【完結】幸せしかないオメガバース

回路メグル

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第36話 ヒート3日前

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「お邪魔します」

 いつもは大きめのボディバッグとかトートバッグ程度の荷物だけど、今日はスーツケースをアキヤさんの車に積んでもらってアキヤさんの家にやってきた。
 スーツケースの中身は、主に一週間分の衣類。
 いよいよ今日から、アキヤさんの家に泊まり込んでヒートの巣ごもりと……番契約だ。

「いらっしゃい。荷物は寝室のクローゼットに……引き出しとかハンガーもあけているから、適当に使ってね」
「はい、ありがとうございます」

 早速、下着や服を取り出しやすいようにスーツケースからクローゼットへ移し替える。
 何度も泊りに来ているから、少しは俺の着替えも置いてあるけど……こうやって並ぶと、俺、本当にこの家の住人みたいだな……なんて。

「明日まで出社だよね?」
「はい。体調を見てですけど……明日は多分まだなので」
「職場、ちょっと遠くなるよね。車で送るね」
「アキヤさんこそ遠くなるし、大丈夫です。電車で行きますよ」

 アキヤさんの家は同じ沿線だから普段より乗っている時間が五分ちょっと長くなるだけだ。
 この家が駅から近いことを考えれば会社に着く時間は同じかもしれない。
 だから気を遣わなくていいのに。
 ……アキヤさんと一緒にいられる時間が長くなるのは魅力的だけど。

「絶対に嫌だ。送るよ。帰りも迎えに行く。絶対に」

 アキヤさんは笑顔だけど、かなり強い口調で「絶対に」をもう一度繰り返した。
 ……そうか……ヒートが近づいたオメガの番予定のアルファってこんな感じなんだ。
 それに、俺もヒートが近いから?
 こういう束縛ともいえるようなことが……今の俺にはめちゃくちゃ嬉しい!

「解りました。じゃあ、一緒にいられる時間が長くなるのが嬉しいし……お願いします」

 俺が素直に頷くと、アキヤさんも嬉しそうにしてくれた。
 俺、ついつい遠慮してしまうけど、素直にアキヤさんに頼ったり甘えたりした方がアキヤさんは嬉しいのかも……?

「そうだ。巣材入れ、これでいい?」

 アキヤさんが思い出したように指差したのは、クローゼットの横に置かれた、こだわりの家具が並ぶスッキリした寝室に似合わないプラスチック製のコンテナ衣装ケース。

「はい! 大丈夫だと思います」

 よくある衣装ケースに見えるけど、密閉できるパッキンのついたタイプで、服に染みついた匂いやフェロモンが薄まりにくい専用品だ。
 中にはすでに、アキヤさんの着用済み衣服が三日分ほど入っている。
 これは「巣材」。
 ヒートの時にオメガがパートナーの匂いやフェロモンの染みついた衣服でベッドの上に「巣」のようなものを作る習性があるので、それ用の衣服だ。
 衣服はシャツや部屋着だけでなく、一日身に付けただけのマフラーやネクタイ、セーターなども入れてもらっている。
 本当は下着も入れてもらいたかったけど、アキヤさんが嫌がったから妥協した。

「ミチくんに編んでもらったニットが多いから、ふわふわもこもこでかなり巣らしい巣ができそうだよね」
「そう思って、マフラーまた編んだので、ヒートまで毎日日替わりでつけてください」

 スーツケースとは別に、紙袋に入れてきた三本のマフラーを渡すと、アキヤさんは迷惑そうな表情は一切見せず、笑顔で一つ一つ丁寧に確認してくれる。
 ……もう、通算一〇本目のマフラーなのに。

「わかった。これも良い色だね。こっちは二色か。これもいいな。俺の好きな色ばかりだから、俺の好きな色の巣になるな。楽しみだよ」
「そうなんです。最近は巣にすることを考えて、色味とか、長さとかも考えていて……俺も楽しみです」

 巣をつくるのは初めてだけど、ネットに上がっている他のオメガの巣やモニくんのアドバイスを参考に、だいたいどんな巣が作りたいかは決めている。
 アキヤさん、気に入ってくれると良いな。

「あと三日くらい?」
「そうですね。今までヒート周期って前後一日程度しかズレたことが無いので……あと二~四日だと思います」
「そっかいよいよ……そうだ、巣ごもりセット先に作っておこうか? ヒートがもし早めに来ても慌てないように」
「そうですね!」

 この二ヶ月ほどですっかり見慣れた寝室に、先ほどの衣装ケースともう一つ、増えているものがあった。
 ベッドのすぐ横にあるサイドボードの上に置かれた、透明プラスチックの無難な箱。
 これに薬やウエットティッシュ、熱さまし、栄養ドリンクなんかのヒートに必要なものを入れて発情期のあいだ巣にこもるための「巣ごもりセット」にするための箱だ。

「アルファの友達に聞いたけど、蓋があるとあせって開けにくいし、透明の方が急いでいる時でも中身が解りやすいって」
「確かに発情期の俺は余裕が無くてそうですけど……アルファのアキヤさんもそうなるってイメージできないですね」
「実は俺も。発情期のオメガのフェロモンを嗅いだことはあるけど、やばそうなときは常に持ち歩いているアルファ用の頓服抑制剤を飲んでいたから、オメガのフェロモンでラット状態になったことは無いんだよね」

 オメガのフェロモンでアルファも発情状態になるラット。
 ……そっか、無いんだ。

「……じゃあ、アキヤさんがラットになるの、俺のフェロモンが初めてですか?」
「そうだね」
「……そっか……初めて、なんだ」
「ミチくん?」
「……だって、アキヤさん、セックスは手慣れているし、今までに恋人もいたって言っていたから……アキヤさんの初めてがもらえるの、嬉しい」

 番になること以外、身体的なことでアキヤさんの初めては残っていないと思っていたから……俺しか知らないことは無いと思っていたから……とても嬉しい。

「そう……か。ごめん、俺ばっかりミチくんの初めてもらって。運命の番に、初めてをおいておかなくて、ごめん!」
「あ、ごめんなさい、俺、面倒なこと言っちゃいましたね。でも……」

 思ったことが口から出るのを止められない。
 ヒートが近いからかな……

「セックスが上手なアキヤさん、すごくかっこいいから、初めてじゃないのは別に嫌じゃなくて……嫌じゃないし、モテてセックスにも慣れているアキヤさんが良いけど初めても欲しいって言う俺の我儘なんです」
「ミチくん……えぇ……なにその面倒くさいの」

 しまった。正直に言い過ぎて呆れられた……?
 ちょっとドキッとしたけど、アキヤさんはだらしないくらい緩めた笑顔を向けてくれた。

「俺のことめっちゃくちゃ好きってことだよね? もう、かわいくて今すぐセックスしたい!」

 アキヤさんも正直すぎるのでは……?
 まぁ、俺も……

「……します?」

 あと三日もすればヒートでセックス三昧の予定なのに……まだ、ヒートの体調ではないのに……普通にセックスがしたくてたまらなかった。

 そして、この後めちゃくちゃセックスした。
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