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第37話 ヒート当日
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「ひまー……」
番契約のための休暇二日目。
昨日は、ヒート中にできなくなりそうな家の掃除をかなり入念にしているうちに時間が過ぎた。
そして今日。
やることがない。
いつヒートになるか解らないから外に出ることは禁止されちゃったし、折角アキヤさんの家にいるんだからアキヤさんの好きなお菓子とか料理でも作りたいけど、急にヒートが来たら危ないから無理。
手持無沙汰でなんとなくクッションカバーを編んではいるけど……今日は集中できなくて、俺にしては珍しく三回も目がズレた。
「さびしー……」
ヒート前やヒート中って人恋しいのに、自宅よりも広くてガランとしたリビングにいるのもよくないのかもしれない。
普段のヒートはモニくんやヨナちゃんが様子を見に来てくれて、メッセージアプリで連絡もしてくれて、寂しくないんだけど……。
「アキヤさん、まだ仕事中だよね……」
定時五時半で家まで三〇分くらいだから、あと四時間は帰ってこないし、仕事中に連絡をくれることはない。
社会人として当然。
「でも、さびしい……」
モニくん、ヨナちゃん、他の友達でも、連絡してみる?
うーん。
改まって話すほどのことじゃないんだよね……軽く他人の存在を感じたいというか……。
こういう時にSNSでもしていれば良かったなと思う。
俺は短文系も写真系もブログ風も、SNSは何もしていない。SNSのアプリじゃなくて、WEBブラウザで好きな編み物作家さんのアカウントを見るくらいはしているんだけど……自分で投稿することもないし、登録する必要性は今まで感じていなかった。
あ、アキヤさんの写真投稿SNSのアカウントも教えてもらって観ているな。
投稿内容は、俺と食べたご飯とか、デートで行った場所の景色とか、フットサルチーム関連のこととか……そうだ、少し見ちゃおう。
「アキヤさんだなぁ……」
アキヤさんのアカウントなんだから当然だけど、SNSの投稿にアキヤさんを感じて思わず頬が緩む。
そうそう。先週一緒に食べたフードコートの和風スイーツドリンクおいしかったな。
あ、こっちはドライブデートで海に行った時の。
もう少し前……あ、こんなのあったっけ? えっと、「運命の相手が見つかった祝いで一人晩酌」?
こんな高そうなワインあけていたんだ。
俺との出会い、喜んでくれていたんだ。
嬉しいなぁ……あ、俺と出会う前の、俺の知らないアキヤさんの投稿も興味深い。
……。
…………。
………………。
はっ!? いつのまにか五年くらい前の投稿までさかのぼっていた。
もう何やっているんだろう、俺。
でも……。
「……ないよね……」
かなり下まで見てしまったSNSの画面を、上にスクロールしていく。
様々な写真が流れていくが、俺が一番見たい写真はない。
見たいのになぁ~……アキヤさんの笑顔がハッキリ写った写真。
ただでさえアルファは目立つから、個人情報の観点でも顔をハッキリ載せないのは正解だと思うけど。
でも……。
「俺の画像フォルダを見ればいいんだけど……」
俺のスマホの中にある、アキヤさん専用の写真フォルダを開く。
手編みアイテムを一つ渡すごとに着用写真を撮らせてもらっているから、フォルダの中にはアキヤさんの写真はたくさんあるんだけど……。
「もう見飽きた。本物が良い」
朝から何度見たか。
いつもならいくら見ても見飽きないのに。
今日はダメだ。
アキヤさんの顔がもっと見たい。
早く見たい。
会いたい。
アキヤさん……。
「アキヤさん……」
あー……だめだ。
涙まで出てきた。
頭もぼーっとする。
会いたすぎる。
顔見たい、声聞きたい。
……電話したら迷惑かな? 仕事中だし。
でも、ヒートが来たらすぐに電話してって言っていたし、ちょっとくらい……
ん?
あれ?
あれ? 俺?
あれ?
「あ……」
あ、これヒートだ!
いつものヒートの始まり方と全然違うから一瞬解らなかった。
ヒートだ!
「あ、あ、でんわ……!」
焦る手でなんとかスマートフォンの通話ボタンをタップするけど、自覚したらもう、どんどん体温が上がって、お腹の奥がドクドク波打つ。
わ、ヒート、もうヒートだ……下半身にも頭にも血が集まっていく感じがする。
言わなきゃ。
アキヤさんに……!
「もしもし、ミチくん」
震える指で、アキヤさんに電話をかけると、一コールもしないうちにアキヤさんが出てくれた。
「あ、アキヤさんだぁ」
「ミチくん?」
報告しないといけないのに、
それよりも脳から直接あふれ出る言葉が先に口を突いた。
「あ、すみません! アキヤさん……あの、おれ、たぶん……あの、ひ、ヒート……!」
「……! あぁ、わかった。大丈夫。すぐ帰るから、安心して」
「うん。はやく、はやくね? アキヤさん、早く会いたいから、はやく……!」
これでアキヤさんが帰ってくると思うと、ほっとしてヒートがもう一段階進んだ気がする。
もう、ヒートに身をまかせればいいんだ……!
「早く帰るから、用意と……俺が帰る場所、作っておいてね」
「用意……! 場所……!」
そうだ、後ろの用意しなきゃ。アキヤさんがすぐにセックスしてくれるように。
それに、巣!
アキヤさんがいっぱい用意してくれている巣材で巣、作らなきゃ!
アキヤさんに早く帰ってきて欲しいけど、帰ってくるまでに早くアキヤさんを受け入れる準備、しなきゃ!
「うん。うん! 用意して待ってるから、はやく、ね? はやく、アキヤさん」
「よろしくね、ミチくん。急いで帰るから。すぐに会えるから」
俺を落ち着かせるように何度も語り掛けてくれる言葉と共に、電話の向こう側では机の引き出しを開け閉めするような音や、書類を捲る音がする。帰り支度を急いでくれている?
だったら俺も頑張らないと。
「……うん!」
電話を切って、ヒートで頭はボーっとするけど、オメガの本能なのか、事前にきちんと段取りを決めていたからなのか、風呂場でシャワーを浴びて準備をすることも、水分補給も、寝室に移動して薬を飲むことも……ちゃんとできた。
「あとは……」
番契約のための休暇二日目。
昨日は、ヒート中にできなくなりそうな家の掃除をかなり入念にしているうちに時間が過ぎた。
そして今日。
やることがない。
いつヒートになるか解らないから外に出ることは禁止されちゃったし、折角アキヤさんの家にいるんだからアキヤさんの好きなお菓子とか料理でも作りたいけど、急にヒートが来たら危ないから無理。
手持無沙汰でなんとなくクッションカバーを編んではいるけど……今日は集中できなくて、俺にしては珍しく三回も目がズレた。
「さびしー……」
ヒート前やヒート中って人恋しいのに、自宅よりも広くてガランとしたリビングにいるのもよくないのかもしれない。
普段のヒートはモニくんやヨナちゃんが様子を見に来てくれて、メッセージアプリで連絡もしてくれて、寂しくないんだけど……。
「アキヤさん、まだ仕事中だよね……」
定時五時半で家まで三〇分くらいだから、あと四時間は帰ってこないし、仕事中に連絡をくれることはない。
社会人として当然。
「でも、さびしい……」
モニくん、ヨナちゃん、他の友達でも、連絡してみる?
うーん。
改まって話すほどのことじゃないんだよね……軽く他人の存在を感じたいというか……。
こういう時にSNSでもしていれば良かったなと思う。
俺は短文系も写真系もブログ風も、SNSは何もしていない。SNSのアプリじゃなくて、WEBブラウザで好きな編み物作家さんのアカウントを見るくらいはしているんだけど……自分で投稿することもないし、登録する必要性は今まで感じていなかった。
あ、アキヤさんの写真投稿SNSのアカウントも教えてもらって観ているな。
投稿内容は、俺と食べたご飯とか、デートで行った場所の景色とか、フットサルチーム関連のこととか……そうだ、少し見ちゃおう。
「アキヤさんだなぁ……」
アキヤさんのアカウントなんだから当然だけど、SNSの投稿にアキヤさんを感じて思わず頬が緩む。
そうそう。先週一緒に食べたフードコートの和風スイーツドリンクおいしかったな。
あ、こっちはドライブデートで海に行った時の。
もう少し前……あ、こんなのあったっけ? えっと、「運命の相手が見つかった祝いで一人晩酌」?
こんな高そうなワインあけていたんだ。
俺との出会い、喜んでくれていたんだ。
嬉しいなぁ……あ、俺と出会う前の、俺の知らないアキヤさんの投稿も興味深い。
……。
…………。
………………。
はっ!? いつのまにか五年くらい前の投稿までさかのぼっていた。
もう何やっているんだろう、俺。
でも……。
「……ないよね……」
かなり下まで見てしまったSNSの画面を、上にスクロールしていく。
様々な写真が流れていくが、俺が一番見たい写真はない。
見たいのになぁ~……アキヤさんの笑顔がハッキリ写った写真。
ただでさえアルファは目立つから、個人情報の観点でも顔をハッキリ載せないのは正解だと思うけど。
でも……。
「俺の画像フォルダを見ればいいんだけど……」
俺のスマホの中にある、アキヤさん専用の写真フォルダを開く。
手編みアイテムを一つ渡すごとに着用写真を撮らせてもらっているから、フォルダの中にはアキヤさんの写真はたくさんあるんだけど……。
「もう見飽きた。本物が良い」
朝から何度見たか。
いつもならいくら見ても見飽きないのに。
今日はダメだ。
アキヤさんの顔がもっと見たい。
早く見たい。
会いたい。
アキヤさん……。
「アキヤさん……」
あー……だめだ。
涙まで出てきた。
頭もぼーっとする。
会いたすぎる。
顔見たい、声聞きたい。
……電話したら迷惑かな? 仕事中だし。
でも、ヒートが来たらすぐに電話してって言っていたし、ちょっとくらい……
ん?
あれ?
あれ? 俺?
あれ?
「あ……」
あ、これヒートだ!
いつものヒートの始まり方と全然違うから一瞬解らなかった。
ヒートだ!
「あ、あ、でんわ……!」
焦る手でなんとかスマートフォンの通話ボタンをタップするけど、自覚したらもう、どんどん体温が上がって、お腹の奥がドクドク波打つ。
わ、ヒート、もうヒートだ……下半身にも頭にも血が集まっていく感じがする。
言わなきゃ。
アキヤさんに……!
「もしもし、ミチくん」
震える指で、アキヤさんに電話をかけると、一コールもしないうちにアキヤさんが出てくれた。
「あ、アキヤさんだぁ」
「ミチくん?」
報告しないといけないのに、
それよりも脳から直接あふれ出る言葉が先に口を突いた。
「あ、すみません! アキヤさん……あの、おれ、たぶん……あの、ひ、ヒート……!」
「……! あぁ、わかった。大丈夫。すぐ帰るから、安心して」
「うん。はやく、はやくね? アキヤさん、早く会いたいから、はやく……!」
これでアキヤさんが帰ってくると思うと、ほっとしてヒートがもう一段階進んだ気がする。
もう、ヒートに身をまかせればいいんだ……!
「早く帰るから、用意と……俺が帰る場所、作っておいてね」
「用意……! 場所……!」
そうだ、後ろの用意しなきゃ。アキヤさんがすぐにセックスしてくれるように。
それに、巣!
アキヤさんがいっぱい用意してくれている巣材で巣、作らなきゃ!
アキヤさんに早く帰ってきて欲しいけど、帰ってくるまでに早くアキヤさんを受け入れる準備、しなきゃ!
「うん。うん! 用意して待ってるから、はやく、ね? はやく、アキヤさん」
「よろしくね、ミチくん。急いで帰るから。すぐに会えるから」
俺を落ち着かせるように何度も語り掛けてくれる言葉と共に、電話の向こう側では机の引き出しを開け閉めするような音や、書類を捲る音がする。帰り支度を急いでくれている?
だったら俺も頑張らないと。
「……うん!」
電話を切って、ヒートで頭はボーっとするけど、オメガの本能なのか、事前にきちんと段取りを決めていたからなのか、風呂場でシャワーを浴びて準備をすることも、水分補給も、寝室に移動して薬を飲むことも……ちゃんとできた。
「あとは……」
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