21 / 53
第21話:ジャンヌは何も変わっていない~グラディオン視点~
しおりを挟む
騎士団長から話しがあった日の夜。
「グラディオン、ディノス侯爵家のシャーロン殿と、マリアーズ伯爵家のジャンヌ嬢が正式に婚約破棄したそうだぞ」
「ええ、知っていますよ。今日騎士団長から話しは伺いました」
「まあ、そうだったのね。シャーロン殿、婚約者のジャンヌ嬢を蔑ろにして、いつも令嬢と一緒にいたものね。正直夫人たちからは、シャーロン殿の評判は最悪だったわ。あんな女好きな男と婚約させられたジャンヌ嬢が可哀そうだって。ただ、令嬢たちは美しいシャーロン殿の味方をしていた様だけれどね。ジャンヌ嬢、相当苦労したのではないかしら?可哀そうに…」
「やっぱりジャンヌは、シャーロンから酷い扱いを受けていたのですね。どうして教えてくれなかったのですか?そんな扱いを受けていると知ったら俺が…いいえ、何でもありません」
俺が何とかしたのに!そう言いかけて、口をつぐんだ。社交界からずっと目を背けて来た俺が、そんな事を言う権利はない。
「グラディオンは、ジャンヌ嬢を慕っていたものな…彼女は今、物凄く傷ついているだろう。グラディオン、騎士団時代に随分お世話になったのだろう。今度はグラディオンが、ジャンヌ嬢を助けてあげられるといいな」
そう言って俺の肩を叩く父上。俺がジャンヌを助けてやるか…
俺にジャンヌを助ける事なんて、出来るのだろうか。そもそもジャンヌがシャーロンと婚約したのは、あの事件がきっかけだったと聞いた。もしあの時、俺が真実を話していれば、ジャンヌは4年も辛い思いをしなかったかもしれないのに…
俺は一体何をしていたのだろう。ジャンヌの笑顔を守りたいと思っての行動が、逆にジャンヌから笑顔を奪っていただなんて…
ジャンヌに対して、申し訳ない気持ちになった。
でも、過去を振り返っても仕方がない。近々ジャンヌは、騎士団に再入団する事が決まっているのだ。少しでもジャンヌが笑顔を取り戻せるように、俺は全力でジャンヌをサポートしよう。
そう心に誓ったのだ。
そして1週間後、ジャンヌが再入団してきた。美しいオレンジ色の髪を一つに束ねたジャンヌ。あの頃も可愛らしかったが、垢ぬけて物凄く綺麗になっていた。
ただ、変わったのは見た目だけで、中身はちっとも変っていない。あっという間に俺の部隊にも溶け込んでいた。
そんなジャンヌだが、4年間騎士団から離れていた為、練習メニューに付いてこられなかったのだ。それでも剣の腕はほとんど鈍っていなかったうえ、あっと言う間に勘を取り戻したのだ。
さすが騎士団長の娘だな。そう思っていたのだが、当のジャンヌは不安な様で、朝から晩まで必死に稽古に励んでいた。さらに朝早く来て、たった1人で準備をしたりしていたのだ。
そんな事はしなくてもいい、そう伝えたのだが。
“皆の役に立ちたい。私にはもう、騎士団しか居場所がないから”
今にも泣きそうな顔で、ジャンヌがそう叫んだのだ。ジャンヌは一体、この4年でどれほど傷つき、悲しんできたのだろう。シャーロンから冷遇され、1人で耐えてきたのだろう。
俺があの時、本当の事を話していれば、ジャンヌは騎士団を辞めてシャーロンと婚約する事もなかったのに…
「ジャンヌ、俺のせいですまない…」
気が付くと、そんな事を呟いていたのだ。一体何を謝っているの?そう言わんばかりに、目を大きく見開き固まっているジャンヌ。しまった、ジャンヌを混乱させてしまった。
気を取り直して、改めて準備や片づけは皆でやる事や、自主練は俺が付き合う事を提案したのだが、なぜか自主練は断られてしまったのだ。
なぜだろう…ジャンヌは俺と距離を置こうとしている気がする。もしかしてジャンヌは、俺の事が気に入らないのだろうか?そんな不安が俺を襲う。
俺の不安を他所に、必死に稽古に励むジャンヌ。どんどんうちの隊員たちを追い抜かしていくのだ。
さらにジャンヌは、周りをよく見ている。少しの隊員の異変もいち早く察知し、対処するのだ。その姿は、昔のお節介で世話焼きのジャンヌそのものだった。
真剣にやるところは真剣にやり、休憩時間は皆を和ませてくれるジャンヌは、いつの間にか隊の中心人物になっていた。
ジャンヌは4年前と、ちっとも変っていない。やっぱりジャンヌは最高だ。
ただ、早く強くなりたいのか、朝から晩まで自主練をして、手に酷い怪我を負っていたり、副隊長に挑んで怪我をしたり、昔のジャンヌではあまり考えられない様な、無謀な事をする事もある。
でも、そんな必死なジャンヌが可愛くてたまらない。いつも完璧だと思っていたジャンヌも、こんな無謀な事をするのだな。そう思ったら、なんだかジャンヌが身近に感じられたような気がした。
ジャンヌと過ごす日々は、楽しくてたまらない。ジャンヌがいてくれるだけで、俺の心は満たされるのだ。
これからも俺は、ジャンヌのこの笑顔を守っていきたい。4年間傷つき続けたジャンヌが、これからはずっと笑顔でいられる様に、俺がサポートしたい。
そう強く思ったのだった。
※次回、ジャンヌ視点に戻ります。
よろしくお願いしますm(__)m
「グラディオン、ディノス侯爵家のシャーロン殿と、マリアーズ伯爵家のジャンヌ嬢が正式に婚約破棄したそうだぞ」
「ええ、知っていますよ。今日騎士団長から話しは伺いました」
「まあ、そうだったのね。シャーロン殿、婚約者のジャンヌ嬢を蔑ろにして、いつも令嬢と一緒にいたものね。正直夫人たちからは、シャーロン殿の評判は最悪だったわ。あんな女好きな男と婚約させられたジャンヌ嬢が可哀そうだって。ただ、令嬢たちは美しいシャーロン殿の味方をしていた様だけれどね。ジャンヌ嬢、相当苦労したのではないかしら?可哀そうに…」
「やっぱりジャンヌは、シャーロンから酷い扱いを受けていたのですね。どうして教えてくれなかったのですか?そんな扱いを受けていると知ったら俺が…いいえ、何でもありません」
俺が何とかしたのに!そう言いかけて、口をつぐんだ。社交界からずっと目を背けて来た俺が、そんな事を言う権利はない。
「グラディオンは、ジャンヌ嬢を慕っていたものな…彼女は今、物凄く傷ついているだろう。グラディオン、騎士団時代に随分お世話になったのだろう。今度はグラディオンが、ジャンヌ嬢を助けてあげられるといいな」
そう言って俺の肩を叩く父上。俺がジャンヌを助けてやるか…
俺にジャンヌを助ける事なんて、出来るのだろうか。そもそもジャンヌがシャーロンと婚約したのは、あの事件がきっかけだったと聞いた。もしあの時、俺が真実を話していれば、ジャンヌは4年も辛い思いをしなかったかもしれないのに…
俺は一体何をしていたのだろう。ジャンヌの笑顔を守りたいと思っての行動が、逆にジャンヌから笑顔を奪っていただなんて…
ジャンヌに対して、申し訳ない気持ちになった。
でも、過去を振り返っても仕方がない。近々ジャンヌは、騎士団に再入団する事が決まっているのだ。少しでもジャンヌが笑顔を取り戻せるように、俺は全力でジャンヌをサポートしよう。
そう心に誓ったのだ。
そして1週間後、ジャンヌが再入団してきた。美しいオレンジ色の髪を一つに束ねたジャンヌ。あの頃も可愛らしかったが、垢ぬけて物凄く綺麗になっていた。
ただ、変わったのは見た目だけで、中身はちっとも変っていない。あっという間に俺の部隊にも溶け込んでいた。
そんなジャンヌだが、4年間騎士団から離れていた為、練習メニューに付いてこられなかったのだ。それでも剣の腕はほとんど鈍っていなかったうえ、あっと言う間に勘を取り戻したのだ。
さすが騎士団長の娘だな。そう思っていたのだが、当のジャンヌは不安な様で、朝から晩まで必死に稽古に励んでいた。さらに朝早く来て、たった1人で準備をしたりしていたのだ。
そんな事はしなくてもいい、そう伝えたのだが。
“皆の役に立ちたい。私にはもう、騎士団しか居場所がないから”
今にも泣きそうな顔で、ジャンヌがそう叫んだのだ。ジャンヌは一体、この4年でどれほど傷つき、悲しんできたのだろう。シャーロンから冷遇され、1人で耐えてきたのだろう。
俺があの時、本当の事を話していれば、ジャンヌは騎士団を辞めてシャーロンと婚約する事もなかったのに…
「ジャンヌ、俺のせいですまない…」
気が付くと、そんな事を呟いていたのだ。一体何を謝っているの?そう言わんばかりに、目を大きく見開き固まっているジャンヌ。しまった、ジャンヌを混乱させてしまった。
気を取り直して、改めて準備や片づけは皆でやる事や、自主練は俺が付き合う事を提案したのだが、なぜか自主練は断られてしまったのだ。
なぜだろう…ジャンヌは俺と距離を置こうとしている気がする。もしかしてジャンヌは、俺の事が気に入らないのだろうか?そんな不安が俺を襲う。
俺の不安を他所に、必死に稽古に励むジャンヌ。どんどんうちの隊員たちを追い抜かしていくのだ。
さらにジャンヌは、周りをよく見ている。少しの隊員の異変もいち早く察知し、対処するのだ。その姿は、昔のお節介で世話焼きのジャンヌそのものだった。
真剣にやるところは真剣にやり、休憩時間は皆を和ませてくれるジャンヌは、いつの間にか隊の中心人物になっていた。
ジャンヌは4年前と、ちっとも変っていない。やっぱりジャンヌは最高だ。
ただ、早く強くなりたいのか、朝から晩まで自主練をして、手に酷い怪我を負っていたり、副隊長に挑んで怪我をしたり、昔のジャンヌではあまり考えられない様な、無謀な事をする事もある。
でも、そんな必死なジャンヌが可愛くてたまらない。いつも完璧だと思っていたジャンヌも、こんな無謀な事をするのだな。そう思ったら、なんだかジャンヌが身近に感じられたような気がした。
ジャンヌと過ごす日々は、楽しくてたまらない。ジャンヌがいてくれるだけで、俺の心は満たされるのだ。
これからも俺は、ジャンヌのこの笑顔を守っていきたい。4年間傷つき続けたジャンヌが、これからはずっと笑顔でいられる様に、俺がサポートしたい。
そう強く思ったのだった。
※次回、ジャンヌ視点に戻ります。
よろしくお願いしますm(__)m
80
あなたにおすすめの小説
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
【完結】見えてますよ!
ユユ
恋愛
“何故”
私の婚約者が彼だと分かると、第一声はソレだった。
美少女でもなければ醜くもなく。
優秀でもなければ出来損ないでもなく。
高貴でも無ければ下位貴族でもない。
富豪でなければ貧乏でもない。
中の中。
自己主張も存在感もない私は貴族達の中では透明人間のようだった。
唯一認識されるのは婚約者と社交に出る時。
そしてあの言葉が聞こえてくる。
見目麗しく優秀な彼の横に並ぶ私を蔑む令嬢達。
私はずっと願っていた。彼に婚約を解消して欲しいと。
ある日いき過ぎた嫌がらせがきっかけで、見えるようになる。
★注意★
・閑話にはR18要素を含みます。
読まなくても大丈夫です。
・作り話です。
・合わない方はご退出願います。
・完結しています。
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
殿下、毒殺はお断りいたします
石里 唯
恋愛
公爵令嬢エリザベスは、王太子エドワードから幼いころから熱烈に求婚され続けているが、頑なに断り続けている。
彼女には、前世、心から愛した相手と結ばれ、毒殺された記憶があり、今生の目標は、ただ穏やかな結婚と人生を全うすることなのだ。
容姿端麗、文武両道、加えて王太子という立場で国中の令嬢たちの憧れであるエドワードと結婚するなどとんでもない選択なのだ。
彼女の拒絶を全く意に介しない王太子、彼女を溺愛し生涯手元に置くと公言する兄を振り切って彼女は人生の目標を達成できるのだろうか。
「小説家になろう」サイトで完結済みです。大まかな流れに変更はありません。
「小説家になろう」サイトで番外編を投稿しています。
【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。
--注意--
こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。
一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。
二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪
※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる