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第45話 出社2
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アキヤさんが撮っておいてくれた「巣」の写真をスマートフォンの画面に表示して先輩たちの方へ向ける。
作っている時は必死だったし、セックス中にぐちゃぐちゃになってしまった「巣」だけど、自分でこうやって見返しても、紺、茶色、グレーを中心に、赤や青を差し色にしたオシャレな配色で、ニットの質感がもこもこでボリュームもあって、マフラーを編み込んでいるのもデザイン性が高くて……かなり良い感じの「巣」にできていると思う。
この写真なら、巣の背が高くて、俺も後ろを向いているから顔は解らないし……。
「これって、もしかしてオメガの巣ですか?」
「春野くんが作ったの?」
「そうです」
俺が頷くと、画面をのぞき込んでいた先輩や同僚、後輩、課長も「おぉ!」と感嘆の声をあげてくれた。
「素敵~! たまに、ブランドの服ばっかりのすごい巣がバズったりするけど、こういう巣のほうがベータから見てもオシャレだしかわいい!」
「もこもこで巣らしいし、色もオシャレで、普通にインテリアとしてもいいですよ!」
「見た目も素敵だけど、このマフラーやセーター、春野くんが編んであげたものでしょう? オメガが編んでアルファが身に着けて、オメガが巣にする……なんだろう、私、感動してきちゃった……!」
「わかります! 俺もベータですけど、彼女がこんなことしてくれたら……もう『結婚しよう!』って言いますよ!」
「いいんじゃないですか? 最近ベータの間でもカップルで巣作りごっこするのが流行っているし」
「これ、SNS載せましょう!」
「今までに春野くんが作ったマフラーやセーターもコラージュして、これがこれにって見せたいよね」
「あ、いいですね! それ私作ります!」
「春野くん、写真データを部署のフォルダに入れて置いてくれる?」
「はい、わかりました」
アキヤさんに褒められた時が一番嬉しかったけど……編み物仲間でもある会社の人に褒められるのも嬉しいな。
会社のSNSのネタにやっと貢献できるのも嬉しい。
早速、部署の共有フォルダへデータを送ろうとスマートフォンを弄っていると、女性の先輩が花束を入れるための紙袋を持ってきてくれた。
「これに入れて。涼しい給湯室に置いてくるから」
「あ、ありがとうございます! 自分で……」
「いいのいいの。もうすぐ社長があいさつに来るし」
「え? 社長が?」
社長は良い人だけど、かなりの年配であまり社長室から動かないのに……。
「すごく喜んでいたわよ。お昼の社食で春野くんと会社の名前入りの紅白饅頭配るって」
「え、えぇ……それは……ちょっと……」
「って言うと思って、名前はやめて『祝 番』にしてもらったから」
「ははっ、紅白饅頭は配るんですね」
この日は昼の社員食堂でも沢山の社員に祝ってもらって、帰りも「アルファが待っているんでしょ? 上がって良いよ」と定時ちょうどに帰してもらった。
あんまり仕事にならなかったのはちょっと申し訳ないけど、沢山の人に祝ってもらえたのは、素直に嬉しかった。
◆
久しぶりの出社のあとは、アキヤさんの家に帰宅した。
まだ完全に同棲が始まったわけではないけど、お互い離れがたくて今週はここに帰ることになっている。
「うちは朝礼で樽酒を開けたよ。車で外に出る社員も多いから、ほとんど役員が飲んでたな。俺のお祝いなのに俺は舐める程度しか飲んでないし」
「でも樽酒ってすごくめでたい感じがしていいですね」
「紅白饅頭の方が絶対にいいよ。これ、ちゃんと美味しいところのだし」
一日離れていた距離を埋めるようにぴったりくっついてソファに座り、俺がもらって来た紅白饅頭を美味しそうに食べるアキヤさんも、会社では俺と同じようにみんなに祝ってもらったらしい。
樽酒だけでなく、出社した瞬間エントランスで万歳三唱されくす玉も割ったとか……大きな会社はすごいなぁ。
テーブルの上の花瓶には、俺がもらった花束とアキヤさんがもらった花束が無理やり入れてある。
明日もう一つ花瓶を買って帰ろう。
「そうだミチくん。今週末の手土産、何が良いかな? こういう和菓子? 洋菓子? おつまみとか佃煮とか?」
「そうですね……」
今週末というのは「俺の実家へ番契約完了の報告をしにいく」予定のことだ。
アルファもオメガも、家族にアルファやオメガが多いから正式な番契約前に会わせるのを嫌い、番契約後に顔合わせをするのが一般的だ。
……親に反対されたって運命の相手はどうしようもないし。
それにしても、アキヤさんちょっと緊張してる?
「うちの家族、全員コーヒーが好きなんです。いつもここで飲んでいるコーヒーの豆なんか喜ばれると思いますよ」
「なるほど……確かギフトセットもあったと思うから明日買ってこよう。あと、服ってスーツでいい? ミチくんのご実家って写真で見せてもらったけど立派な日本家屋だよね? 着物とか着ていくべき?」
うーん。アキヤさんの着物姿も見たいけど……両親には自然体の素敵なアキヤさんを見て欲しい。
「見た目だけですよ。中は洋間もあるのでスーツで大丈夫です。あの濃い方のグレーのスーツが一番似合っているからあれが良いかも」
俺が提案すると、アキヤさんは少し緊張していた顔を嬉しそうに緩ませる。
「本当? じゃああれと、ネクタイとシャツも後で選ぶの手伝ってくれる?」
「はい。代わりに、アキヤさんも俺がアキヤさんのご実家に行くときの服選び、手伝ってくださいね」
「もちろん」
自分がアキヤさんの実家に行くときのことを思うと確かに緊張するのも解るんだけど……俺は自慢の番を早く家族に見せたくて、楽しみで仕方が無かった。
作っている時は必死だったし、セックス中にぐちゃぐちゃになってしまった「巣」だけど、自分でこうやって見返しても、紺、茶色、グレーを中心に、赤や青を差し色にしたオシャレな配色で、ニットの質感がもこもこでボリュームもあって、マフラーを編み込んでいるのもデザイン性が高くて……かなり良い感じの「巣」にできていると思う。
この写真なら、巣の背が高くて、俺も後ろを向いているから顔は解らないし……。
「これって、もしかしてオメガの巣ですか?」
「春野くんが作ったの?」
「そうです」
俺が頷くと、画面をのぞき込んでいた先輩や同僚、後輩、課長も「おぉ!」と感嘆の声をあげてくれた。
「素敵~! たまに、ブランドの服ばっかりのすごい巣がバズったりするけど、こういう巣のほうがベータから見てもオシャレだしかわいい!」
「もこもこで巣らしいし、色もオシャレで、普通にインテリアとしてもいいですよ!」
「見た目も素敵だけど、このマフラーやセーター、春野くんが編んであげたものでしょう? オメガが編んでアルファが身に着けて、オメガが巣にする……なんだろう、私、感動してきちゃった……!」
「わかります! 俺もベータですけど、彼女がこんなことしてくれたら……もう『結婚しよう!』って言いますよ!」
「いいんじゃないですか? 最近ベータの間でもカップルで巣作りごっこするのが流行っているし」
「これ、SNS載せましょう!」
「今までに春野くんが作ったマフラーやセーターもコラージュして、これがこれにって見せたいよね」
「あ、いいですね! それ私作ります!」
「春野くん、写真データを部署のフォルダに入れて置いてくれる?」
「はい、わかりました」
アキヤさんに褒められた時が一番嬉しかったけど……編み物仲間でもある会社の人に褒められるのも嬉しいな。
会社のSNSのネタにやっと貢献できるのも嬉しい。
早速、部署の共有フォルダへデータを送ろうとスマートフォンを弄っていると、女性の先輩が花束を入れるための紙袋を持ってきてくれた。
「これに入れて。涼しい給湯室に置いてくるから」
「あ、ありがとうございます! 自分で……」
「いいのいいの。もうすぐ社長があいさつに来るし」
「え? 社長が?」
社長は良い人だけど、かなりの年配であまり社長室から動かないのに……。
「すごく喜んでいたわよ。お昼の社食で春野くんと会社の名前入りの紅白饅頭配るって」
「え、えぇ……それは……ちょっと……」
「って言うと思って、名前はやめて『祝 番』にしてもらったから」
「ははっ、紅白饅頭は配るんですね」
この日は昼の社員食堂でも沢山の社員に祝ってもらって、帰りも「アルファが待っているんでしょ? 上がって良いよ」と定時ちょうどに帰してもらった。
あんまり仕事にならなかったのはちょっと申し訳ないけど、沢山の人に祝ってもらえたのは、素直に嬉しかった。
◆
久しぶりの出社のあとは、アキヤさんの家に帰宅した。
まだ完全に同棲が始まったわけではないけど、お互い離れがたくて今週はここに帰ることになっている。
「うちは朝礼で樽酒を開けたよ。車で外に出る社員も多いから、ほとんど役員が飲んでたな。俺のお祝いなのに俺は舐める程度しか飲んでないし」
「でも樽酒ってすごくめでたい感じがしていいですね」
「紅白饅頭の方が絶対にいいよ。これ、ちゃんと美味しいところのだし」
一日離れていた距離を埋めるようにぴったりくっついてソファに座り、俺がもらって来た紅白饅頭を美味しそうに食べるアキヤさんも、会社では俺と同じようにみんなに祝ってもらったらしい。
樽酒だけでなく、出社した瞬間エントランスで万歳三唱されくす玉も割ったとか……大きな会社はすごいなぁ。
テーブルの上の花瓶には、俺がもらった花束とアキヤさんがもらった花束が無理やり入れてある。
明日もう一つ花瓶を買って帰ろう。
「そうだミチくん。今週末の手土産、何が良いかな? こういう和菓子? 洋菓子? おつまみとか佃煮とか?」
「そうですね……」
今週末というのは「俺の実家へ番契約完了の報告をしにいく」予定のことだ。
アルファもオメガも、家族にアルファやオメガが多いから正式な番契約前に会わせるのを嫌い、番契約後に顔合わせをするのが一般的だ。
……親に反対されたって運命の相手はどうしようもないし。
それにしても、アキヤさんちょっと緊張してる?
「うちの家族、全員コーヒーが好きなんです。いつもここで飲んでいるコーヒーの豆なんか喜ばれると思いますよ」
「なるほど……確かギフトセットもあったと思うから明日買ってこよう。あと、服ってスーツでいい? ミチくんのご実家って写真で見せてもらったけど立派な日本家屋だよね? 着物とか着ていくべき?」
うーん。アキヤさんの着物姿も見たいけど……両親には自然体の素敵なアキヤさんを見て欲しい。
「見た目だけですよ。中は洋間もあるのでスーツで大丈夫です。あの濃い方のグレーのスーツが一番似合っているからあれが良いかも」
俺が提案すると、アキヤさんは少し緊張していた顔を嬉しそうに緩ませる。
「本当? じゃああれと、ネクタイとシャツも後で選ぶの手伝ってくれる?」
「はい。代わりに、アキヤさんも俺がアキヤさんのご実家に行くときの服選び、手伝ってくださいね」
「もちろん」
自分がアキヤさんの実家に行くときのことを思うと確かに緊張するのも解るんだけど……俺は自慢の番を早く家族に見せたくて、楽しみで仕方が無かった。
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