29 / 58
第29話 会社の近く2
しおりを挟む
「専務……!」
振り返ったアキヤさんが慌てて立ち上がる。
わ、すごく偉い人だ。
「休憩中だろう? かしこまらなくていい。むしろ、大事なお相手との時間に悪いな」
「はい……あ、いえ……!」
アキヤさん、はいって……正直すぎ。嬉しいけど。
「ははっ、浮ついた東上寺が見られるなんてなぁ」
専務さんは気にしていないようで良かった。アルファっぽいから理解があるのかな?
っていうか、これ、俺あいさつしたほうがいい?
でも、まだ正式な番でもないのに……。
「東上寺の直属の上司になります。大原です」
俺が悩んでいる間に、専務さんの方から名刺を差し出されてしまって、慌てて俺も立ち上がる。
「あ、アキ……東上寺さんとお付き合いしています、春野ミチです」
仕事着のままで良かった。ポケットに入れていた名刺入れから名刺を一枚取り出し、社会人同士らしく交換すると、大原さんは俺の名刺を興味深げに眺めた。
「あぁ。最近手編みのマフラーを自慢していると思ったら、なるほど。手芸用品の会社にお勤めなんですね」
うちの会社、知ってくれているんだ……っていうか、自慢?
「専務、明日……いや、この後からカーディガンとスヌードも自慢しますよ」
「なるほどなぁ。春野さん、ありがとうございます」
「え?」
アキヤさんにお礼を言われるのは解るけど、なんでアキヤさんの上司に……?
「社内のアルファは俺と社長と東上寺の三人だけなのもあって、こいつはどうにも周りの社員から距離を取られていたんです」
「アキヤさんが?」
こんなに親しみやすい、素敵な人なのに。
「アルファは、どうしても敬遠されがちなんですよ。嫌われているわけではなくて、尊敬されすぎているというか、近寄りがたいというか」
「あぁ……!」
それは少しわかる。アキヤさんにはそんなことないけど、アルファは優秀過ぎて俺なんかが話しかけて良いのかなって思っちゃうところがある。
「若いのに重要なポジションになったから、舐められたくなくて本人も意識してリーダーらしく振る舞っているというのもあるかもしれないですけどね。……でも、そんなこいつに、最近は柔らかい表情が増えて」
「あ……」
それって……もしかして……。
「春野さんのことを惚気まくって」
「ちょっ、ま、っ、専務!」
「東上寺、話しやすいし弄りやすい男になったなぁ」
「……部署内のコミュニケーションは、確かに円滑になりました」
アキヤさんが思い切り焦った後、あきらめたようにため息をつく。
あ、その顔あんまり見たことない。かわいい。
「そんなわけだから、春野さん、上司としてもお礼を言いたくて……ありがとうございます」
「そんな……俺はただ、素敵な相手が見つかって、毎日が幸せなだけで……何もしていないです」
「ミチくん……」
大原さんに向けて言うつもりが、ついアキヤさんを見ながら言ってしまうと、アキヤさんは少し情けなかった顔を嬉しそうにほころばせた。
うん。さっきの顔もかわいいけど、やっぱり笑顔がいいな。
「はぁ、いいなぁ。俺も番が見つかった時を思い出す。今度の休みは嫁とデートでもするか」
「専務、毎週されているじゃないですか」
「そう言えばそうだった」
大原さんは冗談っぽく笑うけど……おそらく六〇歳近い年齢でも毎週デート……いいな。俺も六〇歳になるころまでずっと、アキヤさんと毎週デートするような関係がいいな。
「それじゃあ、そろそろ……あぁそうだ、春野さん。大丈夫だとは思うが、東上寺のことで何かあればいつでもその名刺の番号に連絡してください」
「はい、わかりました」
「ではお先に。東上寺、お前の惚気通りの素敵な方だな。休憩一五分伸ばしておくからしっかり充電してこい」
「ありがとうございます」
大原さんがオフィスビルの方へ歩いていくのを見送って、俺とアキヤさんは再び席に着く。
「……ミチくんあの、……その……」
アキヤさんは気まずそうだけど……
上司に恋人を、恋人に上司を見られる気恥ずかしさは理解できるけど……
ごめんなさい。
俺、大原さんに出会えてめっちゃくちゃラッキーと思いました。
「アキヤさん、会社で俺のこと惚気てくれているんですか?」
「あ、あぁ、ごめん。嬉しくてつい……ちょっとだけ……あ、いや、結構たくさん」
結構たくさん惚気てくれているんだ……それって……それっってすごく……。
「アルファに自慢してもらえるって嬉しい。アキヤさん、俺、すごく嬉しいです」
嬉しくて嬉しくて満面の笑みを向けると、アキヤさんはシャツの胸元を掴んで唇をかむ。
嬉しい俺で嬉しくなっているアキヤさんだ。
わぁ……更に嬉しいし……。
「ふふっ。かわいい」
「……かわいいより、かっこいいって言ってもらえる俺でいたいのに」
アキヤさんは嬉しそうな顔のまま、少しだけ悔しそうに呟いた。
それもかわいい。
かわいくて仕方がない!
この日は時間が短かったけど、俺もしっかりアキヤさんを充電することができた。
振り返ったアキヤさんが慌てて立ち上がる。
わ、すごく偉い人だ。
「休憩中だろう? かしこまらなくていい。むしろ、大事なお相手との時間に悪いな」
「はい……あ、いえ……!」
アキヤさん、はいって……正直すぎ。嬉しいけど。
「ははっ、浮ついた東上寺が見られるなんてなぁ」
専務さんは気にしていないようで良かった。アルファっぽいから理解があるのかな?
っていうか、これ、俺あいさつしたほうがいい?
でも、まだ正式な番でもないのに……。
「東上寺の直属の上司になります。大原です」
俺が悩んでいる間に、専務さんの方から名刺を差し出されてしまって、慌てて俺も立ち上がる。
「あ、アキ……東上寺さんとお付き合いしています、春野ミチです」
仕事着のままで良かった。ポケットに入れていた名刺入れから名刺を一枚取り出し、社会人同士らしく交換すると、大原さんは俺の名刺を興味深げに眺めた。
「あぁ。最近手編みのマフラーを自慢していると思ったら、なるほど。手芸用品の会社にお勤めなんですね」
うちの会社、知ってくれているんだ……っていうか、自慢?
「専務、明日……いや、この後からカーディガンとスヌードも自慢しますよ」
「なるほどなぁ。春野さん、ありがとうございます」
「え?」
アキヤさんにお礼を言われるのは解るけど、なんでアキヤさんの上司に……?
「社内のアルファは俺と社長と東上寺の三人だけなのもあって、こいつはどうにも周りの社員から距離を取られていたんです」
「アキヤさんが?」
こんなに親しみやすい、素敵な人なのに。
「アルファは、どうしても敬遠されがちなんですよ。嫌われているわけではなくて、尊敬されすぎているというか、近寄りがたいというか」
「あぁ……!」
それは少しわかる。アキヤさんにはそんなことないけど、アルファは優秀過ぎて俺なんかが話しかけて良いのかなって思っちゃうところがある。
「若いのに重要なポジションになったから、舐められたくなくて本人も意識してリーダーらしく振る舞っているというのもあるかもしれないですけどね。……でも、そんなこいつに、最近は柔らかい表情が増えて」
「あ……」
それって……もしかして……。
「春野さんのことを惚気まくって」
「ちょっ、ま、っ、専務!」
「東上寺、話しやすいし弄りやすい男になったなぁ」
「……部署内のコミュニケーションは、確かに円滑になりました」
アキヤさんが思い切り焦った後、あきらめたようにため息をつく。
あ、その顔あんまり見たことない。かわいい。
「そんなわけだから、春野さん、上司としてもお礼を言いたくて……ありがとうございます」
「そんな……俺はただ、素敵な相手が見つかって、毎日が幸せなだけで……何もしていないです」
「ミチくん……」
大原さんに向けて言うつもりが、ついアキヤさんを見ながら言ってしまうと、アキヤさんは少し情けなかった顔を嬉しそうにほころばせた。
うん。さっきの顔もかわいいけど、やっぱり笑顔がいいな。
「はぁ、いいなぁ。俺も番が見つかった時を思い出す。今度の休みは嫁とデートでもするか」
「専務、毎週されているじゃないですか」
「そう言えばそうだった」
大原さんは冗談っぽく笑うけど……おそらく六〇歳近い年齢でも毎週デート……いいな。俺も六〇歳になるころまでずっと、アキヤさんと毎週デートするような関係がいいな。
「それじゃあ、そろそろ……あぁそうだ、春野さん。大丈夫だとは思うが、東上寺のことで何かあればいつでもその名刺の番号に連絡してください」
「はい、わかりました」
「ではお先に。東上寺、お前の惚気通りの素敵な方だな。休憩一五分伸ばしておくからしっかり充電してこい」
「ありがとうございます」
大原さんがオフィスビルの方へ歩いていくのを見送って、俺とアキヤさんは再び席に着く。
「……ミチくんあの、……その……」
アキヤさんは気まずそうだけど……
上司に恋人を、恋人に上司を見られる気恥ずかしさは理解できるけど……
ごめんなさい。
俺、大原さんに出会えてめっちゃくちゃラッキーと思いました。
「アキヤさん、会社で俺のこと惚気てくれているんですか?」
「あ、あぁ、ごめん。嬉しくてつい……ちょっとだけ……あ、いや、結構たくさん」
結構たくさん惚気てくれているんだ……それって……それっってすごく……。
「アルファに自慢してもらえるって嬉しい。アキヤさん、俺、すごく嬉しいです」
嬉しくて嬉しくて満面の笑みを向けると、アキヤさんはシャツの胸元を掴んで唇をかむ。
嬉しい俺で嬉しくなっているアキヤさんだ。
わぁ……更に嬉しいし……。
「ふふっ。かわいい」
「……かわいいより、かっこいいって言ってもらえる俺でいたいのに」
アキヤさんは嬉しそうな顔のまま、少しだけ悔しそうに呟いた。
それもかわいい。
かわいくて仕方がない!
この日は時間が短かったけど、俺もしっかりアキヤさんを充電することができた。
289
あなたにおすすめの小説
【完結】獣王の番
なの
BL
獣王国の若き王ライオネルは、和平の証として差し出されたΩの少年ユリアンを「番など認めぬ」と冷酷に拒絶する。
虐げられながらも、ユリアンは決してその誇りを失わなかった。
しかし暴走する獣の血を鎮められるのは、そのユリアンただ一人――。
やがて明かされる予言、「真の獣王は唯一の番と結ばれるとき、国を救う」
拒絶から始まった二人の関係は、やがて国を救う愛へと変わっていく。
冷徹な獣王と運命のΩの、拒絶から始まる、運命の溺愛ファンタジー!
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
婚約破棄された令息の華麗なる逆転劇 ~偽りの番に捨てられたΩは、氷血公爵に愛される~
なの
BL
希少な治癒能力と、大地に生命を呼び戻す「恵みの魔法」を持つ公爵家のΩ令息、エリアス・フォン・ラティス。
傾きかけた家を救うため、彼は大国アルビオンの第二王子、ジークフリート殿下(α)との「政略的な番契約」を受け入れた。
家のため、領民のため、そして――
少しでも自分を必要としてくれる人がいるのなら、それでいいと信じて。
だが、運命の番だと信じていた相手は、彼の想いを最初から踏みにじっていた。
「Ωの魔力さえ手に入れば、あんな奴はもう要らない」
その冷たい声が、彼の世界を壊した。
すべてを失い、偽りの罪を着せられ追放されたエリアスがたどり着いたのは、隣国ルミナスの地。
そこで出会ったのは、「氷血公爵」と呼ばれる孤高のα、アレクシス・ヴァン・レイヴンだった。
人を寄せつけないほど冷ややかな瞳の奥に、誰よりも深い孤独を抱えた男。
アレクシスは、心に傷を抱えながらも懸命に生きようとするエリアスに惹かれ、次第にその凍てついた心を溶かしていく。
失われた誇りを取り戻すため、そして真実の愛を掴むため。
今、令息の華麗なる逆転劇が始まる。
『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました
小池 月
BL
大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。
壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。
加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。
大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。
そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。
☆BLです。全年齢対応作品です☆
出世したいので愛は要りません
ふじの
BL
オメガのガブリエルはオメガらしい人生を歩む事が不満だった。出世を目論みオメガ初の官僚としてバリバリと働いていたは良いものの、些細な事で体調を崩す様になってしまう。それがきっかけで五年程前に利害の一致から愛の無い結婚をしたアルファである夫、フェリックスとの関係性が徐々に変わっていくのだった。
君と運命になっていく
やらぎはら響
BL
母親から冷遇されている町田伊織(まちだいおり)は病気だから薬を欠かさず飲むことを厳命されていた。
ある日倒れて伊織はオメガであり今まで飲むように言われていたのは強い抑制剤だと教えられる。
体調を整えるためにも世界バース保護機関にアルファとのマッチングをするよう言われてしまった。
マッチング相手は外国人のリルトで、大きくて大人の男なのに何だか子犬のように可愛く見えてしまい絆されていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる