追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第8話 二人の誓い

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「わたしの、呪いを……あなたが、もらった……?」

セレスティアは呆然と、俺の言葉を繰り返した。その青い瞳は、目の前で起きている現実をまだ処理しきれていないようだった。彼女は恐る恐る、自分の腕に触れ、頬に触れる。そこに、いつもあったはずの苦痛の気配は微塵もなかった。

「ああ。どういう仕組みかは俺もよく分からん。だが、俺のスキルは他人の『代償』……君の場合は『呪い』か。それを自分の身体に移せるらしい」

俺はできるだけ分かりやすいように、ゆっくりと説明した。自分の身体が何ともないことを見せるように、その場で軽く腕を回してみせる。流れ込んできた苦痛は、俺の中ですっかり無害なエネルギーに変わっていた。むしろ、僅かな活力が湧いてくるような感覚さえある。

「そんな……馬鹿なことがあるはずないわ。わたしの呪いは、神殿の大司教様ですら解くことができなかったのに……。あなたが引き受けたら、あなた自身が呪いに苦しむことになる。そんなの、駄目よ!」

セレスティアは血の気の引いた顔で叫んだ。彼女は、自分の苦しみを他人に押し付けてしまったのだと勘違いしたのだろう。その優しさが、胸に温かく響いた。

俺は彼女を安心させるように、穏やかに微笑んだ。

「大丈夫だ。見ての通り、俺はピンピンしている。どうやら俺の身体は、そういう呪いを無効化する特殊な体質らしい。だから、心配するな」

俺の言葉と、その平然とした態度に、セレスティアはようやく、自分の身に起きたことが紛れもない事実なのだと理解し始めた。

長年の間、片時も彼女の身体から離れなかった苦痛からの、完全な解放。

それは、彼女が夢にさえ見ることのできなかった奇跡だった。

「……うそ」

彼女の唇から、か細い声が漏れた。

「うそよ……。こんなこと……」

次の瞬間、彼女の瞳から再び涙が溢れ出した。だが、それは先ほどまでの静かな涙とは違う。堰を切ったように、嗚咽と共に溢れ出す、感情の奔流だった。

「うっ……うわあああああん!」

子供のように声を上げて、彼女は泣きじゃくった。それは喜びの涙であり、安堵の涙であり、そして、長すぎた孤独な戦いが終わったことを告げる涙だった。俺は何も言わず、ただ黙って彼女が泣き止むのを待った。彼女には、その時間が必要だと思ったからだ。

どれくらいの時間が経っただろうか。ようやく泣き疲れたのか、彼女はしゃくりあげながら、涙で濡れた顔を上げた。その目は赤く腫れていたが、そこに宿る光は、先ほどまでとは比べ物にならないほど力強かった。

彼女は祭壇の前に崩れるように膝をつくと、俺に向かって深く、深く頭を下げた。

「ありがとう……ございます……。あなた様は、わたしの命の恩人です。このご恩は、一生忘れません……!」

そのあまりに真摯な感謝の言葉に、俺は少し戸惑った。

「やめてくれ。そんな風にされるようなことじゃない。俺は、ただ……あんたを放っておけなかっただけだ」

俺がそう言うと、セレスティアはゆっくりと顔を上げた。その涙に濡れた瞳が、まっすぐに俺を射抜く。

「いいえ。あなたは、わたしの全てを救ってくれました。……あの、お名前を、お伺いしてもよろしいでしょうか」

「リアムだ。ただのリアム」

「リアム……様」

彼女は俺の名前を、大切な宝物のように口の中で呟いた。

「わたしは、セレスティア、と申します」

それが、俺たちの初めての自己紹介だった。

セレスティアは立ち上がると、改めて俺に向き直った。その表情には、もう先ほどまでの絶望の色はない。代わりに、一つの確固たる決意が宿っていた。

「リアム様。あなた様さえよろしければ、これからのわたしの力、あなた様のために使わせてください。あなた様が側にいてくださるなら、わたしはもう呪いを恐れる必要はありません。この力で、きっとあなた様のお役に立ってみせます」

彼女の言葉に、胸が熱くなった。

役に立つ。その言葉が、どれほど今の俺にとって救いになるか、彼女は知らないだろう。お荷物だと、寄生虫だと罵られ、存在価値の全てを否定された俺にとって、それは何よりも嬉しい言葉だった。

俺は、自分のこれからのことを考えた。王都に戻る気など、もうない。俺を蔑んだ者たちがいる場所に、戻りたいとは思わない。かといって、このまま当てもなく放浪を続けるのか?

いや、違う。

俺の居場所は、ここにあるのかもしれない。

俺の力を、本当に必要としてくれる人が、目の前にいる。彼女の隣こそが、俺がようやく見つけた、新しい居場所なのではないか。

俺はセレスティアの目をまっすぐに見つめ返した。

「セレスティア。俺は、行く当てのないただの放浪者だ。金もなければ、力もない。そんな俺でよければ……俺の方こそ、君と一緒にいてもいいだろうか」

俺の問いに、セレスティアは一瞬きょとんとした顔をし、それから、花が咲くように微笑んだ。それは、俺が初めて見る、彼女の心からの笑顔だった。

「はい……! もちろんです、リアム様!」

その笑顔を見て、俺もつられて笑っていた。

追放されてから、初めて心の底から笑えた気がした。

俺はセレスティアに手を差し伸べる。彼女は少しのためらいの後、その小さな手を俺の手に重ねた。俺たちは、固く手を握り合った。

それは言葉にしなくとも分かる、確かな誓いだった。これからは一人ではない。二人で、この寂れた辺境の地で、生きていくのだと。

神に見捨てられたようなこの古い教会で、俺とセレスティアの、ささやかで、だけど確かな新しい人生が、今、静かに幕を開けた。
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