前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

第78話：事故に遭いました

「それではまた明日」

「すまない、今日はこの後アラン殿下と最終打ち合わせが入っていて。ソフィーナを送っていくことが出来ない。もしソフィーナに何かあったら…やっぱりアラン殿下には少し時間を遅らせてもらって、ソフィーナを送ってから…」

「ファラオ、俺も一緒にいる事を忘れている様だな。俺がしっかりソフィーナを守るから、ファラオは安心してアラン殿下との打ち合わせに望んでくれ。それじゃあ、また明日」

「待って、ソフィーナ…」

　お兄様に連れられ、馬車へと乗り込んだ。そしてお兄様の指示ですぐに出発してしまった。

　ファラオ様、心配そうな顔をしていたけれど、よかったのかしら？

「ソフィーナ、そんなに心配そうな顔をしなくても大丈夫だよ。ファラオはソフィーナの事になると、冷静は判断が出来なくなるから本当に困るよ。そもそも王宮から我が家まで、馬車で10分。大通りを通って帰るのだから、よほどのことがない限り事故なんて起きやしないのに…」

　はぁっと、ため息をつくお兄様。確かに私が無理を言って悪天候の中、森の中に入るという愚かなことをしなければ、事故なんて普通は起きないだろう。

　あの事故のお陰で私は過去の記憶を取り戻し、まともな人間になれたのだが…未だにあの時の事故に巻き込んだ使用人には、申し訳なく思っている。

「ソフィーナ、どうしたのだい？悲しそうな顔をして。見てごらん。ちょうど夕日が沈みかかっていて、街が真っ赤に染まっているよ」

　お兄様が窓の外を見つめている。そんなお兄様も、夕日に照らされて全体的に赤く染まっていた。

「本当に綺麗ですわね。街が真っ赤ですわ。お兄様のお顔も…きゃぁぁぁぁ」

　窓の外を見た時だった。急に大きな揺れに襲われたのだ。


「…ナ、大丈夫か？ソフィーナ！！」

「お兄様…はい、大丈夫…痛い！！」

　倒れている私を抱き起してくれたお兄様。私も体を起こそうとしたのだが、右足に激痛が走ったのだ。私の右足から、大量の血が出ていた。どうやら何かの拍子で、足を切ってしまったようだ。

「なんて事だ…すぐに医者を！大丈夫だ、ソフィーナ。おい、一体何が起こったんだ！」

「お坊ちゃま、お嬢様、申し訳ございません。どうやら馬車の車輪が外れてしまった様で！お嬢様！何てことでしょう。今すぐ他の馬車を手配いたしますので」

「車輪が外れただって？そんなバカな事！もしかしたら何者かによって、細工されていたのかもしれない。至急調査を。君たち、怪我はないか？」

「はい、私共は大丈夫です。それよりもお嬢様の止血を行わないと！」

「ソフィーナ様、ソリティオ様、どうか我が家へどうぞ…なんて事でしょう、すぐに医者の手配を！」

「ソラ様」

「ソラ嬢。ルドルフ殿も！すまないが、ソフィーナの怪我だけ見ていただけるだろうか？」

　どうやらソラ様のお屋敷の目の前で事故を起こしてしまった様で、使用人から話を聞きつけたソラ様とたまたま来ていたルドルフ様が、飛んできてくださったのだ。そのまま使用人たちによって運ばれた私は、ソラ様の家の専属医師によって治療を受けた。

「傷口は少し深めですが、縫い合わせておきましたのでもう大丈夫ですよ。ただ、傷が治るまでの２週間程度は、絶対安静でお願いいたします」

「２週間も安静にですか？」

　２週間後と言えば、ちょうどアラン殿下とアイリ殿下が帰国されるくらいの頃だ。この２週間が大詰めなのに。私が参加できないだなんて…

「ソフィーナ、そんな顔をしないでくれ。もうほとんどこの国の案内は終わっているし、後は条件を詰めていく段階だ。俺とファラオ、アレックとセシルで何とかするから、ソフィーナは治療に専念してくれ」

「ですがお兄様、私がいないとアイリ殿下は…」

「大丈夫だよ、さすがのアイリ殿下も、けが人を連れてこいとまでは言わないだろうし」

「分かりましたわ、後はよろしくお願いいたします。ソラ様、助けていただきありがとうございます。お陰ですぐに治療を受ける事が出来ましたわ」

「そんな事は気にしないで下さい。それにしても、どうして馬車の車輪が外れたのでしょうね。本来点検は、入念に行っているはずですのに…」

　確かにソラ様の言う通りだ。私達が乗る馬車は、毎日私たちが乗るたびに、入念にチェックが行われているはず。それなのに、車輪が外れるだなんて…

「ソリティオ殿、ちょっとよろしいですか？」

「ルドルフ殿、どうかされましたか？」

「ええ、ちょっと見てもらいたいものがございまして」

　何やらこちらをチラチラ見ながら、お兄様に目配せをしているルドルフ様。きっと今回の事故の件で、何か分かった事があったのだろう。