ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ

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第18話 薬草の宝庫

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シャドウエイプの死骸が転がる狭い谷間に、しばしの安堵の空気が流れていた。僕たち三人は、完璧な連携で強敵の群れを退けた高揚感と、心地よい疲労感に包まれていた。
「へへっ、どうだ見たか! これが俺の【城塞化】の真の力よ!」
バルガスは、汚れた顔を誇らしげに輝かせながら、自分の胸をドンと叩いた。先ほどまでの「置物スキル」という自嘲はどこにもない。自分の力が仲間と組み合わせることで、これほどまでに強力な武器になるという事実が、彼に絶大な自信を与えていた。
「ええ、すごかったわ、バルガス。あなたの城塞がなければ、私は遠くから攻撃されて、なすすべもなかった」
リリアナが素直に賞賛すると、バルガスは「よせやい、照れるじゃねえか」と言いながらも、満更でもない様子で顔を赤くしている。
僕たちのパーティには、理想的な化学反応が起きていた。
僕の『眼』が戦術を組み立て、バルガスの『要塞』が戦場を支配し、リリアナの『剣』が敵を貫く。それぞれのスキルが互いの弱点を補い、長所を何倍にも増幅させている。一人ではただのハズレスキル持ちだった僕たちが、三人集まることで、どんなAランクパーティにも引けを取らないほどの戦闘能力を発揮できる。その確信が、僕の胸を満たしていた。
「さて、感心している暇はない。そろそろこの森から脱出するぞ」
僕がそう言うと、二人は心得たとばかりに頷いた。
僕は脳内マップを展開し、森の入り口までの最短ルートを確認する。僕たちが今いるのは、森のかなり深部だ。だが、僕のナビゲートがあれば、小一時間もあれば脱出できるだろう。
その時だった。
僕の脳内マップの片隅に、これまで気づかなかった奇妙なエリアが存在することに、改めて意識が向いた。
そこは、僕たちが今いる場所から、さらに奥へ進んだ先にある。周囲を険しい岩壁に囲まれ、外部からは完全に孤立しているように見える空間だ。普通の冒険者なら、そこに空間があること自体、気づきようがないだろう。
そして、そのエリアからは、無数のアイテムシンボルが、星のように瞬く強い光を放っていた。それは、道端に生えているありふれた薬草や、鉱石のシンボルとは明らかに輝きが違う。極めて希少で、価値の高いものが密集していることを示唆していた。
ふと、僕はバルガスがこの森に来た目的を思い出した。
「なあ、バルガス」
「ん、なんだ?」
「お前が探していた『虹色タケ』とやらは、どんな場所に生えているんだ?」
僕の唐突な質問に、バルガスはきょとんとした顔をした。
「虹色タケか? 確か、清らかな水が流れてて、陽当たりが良い、特別な場所にしか生えねえって話だ。まあ、こんな呪われた森にあるのかどうか、今となっては怪しいもんだがな。もう諦めてるぜ」
彼はそう言って肩をすくめた。
清らかな水。陽当たりが良い場所。
僕の脳内マップが示す隠しエリアのイメージと、それが奇妙に一致した。
「……そうか。なら、最後に寄り道していくか」
「寄り道? どこへだ?」
「お前の宝探しだ」
僕がにやりと笑って言うと、バルガスとリリアナは顔を見合わせた。
「おいおい、ユキナガ。本気で言ってるのか? 俺の戯言に付き合う必要はねえぞ」
「戯言かどうかは、行ってみれば分かる。俺のマップが、面白そうな場所を見つけたと教えているんだ。おそらく、この森で最も価値のある場所がな」
僕の自信に満ちた言葉に、バルガスはごくりと唾を飲んだ。彼の瞳に、再び一攫千金の夢が燃え上がっている。
「……分かった! あんたがそこまで言うなら、乗ったぜ! その宝探し!」
こうして、僕たちの目的地は森の出口から、未知なる隠しエリアへと変更された。

僕のナビゲートに従い、僕たちは森のさらに奥深くへと足を踏み入れた。道はすでになく、鬱蒼とした木々と、人の背丈ほどもある下草をかき分けて進んでいく。
「本当にこっちで合ってるのか、ユキナガ? どう見ても、ただの行き止まりにしか見えねえが」
バルガスが不安げに言う。僕たちの目の前には、巨大な岩壁が立ちはだかっていた。苔むしたその壁は、どこにも切れ目がなく、まるで世界の終わりのようにそびえ立っている。
「ああ、合っている。問題は、この壁だ」
僕は岩壁に近づき、その表面を注意深く観察した。僕の脳内マップは、この壁の向こう側に、広大な空間が広がっていることを明確に示している。つまり、この壁そのものが、隠し扉になっているはずだ。
【地図化】の解像度を最大まで引き上げ、壁の内部構造をスキャンする。
見えた。壁の内部には、複雑な仕掛けが施されている。特定の場所にある岩を押すことで、歯車が連動し、扉が開く仕組みだ。その「特定の場所」も、周囲の岩とは密度が微妙に違うため、僕にははっきりと分かった。
「バルガス、リリアナ、少し下がっていろ」
僕は二人を下がらせると、岩壁のある一点に手をかけた。そして、脳内マップが示す通りに、力を込めて押し込む。
ゴゴゴゴゴ……。
重い、地響きのような音を立てて、巨大な岩壁の一部がゆっくりと内側へスライドしていった。やがて、大人が一人通れるくらいの、暗い洞窟の入り口が現れる。
「うおっ、マジかよ! 壁が開いたぞ!」
バルガスが、子供のようにはしゃいで叫んだ。リリアナも、驚きに目を見開いている。
「行くぞ。本当のお宝は、この先だ」
僕たちは、洞窟の中へと足を踏み入れた。洞窟は長くはなかった。数十メートルほど進むと、その先から、柔らかく、温かい光が差し込んでいるのが見えた。
そして、洞窟を抜けた瞬間、僕たちは息を呑んだ。
そこは、これまで歩いてきた薄暗い森とは、まるで別世界だった。
空は抜けるように青く、温かい太陽の光が燦々と降り注いでいる。小さな滝が岩肌を滑り落ち、清らかな小川となってキラキラと輝きながら流れていた。地面には色とりどりの花が咲き乱れ、蝶が舞っている。まるで、楽園の一場面を切り取ったかのような、美しく、神秘的な空間だった。
「な……んだ、ここは……」
バルガスが、呆然と呟いた。
「この森の魔力は、全てここに集約されていたのかもしれないな。だから、外の森はああも淀んでいたんだ」
僕は、この空間の成り立ちを推測した。
そして、僕たちの視線は、その楽園に自生する植物たちに釘付けになった。
「あ、あれは……!」
バルガスが、震える指で小川のほとりを指差した。そこには、彼の背丈ほどもある巨大なキノコが、数本生えていた。その傘は、まるで虹のように七色に輝いている。
「虹色タケだ! 本物の虹色タケだ! しかも、こんなにデカいのが!」
バルガスは雄叫びを上げて駆け出すと、虹色タケに抱きついた。その姿は、長年探し求めた恋人にようやく会えたかのようだ。
だが、この隠しエリアの宝は、それだけではなかった。
「ユキナガ、見て! あの草、夜でもないのに光っているわ!」
リリアナが指差す先には、月の光を凝縮したかのような、淡い銀色の輝きを放つ薬草が群生していた。『月光草』だ。高位の魔力回復薬の材料として、非常に高値で取引される。
滝の近くの岩場には、小さな赤い実をつけた植物も見える。『竜の涙』。どんな猛毒も癒やすと言われる、最高級の解毒薬の元になる希少植物だ。
その他にも、文献でしか見たことのないような、珍しい薬草や植物が、そこら中に当たり前のように生い茂っていた。
ここは、ただの隠しエリアではない。
薬草の宝庫。失われた、植物の聖域だったのだ。
「すげえ……すげえぞ……! こいつらを全部売ったら、王都に屋敷が建つんじゃねえか!?」
バルガスが、興奮で鼻息を荒くしている。
「はしたないわよ、バルガス。でも……すごい」
リリアナも、目をきらきらと輝かせながら、美しい花々に手を伸ばしていた。
「よし、採取するぞ。根こそぎは持っていくなよ。この場所が枯れないように、必要な分だけだ」
僕の指示で、僕たちは手分けして薬草の採取を始めた。バックパックはあっという間に、色とりどりの希少な植物で満たされていく。
和やかな雰囲気の中、僕たちは大収穫の喜びに浸っていた。
追放されて、全てを失ったと思っていた。だが、今はどうだ。最高の仲間と、誰も知らない宝の山を目の前にしている。
僕の脳裏に、アレクサンダーたちの顔が浮かんだ。彼らは、この森の本当の価値に気づくこともなく、幻覚に苦しみ、仲間割れを起こしているのだろうか。
想像すると、胸がすくような思いがした。
だが、それはもう、僕にとってはどうでもいいことだった。僕にはもう、彼らを見返すための復讐心よりも、目の前にいる新しい仲間たちとの未来を築くことの方が、ずっと重要になっていた。
僕たち『フロンティア』の冒険は、まだ始まったばかりだ。
この宝の山は、その輝かしい未来への、確かな第一歩となるだろう。
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