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第1章 オルドウ編
夕連亭 7
しおりを挟む「もう、30分も遅刻だよ」
こちらの世界での行動は前回を模倣する必要はないはずだし、ましてや遅刻まで再現する必要はないとも思ったのだが。
……。
「ごめん、大学で少しトラブルがあって」
「午前中に試験は終わってたんでしょ」
「まあ、色々あるんだ」
「そうなの」
「やることが多くてな」
オルドウでも経験したが、2度同じ経験をするっていうのは不思議な感覚だ。
ただ、幸奈とのこの会話は……。
悪くない。
なんだか心地がいい。
懐かしさ、安堵、感謝、そんな感情が混じっているんだろうけど、とにかく心地いい。
「ふぅ~ん、何があってもいいけどさ、30分遅れるのはどうなの?」
「申し訳ない。お詫びに、お茶を御馳走するよ」
「本当?」
「ああ、ケーキつきでご馳走する」
「分かった。それで許してあげる」
前回の流れでの約束もある。
やっとだな。
「どうして笑ってるのよ」
「ごめん、ごめん。御馳走するから許してくれ」
「もう~~、仕方ないなぁ」
「じゃ、珈紅茶館に行こうか」
「えっ、そこなの?」
「ここから近いからさ。今日は遅くなったし」
珈紅茶館までのわずかな時間。
20歳に戻った当初と違い、幸奈とこうして歩くのを避けようという気持ちは今はない。
それどころか、心が浮き立つ感じすら覚える。
そんな自分に少なからず驚いてしまう。
精神的に40歳の俺が20歳の幸奈と。
……。
やっぱり、俺の精神も若返っているのか。
店内に入ると前回と同じ席に着く。
俺はホットコーヒーを幸奈はケーキセットを注文。
「それで、最近どうなの?」
「別に普通だけど」
「そうなの?」
「ああ」
「でも、ちょっと雰囲気変わったよね」
ん?
これ、前回は言われなかったよな。
「そうかな」
「そうだよ。少し丸くなったと言うか」
最近色々あったから。
まっ、今もその渦中だけど。
「その……いいと思うよ、今の感じ」
「……」
「ちょっと前までは、って、ごめん」
携帯電話の着信音。
ここで家族から電話なんだな。
「えっ、今から……? 遠くじゃないです、でも……」
話している幸奈の横でコーヒーをいただく。
「分かりました。今から帰ります……。功己、ごめん」
両手を合わせて頭を下げてくる。
「急用か?」
「うん、家で用事ができて」
「それなら帰った方がいい」
「ごめん、今日の代わりに明日はどうかな?」
「明日は難しいな。今週末ならいいけど」
週末まで4日間ある。
それだけあれば、オルドウでの問題も片付くはず。
「了解。じゃあ、土曜に今日と同じ時間に駅待ち合わせで」
「分かった」
「ありがと。じゃあ、ごめん、先に帰るね。あっ、ケーキ食べておいてね。これ、代金。功己の分も御馳走するから。遅刻のお詫びは次回ご馳走してね」
あわただしく席を立ち出口へと向かう。
「幸奈」
「うん?」
「ありがとうな」
「へっ? なに? わたしが勝手に帰るんだからご馳走くらいするわよ」
「まあ、でも、ありがとな」
この時間軸の幸奈ではない幸奈。
彼女の言葉には助けられた。
だから。
自己満足に過ぎないけれど、ひとこと感謝を伝えたかった。
「うん、まあ、いいけど……じゃあ、もう行くわよ」
「ああ、気をつけて」
結局、今回もケーキをご馳走することはできなかったな。
それは、また週末だ。
幸奈が帰った後、前回同様ひとりでコーヒー2杯とケーキをいただき、帰宅。
手早く夕食を済ませ、シャワーを浴びて自室へ。
時計を確認すると、18時30分。
あと30分で出発。
さあ、ここからが本当の勝負。
命を懸けた1日の始まりだ!
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