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後日談
東上寺アキヤの幸せ 3
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「吾妻モニです!」
「日篠宮キョウイチだ」
「東上寺アキヤです」
ダブルデートの日、俺の家の前に止まったリムジンに乗り込むと、社内報や社内資料で何度も見たグループのトップがリムジンの奥のソファに座っていた。
相変わらず怖いくらい男前で、俺より背が高く筋肉も多く、王者の余裕のようなオーラもある。
……ただ、表情は初めて見る柔らかい笑顔だ。
「モニから聞いたが、うちのグループの社員らしいな」
「はい。ヒシノ重工で経営戦略室の室長をさせて頂いております」
「そうか。重工は叔父に任せきりで詳しくないが、その年でそのポジションは優秀なんだろう。最近業績もいいしな。……まぁ今日は仕事の関係は忘れて、ただの番の友人として接してくれ」
「はい」
俺にも柔らかい笑顔を向けてくれる遥か上の上司は、仕事や式典で見るようなハイブランドのオーダーメードスーツでも、トレードマークの濃い色のサングラスでもなく、隣に座るモニさんとおそろいの高級アウトドアブランドの白っぽいボアブルゾンに薄い色のサングラス。デニムにスニーカーだし……私服、こんな感じなのか。
ちょっと意外だな。
あと、上司がいるからってスーツにせずに、ミチくんの服装に合わせて、ミチくんの手編みのセーターの上に薄手のダウンというラフな格好できて正解だった。
「まずは親交を深めるために乾杯しようよ!」
「ふふっ、モニくんが飲みたいんじゃないの?」
「バレた? リムジンだとゆっくりお酒飲めるのがいいよね~」
結局その後は、モニさんとミチくんが主におしゃべりをして、俺とキョウイチ様は二人の会話に時々相づちを打つだけだった。
……友達と会話するミチくんは新鮮で、たったこれだけがめちゃくちゃ楽しかった。
◆
特に気まずくはないし楽しいけど、キョウイチ様とは距離を縮めることなく目的地の牧場についた。
今日は招待券がある人限定の日だとかで、休日のわりに人が少なく、ゆったりと過ごせそうだ。
……キョウイチ様の何かしらの配慮かもしれないな。入り口でチケットを見せた時も支配人が出てきたし。
本当、雲の上の存在の人だ。
「ミチくん、顔だしパネルあるよ! 写真撮ろう!」
「俺じゃなくてキョウイチさんと撮らなくていいの?」
「キョウイチさんかっこよすぎてこういうの似合わないもん」
入ってすぐの広場に置いてあった顔出しパネルは、羊や牛の可愛らしいデフォルメイラストに顔をはめるもので……まぁ、確かにキョウイチ様には似合わないな。
多分俺にも似合わない。
そういえば、今までミチくんとデートで行った水族館やアートイベントでも顔だしパネルは置いてあったけど、写真を撮ったことはないな。
ミチくん、結構恥ずかしがり屋で浮かれた写真を撮るのは苦手みたいだし……。
「キョウイチさん、撮って~!」
「あぁ」
俺が考えている間に、かわいい牛さんからモニさんの顔が、かわいい羊さんからミチくんの顔がのぞく。
ちょっと照れたミチくんの顔が世界一かわいい。
「え、かわいい……」
「あぁ、かわいいな」
思わず固まってしまった俺の横で、キョウイチ様がスマートフォンで顔出しパネルを連写する。
しまった。
俺もこれ、目の前のこのかわいいの、写真に撮りたい。
「撮れた?」
「あぁ、かわいく撮れた」
俺がスマートフォンを取り出すより早く、二人がパネルから離れてしまう。遅かった……。
「後で送ってね。ミチくんにも」
「あぁ」
「あ、あの……もしよろしければ……」
上司相手に図々しい。
でも、背に腹は代えられない。
「大丈夫だ。送ってやる」
「ありがとうございます!」
キョウイチ様は「わかっているぞ」とでもいうような笑顔で俺の肩を叩いてくれ、その場でメッセージアプリのIDを交換してくれた。
この瞬間、俺とキョウイチ様の距離は一気に縮んだ気がした。
「日篠宮キョウイチだ」
「東上寺アキヤです」
ダブルデートの日、俺の家の前に止まったリムジンに乗り込むと、社内報や社内資料で何度も見たグループのトップがリムジンの奥のソファに座っていた。
相変わらず怖いくらい男前で、俺より背が高く筋肉も多く、王者の余裕のようなオーラもある。
……ただ、表情は初めて見る柔らかい笑顔だ。
「モニから聞いたが、うちのグループの社員らしいな」
「はい。ヒシノ重工で経営戦略室の室長をさせて頂いております」
「そうか。重工は叔父に任せきりで詳しくないが、その年でそのポジションは優秀なんだろう。最近業績もいいしな。……まぁ今日は仕事の関係は忘れて、ただの番の友人として接してくれ」
「はい」
俺にも柔らかい笑顔を向けてくれる遥か上の上司は、仕事や式典で見るようなハイブランドのオーダーメードスーツでも、トレードマークの濃い色のサングラスでもなく、隣に座るモニさんとおそろいの高級アウトドアブランドの白っぽいボアブルゾンに薄い色のサングラス。デニムにスニーカーだし……私服、こんな感じなのか。
ちょっと意外だな。
あと、上司がいるからってスーツにせずに、ミチくんの服装に合わせて、ミチくんの手編みのセーターの上に薄手のダウンというラフな格好できて正解だった。
「まずは親交を深めるために乾杯しようよ!」
「ふふっ、モニくんが飲みたいんじゃないの?」
「バレた? リムジンだとゆっくりお酒飲めるのがいいよね~」
結局その後は、モニさんとミチくんが主におしゃべりをして、俺とキョウイチ様は二人の会話に時々相づちを打つだけだった。
……友達と会話するミチくんは新鮮で、たったこれだけがめちゃくちゃ楽しかった。
◆
特に気まずくはないし楽しいけど、キョウイチ様とは距離を縮めることなく目的地の牧場についた。
今日は招待券がある人限定の日だとかで、休日のわりに人が少なく、ゆったりと過ごせそうだ。
……キョウイチ様の何かしらの配慮かもしれないな。入り口でチケットを見せた時も支配人が出てきたし。
本当、雲の上の存在の人だ。
「ミチくん、顔だしパネルあるよ! 写真撮ろう!」
「俺じゃなくてキョウイチさんと撮らなくていいの?」
「キョウイチさんかっこよすぎてこういうの似合わないもん」
入ってすぐの広場に置いてあった顔出しパネルは、羊や牛の可愛らしいデフォルメイラストに顔をはめるもので……まぁ、確かにキョウイチ様には似合わないな。
多分俺にも似合わない。
そういえば、今までミチくんとデートで行った水族館やアートイベントでも顔だしパネルは置いてあったけど、写真を撮ったことはないな。
ミチくん、結構恥ずかしがり屋で浮かれた写真を撮るのは苦手みたいだし……。
「キョウイチさん、撮って~!」
「あぁ」
俺が考えている間に、かわいい牛さんからモニさんの顔が、かわいい羊さんからミチくんの顔がのぞく。
ちょっと照れたミチくんの顔が世界一かわいい。
「え、かわいい……」
「あぁ、かわいいな」
思わず固まってしまった俺の横で、キョウイチ様がスマートフォンで顔出しパネルを連写する。
しまった。
俺もこれ、目の前のこのかわいいの、写真に撮りたい。
「撮れた?」
「あぁ、かわいく撮れた」
俺がスマートフォンを取り出すより早く、二人がパネルから離れてしまう。遅かった……。
「後で送ってね。ミチくんにも」
「あぁ」
「あ、あの……もしよろしければ……」
上司相手に図々しい。
でも、背に腹は代えられない。
「大丈夫だ。送ってやる」
「ありがとうございます!」
キョウイチ様は「わかっているぞ」とでもいうような笑顔で俺の肩を叩いてくれ、その場でメッセージアプリのIDを交換してくれた。
この瞬間、俺とキョウイチ様の距離は一気に縮んだ気がした。
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