ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第15話 三位一体の戦術

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僕が投げた石がフォレスト・グリズリーの額を叩いた、その直後。
怒りの咆哮を上げて僕に突進してくるグリズリーの巨体を、リリアナの姿は幻のようにすり抜けた。
「ギッ!?」
グリズリーの背後から、甲高い悲鳴が上がる。僕が注意を引いた一体ではなく、その隣にいた別の個体だ。その首筋には、リリアナのミスリルのレイピアが深々と突き刺さっていた。彼女は僕の「やれ」という合図を、ただ「戦闘を開始しろ」という意味ではなく、「最も効率的に数を減らせる敵から仕留めろ」という指示だと正確に理解していたのだ。
一撃で致命傷を与えると、リリアナは即座にその場から離脱し、僕の隣へと戻ってきた。血に濡れたレイピアの切っ先が、鈍い光を放っている。
「な……にが……」
光のドームの中から、ドワーフの呆然とした声が漏れた。無理もない。彼の目には、銀髪の少女が一瞬でBランクモンスターの背後を取り、一撃で沈黙させたようにしか見えなかっただろう。
残るグリズリーは四体。一体が倒されたことで、奴らの警戒心は一気に頂点に達していた。僕とリリアナ、そして中央のドワーフを交互に睨みつけ、誰から襲いかかるかを見定めているようだ。
「ユキナガ、次はどうする?」
リリアナが、落ち着いた声で尋ねる。彼女の瞳には、目の前の強敵に対する恐怖よりも、僕の指示への期待が色濃く浮かんでいた。
僕は脳内マップに集中する。四体のグリズリーの配置、視線の向き、そして予備動作。全ての情報が、僕の頭の中で解析されていく。
「リリアナ、次のターゲットはドワーフの右手側にいる個体だ。ヤツは前足の爪が僅かに欠けている。おそらく、ドワーフの城塞を何度も殴って消耗しているんだ。動きが他の奴らより僅かに鈍い」
僕がそう告げると、リリアナは即座にターゲットを視認した。
「だが、まっすぐ跳ぶな。ヤツはこちらを警戒している。まず、左手側のグリズリーの足元に跳び、ヤツが振り向いた瞬間に、本命の背後を取れ」
「分かったわ」
彼女は短く答えると、再びその姿を掻き消した。
全ては、僕が描いた絵図の通りに進んだ。
リリアナが左側のグリズリーの足元に現れる。驚いたグリズリーが、巨体を揺らしてそちらを振り向く。その一瞬の隙。リリアナは再び【縮地】を発動し、本命である爪の欠けたグリズリーの死角、その背後へと跳んだ。
「グアアアア!」
断末魔の叫びが森に響き渡る。リリアナのレイピアは、硬い毛皮の隙間、関節の柔らかい部分を寸分の狂いもなく貫いていた。それも、僕がスキルで読み取った、構造上の弱点だ。
二体目が、どうっと音を立てて倒れる。
「すげえ……」
ドワーフの青年が、信じられないといった表情で呟いた。彼のスキルは絶対的な防御力を誇るが、攻撃手段を持たない。だからこそ、リリアナの神速の暗殺術が、彼には魔法のように見えたのだろう。
残るグリズリーは三体。
奴らはついに、僕とリリアナを最大の脅威だと認識したようだった。ドワーフへの攻撃を止め、三体全てが僕たちに向かって突進してくる。地響きを立てながら迫る巨体は、凄まじい圧迫感だ。
だが、僕は冷静だった。
「リリアナ、ドワーフの『城塞』まで後退しろ」
僕の指示に、リリアナは即座に反応し、光のドームのすぐ外側まで跳躍した。僕も後を追って走る。
三体のグリズリーが、僕たちを追ってドームの周囲に殺到した。
「おい! 何考えてやがる! こっちに来るな!」
ドワーフの青年が、焦ったように叫ぶ。僕たちが彼の近くにいれば、彼も攻撃に巻き込まれると思ったのだろう。
だが、これが僕の狙いだった。
敵を一点に集め、その注意を分散させる。
「おい、ドワーフ! お前のスキル、まだ持つか!」
僕は光のドームに向かって叫んだ。
「ったりめえだ! ドワーフの守りを舐めんじゃねえ!」
彼は苦しそうに息をしながらも、力強く答えた。
「なら、そのまま敵の注意を引き続けろ! それが、今の戦場でのお前の最も重要な役目だ!」
僕の言葉に、彼はハッとしたようだった。彼のスキルは、ただ動けずに耐えるだけの「置物スキル」ではない。仲間を守り、敵の攻撃を引きつける、パーティの要となる最強の「盾」なのだと。
「おう、任せとけ!」
ドワーフの顔に、再び闘志の火が灯った。彼は雄叫びを上げ、光のドームの輝きをさらに増大させた。その挑発に、グリズリーたちの意識が再び彼へと向く。
「リリアナ、今だ!」
好機は一瞬。
三体のグリズリーが、ドワーフの城塞に気を取られた、その瞬間。
「一体ずつ、外側から剥がしていくぞ! まずは一番右のヤツだ! ヤツがドワーフに殴りかかろうと右腕を振り上げた、その脇の下ががら空きになる!」
僕の脳内マップには、敵の行動予測が、数秒先の未来として淡い光の軌跡で表示され始めていた。スキルが、この極限の戦闘の中で、さらに進化を遂げようとしているのだ。
リリアナは、僕の言葉を寸分の狂いもなく体現する剣。
彼女は言葉が終わる前に跳躍し、グリズリーが腕を振り上げた瞬間に、がら空きになった脇腹を深々と貫いた。
三体目が沈む。
残る二体は、仲間の死にようやく気づき、慌ててリリアナに襲いかかろうとする。
「遅い!」
僕が叫ぶ。
「リリアナ、二体の間をすり抜けろ! そして、反転して同時に両者のアキレス腱を切れ!」
それは、極めて高度な体術と、正確無比なスキル制御を要求される動きだった。だが、今のリリアナならできる。
銀色の閃光が、二体のグリズリーの間を駆け抜けた。反転した彼女のレイピアが、弧を描いて両者のアキレス腱を的確に断ち切る。
巨体が、バランスを崩して前のめりに倒れ込んだ。もはや、ただの的だ。
リリアナは、倒れた二体のグリズリーの頭部に、冷静にとどめの刃を突き立てた。
そして、森に静寂が戻った。
五体のBランクモンスターが、わずか数分の間に、一体の怪我もなく完璧に殲滅された。
僕が光のドームに視線をやると、ゴウン、という音と共に、黄金色の輝きがゆっくりと消えていった。
中から現れたドワーフの青年は、ふらふらとよろめきながらも、両足でしっかりと立っていた。彼は自分の手を見つめ、そして僕たちの姿を見て、信じられないといった表情で立ち尽くしている。
「……終わっ、たのか……?」
「ああ、終わった。怪我はないか」
僕が問いかけると、彼は力なく首を振った。
「ああ……。スキルが切れて、全身筋肉痛みてえだが、傷はねえ。それより……」
彼は僕とリリアナの顔を、じろじろと値踏みするように見比べた。その目には、感謝と、それ以上に強い好奇心と驚愕の色が浮かんでいた。
「お前ら、一体何者なんだ……? あの銀髪の嬢ちゃんの動きも異常だが、あんたは何だ? 戦ってもいねえのに、なんであの化け物どもの動きが全部読めるんだよ……」
彼の問いは、もっともだった。目の前で起きた現象は、常識では到底説明がつかない。
僕は、そんな彼に向かって、にやりと笑みを返した。
「自己紹介がまだだったな。俺はユキナガ。こっちはリリアナ。パーティ『フロンティア』のリーダーだ」
僕は、彼に手を差し伸べた。
「そして、お前を俺たちの仲間にスカウトしに来た」
僕の言葉に、ドワーフの青年は、あんぐりと口を開けたまま、完全に固まってしまった。
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