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愉快な仲間たちは踊っているか
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「うう…なんで父上呼んでくださらないんだ…。」
狭くて暗い牢屋で膝を抱えて泣きじゃくっているのはジルベルトだった。産まれてからずっと王子として生きてきた彼は、狭くて暗い部屋が好きではなかった。むしろ苦手だった。
初日こそ混乱とあまりの暗さで気にもせず眠ったが、翌日目が覚めて、数少ない換気と採光用の小さな窓から差す日の光でうっすら明るくなった牢を見渡せば、なんともアレっぽい。
そんな事に気づいてしまえば、幼少期のお仕置きのひとつ、お化けが出ると有名な部屋で一晩過ごした事を思い出した。うっすら寒さを感じるあの部屋は、黒い影が見え、うめき声が聞こえ、誰も居ないところにあった物が倒れる…そんな部屋。
あの時は仲間たちもまとめて放り込まれたために固まって震えていれば朝を迎えたが、今はたった一人だ。
これは別の牢に居る元側近たちも同様で、彼らもまた膝を抱えて小さくなっている。ただし、彼らは辛うじて泣きじゃくってはいない。
ちなみにジョージは尋問、シエナはいびきをかいて寝ている。
さて彼らが何故数日も放置されているかと言えば、国王が忙しくなったから。その一言である。
国王とその側近たちは今必死だ。
何せ宰相ジョルジュがいつ終わるか定かではない休暇を取るのだ。居るうちに進めておかないとまずいものはたっぷりある。というか常に宰相べったりな国王は、宰相がいないと仕事をしないので、側近たちが必死に仕事をさせていると言うのが正しい。
ーーせめて閣下が居るうちにコレだけは…!
進められるだけ進めねば、下手をすればただでさえ多い仕事がさらに山積みになるし、うっかり何かしらの失態がミシェルの耳に入りでもすればお仕置き対象になるかも知れない。
ーーうう…いくら元王女で前公爵夫人と言っても隣国出身なのにぃぃ。なんでこんな怖いの…。
と、まあこのように心中は全く穏やかではないのだ。
ただ、日頃頑張っている何の罪もない文官たちのためにだけ、ジョルジュは頼りになる人物を一族から派遣する事にしている。これは文官の中でも、国王たちに対して簡単に口を割らないであろう信頼できるまとめ役にだけ口伝えている。もし何か問題が起きればまとめ役的存在の彼らに言えばつないでもらえる。
これは常日頃、なかなかやる気を出そうとしない国王へのお仕置きだ。何故側近たちも巻き込まれたかと言えば、彼らはなんだかんだで国王に甘いために連帯責任を負わせる事にしたのだ。
そしてさらに国王は隣国への手土産についても急ピッチで用意させなくてはならない。こういう贈り物の手配は任せてしまえばいいのに、何を送るのかを考えるのが好きという理由だけで頭を悩ませ勝手にパニックになっている。ただの能天気な気のいいおじさんだ。
そんなわけで、国王は息子が牢に居ることをすっかり忘れていて、思い出した頃には三日ほど経っていた。それも思い出したきっかけが、商家の息子とシエナの調査結果を近衛が持ってきた事だった。
言われた時、「なんだっけそれ?」と一瞬本気で考え、「あ、やべ。アホ息子忘れてた。」と思っていたことに、その場にいた全員が気づいていた。
ジョルジュは国王たちが忘れている事に気づいていたが、尋問結果を聞けば思い出すだろうし、なんだか面白そうだから放っておいた。
そんなわけでようやく思い出してもらえた彼らは久しぶりに太陽を拝むことができたのだが、牢から出てきた彼らの様子はあまりにも独特だった。
ジルベルトは泣き腫らして目蓋をもったりさせ、クラウスは頬がそげて幽霊化、ダグラスは怖さを誤魔化すために運動をしていたらしく汗臭い。
ジョージは尋問されすぎて疲れ切っているが、暗闇に恐怖を抱かないたちであるため普通に疲れているだけだ。
シエナは尋問にへこたれない無駄に強い心を見せつけたため尋問官を呆れさせた。彼女は久しぶりに見た三人を見てちょっと引いている。特に臭いのは嫌だと、なんとかダグラスから距離を取ろうと頑張っている。
流石にこの状態で国王の前に出されるのはまずかろうと、身なりだけは整えられ、謁見の間に連れてこられた。見渡せばそこには彼らの親兄弟と文官、宰相ジョルジュと関係者がそろい踏みだった。
国王は三日ぶりに見る息子の顔を見て一瞬怯んだ。その怯んだ隙に正妃が息子に近寄っていく。何をするのかをその場にいる人間全てが呆気にとられて見ていたらなんと平手打ちをかました。
ーー殴りたいと言っていたとは聞いてたけど、ほんとに殴ったなあ。母上がここに居たら大変だったなあ。居なくて良かったー。
ジョルジュは呑気にそんなことを考えていた。
「ジル…。私の夢…ティナちゃんを義娘に!!を良くも…良くも壊してくれたわね…!」
呆然とするジルベルトに二発目を繰り出そうとする正妃にハッとした国王が羽交い締めにして止め、女騎士に託す。何かを叫びながら退場していく己の妻を眺めてため息をつくと、今回の主役に目を向ける。
「あー。うん…うん…。んんっ。
さて貴様らにはまずはクリスティーナからのお仕置きを始めて貰おうと思う。
だがこれはあくまでクリスティーナからのお仕置きだ。国として貴様らに与えられる罰はまた別にある。
クリスティーナのお仕置きが終わった後、正式な罰について知らせよう。心せよ。」
ーー見なかった事にしたー!
正妃の暴挙を見なかった事にした国王に集まる視線は何とも言えない感じのもので、さすがの国王も居心地の悪さを感じるが、触れたら負けな気がしたため「え?何かありました?」な顔を作る。
ジルベルトは初めて母に叩かれた事に衝撃を受け、それをスルーした父にさらに驚いて、頭が追いつかなかったのかキョトンとしている。彼のつるつるほっぺは時間が経つごとに赤く膨れていく。
目の腫れも相まって美形を台無しにした何とも個性的な顔が完成されつつあった。
そんな息子の顔を見て、口元をモニョモニョとさせた国王は息子から目を逸らし、何とか言葉を紡ぐ。
「ジョージとシエナに関しては薬物の使用に関する問題がある。お仕置き期間中は逃亡防止の拘束具を付けてもらう。
開始は明日からだ。お仕置きの担当者が待つ部屋で受けてもらう。起床は四時、就寝は二十四時だ。
シエナに関しては一応妊婦の可能性があるという事であるため、起床は七時、就寝を二十二時とする。」
「四時間しか寝られないなんて!!」
健康優良児が叫ぶ。
「お仕置き決めたのがクリスティーナって何でよ!」
尻軽娘が喚く。
「私、一度寝るとなかなか起きないのですが…。」
むっつり根暗が呟く。
「筋トレやる時間がないだと…!」
脳筋が膝をついた。
「僕は…はい、がんばります…。」
使えない平民商人は何も言えない。
何はともあれお仕置きが始まる。
狭くて暗い牢屋で膝を抱えて泣きじゃくっているのはジルベルトだった。産まれてからずっと王子として生きてきた彼は、狭くて暗い部屋が好きではなかった。むしろ苦手だった。
初日こそ混乱とあまりの暗さで気にもせず眠ったが、翌日目が覚めて、数少ない換気と採光用の小さな窓から差す日の光でうっすら明るくなった牢を見渡せば、なんともアレっぽい。
そんな事に気づいてしまえば、幼少期のお仕置きのひとつ、お化けが出ると有名な部屋で一晩過ごした事を思い出した。うっすら寒さを感じるあの部屋は、黒い影が見え、うめき声が聞こえ、誰も居ないところにあった物が倒れる…そんな部屋。
あの時は仲間たちもまとめて放り込まれたために固まって震えていれば朝を迎えたが、今はたった一人だ。
これは別の牢に居る元側近たちも同様で、彼らもまた膝を抱えて小さくなっている。ただし、彼らは辛うじて泣きじゃくってはいない。
ちなみにジョージは尋問、シエナはいびきをかいて寝ている。
さて彼らが何故数日も放置されているかと言えば、国王が忙しくなったから。その一言である。
国王とその側近たちは今必死だ。
何せ宰相ジョルジュがいつ終わるか定かではない休暇を取るのだ。居るうちに進めておかないとまずいものはたっぷりある。というか常に宰相べったりな国王は、宰相がいないと仕事をしないので、側近たちが必死に仕事をさせていると言うのが正しい。
ーーせめて閣下が居るうちにコレだけは…!
進められるだけ進めねば、下手をすればただでさえ多い仕事がさらに山積みになるし、うっかり何かしらの失態がミシェルの耳に入りでもすればお仕置き対象になるかも知れない。
ーーうう…いくら元王女で前公爵夫人と言っても隣国出身なのにぃぃ。なんでこんな怖いの…。
と、まあこのように心中は全く穏やかではないのだ。
ただ、日頃頑張っている何の罪もない文官たちのためにだけ、ジョルジュは頼りになる人物を一族から派遣する事にしている。これは文官の中でも、国王たちに対して簡単に口を割らないであろう信頼できるまとめ役にだけ口伝えている。もし何か問題が起きればまとめ役的存在の彼らに言えばつないでもらえる。
これは常日頃、なかなかやる気を出そうとしない国王へのお仕置きだ。何故側近たちも巻き込まれたかと言えば、彼らはなんだかんだで国王に甘いために連帯責任を負わせる事にしたのだ。
そしてさらに国王は隣国への手土産についても急ピッチで用意させなくてはならない。こういう贈り物の手配は任せてしまえばいいのに、何を送るのかを考えるのが好きという理由だけで頭を悩ませ勝手にパニックになっている。ただの能天気な気のいいおじさんだ。
そんなわけで、国王は息子が牢に居ることをすっかり忘れていて、思い出した頃には三日ほど経っていた。それも思い出したきっかけが、商家の息子とシエナの調査結果を近衛が持ってきた事だった。
言われた時、「なんだっけそれ?」と一瞬本気で考え、「あ、やべ。アホ息子忘れてた。」と思っていたことに、その場にいた全員が気づいていた。
ジョルジュは国王たちが忘れている事に気づいていたが、尋問結果を聞けば思い出すだろうし、なんだか面白そうだから放っておいた。
そんなわけでようやく思い出してもらえた彼らは久しぶりに太陽を拝むことができたのだが、牢から出てきた彼らの様子はあまりにも独特だった。
ジルベルトは泣き腫らして目蓋をもったりさせ、クラウスは頬がそげて幽霊化、ダグラスは怖さを誤魔化すために運動をしていたらしく汗臭い。
ジョージは尋問されすぎて疲れ切っているが、暗闇に恐怖を抱かないたちであるため普通に疲れているだけだ。
シエナは尋問にへこたれない無駄に強い心を見せつけたため尋問官を呆れさせた。彼女は久しぶりに見た三人を見てちょっと引いている。特に臭いのは嫌だと、なんとかダグラスから距離を取ろうと頑張っている。
流石にこの状態で国王の前に出されるのはまずかろうと、身なりだけは整えられ、謁見の間に連れてこられた。見渡せばそこには彼らの親兄弟と文官、宰相ジョルジュと関係者がそろい踏みだった。
国王は三日ぶりに見る息子の顔を見て一瞬怯んだ。その怯んだ隙に正妃が息子に近寄っていく。何をするのかをその場にいる人間全てが呆気にとられて見ていたらなんと平手打ちをかました。
ーー殴りたいと言っていたとは聞いてたけど、ほんとに殴ったなあ。母上がここに居たら大変だったなあ。居なくて良かったー。
ジョルジュは呑気にそんなことを考えていた。
「ジル…。私の夢…ティナちゃんを義娘に!!を良くも…良くも壊してくれたわね…!」
呆然とするジルベルトに二発目を繰り出そうとする正妃にハッとした国王が羽交い締めにして止め、女騎士に託す。何かを叫びながら退場していく己の妻を眺めてため息をつくと、今回の主役に目を向ける。
「あー。うん…うん…。んんっ。
さて貴様らにはまずはクリスティーナからのお仕置きを始めて貰おうと思う。
だがこれはあくまでクリスティーナからのお仕置きだ。国として貴様らに与えられる罰はまた別にある。
クリスティーナのお仕置きが終わった後、正式な罰について知らせよう。心せよ。」
ーー見なかった事にしたー!
正妃の暴挙を見なかった事にした国王に集まる視線は何とも言えない感じのもので、さすがの国王も居心地の悪さを感じるが、触れたら負けな気がしたため「え?何かありました?」な顔を作る。
ジルベルトは初めて母に叩かれた事に衝撃を受け、それをスルーした父にさらに驚いて、頭が追いつかなかったのかキョトンとしている。彼のつるつるほっぺは時間が経つごとに赤く膨れていく。
目の腫れも相まって美形を台無しにした何とも個性的な顔が完成されつつあった。
そんな息子の顔を見て、口元をモニョモニョとさせた国王は息子から目を逸らし、何とか言葉を紡ぐ。
「ジョージとシエナに関しては薬物の使用に関する問題がある。お仕置き期間中は逃亡防止の拘束具を付けてもらう。
開始は明日からだ。お仕置きの担当者が待つ部屋で受けてもらう。起床は四時、就寝は二十四時だ。
シエナに関しては一応妊婦の可能性があるという事であるため、起床は七時、就寝を二十二時とする。」
「四時間しか寝られないなんて!!」
健康優良児が叫ぶ。
「お仕置き決めたのがクリスティーナって何でよ!」
尻軽娘が喚く。
「私、一度寝るとなかなか起きないのですが…。」
むっつり根暗が呟く。
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