追放された”お荷物”の俺がいないと、聖女も賢者も剣聖も役立たずらしい

夏見ナイ

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第80話 スキルの真価

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呪詛の霧を抜け、再び太陽の光が満ちる空へと戻った俺たちは、しばらくの間言葉を失っていた。

仲間たちの視線は、ただ一点、俺の背中に集中していた。その視線にはもはや単なる驚きではない、畏怖と、そして絶対的な信頼が入り混じった複雑な色が浮かんでいた。

「……リアム」

最初に口を開いたのはダリウスだった。その声はいつになく真剣な響きを帯びている。

「今のは一体……。俺の心を蝕もうとしたあの呪詛が……お前の身体に吸い込まれていくのが見えた。お前は一体何をしたんだ?」

彼は剣士としての鋭い感覚で、俺のスキルが働いた瞬間を明確に捉えていたのだ。

俺はゆっくりと振り返り、仲間たちの顔を見回した。もう隠す必要はない。彼らはこの戦いの真実を知る権利がある。

「俺のスキル、【代償転嫁】の力だ」

俺は静かに告白を始めた。

「俺のスキルは、他人が受けるはずのあらゆる『負の効果』を自分の身体に引き受けることができる。痛み、疲労、呪い……そして今みたいに、精神を蝕む悪意さえも」

俺の言葉に仲間たちは息を呑んだ。セレスティアとソフィアは、ある程度俺の力のことを理解していたが、その全容を知らされてはいなかった。ルナリエル、アイリス、ダリウスにとっては初めて聞く真実だった。

「じゃあ……あの時も……?」

ルナリエルがはっとしたように呟いた。彼女の脳裏には、魔剣の呪いに狂っていた自分がリアムに触れられた瞬間に正気を取り戻した、あの日の記憶が蘇っていた。あの時、自分の魂を縛り付けていたおぞましい呪詛が、全てこの男に流れ込んでいったのだ。

「わたしが竜血に呑まれそうになった時も……」

アイリスもまた青ざめた顔で呟く。自分の内側で荒れ狂っていた灼熱の力が、リアムによってねじ伏せられたあの瞬間のことを。

ダリウスは何も言わなかった。だがその顔は誰よりも深く苦悩に歪んでいた。彼はかつてのパーティー『光の剣』で、自分たちがどれほど無自覚にこの男の犠牲の上に立っていたかを改めて思い知らされたのだ。

「つまり、リアム様は……」

セレスティアが震える声で言った。

「わたくしたちがその力を使うたびに……。わたくしたちが呪いに苦しむたびに……。その全ての苦しみをたった一人で引き受けてくださっていた、ということですか……?」

その問いに俺は静かに頷いた。

フレアの背の上は、重い沈黙に包まれる。

仲間たちはただ言葉を失っていた。自分たちがどれほど大きなものをこの一人の男に背負わせていたのか。そして彼がどれほどの苦痛を、文句一つ言わずに黙って受け止め続けてくれていたのか。

その事実が彼らの胸を鋭い痛みとなって締め付けた。

「……なんで」

ルナリエルが絞り出すような声で言った。

「なんでそんな大事なことを黙っていたのよ……! あなたは馬鹿なの!?」

その声は怒っているようで、泣いているようにも聞こえた。

「ごめん」

俺は素直に謝った。

「言うつもりがなかったわけじゃない。ただ、俺自身この力の本当の価値に最近まで気づいていなかったんだ。俺にとってはこれが当たり前だったから」

そのあまりにもあっさりとした言葉が、逆に彼がこれまで背負ってきたものの途方もない重さを仲間たちに物語っていた。

沈黙を破ったのはソフィアだった。
彼女はその紫色の瞳で、俺の全身をまるで精密な魔法具でも分析するかのようにじっと見つめていた。

「……リアムさん。あなたのスキルは、ただ『引き受ける』だけではないのですね?」

「え?」

「先ほどの呪詛の奔流。あれほどの負のエネルギーをただその身に受け止めれば、いかなる精神力を持つ者でも一瞬で崩壊します。ですがあなたは平然としている。……あなたの体内で一体何が起きているのですか?」

その賢者ならではの鋭い指摘に、俺は少しだけ驚いた。

「……正直、俺にもよく分からない。ただ俺の身体に入った『負の効果』は、いつの間にか無害な魔力に変わっているみたいなんだ。まるで浄化されるように」

「負のエネルギーを正の魔力へと変換する……?」

ソフィアの瞳が驚愕と、そしてそれ以上に強い知的好奇心できらきらと輝き始めた。

「なんと……! なんという完璧なエネルギー循環サイクル……! それはもはや単なるスキルではない! 世界の法則そのものを捻じ曲げる理の外の奇跡ですわ! リアムさん、あなたのその身体、一度徹底的に調べさせてはいただけませんか!?」

「え、遠慮しとく……」

俺は少しだけ後ずさった。彼女の探究心は時々少し怖い。

だがソフィアのその言葉は、仲間たちに一つの絶対的な確信を与えた。

「……そうか」

ルナリエルが俺の顔をまっすぐに見つめた。その瞳にもはや同情や憐れみはない。あるのは一人の戦士が、最強の切り札を見る時のような鋭く、そして信頼に満ちた光だけだった。

「リアム。あなたはただの守られるべき指揮官じゃない。……あなたはこの戦いの、絶対的な『切り札』そのものなのね」

彼女の言葉にダリウスも深く頷いた。

「そうだ。ヴラドの呪詛が精神への攻撃であるならば、その攻撃を完全に無効化し、あまつさえ力に変えることができるリアム殿の存在は、我々にとって何よりも強力な武器となる。……いや、武器ではないな」

彼は俺の肩に、その大きな手をぽんと置いた。

「お前は俺たち全員を守る、『最強の盾』だ」

最強の盾。

その言葉は戦闘能力ゼロだった俺にとって、何よりも誇らしい響きを持っていた。

「リアムさん!」
アイリスが満面の笑みで俺の腕に抱きついてきた。
「なんだかよく分かりませんけど、リアムさんがすっごくすごいってことは分かりました! もう何も怖くありません!」

「リアム様……」
セレスティアもまた涙を浮かべながら、嬉しそうに微笑んでいた。

仲間たちの温かい信頼。その視線を一身に受け、俺は少しだけ照れくさくなった。

「大げさだよ。俺にできるのはみんなの盾になることだけだ。敵を倒すのは、みんなの力が必要だ」

「ええ、分かっていますわ」

ソフィアが悪戯っぽく微笑んだ。

「あなたは最強の盾。そして私たちは、その盾に守られ真の力を解放された最強の矛。……ふふ、考えただけでわくわくしますね。魔将ヴラドが少しだけ可哀想になってきましたわ」

彼女の言葉に仲間たち全員が笑った。
重苦しかった空気は完全に消え失せていた。

代わりにそこには、絶望的な戦いに挑む者たちが持つべき確かな自信と、揺るぎない絆が満ち溢れていた。

俺たちは改めて一つのパーティーとなった。
それぞれの役割を理解し互いを信じ、一つの目標に向かって突き進む真の仲間として。

俺は前方に広がる王都へと続く空を見据えた。
その先には絶望が渦巻いている。

だが俺たちの心には、もう一片の迷いもなかった。

「行こう、みんな」

俺は力強く言った。

「俺たちの戦いは、ここからだ」
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