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第85話 決戦の火蓋
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ヴラドの背後の闇から溢れ出した呪いの眷属たちは、明確な殺意を持って俺たちへと殺到してきた。その数は瞬く間に百を超え、広場を埋め尽くさんとばかりにおぞましい波となって押し寄せる。
民衆から悲鳴が上がった。
王宮のバルコニーから戦況を見守る国王や騎士たちも息を呑んだ。
だが俺たちの陣形に一切の乱れはなかった。
「――前衛、前に!」
俺の短く鋭い号令が響く。
その一言を合図に三つの影が、俺を庇うように同時に前へと躍り出た。
ルナリエル。アイリス。そしてダリウス。
「ふん。ただの雑魚のようね。準備運動にもならないわ」
ルナリエルは月光のように煌めく剣を抜き放ち、迫りくる眷属の群れへと銀色の疾風となって突っ込んだ。
「わたしも行きます! フレア!」
アイリスは相棒の背に飛び乗ると、そのまま低空を滑るように駆け抜け敵陣の側面へと回り込む。
「……数が多いな。だが問題はない」
ダリウスは静かに長剣を構え、正面から押し寄せる敵の波を一人で受け止めるべく大地に深く根を張った。
決戦の火蓋は三人の最強の前衛によって、華々しく切って落された。
それはもはや戦闘ではなかった。一方的な蹂躙。
ルナリエルの剣が舞うたび銀色の三日月が宙を走り、呪いの眷属たちがまるで霧のように斬り裂かれていく。彼女の動きはあまりにも速く、そして美しかった。それは死のバレエ。敵は彼女の姿を捉えることさえできずに、ただその剣圧だけで塵となって消えていった。
「フレア、お願い! 『ドラゴンブレス』!」
アイリスの号令にフレアが大きく息を吸い込み、灼熱の炎の奔流を吐き出した。炎は敵の群れを扇状に薙ぎ払い、そのおぞましい身体を瞬時に灰へと変えていく。アイリスとフレアの連携は、もはや一騎当千の破壊力を持つ空飛ぶ砲台と化していた。
そしてその中央で、ダリウスの剣が静かに、しかし絶対的な防波堤として敵の突撃を阻んでいた。
彼の剣はルナリエルのように華麗ではない。だがその一振り一振りは岩のように重く、そして無駄がなかった。敵の爪も牙も呪いの波動も、彼の剣線に触れることさえできずに弾き返されていく。彼はただそこに立っているだけで、決して崩れることのない鋼の城壁そのものだった。
「な……なんだ、こいつらは……!?」
「呪いの眷属が、赤子の手をひねるように……!」
王宮のバルコニーから見ていた騎士たちが、信じられないものを見るような目でその光景に釘付けになっていた。
「すごい……! あれがエデンの英雄……!」
民衆は恐怖を忘れ、その神話のような戦いにただただ魅入られていた。
その間、俺と後衛のセレスティア、ソフィアは一歩も動いてはいなかった。
「リアム様、皆さんのご様子は……」
セレスティアが心配そうに尋ねてくる。
「問題ない。だが油断はするな。本当の敵はあいつらじゃない」
俺は前線で暴れる仲間たちには目もくれず、ただ一人敵陣の後方で腕を組んで静観しているヴラドの姿だけを睨みつけていた。
ヴラドもまた予想外の展開に、少しだけ眉をひそめていた。
「ほう。なるほどな。エルフの剣聖、竜騎士、そして……あれはかつて『光の剣』にいた剣聖か。面白い玩具を拾い集めたものだ、聖人様とやらは」
彼は眷属たちが蹂躙されていく様を、まるで他人事のように眺めている。彼にとってあれらはただの捨て駒、時間稼ぎのための駒でしかないのだ。
やがて数百はいたであろう呪いの眷属たちは、ものの数分で三人の前衛によって完全に掃討された。
広場には黒い塵だけが虚しく舞っている。
戦場に再び静寂が戻った。
ルナリエル、アイリス、ダリウスは息一つ乱すことなく、それぞれの得物を構え直しヴラドを睨みつけた。
「さて。前座は終わったようね、魔将」
ルナリエルが挑発するように言った。
「次はあなたの番よ」
その言葉にヴラドは、初めて心からの笑みを浮かべた。
「くくく……。そうだ、そうでなくてはつまらん」
彼はゆっくりとこちらへ向かって歩き始めた。一歩、また一歩とその足が広場の石畳を踏むたびに、周囲の空気が凍てついていく。
「良いだろう。お前たちがそれほどまでに死に急ぐというのなら、この俺が直々にその魂に本当の絶望というものを刻み込んでやろう」
彼の全身から黒い瘴気が奔流となって溢れ出した。それは先ほどの呪詛の霧などとは比較にならない、凝縮された純粋な死のオーラ。
本当の戦いが今、始まろうとしていた。
俺は後方の二人に静かに告げた。
「セレスティア、ソフィア。来るぞ」
「はい、リアム様」
「ええ。いつでも」
二人の声もまた揺るぎない覚悟に満ちていた。
ヴラドと俺たち六人。
王都の命運を、世界の未来をかけた本当の決戦の火蓋が、今、静かに、しかし確実に切って落とされた。
民衆から悲鳴が上がった。
王宮のバルコニーから戦況を見守る国王や騎士たちも息を呑んだ。
だが俺たちの陣形に一切の乱れはなかった。
「――前衛、前に!」
俺の短く鋭い号令が響く。
その一言を合図に三つの影が、俺を庇うように同時に前へと躍り出た。
ルナリエル。アイリス。そしてダリウス。
「ふん。ただの雑魚のようね。準備運動にもならないわ」
ルナリエルは月光のように煌めく剣を抜き放ち、迫りくる眷属の群れへと銀色の疾風となって突っ込んだ。
「わたしも行きます! フレア!」
アイリスは相棒の背に飛び乗ると、そのまま低空を滑るように駆け抜け敵陣の側面へと回り込む。
「……数が多いな。だが問題はない」
ダリウスは静かに長剣を構え、正面から押し寄せる敵の波を一人で受け止めるべく大地に深く根を張った。
決戦の火蓋は三人の最強の前衛によって、華々しく切って落された。
それはもはや戦闘ではなかった。一方的な蹂躙。
ルナリエルの剣が舞うたび銀色の三日月が宙を走り、呪いの眷属たちがまるで霧のように斬り裂かれていく。彼女の動きはあまりにも速く、そして美しかった。それは死のバレエ。敵は彼女の姿を捉えることさえできずに、ただその剣圧だけで塵となって消えていった。
「フレア、お願い! 『ドラゴンブレス』!」
アイリスの号令にフレアが大きく息を吸い込み、灼熱の炎の奔流を吐き出した。炎は敵の群れを扇状に薙ぎ払い、そのおぞましい身体を瞬時に灰へと変えていく。アイリスとフレアの連携は、もはや一騎当千の破壊力を持つ空飛ぶ砲台と化していた。
そしてその中央で、ダリウスの剣が静かに、しかし絶対的な防波堤として敵の突撃を阻んでいた。
彼の剣はルナリエルのように華麗ではない。だがその一振り一振りは岩のように重く、そして無駄がなかった。敵の爪も牙も呪いの波動も、彼の剣線に触れることさえできずに弾き返されていく。彼はただそこに立っているだけで、決して崩れることのない鋼の城壁そのものだった。
「な……なんだ、こいつらは……!?」
「呪いの眷属が、赤子の手をひねるように……!」
王宮のバルコニーから見ていた騎士たちが、信じられないものを見るような目でその光景に釘付けになっていた。
「すごい……! あれがエデンの英雄……!」
民衆は恐怖を忘れ、その神話のような戦いにただただ魅入られていた。
その間、俺と後衛のセレスティア、ソフィアは一歩も動いてはいなかった。
「リアム様、皆さんのご様子は……」
セレスティアが心配そうに尋ねてくる。
「問題ない。だが油断はするな。本当の敵はあいつらじゃない」
俺は前線で暴れる仲間たちには目もくれず、ただ一人敵陣の後方で腕を組んで静観しているヴラドの姿だけを睨みつけていた。
ヴラドもまた予想外の展開に、少しだけ眉をひそめていた。
「ほう。なるほどな。エルフの剣聖、竜騎士、そして……あれはかつて『光の剣』にいた剣聖か。面白い玩具を拾い集めたものだ、聖人様とやらは」
彼は眷属たちが蹂躙されていく様を、まるで他人事のように眺めている。彼にとってあれらはただの捨て駒、時間稼ぎのための駒でしかないのだ。
やがて数百はいたであろう呪いの眷属たちは、ものの数分で三人の前衛によって完全に掃討された。
広場には黒い塵だけが虚しく舞っている。
戦場に再び静寂が戻った。
ルナリエル、アイリス、ダリウスは息一つ乱すことなく、それぞれの得物を構え直しヴラドを睨みつけた。
「さて。前座は終わったようね、魔将」
ルナリエルが挑発するように言った。
「次はあなたの番よ」
その言葉にヴラドは、初めて心からの笑みを浮かべた。
「くくく……。そうだ、そうでなくてはつまらん」
彼はゆっくりとこちらへ向かって歩き始めた。一歩、また一歩とその足が広場の石畳を踏むたびに、周囲の空気が凍てついていく。
「良いだろう。お前たちがそれほどまでに死に急ぐというのなら、この俺が直々にその魂に本当の絶望というものを刻み込んでやろう」
彼の全身から黒い瘴気が奔流となって溢れ出した。それは先ほどの呪詛の霧などとは比較にならない、凝縮された純粋な死のオーラ。
本当の戦いが今、始まろうとしていた。
俺は後方の二人に静かに告げた。
「セレスティア、ソフィア。来るぞ」
「はい、リアム様」
「ええ。いつでも」
二人の声もまた揺るぎない覚悟に満ちていた。
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