ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第16話 置物から要塞へ

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ドワーフの青年は、僕が差し出した手をただ呆然と見つめていた。彼の頭の中では、先ほどの戦闘の光景と、僕の突拍子もない言葉が、まだうまく結びついていないようだった。
「……スカウト? 俺を?」
やがて、彼は我に返ったように、自分の胸を指差した。その声には、戸惑いと不信感が滲んでいる。
「正気か、あんた。俺のスキルは見ての通りだぜ。【城塞化】。発動したら最後、その場から一歩も動けねえ、ただの『置物』だ。仲間からは役立たずだって追い出されて、ソロで潜ってたらいつもこのザマだ。こんなスキル、誰も欲しがらねえよ」
彼は自嘲気味に笑った。その笑顔には、何度も同じような経験をしてきたことによる諦めの色が濃く浮かんでいる。リリアナが、かつての自分を重ねるように、少しだけ悲しそうな顔で彼を見つめた。
僕は、そんな彼に向かって首を横に振った。
「置物? 冗談だろ」
僕は先ほどの戦闘があった場所を顎でしゃくった。「俺の目には、お前はただの置物には見えなかった。敵の猛攻を一身に引きつけ、俺たちが安全に戦うための時間を稼いでくれた、不落の『要塞』に見えたがな」
僕の言葉に、ドワーフの青年は虚を突かれたように目を見開いた。彼にとって、そのスキルは常に足枷であり、コンプレックスの源だったはずだ。それを、僕が正面から『要塞』と呼んだのだ。
「……だが、動けねえんじゃ、意味がねえ。仲間が危なくても、助けに行けねえんだ。ただ見てるだけしかできねえ。そんなの、タンク失格だろ」
「それは、お前が一人で戦っていたからだ」
僕はきっぱりと言い切った。「お前の弱点は、機動力の欠如と、発動の隙だ。だが、それは俺たちがいれば、完全にカバーできる」
僕はリリアナを手で示した。
「彼女のスキルは【縮地】。神速の機動力で、お前が守り切れない場所をカバーする。そして、俺のスキルは【地図化】。敵の次の行動を予測し、お前が【城塞化】を発動すべき最適なタイミングと場所を、事前に指示することができる」
僕は再び、ドワーフの青年に向き直った。
「お前の『城塞』が敵の攻撃を引きつける。その隙に、リリアナの『剣』が敵を屠る。そして、俺の『眼』がその全てを指揮する。俺たち三人が揃えば、タンク、アタッカー、ナビゲーターという、完璧な布陣が完成するんだ。それでもまだ、お前のスキルが役立たずだと思うか?」
僕の言葉は、熱を帯びていた。それは、僕がずっと頭の中で描いていた、理想のパーティの姿そのものだったからだ。
ドワーフの青年は、僕の言葉を一つ一つ噛みしめるように聞いていた。彼の瞳の中で、諦めの色が少しずつ消え、代わりに驚きと、そして微かな希望の光が灯り始めていた。
彼は僕と、そしてリリアナの顔を交互に見た。リリアナは、彼に向かって力強く頷いてみせる。
「彼の言う通りよ。あなたの盾がなければ、私もあれだけの数の敵を相手にはできなかった。あなたの力が必要なの」
リリアナの真っ直ぐな言葉が、彼の心を揺さぶったようだった。
彼はしばらく何かを考え込むように俯いていたが、やがて顔を上げると、観念したように大きなため息をついた。
「……ははっ。降参だ。こんな熱烈な誘い、断る方が野暮ってもんだな」
彼はそう言うと、ごしごしと頭を掻いた。その顔には、先ほどまでの陰鬱さは消え、ドワーフらしい快活な笑みが浮かんでいる。
「俺はバルガス。見ての通り、ドワーフの戦士だ。こんな俺でよけりゃ、あんたたちの仲間に入れてくれ。ユキナガ、リリアナ」
彼は僕が差し出した手を、力強く握り返した。その手は、岩のように硬く、そして温かかった。
こうして、僕たちのパーティ『フロンティア』に、三人目の仲間が加わった。

「にしても、驚いたぜ。あんたのスキル、【地図化】だったのか」
自己紹介を終えたバルガスは、改めて僕の顔をしげしげと眺めた。
「ああ。ハズレスキルだって、よく言われる」
「いやいや! とんでもねえ! あれが地図の力だってんなら、俺が今まで見てきた地図は全部ただの紙切れだ。あんたの頭ん中、どうなってやがんだ」
バルガスは心底感心したように言った。彼のような実直な男は、目に見えた結果を素直に評価してくれる。グレンのように、自分の物差しでしか物事を測らない人間とは大違いだ。
「それより、バルガス。お前こそ、どうしてこんな森の奥に一人でいたんだ? ここはソロで来るような場所じゃないだろ」
僕が尋ねると、バルガスは少し気まずそうに鼻の頭を掻いた。
「へへ……。実は、この森にしか自生しないっていう、珍しいキノコを探しに来たんだ。『虹色タケ』って言ってな。すげえ高く売れるって聞いたもんだから、一攫千金狙ってよ」
「虹色タケ……」
その名前に、僕の脳内マップが微かに反応した。そういえば、この森をマッピングしている中で、いくつか奇妙な反応を示すアイテムシンボルがあった。通常の薬草や鉱石とは違う、特別な輝きを放つシンボルだ。もしかしたら、あれが……。
「だが、このザマだ。森の奥は化け物だらけだし、道には迷うしで、完全に詰んでた。お前らが来てくれなきゃ、今頃はあの熊どもの腹の中だったろうな」
バルガスはそう言って、豪快に笑った。
「礼を言うぜ、ユキナガ、リリアナ。お前らは俺の命の恩人だ」
「礼なら、これからパーティへの貢献で返してくれればいい」
僕が言うと、彼は「任せとけ!」と力強く胸を叩いた。
「よし、それじゃあ、まずはこの森から脱出するとしよう。バルガス、まだ歩けるか?」
「おうよ! あんたたちのすげえ戦い方見てたら、疲れも吹っ飛んだぜ!」
僕たちは、新たな仲間であるバルガスを加え、森の出口へと向かって歩き始めた。
リリアナが、少し嬉しそうに僕の隣で囁いた。
「仲間が増えたわね、ユキナガ」
「ああ。最高のタンクがな」
「三人になっても、あなたがリーダーよ。私たちは、あなたの指示に従う」
「分かっている」
僕は前を見据えたまま、短く答えた。
僕の頭の中では、すでに新たな戦術が組み立てられ始めていた。バルガスの【城塞化】を組み込んだ、三位一体のフォーメーション。
バルガスが敵を引きつけて、絶対的な防御で攻撃を無効化する。その間に、僕の指示を受けたリリアナが、敵の死角から神速の一撃を叩き込む。僕は、戦場全体を俯瞰し、二人を最適に動かす。
まさに、鉄壁の守りと、必殺の矛。そして、全てを司る頭脳。
僕たちのパーティ『フロンティア』は、この瞬間、本当の意味で完成したのかもしれない。
「なあ、ユキナガ」
前を歩いていたバルガスが、ふと振り返って言った。
「さっき俺を助ける前に言ってたよな。『俺たちのパーティが、お前のその置物スキルを、最強の城塞スキルに変えてやる』って。ありゃ、マジで痺れたぜ」
「……そうか」
「ああ。あんなこと言われたの、生まれて初めてだったからな。俺のスキルを、そんな風に見てくれた奴は、あんたが初めてだ」
バルガスのその言葉に、リリアナも深く頷いた。
僕が言った言葉は、彼ら二人だけではなく、僕自身にも向けた言葉だったのかもしれない。
ハズレスキルだと蔑まれ、無能だと追放された、僕たちの力。
それを、世界で最も価値のある、最強の力に変えてやる。
その誓いを胸に、僕たちは夕暮れの森を歩いていく。
『フロンティア』の本当の伝説は、ここから始まるのだ。
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