竜の御子は平穏を望む

蒼衣翼

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竜の御子達

森へ行こう

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 サッズが急激に食材を減らした為、急遽追加仕入れが必要になった食堂の様子を見て、やっぱり手伝うと言うライカに、今日はみんな家でゆっくりしてるはずだから大丈夫よと笑って答えたミリアムの言葉に背中を押されて、ライカとサッズは連れだって街を歩いた。

「おもしろいな」
「なにが?」
「ずっと気にも留めなかった地上のちまちました場所を、小さくなって中から眺めてるってのが面白い」
「そっか、もし俺なら蟻の巣に入ったみたいな感じなんだよね」
「人化ってのもそう悪くはないな。窮屈だが」
「やっぱり窮屈なんだ」
「そりゃあな、それだけといえばそれだけだが。しかし、セルヌイなんか五十周期、じゃなかった、五十年近く人化して過ごしてたんだろ? 物好きも極まってるよな」
「最後の方は年齢が経った感じを出す為に変化までしたって言ってたよ」
「人化はまだなんとなく分かるんだけどさ、変化って訳が分かんねぇよ、自分の体を一から細かく作り直すとかなんだぜ? よくやるよ」
「セルヌイは器用だからね」
「器用とかって話じゃないだろ? 変態だぞ、すでに」
「そんな言い方ないだろ? 好きなことに手加減しないだけなんだよ」
「俺も好きな女のためとかなら少々の無茶もするけどな。あいつのようになにかを調べるとか、何かを集めるとか、そんなどうでも良いことのために面倒くさい術をちまちま作ったりしながらやるなんて、どう考えても変態以外のなにものでもないだろ?」
「サッズそんなことばっかり言って、実際に彼女とかいたことないじゃないか」
「女全体の数が少ないんだから仕方ないだろ?」
「ナーガの女の子に振られたくせに」
「あれはエイムが悪い!」

 そんな調子で話し込んでいた彼らであったが、やがて街の入り口が見えて来ると、ライカは慌てて説明を始める。

「サッズ、あれが街の入り口だよ。あそこに立ってる兵士の人に必ず顔を見せて聞いてくることに答えるんだ」
「なんでだ?」
「怪しい人が出入りしないように見張ってるんだよ」
「俺は怪しくないぞ」
「だからそうじゃないって分かってもらうためにちゃんと受け答えをするんだよ」

 門に差し掛かると、当番の警備隊の兵が二人いて、近付いて行く彼等をじっと見ていた。
 祭りの翌日でほとんど出入りがないので暇なのかもしれない。

「お前達、今から街の外に出るのか?」
「あ、はいちょっとだけ」
「この時期は暗くなるのが早い、狼どもも腹を空かしてるし、あんまり遠くへ行くんじゃないぞ」
「はい」

 彼等はサッズを見て首を傾げた。

「で、その子はいつこの街に入ったんだ? どうも見覚えがないし伝聞の中にそういう背格好の少年はいなかったはずだが」
「あ、彼は昨日お祭りの時に来たんです」

 ライカはにこりと笑ってみせる。
 相手の兵の名前は知らないが、見掛けたことはあった……はずと、ライカは思う。
 実は兵士は皆似たような格好をしているので、ライカはその判別にあまり自信が無かった。

「ああ、昨夜は遅くまで門を開放してたからな。しきたりだかなんだか知らんが、物騒だからやめといたほうが良いのにな」
「でも一応見張りはいただろう?」
「やつら酒かっくらってた」
「火の隊か? あいつら一度ガツンと言ってやったらどうなんだ?」
「やつら上官にはきっちり仕事してみせるんだよな、下手すると俺らが讒言をしたことにされちまうよ」
「あの」

 なにやら揉め始めた兵士の様子に、ライカは困ったように声を掛けた。
 このまま通り過ぎても良いが、サッズの事が変な風に思われたままでは困った事になるかもしれないと思うとそうもいかない。

「あ、すまんな。通っていいぞ。気をつけてな」

 検問の兵士は申し訳なさそうに二人に手を振った。

「はい。ありがとうございます」

 サッズはその間ずっと周りを見物していて、我関せずの姿勢を貫いていた。
 良く言えばその態度は一貫しているといえるだろう。

「サッズ、森の中に地底の川の入り口があるんだけど、そこで魚でも獲らない?」
「あ? お前まだ気にしてたんだ。まぁそうだな、でも狩るなら山豚とか熊とかいるんじゃないか?」
「今の時期動物は狩っちゃいけない決まりなんだよ」
「はあ? 人間って他人の狩りまで制限するのか?」
「なんか戦争で動物が減ったから調整してるんだってさ」
「意味が分からん。なんで他の生き物の数なんか気にするんだ?」
「将来困らないようにだよ。人間は悪いことになると想像してしまうと、それをなんとか止めようとするもんなんだ」

 サッズは眉を寄せてみせた。

「えっと、何か? まだ起こってない悪いことが起こるかもしれないからそれに備えようって話か? 人間って予言が出来るとか?」
「そういうのじゃないんだよ」
「人間って意味不明すぎるぞ」
「確かに色々考えすぎるのはあると思うけど、悪いことが起きる前になんとかしようっていうのは良いと思う」
「わかんないな、駄目だ、理解不能! いいや、まぁそういうものってことで動物は狩っちゃいけないんだな?」
「そうそう、それだけ分かってれば良いよ。どうせサッズには理解出来ないし」
「それでお前は分かってるんだろうな?」
「なんとなく」

 途端に避けようのない速さで伸ばされた手がライカの頬を抓り上げる。
 その見た目からは想像も出来ない程の力を秘めた手に、ライカはじたばたと両手を掛けて引き剥がしにかかった。

「ひ・たい!」
「もう馬鹿とは言いませんと言え!」
「はかってひってないらろ!」
「言っただろ! 心声で!」
「らって、って、っ、もう。だって、サッズは理解する努力もしないだろ!」

 ライカはやっと指を一本一本引き剥がしてその痛みから逃れると歯を剥いてみせる。

「努力は一応してるだろ! だけど分からないものは分からないんだ。それならお前のなんとなくってのはどうなんだよ?」

 ライカは澄まして答えた。

「理解の途中だからなんとなくなんだよ」
「そんなの俺と変わらないだろうが」
「理解を諦めるのは最低だよ!」
「分かった分かった、じゃあ俺もなんとなく分からないってことにしておく」
「なんだよそれ」
「理解不能だけど、一応考える余地を残したってことだ」

 二人はしばし睨み合ったが、ふ、と同時に息を吐く。

「まぁいいか。サッズはそれが限界だもんね」
「なんだと! 木の上に引っ掛かってぴーぴー泣いてたちびのくせに!」
「もうちびじゃないよ、それに俺の方が先に大人になるんだからね」

 その言葉に、ふと、押し黙ったサッズの顔をちらりと見て、ライカは続けた。

「竜族はあんまり先のことを考えたりしないからさ。その時になって、急にびっくりしたりしないで欲しいんだ」

 その時ってなんだよ? と呟くような心の声が掠めたが、ライカは気にせずに続ける。

「俺の巣立ちなんかすぐだよ。だからさ、今の内にサッズがちゃんと生きていけるように俺が鍛えておかないとね」
「ああ?末っ子が余計な心配しやがって、言っておくがお前が一番ひ弱いんだからな? ちょくちょく様子を見に来てやるさ!」
「やだ」
「ああん?」
「巣立った後までサッズの尻拭いするのはやだ」
「てめぇ」

 再び伸ばされた柔らかい皮膚を抓みあげるはずの指は、それを予想してひらりと交わした少年の、一つに結ばれた長い髪でぱしりと弾かれたのだった。
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