30年待たされた異世界転移

明之 想

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第13章

触媒

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「触媒が作用していません!」

「撹拌と液温は間違いないのか?」

「指示通り行っています」

「見せてみろ!」

 助手に代わって触媒を熟視する薬師。

「そんな、馬鹿な……」

 かすれ声とともに顔が青く染まり始める。

「おい! まさか!」

 2人のただならぬ様子に伯爵の側近がたまらず近づいていく。

「きさま、失敗したんじゃないだろうな?」

「……」

「答えぬか!」

 怒気を叩きつけ、薬師の胸ぐらをつかんだ。

「も、もうしわけ」

「何だと!」

 腕にこもる力が尋常じゃない。
 薬師の顔はもう、真っ青を超えている。

「うぐっ」

 まずいな。
 これは、止めに入った方がいい。
 ただ、ここで部外者である俺が動くのも……。
 やはり、もう少し事情を聞いておくべきだったかもしれない。

 と一歩を踏み出せずにいる俺の前でオルドウ伯爵が。

「やめぬか、ヘリオット」

 声を上げた。
 決して大声ではないのに、威厳に溢れてる。

「しかし、閣下」

「いいから手を離せ。今は調合中なのだぞ」

「……はっ」

「うぅ、げほっ、ごほっ」

「先生」

 膝をつき咳込む薬師に助手が駆け寄る。

「それで、調合はどうなっているのだ?」

「ごほっ、ごほっ……それが……」

「難事である霊薬調合に困難はつきもの、失敗したとてそなたを罰しはせぬから、現状をはっきり説明してほしい」

 余裕などないはずのこの状況でも威圧感を出すことがない。冷静に穏やかに問いかけている。俺に対する態度に加えこの対応、やはりこの領主は圧制者じゃないってことなんだろう。

「この触媒に問題があるようでして」

「上手くいかぬというのだな?」

「……申し訳ございませぬ」

「ならば、霊薬は?」

「ベニワスレの寒実自体に問題はありませんので、新しい触媒さえ手に入れば調合は可能にございます」

「ふむ、ヘリオット?」

「今から市場を回ってみます。ですが……今日中には難しいかと」

「明日、明後日ならどうなのだ?」

「分かりません。ただ、数日中には確実に入手できるはずです」

 加工に手間がかかる上、需要にも問題があるこの触媒は市場で簡単に手に入るものではない。とはいえ素材自体はベニワスレの寒実ほど希少ではないため発注さえしておけば必ず入手できる。そういった代物らしい。

「長くは待てぬ。そうであろう?」

「……はい」

 問いに答えたのは後ろに控えていた伯爵家の主治医。

「数日で命にかかわる状態におちいる可能性は低いですが、お嬢様が危険な状態であることに違いはありません。何より、治療が遅くなればなるほど後遺症の危険が増しますので」

「……」

「「「「「……」」」」」

 調合室を覆う沈痛な空気。
 寒実採取で大きな希望が生まれた後だから、余計に重さが増しているのではないだろうか。

 こうなると、もう……そうだな。
 試してみるか。

「閣下、私に考えがあるのですが」


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