ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第17話 完成した布陣

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新たな仲間バルガスを加え、僕たち『フロンティア』は『惑わしの森』からの帰路についていた。森を覆っていた不気味な雰囲気は消え、まるで普通の森のように穏やかだ。だが、僕の脳内マップは、この森が依然として危険なダンジョンであることを示している。
「いやあ、しかし、何度見ても信じられねえ光景だぜ」
僕とリリアナの後ろを歩いていたバルガスが、感心しきった声で言った。彼は僕の後頭部をじっと見つめているようだ。
「あんたの頭ん中、どうなってんだ、ユキナガ。地図が見えるってだけじゃ、あんな化け物の動きまで読めるわけがねえ。何かコツでもあるのか?」
その問いは、かつて僕がいたパーティでは誰もしなかったものだ。彼らは僕のスキルをハズレだと決めつけ、その本質に興味すら示さなかった。バルガスの純粋な好奇心が、少しだけくすぐったい。
「コツ、というよりは集中力だな。あとは、記憶力と分析力。俺のスキルは、それらを増幅させる触媒みたいなものだ」
「へえ、触媒ねえ」
バルガスは納得したような、していないような顔で頷いた。そして、今度はリリアナに視線を移す。
「リリアナの嬢ちゃんもそうだ。【縮地】だっけか。あんな神業、初めて見たぜ。俺が前にいたパーティにも斥候はいたが、ただすばしっこいだけの奴だったからな」
「……私の力だけじゃない。ユキナガの指示があってこそよ」
リリアナが、少し照れたように答える。彼女が自分の力を卑下せず、かといって驕りもせず、冷静に分析できている。この森での一件は、彼女を大きく成長させたようだった。
三人の間には、和やかな空気が流れていた。まるで、ずっと前から一緒に冒険してきたかのような、不思議な一体感がある。失ったものを取り戻すのではなく、新しい、そしてより強固な繋がりを築いている実感があった。
そんな穏やかな雰囲気を破ったのは、僕の脳内マップに灯った新たな警告だった。
「……静かに。何か来るぞ」
僕が低い声で告げると、リリアナとバルガスの表情が一瞬で戦闘モードに切り替わる。彼らは足を止め、武器に手をかけた。
僕の脳内マップには、無数の赤いシンボルが表示されていた。その数は二十体以上。だが、一つ一つのシンボルは小さい。フォレスト・グリズリーのような大型モンスターではない。
シンボルは、木々の間を高速で移動している。その動きは立体的で、地上だけでなく、樹上からも僕たちを包囲しようとしているのが分かった。
「敵の数は二十以上。猿に似た、素早いモンスターの群れだ」
「猿、だと? シャドウエイプか!」
バルガスが忌々しげに吐き捨てる。「厄介な連中に見つかったな。あいつら、すばしっこい上に、連携して遠くから石や木の実を投げてくるんだ。まともに相手にしてたら、じわじわと体力を削られてやられちまう」
彼の言う通り、パワータイプのグリズリーとは全く違う、厄介な相手だ。こういう敵こそ、パーティの真価が問われる。
やがて、周囲の木々の梢がざわめき、無数の影が姿を現した。黒い体毛に、赤く光る目。体長は一メートルほどだが、その身のこなしは驚くほど俊敏だ。
シャドウエイプの群れが、僕たちを完全に包囲していた。
「おい、ユキナガ! どうする! こういう時は、俺がまず城塞になってヘイトを集めるのが定石だが……!」
バルガスが焦ったように叫び、スキルを発動しようと身構える。
だが、僕はそれを手で制した。
「待て、バルガス。まだだ」
「なっ、なぜだ! 早くしないと、投石で蜂の巣にされちまうぞ!」
「敵は散開している。今ここでお前が城塞になっても、ただの的になるだけだ。遠巻きに攻撃され、リリアナが対処に追われている間に、お前の体力が尽きる。それが敵の狙いだ」
僕の冷静な分析に、バルガスはぐっと言葉を詰まらせた。
僕の脳内マップは、シャドウエイプたちの攻撃予測軌道を、無数の赤い線として描き出していた。四方八方から、死角を狙った攻撃が飛んでくるのが見える。
「リリアナ、動くぞ。まず、敵の包囲網に穴を開ける」
「指示を」
「三時方向、二体のエイプが陣取っている木の枝。あそこが一番手薄だ。二体を同時に仕留め、そこから包囲の外へ出る」
「了解!」
リリアナの姿が消え、三時方向の木の上で二つの悲鳴が上がった。エイプ二体が、何が起きたのかも分からずに地面に落下していく。
「よし、俺とバルガスも続くぞ! リリアナが開けた道を行け!」
僕たちは包囲網の突破口へと走り出した。エイプたちが、甲高い鳴き声を上げて僕たちを追ってくる。無数の石や硬い木の実が、僕たちの周囲の地面や木々を叩いた。
「くそっ、ちょこまかと!」
バルガスが大盾で投石を防ぎながら悪態をつく。
だが、僕の目的はただ逃げることではなかった。僕は脳内マップに表示された地形を頼りに、ある特定の場所へと二人を誘導していた。
「この先、道が狭くなっている谷間がある! そこに追い込むんだ!」
僕の指示通り、僕たちは狭い岩壁の間へと駆け込んだ。そこは、大人が二人並んで歩くのがやっとの、天然の隘路だ。
シャドウエイプの群れも、獲物を逃すまいと、その狭い谷間へ我先にと殺到してきた。奴らの俊敏性と連携という長所が、この地形では完全に殺される。
「リリアナ、谷の入り口で数体を足止めしろ! バルガスは俺と奥へ!」
リリアナが反転し、後続のエイプたちを神速の剣技で迎え撃つ。その間に、僕とバルガスは谷間の最奥、少しだけ開けた場所まで到達した。
そこは、行き止まりだった。
「おい、ユキナガ! 袋のネズミじゃねえか!」
バルガスが狼狽した声を上げる。
だが、僕は不敵に笑っていた。
「いや。ネズミは、奴らの方だ」
僕は振り返り、谷間を埋め尽くすように殺到してくるエイプの群れを指差した。
「バルガス、今だ!」
僕は叫んだ。「この谷間のど真ん中で、『城塞』になれ!!」
僕の指示の意図を、バルガスは瞬時に理解した。彼の顔に、驚きと興奮が入り混じった笑みが浮かぶ。
「へへっ、なるほどな! そういう使い方か! 任せとけ!」
バルガスは谷間の中央に陣取ると、両足を大地に根付かせるように踏ん張った。
「スキル発動! 【城塞化】!!」
彼の雄叫びと共に、黄金色の光のドームが出現した。その城塞は、狭い谷間の道を完全に、物理的に塞き止める巨大な壁と化したのだ。
「ギギィッ!?」
先頭を走っていたエイプたちが、突然出現した光の壁に激突し、混乱に陥る。後続のエイプたちは、前方の仲間が邪魔で身動きが取れない。奴らの群れは、一本の長い蛇のように、狭い谷間で完全に機能不全に陥っていた。
「どうだ、バルガス! これでもお前のスキルは、ただの置物か!」
僕は城塞の向こう側にいる彼に叫んだ。
「はっはー! たまんねえな、こりゃ! 俺の城塞が、敵を閉じ込める檻になったってわけか!」
彼の、心の底から楽しそうな声が響き渡る。
戦況は、完全に逆転した。
僕は、谷間の入り口で戦っていたリリアナに指示を飛ばす。
「リリアナ! 後方の敵は片付いたか!」
「ええ、もうほとんど!」彼女の声が返ってくる。
「よし、こっちへ来い! 狩りの時間だ!」
リリアナは谷間を駆け上がってくると、目の前の光景に目を見開いた。バルガスの城塞によって、身動き一つ取れずにひしめき合っている、エイプの群れ。もはや、ただの的だ。
「すごい……。こんな戦い方、考えたこともなかった」
「これが、『フロンティア』の戦い方だ」
僕はリリアナに告げた。「リリアナ、バルガスの城塞を盾にしろ。そこは絶対的な安全地帯だ。そこから、壁際のエイプを一体ずつ、確実に処理していけ。もう奴らに、お前を捉える術はない」
「分かったわ!」
リリアナは、黄金色の城塞の縁に立つと、そこからレイピアを振るった。身動きの取れないエイプたちは、なすすべもなく彼女の剣の餌食となっていく。
バルガスの城塞は、ただ敵を塞き止める壁ではない。リリアナが安全に、そして一方的に攻撃するための、完璧な足場であり、盾として機能していた。
守りのスキルである【城塞化】が、僕の戦術とリリアナの機動力と組み合わさることで、極めて攻撃的な意味合いを持つに至ったのだ。
やがて、最後のシャドウエイプが断末魔を上げて倒れた時、狭い谷間は静寂に包まれた。
黄金色の城塞が消え、汗だくのバルガスが姿を現す。彼は、谷間に転がるエイプたちの死骸を見渡し、そして僕たちの顔を見て、満面の笑みを浮かべた。
「すげえ……。本当に、すげえぜ、あんたたち……。俺のスキルが、こんな風に役立つなんて、夢にも思わなかった……!」
彼の興奮は、最高潮に達していた。
僕は、そんな彼に静かに告げた。
「忘れるな、バルガス。お前はただの置物じゃない。俺たち『フロンティア』の、動かざる要塞だ」
ナビゲーター(頭脳)、タンク(盾)、アタッカー(剣)。
三つの、かつてはハズレと呼ばれた歯車が、今、完璧に噛み合った。
僕たちのパーティが、真に完成した瞬間だった。
この日を境に、僕たち『フロンティア』の快進撃が始まる。
まだ、誰もそれを知らない。僕たち自身でさえも、この小さな一歩が、やがて世界を揺るがす伝説の始まりになることなど、知る由もなかった。
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