これで」
「わざわざ運んでくださり、ありがとうございました」
急ぎ足でホールに入って行くブラック様に笑顔で手を振った。すると、困った顔で手を挙げてくれたブラック様。今日は2回も彼に助けられてしまった。やっぱり素敵な人ね。私の為にホールまで運んでくださるだなんて。
おっといけない、ブラック様に見とれている場合ではない。私も急いでホールへと入っていき、空いている席に座った。丁度席に着いたと同時に、入学式が始まった。学院長先生の話から始まり、在校生代表、新入生代表へと続く。ちなみに新入生代表は、ブラック様だった。
ブラック様はこの国で一番権力を持った大貴族でもあるサンディオ公爵家の嫡男で、勉学も武術にも優れていらっしゃるらしい。さらにお姉様は王太子妃殿下で、既にお子様も2人いらっしゃる。
まさに雲の上の存在なのだ。本来なら私が話しかけていい相手ではない事くらい分かっている。それでも私は、ブラック様と残り少ない余生を過ごしたいと思っている。私の我が儘だという事は分かっているけれど、どうせもうすぐ死ぬのだ。
それならせめて、最後くらいいい思い出を作って死にたいのだ。ブラック様も、私の様な見た目がおばあちゃんの様な令嬢を間違っても好きになる事はないだろう。それなら少しだけ、ほんの少しだけでいいから、彼と一緒に過ごしたい。そう思っている。
もちろん、ブラック様が私の事を拒むのなら、その時は引き下がるつもりだ。
そんな事を考えている間に、入学式が終わり、それぞれの教室へと向かう。基本的にクラス分けは、爵位で決まるため、ブラック様は別のクラスだ。とりあえず自分のクラスに向かうと
「ユリア、あなたと同じクラスだなんて、本当に最悪…」
私の顔を見た瞬間、露骨に嫌そうな顔をするのは、カルディアだ。まさか意地悪のカルディアと同じクラスだなんて…て、同じ家に住んでいるのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
とにかくカルディアの機嫌を損ねると大変なので、クラスでは大人しく過ごすことにしよう。そう思い、そっと自分の席に座る。すると
“久しぶりね、ユリア。元気に…している様子はないわね。大丈夫?顔色がかなり悪いわよ“
“あなたのご両親が亡くなってからしばらくしてから、ずっと姿を見せなかったでしょう?伯爵家に出向いても、あなたは病気で寝ていると言われるばかりで、全く会わせてもらえなかったの。ずっと閉じ込められていると思っていたけれど、本当に病気だったのね”
私の元に来てくれたのは、かつての友人達だ。カルディアに気を使っているのか、皆小声で話しかけてきてくれている。つい私も小声になった。
“皆久しぶりね、ええ…病気と言うか…私ね、もう先が長くないの。だからせめて貴族学院で楽しい思い出を作りたくて”
「そんな…せっかく会えたのに…」
友人たちの瞳から一気に涙が溢れ出す。私の為に泣いてくれる人がいるだなんて…そう思ったら、私も涙が込みあげてきた。でも、必死に堪え、笑顔を作る。
「皆、泣かないで。私ね、今日皆に会えた事が、すごく嬉しいの。もう私の事なんて、忘れちゃったのだと思っていたけれど、そうではなかったのね」
「誰があなたの事を忘れるものですか!ずっと心配していたのよ。それにしてもユリアは、どんな時でも笑顔なのね。今日あなたの太陽の様な笑顔を見たら、あの頃の記憶が一気に蘇ったわ。ユリアはいつも笑顔で、あなたの顔を見ると皆元気が出るの。知っていた?あなたの笑顔に、何人もの令嬢が助けられた事を。私のその1人よ」
「私もよ。ユリア、あなたの残り少ない時間、私達にも頂戴。たくさんの思い出を作りましょう」
「ありがとう、皆」
私は残り少ない余生を、ブラック様に全て注ぎ込もうと思っていた。でも、私の笑顔を好きだと言ってくれるかつての友人達…いいえ、大切な私の友人たちと、残り少ない時間を大切にしたい。
もしかしたら神様が、今まで苦労した分、残り僅かな時間を私の大切な人たちと一緒に過ごせるようにしてくれたのかもしれない。きっとそうね。
「ブラック様、私はその…病気で走る事が出来ません。どうかお先にホールに行ってください」
入学式に遅刻するだなんて、さすがにまずいだろう。そう思って伝えたのだが…
「俺は病気の令嬢を置いて自分だけさっさとホールに行くほど、薄情な人間ではない」
そう言うと、急に私を抱きかかえたのだ。
「わ…私の事はどうか気にしないで下さい。運んでいただくだなんて、申し訳ないですわ」
さすがに公爵令息のブラック様に抱きかかえられるだなんて、申し訳なさすぎる。
「そんな事を言っている場合ではないだろう。それにしても君、随分と軽いんだな…」
両親が亡くなってから、ろくなものを食べていないうえ、既に余命わずかな私は、確かに骨と皮しかない。それにしても、ブラック様の腕の中はとても温かいのね…
両親が亡くなってから、こんな風に誰かの温もりに触れる事なんてなかったのだ。なんだか人の温もりが心地よくて、涙が込みあげてきた。ダメよ、泣いたら。
必死に涙を堪え、笑顔を作る。
「さあ、ホールに着いたよ。それじゃあ俺は、これで」
「わざわざ運んでくださり、ありがとうございました」
急ぎ足でホールに入って行くブラック様に笑顔で手を振った。すると、困った顔で手を挙げてくれたブラック様。今日は2回も彼に助けられてしまった。やっぱり素敵な人ね。私の為にホールまで運んでくださるだなんて。
おっといけない、ブラック様に見とれている場合ではない。私も急いでホールへと入っていき、空いている席に座った。丁度席に着いたと同時に、入学式が始まった。学院長先生の話から始まり、在校生代表、新入生代表へと続く。ちなみに新入生代表は、ブラック様だった。
ブラック様はこの国で一番権力を持った大貴族でもあるサンディオ公爵家の嫡男で、勉学も武術にも優れていらっしゃるらしい。さらにお姉様は王太子妃殿下で、既にお子様も2人いらっしゃる。
まさに雲の上の存在なのだ。本来なら私が話しかけていい相手ではない事くらい分かっている。それでも私は、ブラック様と残り少ない余生を過ごしたいと思っている。私の我が儘だという事は分かっているけれど、どうせもうすぐ死ぬのだ。
それならせめて、最後くらいいい思い出を作って死にたいのだ。ブラック様も、私の様な見た目がおばあちゃんの様な令嬢を間違っても好きになる事はないだろう。それなら少しだけ、ほんの少しだけでいいから、彼と一緒に過ごしたい。そう思っている。
もちろん、ブラック様が私の事を拒むのなら、その時は引き下がるつもりだ。
そんな事を考えている間に、入学式が終わり、それぞれの教室へと向かう。基本的にクラス分けは、爵位で決まるため、ブラック様は別のクラスだ。とりあえず自分のクラスに向かうと
「ユリア、あなたと同じクラスだなんて、本当に最悪…」
私の顔を見た瞬間、露骨に嫌そうな顔をするのは、カルディアだ。まさか意地悪のカルディアと同じクラスだなんて…て、同じ家に住んでいるのだから、仕方がないと言えば仕方がない。
とにかくカルディアの機嫌を損ねると大変なので、クラスでは大人しく過ごすことにしよう。そう思い、そっと自分の席に座る。すると
“久しぶりね、ユリア。元気に…している様子はないわね。大丈夫?顔色がかなり悪いわよ“
“あなたのご両親が亡くなってからしばらくしてから、ずっと姿を見せなかったでしょう?伯爵家に出向いても、あなたは病気で寝ていると言われるばかりで、全く会わせてもらえなかったの。ずっと閉じ込められていると思っていたけれど、本当に病気だったのね”
私の元に来てくれたのは、かつての友人達だ。カルディアに気を使っているのか、皆小声で話しかけてきてくれている。つい私も小声になった。
“皆久しぶりね、ええ…病気と言うか…私ね、もう先が長くないの。だからせめて貴族学院で楽しい思い出を作りたくて”
「そんな…せっかく会えたのに…」
友人たちの瞳から一気に涙が溢れ出す。私の為に泣いてくれる人がいるだなんて…そう思ったら、私も涙が込みあげてきた。でも、必死に堪え、笑顔を作る。
「皆、泣かないで。私ね、今日皆に会えた事が、すごく嬉しいの。もう私の事なんて、忘れちゃったのだと思っていたけれど、そうではなかったのね」
「誰があなたの事を忘れるものですか!ずっと心配していたのよ。それにしてもユリアは、どんな時でも笑顔なのね。今日あなたの太陽の様な笑顔を見たら、あの頃の記憶が一気に蘇ったわ。ユリアはいつも笑顔で、あなたの顔を見ると皆元気が出るの。知っていた?あなたの笑顔に、何人もの令嬢が助けられた事を。私のその1人よ」
「私もよ。ユリア、あなたの残り少ない時間、私達にも頂戴。たくさんの思い出を作りましょう」
「ありがとう、皆」
私は残り少ない余生を、ブラック様に全て注ぎ込もうと思っていた。でも、私の笑顔を好きだと言ってくれるかつての友人達…いいえ、大切な私の友人たちと、残り少ない時間を大切にしたい。
もしかしたら神様が、今まで苦労した分、残り僅かな時間を私の大切な人たちと一緒に過ごせるようにしてくれたのかもしれない。きっとそうね。
126
あなたにおすすめの小説
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
【完結】地味な私と公爵様
ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。
端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。
そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。
...正直私も信じていません。
ラエル様が、私を溺愛しているなんて。
きっと、きっと、夢に違いありません。
お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
【完結】触れた人の心の声が聞こえてしまう私は、王子様の恋人のフリをする事になったのですが甘々過ぎて困っています!
Rohdea
恋愛
──私は、何故か触れた人の心の声が聞こえる。
見た目だけは可愛い姉と比べられて来た伯爵家の次女、セシリナは、
幼い頃に自分が素手で触れた人の心の声が聞こえる事に気付く。
心の声を聞きたくなくて、常に手袋を装着し、最小限の人としか付き合ってこなかったセシリナは、
いつしか“薄気味悪い令嬢”と世間では呼ばれるようになっていた。
そんなある日、セシリナは渋々参加していたお茶会で、
この国の王子様……悪い噂が絶えない第二王子エリオスと偶然出会い、
つい彼の心の声を聞いてしまう。
偶然聞いてしまったエリオスの噂とは違う心の声に戸惑いつつも、
その場はどうにかやり過ごしたはずだったのに……
「うん。だからね、君に僕の恋人のフリをして欲しいんだよ」
なぜか後日、セシリナを訪ねて来たエリオスは、そんなとんでもないお願い事をして来た!
何やら色々と目的があるらしい王子様とそうして始まった仮の恋人関係だったけれど、
あれ? 何かがおかしい……
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語
婚約解消は諦めましたが、平穏な生活を諦めるつもりはありません!
風見ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢である、私、リノア・ブルーミングはラルフ・クラーク辺境伯から求婚され、現在、結婚前のお試し期間として彼の屋敷に滞在しています。
滞在当初に色々な問題が起こり、婚約解消したくなりましたが、ラルフ様が承諾して下さらない為、諦める事に決めて、自分なりに楽しい生活を送ろうと考えたのですが、仮の嫁姑バトルや別邸のメイドに嫌がらせをされたり、なんだかんだと心が落ち着きません。
妻になると自分が決めた以上、ラルフ様や周りの手を借りながらも自分自身で平穏を勝ち取ろうと思います!
※拙作の「婚約解消ですか? 頼む相手を間違えていますよ?」の続編となります。
細かい設定が気にならない方は未読でも読めるかと思われます。
※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるく、ご都合主義です。クズが多いです。ご注意ください
ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく
犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。
「絶対駄目ーー」
と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。
何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。
募集 婿入り希望者
対象外は、嫡男、後継者、王族
目指せハッピーエンド(?)!!
全23話で完結です。
この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。
【完結】初恋の人に嫁ぐお姫様は毎日が幸せです。
くまい
恋愛
王国の姫であるヴェロニカには忘れられない初恋の人がいた。その人は王族に使える騎士の団長で、幼少期に兄たちに剣術を教えていたのを目撃したヴェロニカはその姿に一目惚れをしてしまった。
だが一国の姫の結婚は、国の政治の道具として見知らぬ国の王子に嫁がされるのが当たり前だった。だからヴェロニカは好きな人の元に嫁ぐことは夢物語だと諦めていた。
そしてヴェロニカが成人を迎えた年、王妃である母にこの中から結婚相手を探しなさいと釣書を渡された。あぁ、ついにこの日が来たのだと覚悟を決めて相手を見定めていると、最後の釣書には初恋の人の名前が。
これは最後のチャンスかもしれない。ヴェロニカは息を大きく吸い込んで叫ぶ。
「私、ヴェロニカ・エッフェンベルガーはアーデルヘルム・シュタインベックに婚約を申し込みます!」
(小説家になろう、カクヨミでも掲載中)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる